
LED 電球やグラスレス 3D 液晶テレビなど、次々にイノベーションの波を起こし、新しい価値の創造を続けている株式会社 東芝。同社では競争が激化する世界市場の中で、さらなる競争力を獲得するべく、過去 15 年にわたって活用し、情報を蓄積してきたグループウェア「Lotus Notes」の見直しを実施。
グループ連結子会社数 542 社 (2010 年 3 月現在)、そして日本と世界数十か国に築かれた拠点で働く約 13 万人のグループ社員を結び、タイムリーかつ緊密なコミュニケーション&コラボレーションを実践するための新しい情報基盤「Advanced Communication System」の実現に向けて詳細に比較検討を行った結果、Exchange Server 2010 をはじめとするマイクロソフト製品の採用を決定。
グループ全体の認証基盤を統一し、冗長性に優れたメール システム、Web ベースによるフラットな情報共有、そして在席情報を確認しながらチャットやメール、電話を使い分けられる柔軟なコミュニケーション環境を実現し、2010 年 1 月から段階的に利用を開始しています。


1875 年に創設され、1890 年に日本初の炭素電球を製造して以来、日本を代表する電機メーカーとして歩んできた株式会社 東芝 (以下、東芝)。
同社では、競争が激化するグローバル市場において、グループ全体の力を遺憾なく発揮し、「世界トップレベルの複合電機メーカー」としての地位を確立するための一環として、2008 年から「グループ内 13 万の社員が、ストレスなく、フラットな情報共有を行えるコミュニケーション&コラボレーション基盤」の構築を検討していました。
東芝 取締役 代表執行役副社長 戦略企画グループ担当 並木正夫氏は、次のように説明します。
「当社の今後の成長において、グローバルなビジネス展開の重要性は増しています。2009 年の売り上げの 50% が海外売上高となっていますし、2009 年から 2012 年度にかけて推進している中期経営期間中に、この売り上げを 63% 以上に引き上げて行こうと取り組んでいるところです。
その目標達成に向けたイノベーションを支える基盤として、メールを中心とした情報共有の仕組みは欠かせません。そもそも、私たちものづくりを行う企業が、新しい市場競争力を獲得していくためには、イマジネーションを発揮して、今まで市場になかった製品を生み出していく必要があります。そして、そのためにはまず、海外拠点を含めた 13 万人の社員が過去のデータや最新の市場状況などの情報をスムーズに共有し、アイデアを交感できる環境を整備することが大切でした」
東芝では過去 15 年にわたって Lotus Notes を利用して 4 万 8 千ものデータベースを構築し、活用していました。しかし「ライセンス費用の増大」、「ハードウェア コストの増大」、「開発費用の増大」、「運用保守費の増大」などの課題が生じていたため、グローバルに広がる東芝グループ全体に拡大利用して活用するのは難しいという判断がありました。そこで、新しい情報基盤の検討に際して、複数のプラットフォームを詳細に比較。 Lotus Notes の利用をやめて、マイクロソフトの Exchange Server と SharePoint Server を活用したコミュニケーション&コラボレーション環境の構築を選択しました。
プロジェクトの実行責任者である東芝 ISセンター長 峯村正樹氏は、次のように振り返ります。
「やはり、長く使い続けたツールを捨てることには勇気がいりましたが、マイクロソフト製品群の方が、よりオープンな仕様であることが決め手になりました。それに、社外とのコミュニケーションを行う際には、Excel などの Microsoft Office 製品を活用する機会が多くあります。そういったツールとの親和性が高く、よりスムーズに情報共有できる基盤は何かと考えたときに、やはり一番に浮かぶのがマイクロソフトのサーバー製品です。もちろん、導入後のコスト比較もしています。それに、グローバルで基盤を統一して活用することを考えると、従来使い続けてきたグループウェアか、マイクロソフト製品かの 2 つしか選択肢はありませんでした。
また、要となるメール システムには最新の製品が望ましいという想いもありました。Exchange Server 2010 であれば、サーバー 1 台におけるメールボックスの収容能力も格段に向上していますし、耐障害性も非常に高まっています。当然の選択だと言えるでしょう」
この決定を経た 2009 年 7 月に、同社では並木氏を最高責任者として、グループ全社を挙げたプロジェクト チームを発足。実行責任者である峯村氏、東芝インフォメーションシステムズ株式会社 (以下、TSIS) 代表取締役社長 六串正昭氏を中心とした数百名規模で、「Advanced Communication System (以下、ACS)」と名付けた東芝グループの新しい情報共有基盤の構築を開始しました。
わずか 6 か月程度の構築・テスト期間を経て、2010 年 1 月から、まず国内 7 万ユーザーを対象として段階的にメール システムを移行。2010 年 11 月までに 6 万人の移行が完了し、ACS の本格利用が開始されています。


ACS について、峯村氏は次のように説明します。「東芝グループ全体で 19 万人強の従業員がいるわけですが、各社によって使用しているツールや、認証環境などに差がありました。そのためにグループ内に蓄積されている膨大な量のノウハウや情報、データが活かしきれないという側面がありました。ACS は、このうちの 13 万ユーザーを対象に、従前の情報共有環境にあった課題を克服し、"ストレスのないフラットな情報共有" を実現するために構築しました。スケジュールとしてはまず、メール機能を優先的に移行しました。1 人当たりのメールボックス容量を十分に確保するなど利便性も向上しています。
同時に、ACS 導入は従来のメール偏重なコミュニケーションの改善も目的にしています。そこで、従来は部署単位、プロジェクト グループ単位で自由に作成していた Notes のデータベース活用というサイロな仕組みを捨てて、SharePoint Server を活用して Web 化することで、社内で発信された情報をグループ内で広く、タイムリーに共有できるようにしています。器の中にポンッと情報を全部入れていけば、そこから皆がスムーズに必要な情報を発見・参照できるようなイメージです」
ACS では上述のような情報共有をスムーズに行うために、グループ全体の認証基盤を Active Directory に統一。人事情報に基づいたポリシー適用を行うことで、グループの社員には、必要な情報にアクセスする権限がスムーズに付与されます。
コミュニケーション手段の中心として、グループ全体の 1 日平均で約 280 万通も送受信されているメール システムには、Exchange Server 2010 を約 100 台導入。以前のバージョンに比べて大幅にディスク I/O のパフォーマンスが向上している点を活かし、13 万ユーザーを対象としたメール システムを効率よく構築しています。
また、ポータルサイトを構成する SharePoint Server を約 35 台導入し、情報共有のデータとして 20 TB を運用。
Notes で行われていた各種申請などのワークフローを SharePoint Server に移行することに関しては、約 10 個のアドイン ツールを半年かけて評価。最終的に Nintex Workflow を採用し、従前のワークフローの機能を 100% カバーしつつ、プラスアルファの機能を追加できる環境を確保しています。
さらに、Office Communications Server を活用することで、コミュニケーションをとりたい相手がオンラインであるか、会議中であるか、それとも離席しているかなどといった「プレゼンス (在席情報)」がひと目で確認できるようになっています。エンドユーザーである社員は、このプレゼンスを確認しながら、チャットとメール、そして電話でのコミュニケーションを柔軟に使い分けることができます。
これらのサーバーはすべて二重のクラスター構造によって冗長性を確保。東芝社内にプライベート クラウドを構築することで、東芝グループ内 13 万ユーザーを対象とした情報基盤に相応しい可用性と冗長性を、適正なコストで実現しています。
 | ■ 移行スケジュール (中長期計画)
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|  | ■ アプリケーション移行パターン
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これだけのシステムを、わずか 6 か月程度という短期間でサービスインを実現、すでに 6 万ユーザーのメール移行が完了しています。そしてサービスイン後 1 年強の 2011 年 1 月には第 1 段階の国内 7 万人の移行完了、更に 2011 年 3 月には 8 万人に達する見込みです。
これほどのハイスピードで計画を実行できた背景には、並木氏をトップとして、綿密な計画の下、グループ各社の緊密な協力体制が築かれたこと。そして、一度に 5,000 ユーザーのメールボックスを移行させるといった、プロジェクト実行チームのスキルの高さが挙げられます。
中でも印象的な取り組みとして、並木氏の号令による「既存アプリケーションの大々的な棚卸」があったと、プロジェクト リーダーを務めた TSIS 次世代情報共有システム構築プロジェクトチーム 藤本俊明氏は、次のように振り返ります。
「まず、約 4 万 8 千件あった Notes のデータベースは、マイクロソフト推奨のツールを使い利用頻度や移行の難しさなどを確認し、1 年以上かけて棚卸中です。棚卸の目標として、全体の 30% だけを移行するとしました。ヒアリングなどを重ねて、移行せずにアーカイブすればよいものや、廃棄するものなどを選別しており、棚卸半分完了時点でほぼ予定通りの件数に収まっています」


「ACS 導入は、10 年に一度と言ってよい規模のプロジェクト。わずか 1 年強で 7 万人のユーザーのメール移行を完了させてしまった例は、グローバルでも例がありません」として、TSIS 代表取締役社長 六串正昭氏は、ACS 導入の効果について次のように話します。
「ACS 導入によって、グローバルに展開している東芝グループの情報共有環境が統一され、情報を横串で探せるようになりました。東芝グループと一口に言っても、その中にはデジタルプロダクツや照明システム、ディスプレイ、電力システム、電力流通などビジネス ユニットごとにカラーが異なります。さらに関係会社まで含めれば、何百というカルチャーを内包しています。これだけの規模でフラットな情報共有が行えるようになった意義は、非常に大きいと思います」
グローバルへの ACS 導入がすべて完了するのは、2013 年の予定です。しかし、東芝グループのプライベート クラウド構築なども併せて、現時点でコスト削減効果などは明確になっていると藤本氏は言います。
「パブリック クラウドについては当社も比較検討を行いました。その結果、13 万ユーザーという当社の規模から計算すると、グループでプライベート クラウドを構築する方がコスト効率が良かったのです。また、セキュリティに関して、パブリック クラウドが劣るというわけではないのですが、お客様との契約上、外部のサーバーに置くことのできないデータなどもあります。こうした理由により、プライベート クラウドを構築することになりました」
この決定と併せて、ACS の構築から、運用開始後 4 年間のコストを試算した結果、次のような効果が得られていると言います。
【導入後 4 年間のコスト削減効果】
・サーバー ハードウェア運用 : 約 8 億円
・ソフトウェア ライセンス費用 : 約 8 億円
・運用保守にかかる人件費 : 約 2 億円
・情報共有基盤の統合による間接効果 : 35 億円
このほか、マイクロソフト製品を活用したことで得られたメリットも多いと、メール移行プロジェクトの最前線を指揮した、東芝 ISセンター 情報技術システム戦略部 主務の瀬川康成氏と、TSIS 次世代情報共有システム構築プロジェクトチーム 参事 瀧本せい児氏は声を揃えます。
「今回選定したマイクロソフトの製品は、グローバルでのシェア、完成度ともに、非常に高いと感じています。特に Exchange Server 2010 の耐障害性の高さなどは魅力的でした。
また、Office Communications Server 、そして Office Communicator を導入してチャットも行えるようになったことで、簡単な要件はメールを使わずに終えることもできます。海外の相手と短い英文で気軽にコミュニケーションを行うことも可能でしょう。そのため、メールのトラフィック軽減の効果も期待できると思っています」(瀬川氏)。
「後はやはり、認証基盤を Active Directory に統一できたことが大きいですね。今は組織ごとの人事情報と連携して、自動的にグループ ポリシーを適用し、アクセス権を設定するよう、グループ内にアナウンスしています。これによって、メンテナンスの手間を大幅に減らすと共に、セキュリティの強化が図れています」(瀧本氏)。


最後に並木氏は、「ACS 導入によって、情報共有のためのツールは整った」と締めくくります。
「今度のシステムは以前のグループウェア環境に比べて、格段に便利になったと言っていいでしょう。Exchange Server をはじめとして、世界中に大勢のユーザーがいる製品を使っているわけであって、ツールに不満を言う状況ではありません。後はこのツールを利用する、社員の工夫次第です。
情報共有のためのツールにハンディーキャップがあるのでは、会社としても社員に申し訳がないし、それを言い訳にされても困るのです。今度は相当いいツールが入ったと思っていますし、システム自体、年々進歩していく予定です」
並木氏の想いは、「人こそがすべて」という次の言葉に明らかです。
「結局、IT はツールでしかありません。最後にビジネスの価値を生み出すのは、『人』です。そして、人がそのモチベーションを高め、ポテンシャルを発揮するためには、人に評価されることが重要です。
やっぱり、私たちは人間ですからね。人に認められなければ、達成感も薄いでしょう。個人のポテンシャルを引き出していく上で、達成感の有無は非常に大きく影響します。グローバルでイノベーションを推進するためには、人と人とが時間と距離を超えて親密なコミュニケーションを図り、チームとして切磋琢磨できる環境が必要です。ACS がその目標を満たしてくれれば理想的です」