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最新テクノロジによる、難病患者が心を語り伝える意思伝達装置「伝の心」と「心語り」
意思伝達装置の開発
筋萎縮性側索硬化症 (ALS) という病気があります。発症すると全身の筋肉の萎縮と筋力低下をきたす神経変性疾患の難病で、現在でも治療法は確立していません。病気の進行による筋力の低下は、歩くことが難しくなったり、自分で食事を取ることができなくなるなど、日常生活の自由を奪っていきます。
さらに病気が進行すると、呼吸のための筋肉が衰えはじめ自発呼吸が難しくなります。息をするためには、人工呼吸器を取り付けなければなりません。呼吸器を挿入するためには気管を切開しなければならず、これによって発声ができなくなってしまいます。ALS の方は呼吸と引き替えに、声を失ってしまうのです。
声を失った ALS の方がコミュニケーションをとる方法は限られています。体のどこかに筋力が残っていれば、その力でスイッチを押したり、まばたきや視線の変化を読み取ることで、本人の意思を読み取ることもあります。
このようなスイッチや視線の変化を検知して、ALS の方が文章を書いたりテレビやビデオを操作することができる意思伝達装置と呼ばれる機器があります。
この意思伝達装置を開発しているのが、日立製作所の小澤邦昭さんです。
小澤さんが意思伝達装置の開発を始めたのは 1992 年。きっかけは会社の先輩が ALS を発病したことでした。残念ながら先輩は 1993 年に亡くなられてしまったそうですが、1997 年に装置が完成。「伝の心」の名称で商品化されることになりました。
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パートナーとの出会い
その「伝の心」を使って、ベッドの上からさまざまな人とコミュニケーションを楽しんでいるのが、鈴木利一さんです。鈴木さんが「伝の心」に出会ったのは 1997 年の秋に入院中の時でした。発症して 2 年目でしたが、すでに人工呼吸器を着けて生活していたそうです。退院後の在宅での療養生活に備えた準備を進めていましたが、如何にうまくコミュニケーションをとることが、今後生きていくための重要な鍵になると考えていたそうです。そこでリハビリの先生から紹介してもらったいくつかのコミュニケーションツールの中に「伝の心」がありました。「伝の心」はパソコンに慣れていなかった鈴木さんにも判りやすく使いやすいものでした。それ以来、「伝の心」は鈴木さんにとってかけ替えのないパートナーとして存在しているのです。
鈴木さんは「伝の心」を使ってパソコンを操作し、さまざまな情報を得ているそうです。「まずは、メールのチェックから始まります。幾つかのメーリングリスト (ALS 患者関係) に入ってここから重要な情報を得ていますのでこのチェックは毎日欠かせません。兄弟、友人や看護師とのメール交換が終われば好きなホームページを開きます。新聞のコラム、国際ニュース、書評、映画評そしてスポーツなどで楽しみます。ショッピングも欠かせないものの 1 つになっています。しかし一番時間を掛けるのは原稿書きで、「伝の心」をタッチセンサーで操作しながら行います。」
今でも十分に「伝の心」とパソコンを使いこなしているように見える鈴木さんですが、今後はさらにパソコンの操作に習熟したいそうです。その理由を次のように語ってくれました。「私が ALS を発症したのは 1995 年ですが、当時と比べて今はこの病気に対する世間の理解度は大変高まりました。しかし患者家族が、どのように療養環境を作りどんな生活をしているかについてはまだまだ知られていません。そのために同じ病気の仲間だけでなく障碍 (しょうがい) を持つ人達のために、絶えず世間に向け発信し続ける患者となり、パソコンと「伝の心」を活用したいと念願しています。」
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さらなる技術への挑戦
ALS の症状がさらに進行すると、運動機能を失い、まばたきや視線を動かすこともできないロックド・イン (閉じ込め) 症候群という状態になるケースが、数は少ないけれど、あります。「伝の心」は、残された僅かな運動機能を使って操作するので、ロックド・イン状態になると利用できなくなってしまいます。そんな状態になった患者さんの家族から、「せめて「はい」「いいえ」だけでも知ることができれば、本人の望む介助が出来るのに」との声を聞き、日立製作所で持っていた「光トポグラフィ」という脳血流の状態を近赤外光で測定し、人間の脳活動を解明する技術を応用して、新たな装置「心語り」が開発されました。
人間の脳は活動している状態だと血液が活発に流れるので、「はい」の状態を伝えたい場合は、暗算のように頭を使う行為をして血液量を増やし、その変化を「心語り」で測定することで自分の意思を伝えることができるのです。
大石文英さんは 9 年前に ALS を発症しました。思うように体が動かせない状態になってしまいましたが、わずかに動いた指で会話補助装置を操作し、液晶画面に自分の意思を表示させ、コミュニケーションをとることができました。しかし次第に病状が進んでしまい、奥様の恵子さんやヘルパーの方とのコミュニケーションは眼球を動かすことにより、「はい」「いいえ」を確認するのみになっていってしまいました。恵子さんが「寒い?」と口頭で聞き、「はい」なら眼球を上へ、「いいえ」なら眼球を下へ、という方法でのコミュニケーションでした。
その後、さらに病気が進行し、眼球でのコミュニケーションも難しくなってしまったころ、病院の先生に教えてもらったのが「心語り」でした。
「心語り」を使ったコミュニケーションでは、問いかけをされたあとに、大石さんが「はい」「いいえ」に対応した頭の使い方をします。 (例えば「はい」のときは 100 から 2 ずつ引き算し、「いいえ」のときは数をゆっくり数える) 大石さんの考えているときの血流のデータがパソコンに送られ、血液量の変化から回答が判定され、36 秒後にパソコンの画面上に「はい」「いいえ」の結果が表示されます。
また、体調や血流により、100% 大石さんが思われている答えが結果として表示されるわけではないので、恵子さんは「本当に?」と再度聞きなおしたいことが度々あるそうです。しかし再度聞きなおすためには、結果がでるまでまた 36 秒間待たなければなりません。この時間を短くするように、そして「はい」「いいえ」の精度を高めるように、小澤さんは研究を重ねています。
大石さんは ALS を発症する前から旅行や食べることが大好きで、今でも東京のご自宅から伊豆にある家に、恵子さんや仲間とでかけるそうです。ロックド・インの状態で車椅子で地元のスーパーに行く大石さんは有名人だそうです。大石さんが好きだった、おいしいものを食べて美しい景色を見る生活を恵子さんは一緒に続けたいと思っています。そして大石さんの思っていることを 100% 知りたい。恵子さんの想いに応えるべく、小澤さんの技術への挑戦は続きます。
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