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Microsoft Teams を活用した講義を行う「IT ラーニングプログラム」、障碍のある人のスキル向上と就労機会拡大を目指す

IT学習メンバーのグループスナップショット

何らかの障碍がある人でも、専門的な IT スキルを身につけることで社会の中で自分らしく生き生きと働いて欲しい。このような想いから始まったのが、マイクロソフトの「IT ラーニングプログラム」です。参加者は日本マイクロソフト株式会社の社員として在宅勤務や品川オフィスへの通勤をしながら、IT スキルやビジネス スキルのトレーニング カリキュラムを、2 年間で修了することになっています。 

コロナ禍により IT ラーニングプログラムもリモートワークが実施される中、どのような背景の参加者がどのように IT ラーニングプログラムに参加しているのか、どのようにテクノロジーが活用されているのか、ご紹介します。 

インタビュー参加者

柴田 留理

柴田 留理

(聴覚障碍 6 級)
特別支援学校での教員、大手航空会社のグラウンド スタッフなどを経験した後、IT ラーニングプログラムに参加。IT の活用スキルを身につけ、特別支援学校でそのスキルを生かした教育を行うことを目指している。 

関村 ひろ美

関村 ひろ美

(聴覚障碍 4 級)
中途難聴者。手話は使えないため、人工内耳と補聴器を装用してヒアリング。障碍者になったのは4年前。それまでは、人材広告、アパレル業界で就労経験あり。現在は子育てをしながら、IT ラーニングプログラムに参加。

村山 廉

村山 廉

(聴覚障碍 2 級)
大学時代にアルバイトしていた企業に就職し、聴覚障碍者向けの映像制作に携わる。その後、より多くの人々の課題解決に貢献することを目指し、IT ラーニングプログラムに参加。ほとんど耳が聞こえない。 

菊地 靖

菊地 靖

IT ラーニングプログラムの修了生。現在は人事本部で IT ラーニングプログラムの運営を担当。 

三浦 眞 さん

三浦 眞 さん

ダイバーシティ研修などを手掛ける株式会社UDジャパンに所属。マイクロソフトからの委託で、IT ラーニングプログラムのクラス マネージャーを務める。

背景も障碍も異なるさまざまな人々が、将来への想いを込めてプログラムに応募

━━ プログラムに参加されている皆さんのこれまでの経歴と、IT ラーニングプログラムに応募された動機についてお聞かせください。 

柴田 私は 2009 年に大学を卒業し、2014 年まで特別支援学校で教諭をしていました。その後、航空会社に転職し、グラウンド スタッフとして勤務したのち、IT ラーニングプログラムに参加しました。応募した理由は、ICT 活用に関する知識をしっかりと身に着けたかったからです。特別支援学校では学校に来ることができない児童や、読み書きが苦手な生徒もいます。でもスマホやタブレットをうまく活用すれば、このような子供たちでも学びを続けることが可能になります。将来はまた特別支援学校の教諭になり、ICT を活用した教育に取り組みたいと考えています。

関村 私は衣装デザイナーを目指していたのですが、新卒の就活時に希望する企業に就労できなかったため、個人でアルバイトをしながらデザイン活動を行っていました。その後、企業に就職して 10 年弱、マイクロソフトオフィスをよく利用していました。32 歳で、結婚および出産。産後のダメージのためか、聴力を失っていき37 歳ごろに聴覚障碍 6 級に、39 歳で聴覚障碍が 4 級になりました。ある程度の就労経験はありましたが、聴覚障碍を発症した状態で今まで通り働くのは、難しいと思うことが多くなりました。私は、障碍を感じさせない位のスキルを身に着けたいという思いがありまして、IT ラーニングプログラムに応募しました。

村山 私はいま 24 歳で、大学を卒業してからまだ 2 年しか経っていません。大学卒業時にそれまでアルバイトをしていた株式会社アステムに入社。ここで聴覚障碍のある方に情報やエンターテインメントを届けるため、映像制作の仕事を行っていました。その中で、テクノロジーを活用して、もっと多くの人々の課題解決に貢献したいと思うようになり、その時に見つけたのが IT ラーニングプログラムでした。これなら自分が求めている IT スキルを身につけることができ、より広いビジネスの経験もできる。そう考えて、思い切って応募することにしました。

IT スキルはオフィス系からプログラミングまでカバー、プロジェクトの中で実業務も経験

━━ 皆さんは 2021 年 5 月にプログラムに参加して 1 年目ということですが、具体的にどのようなカリキュラムになっているのですか。

柴田 開始からしばらくは、オフィス系の資格取得に向けた内容でした。既にマイクロソフト オフィス スペシャリスト (MOS) 365 & 2019 の試験を受けて合格しています。今は Microsoft Azure の勉強を進めており、資格試験合格に向けて頑張っています。

関村 私も学んでいる内容は同じです。空いている時間は、個人的に英語の勉強もしています。卒業するまでにどこまでスキルアップできるのか楽しみです。

村山 IT ラーニングプログラムのカリキュラムは、専門的なことを集中的に学べるので、とても魅力的です。しかしそれだけではなく、実際にマイクロソフトの社員としてビジネスを学べるところも凄いと感じています。

柴田 学習だけでなく、現在は、特別支援学校の生徒にオンラインで職場見学をしてもらうイベントに向けた準備も業務として行っています。

菊地 IT ラーニングプログラムが開始されたのは 2007 年ですが、当初は 1 年間のプログラムで、技術系の認定資格を取得することだけを目的としていました。しかし、その後、2 年間のプログラムになり、イベント企画などの実業務の経験や、マイクロソフト社内でのインターンシップなどが盛り込まれることになりました。実際のプロジェクトの中で成果を出すという経験は、皆さんが望む就労を実現するうえで、とても重要なものだと考えています。

━━ カリキュラムの全体像について教えて下さい。

菊地 カリキュラムは大きく 4 つの領域があります。IT スキル、ビジネススキル、アクティビティ プロジェクト、就職に向けた活動です。 IT スキルは MOS やクラウド サービス、セキュリティ等のマイクロソフト認定資格取得を目指し、プログラミングの研修なども実施します。

 これと並行して先ほどのイベントのようなアクティビティ プロジェクトも進めていきます。人数は、現在は1 年目が 9 名、2 年目が 9 名の合わせて 18 名が参加しています。障碍の種類は様々で、弱視の人や心臓および免疫などの内部機能障碍の人、車いすを利用している人、うつ病や発達障碍の人もいます。

講義では Microsoft Teams のライブ キャプションやトランスクリプトなどをフル活用

━━ このような多様な障碍をお持ちの方と一緒にプログラムを進めていくにあたり、どのようなことに配慮していますか。

三浦 私は講師とクラス マネージャーを担当していますが、皆さんのさまざまな障碍が、受講の妨げにならないようにしています。たとえば車いすを利用している方は長時間座っていると褥瘡ができやすいので、時間を区切って受講できるようにしています。またコロナ禍前は基本的に品川本社に出勤してトレーニングを受けていただくことになっていましたが、台風や大雪などの悪天候のときは大変なので、出社の必要がないトレーニング内容を切り替えたりしていました。また気候や気圧の変化で体調を崩しやすい方も多いので、常に体調を気にしながらサポートを行うようにしています。

━━ 皆さんは聴覚障碍があるということで、講義において課題もあると思いますが、これはどのように解決していますか。

菊地 コロナ禍によりリモートで講義が行われていますが、Microsoft Teams を使い、ライブ キャプション (※1) とトランスクリプト (※2) の機能をオンにしています。また技術系の講義では、後から何をやったのかを復習しやすいよう、講師の了解も得て録画も行っています。体調不良で欠席した場合でも、この録画を見ることでキャッチアップできます。Teams の標準機能なので、起動が簡単で誰でもできることも、とても魅力的です。

関村 ライブ キャプションとトランスクリプトは、革命的だと思います。私は人工内耳を装用して、補聴器も併用しているのですが、音が多いと頭の中で情報の処理が追いつかず、何を言っているのかわからなくなることがあります。でも字幕があれば問題ありません。Microsoft Teams のライブ キャプションとトランスクリプトは、かなり正確に文字にしてくれます。またトランスクリプトは講義のあとに Word 形式などでダウンロードもできるので、聞き逃した部分を後で見返すといったことも可能です。

村山 私はほとんど耳が聴こえないのですが、重度の聴覚障碍者がコミュニケートする場合には、必ずタイム ラグが発生するというのがこれまでの常識でした。音声が聞こえないので、書いて伝えるという、ワン クッションが入るからです。ビジネスでコミュニケートする場合には、このようなタイム ラグは効率を落とす結果になると思いますが、ライブ キャプションがあれば、ほぼリアルタイムでのコミュニケーションが可能になります。話した言葉がすぐに文字化されるというのは、実にすばらしいことです。これは聴覚障碍者にとって、本当に革命的なことです。コミュニケーションに苦しんでいる聴覚障碍者は多いので、ぜひこれで解決してほしいと切に願っています。

柴田 発言者の顔や名前がわかるようになっているのもいいと思います。発言はその内容だけではなく、だれが発言しているのかも重要です。これがわかることで、話の流れがスムーズに理解できるからです。

関村 聴覚障碍があっても、視覚からは情報を受け取れるので、カメラで顔の表情が見えて、字幕がある Teams を活用することで、仕事のやりとりもスムーズになっていると思います。 

村山 私も IT ラーニングプログラムの講義では、まったく手話を使っていません。質問も含めて、ライブ キャプションとトランスクリプトで十分だからです。 

Screen with caption: ライブキャプションとトランスクリプトを表示しているTeamsの画面

※1 ライブ キャプション

オンライン会議に参加している人の発言を、リアルタイムで文字化して画面下側のキャプションとして表示する機能。Microsoft Teams では 2021 年 6 月からテナントごとに順次日本語に対応しています。

※2 トランスクリプト

会議の音声を文字化して記録する機能。ライブ キャプションとは異なり、画面右側のチャット ウィンドウと同様の場所に、これまでの発言内容が文字として表示かつ記録されます。また記録された内容は docx と srf のファイルでダウンロードできるため、Word で見やすく加工して内容を確認したり、検索を行ったり、文字化が間違っている場合は修正もできます。字幕付きの動画を作ることも容易です。さらに Microsoft Teams はこのほかにも、録画ファイルやチャット内容、ミーティング中に書いたホワイトボードの内容などがまとめて自動的に保管されるため、ミーティング内容を多面的に振り返ることも容易です。

今回のインタビューは手話通訳も交えて行われました。Microsoft Teams では発言している人の映像が大きく表示されたり強調されますが、スポットライトを設定することで、常に映像を大きく表示することができます。

Screen with blue bar: ミーティングのチャットやレコーディングファイル、文字お越しがまとまっているTeamsの画面

さまざまな障碍のある人々との協業で深まった、多様性に対する理解

━━ 最後に、参加されている皆さんから IT ラーニングプログラムへのご評価、菊地さんと三浦さんからは今後の展望をお聞かせいただけますでしょうか。

柴田 とても素晴らしいプログラムだと思います。障碍者自身がスキルアップでききるのはもちろんですが、ここで学んだことで社会にも貢献できます。受講者だけではなく、社会にとっても役立つプログラムだと感じています。

関村 私も同じように感じています。内容も参加者に合わせて調整されており、Microsoft Teams の最新機能もいち早く活用するなど、障碍への対応は手厚いと思います。また、このプログラムに参加したことで、障碍の多様性も理解できました。初めて会うタイプの障碍者もいらっしゃったので最初は戸惑いましたが、相手の背景を理解してコミュニケーション方法を工夫することを学べました。マイクロソフト自体が、多様性に配慮した会社なのだということもわかりました。

村山 このプログラムの何が凄いかといえば、やはり会社の中で業務の一環として取り組んでいることだと思います。世の中にはさまざまな職業訓練校がありますが、その多くは技術を磨くだけに終始しています。しかしここでは技術だけではなく、実際に仕事をどう進めていくのかを、社員の皆さんとのやり取りを通じて体験できます。これはすばらしいことだと感じています。

三浦 私は障碍のある方のサポートをして 20 年が経ちますが、その中で感じているのは、障碍の有無と能力にはまったく関連性がないということです。これまでも、このプログラムに参加する方は優秀な方が多く、修了後にマイクロソフトに残ってアワードを受賞された方もいます。マイクロソフト以外の会社に就職した方で社長賞を受賞した方もいらっしゃり、このような話を聞くととても嬉しいです。このプログラムを通じて、自分自身が生き生きと働くということを自ら実践する人が増えていくことで、誰でも自分の能力を最大限に発揮できる社会になるはずです。その一助になるよう、これからもサポートしていきたいと考えています。

菊地 私としては、2 年のカリキュラムを修了した後の就職には、まだ課題があると感じています。修了後の就職に向けてこのプログラムとして何ができるのか考えながら実践に移していき、さらにプログラムの内容を向上させていきたいと考えています。

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