政策インタビュー 第 2 回

イノベーションを支える人材の「プロ化」と「多様化」

経営戦略としてのテレワーク
東京工業大学 イノベーションマネジメント研究科 教授
比嘉 邦彦 氏

業務の効率化やワーク ライフ バランスなど、さまざまな効能が謳われ、企業への導入が推奨されている "テレワーク"。人の働き方を変え、組織の在り方を変える勤務形態が、企業にどのような価値をもたらすのか。日本テレワーク学会の特別顧問でもある比嘉 邦彦 氏に、世界で行われている実証実験や数々の事例を基に、お話を伺いました。

【プロフィール】
米国アリゾナ大学から 1988 年に経営情報システム専攻で Ph.D.を修得。1999 年より現職 (東京工業大学 イノベーションマネジメント研究科 教授)。テレワークをメイン テーマとした 21 世紀の情報システムのあり方、組織改革、地域活性化などについて研究。ACM、AIS、INFORMS、経営情報システム学会等の会員であり、日本テレワーク学会の特別顧問である。国土交通省・総務省・厚生労働省・経済産業省の 4 省合同で作成した企業へのテレワーク導入ガイドブックの編集委員長を含めテレワーク関係省庁の 各種委員会の委員および委員長を歴任。

「テレワーク」は、グローバル競争を勝ち抜く組織作りに有効な手段

テレワークが推奨されているのは、現在のグローバル競争を勝ち抜く、効率的な組織づくりに有効な手段だからです。

日本にある多くの企業、特に大企業は、指揮系統がタテ割りとなる「階層型 (ピラミッド型) 」組織になっています。これは、「規模」=「力」であった高度経済成長の時代には適した形態でしたが、現在の市場競争を勝ち抜くには、あまり適した形態とは言えません。

一方海外では、1980 年代からの景気後退を受けて、脱工業化がすでに進み、知識社会へと変わっています。この変化に対応し、組織の在り方も、縦横に指揮系統が機能する「マトリックス型」や、外部リソースを積極的に活用する「ネットワーク型」へ、大きくシフトしています。
そして、グローバルに競争が激化し、変化のスピードが増した現在においてはマトリックス型とネットワーク型の「ハイブリッド型」組織が有効であると言われています。

ポイントは、意思決定の迅速化と、人材の柔軟な活用です。

こうした組織形態の変化を実現する上で、非常に有効な選択肢となるのが ICT を駆使して時間と場所に縛られない働き方を実現するテレワークなのです。

「テレワーク」を端緒とする "多様な人材活用" が日本の発展に欠かせない
イノベーションの創出を促す

グローバルな市場競争において日本が優位に立って行くためには、新たなイノベーションの創出が欠かせません。そして、イノベーションの創出には、人材の多様性が求められます。

この点において強調したいのは、「テレワークの体制を整えることで、社外にいる多様な人材とも協働しやすくなる」というメリットです。

非常に近しい例が、「クラウド ソーシング」でしょう。

海外には、博士号を持った人材などが集まるクラウド ソーシング サイトなどがあります。日本のどんな大企業であっても、こうしたサービスが誇る人材の多様性には絶対に敵いません。
海外の企業は、これらを戦略的に活用し、難解な企業課題の解決などを実現しています。

一方、日本国内に目を向けると、経験を積んだ優秀な人材も、定年を迎えた途端に「非労働力」になってしまうのが現状です。これはもったいないですよね。

さらにもったいないのは、いわゆる M 字カーブ (年齢階級別労働力率をグラフで表したときに描かれる曲線) の底にあたる、女性たちの存在です。非常に高い教育を受け、社会経験を積んできた人が、結婚や出産を機に離職してしまう。これだけ質の高い人材を活かすことができないのは、組織にとっても大きなマイナスです。

加えて、地方にも優れた人材が埋もれています。中には、事情があって地元を離れられない人もいるでしょう。

こうした人たちは、都市部に集中するオフィスに毎日通勤することが困難な状況にあります。しかし、テレワークならば通勤を必要とせず、柔軟にコラボレーションすることが可能です。

そして、日本が世界に誇る「最高の資源」=「高いレベルの教育を受けた勤勉な人たち」の才能を存分に発揮してもらうためにも、全社的なテレワーク体制を整え、テレワークに適したマネジメントを実践することが望まれるのです。テレワーカーのマネジメントもできない状態で、高度人材をクラウド的に活用するなど、到底できませんからね。

経営に資するテレワーク導入のポイント 1:
「明確なビジョンをもって、大規模に導入すべき」

これだけ多くのメリットがあるのに、なぜ日本国内においてテレワークの普及が進んでいないのか、不思議に思われるかもしれません。
その疑問の答えとしてはまず、テレワークのメリットを「従業員目線」でとらえ過ぎてしまっていることが挙げられると思います。

組織の効率化、意思決定の迅速化を求めてテレワークの導入を試みる経営者は少なくありません。

しかし、経営陣からプロジェクトを任された担当者が、導入に向けて他社の先進事例の見学などを重ね、いざテレワーク導入施策をまとめようとすると、育児や介護といった「従業員のニーズ」に偏ってしまい、頓挫することが多いのです。

つまり、利益追求の目的から外れてしまうため、思い切った投資に踏み切れないのです。

もちろん、育児や介護への対応は重要です。しかし、そこだけに適用してしまうとテレワークのメリットは大きく減退します。

誤解されている方が多いのですが「テレワーク」=「在宅勤務」ではありません。テレワークには多様な形態があります。組織の最適化を実現することが最優先課題であり、従業員の QOL (Quality of life) 向上は、その結果としてついてくるものです。

そして、経営戦略に対して最適な組織形態を実現するためには、一定以上の規模をもってテレワークを導入することが大切です。部署や事業所、そして対象者を狭く限定した小規模導入を行うと、かえってコストがかかるばかりでなく、「意思決定の迅速化」など、本来の目標を達成することができなくなります。

組織全体が最適化されるということは、従業員の能力が存分に発揮される環境が実現するということです。自分の能力を発揮し、評価されれば、従業員満足度も上がります。
テレワークが日常化していれば、社内の意思決定が迅速化されるだけではなく、育児や介護などへの柔軟な対応につながります。

まずは大規模に導入を図ることが、テレワーク成功の絶対条件です。
こうした順番を忘れ、一部の従業員ニーズに特化した小規模なテレワーク導入を実施すると、余分なコストがかかる上に、一部従業員の特権であるかのように誤解され、社内に新たな不満の種を生む懸念もあります。

経営に資するテレワーク導入のポイント 2:
「 "見えない社員" の方が、よく働くという事実」

次に、テレワーク導入後の「勤怠管理」や「人事評価」を不安視する中間管理職の抵抗が挙げられます。 管理の目が届かなければ、従業員が怠けてしまうのではないかという不安ですね。

しかし、世界中の実証実験は、まったく逆の結果を示しています。
テレワーク実施者の方が、オフィス出勤者よりも熱心に働く傾向にあることが報告されているのです。

理由は 2 つあります。1 つは時が経つのも忘れるほど、集中して作業できるということ。もう 1 つは、自分の働いている姿が上司に見られていない分、きちんとした成果を出して、正当な評価を得たいと考える傾向が強くなるからだと言われています。

要するに、仕事に対する意識が非常に高くなるのです。
上司に見られていないからこそ、仕事のクオリティにこだわる。
そして、自分の進捗が全体に及ぼす影響についても、思いめぐらせることができる。

これは、プロフェッショナルの働き方ですよ。こうした意識変革を促し、従業員のプロ化が進められることも、テレワークの効能です。

従業員 1 人 1 人が、自身の仕事の質と、全体への貢献度を考慮できる「プロ意識」を持つようになったら、その組織はとても強くなるでしょうね。

問題はむしろ、テレワーカー側ではなく、マネジメント側にあると思います。企業は今後、ナレッジ ワークに従事するテレワーカーたちの "成果" を正しく評価できるように、中間管理職のマネジメント能力を伸ばすことに注力する必要があるでしょう。

経営に資するテレワーク導入のポイント 3:
「テレワーク導入企業のセキュリティ インシデント発生率は、ゼロに近いという事実」

そしてもう 1 つの阻害要因が、テレワークにおける「セキュリティへの不安」でしょう。

私の研究室でも過去に、テレワーク導入企業におけるセキュリティ インシデントの有無と、その対応などを調査したことがあります。 その結果、テレワークによってセキュリティ インシデントに見舞われた企業などなかったことがわかりました。
むしろ、テレワーク導入がセキュリティを見直すきっかけとなり、以前よりも安心できる環境が整えられていたのです。

一方、大規模なデータ流出が新聞沙汰になるケースなどを見ると、その大半は「内部犯行」によるものです。つまり、ICT を活用していることが問題なのではなく、組織内部に「不安」を抱えていることが問題なのです。

ですから、「テレワークの実施がセキュリティ インシデントの発生につながる」と言っている企業は、今現在の社内にセキュリティ上の課題を抱えていることを、告白しているも同然なのです。

経営に資するテレワーク導入のポイント 4:
「日本マイクロソフトなどの成功事例を参考に」

先日、日本マイクロソフトのオフィスを見学させていただきましたが、今まで話したポイントがすべて、明確にクリアされていて、非常に素晴らしかったですね。
私が理想として掲げている「モバイル型テレコミューティング」(モバイル活用を前提とした、通勤を必要としない働き方) に、非常に近い環境が実現していたと思います。

まず、自分たちが、どのような組織を目指しているか。その目的が明確であり、全従業員と意識共有できていることが挙げられます。

原則として例外を作らず、全社規模で導入されていることも評価できます。

そして、テレワークを実施するための 2 大原則である「ペーパレス化」と「固定電話の撤去」が徹底されていました。
オフィスの家具やレイアウトも、チームでフレキシブルに働けるように考えられ、固定席を持たないフリー アドレス制が整えられていました。

Skype for Business など、社内のコミュニケーション環境を支えるツールに関しても、「シンプルで使いやすいこと」を前提として整えられていました。

すべて教科書通りで、素晴らしいです。

こうした取り組みを、「導入後の業績・実績」と「従業員満足度」の両面から、評価・分析されていたことにも感心しました。ここまで完成された事例は、多くありません。ぜひ、1 社でも多くの企業に参考にしてもらいたいと思います。

ただし、日本マイクロソフトに対して、1 つお願いがあります。それは、「中小企業に適したモデル」も提示して欲しいということです。日本マイクロソフトのオフィス環境は非常に素晴らしいのですが、ここまでの環境を整えられるのは、大企業だけです。
ICT への投資額が限られてしまう中小企業でも、最低限ここまで整えればテレワークがスムーズに行えるというモデルを示して、積極的に発信していただきたいと思います。

経営に資するテレワーク導入のポイント 5:
「全社的に体制を整えれば、従業員側は自然と適応する」

よく耳にする言葉に、「テレワークは日本の企業文化には合わない」というものがあります。
そういう人たちに日本マイクロソフトの成功例を話しても、「それは外資企業だから」と言うでしょう。

でも、これだけははっきりと言えます。日本人にテレワークが向いていないというのは、まったく根拠のない話です。日本マイクロソフトだって、従業員のほとんどは日本人じゃないですか。

そもそも、毎朝みんなで定時出社して、同じ場所に勤務するようになったこと自体、つい最近の話なのです。「テレワークを行うには、特別な資質が必要だ」という声もありますが、人事採用を行う際に、「毎朝出社できるかどうか」、その適性を問うことがありますか? 問いませんよね、そんな簡単なこと。

テレワークも、特別なことではないのです。

経営層が、その目的を明確に示して全社的な ICT 環境を整え、管理職層がマネジメント体制を整えれば、従業員側は何の問題もなくテレワーク環境に馴染んでいきますよ。

これは、私自身数多くの実例を見てきた上で実感しています。

こうした話を踏まえて、テレワークが「自社の経営戦略に適している」と改めて感じられたとあれば、ぜひとも積極的に取り入れていただきたいと思います。

マイクロソフトのテレワークへの取り組み

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