休業者のスムーズな職場復帰をサポートする仕組み “armo (アルモ)” を開発し、日本におけるワーク・ライフ バランスの概念を創出した小室淑恵さん。小室さんは自身も起業家として、また家庭の主婦として、理想的なワーク・ライフ バランスを実践する一人である。落ち着いた所作でインタビューに答える小室さんは、まさに “理知的” という言葉がぴったり。今回は、日本を代表するソーシャル・アントレプレナーとしても注目される、小室淑恵さんのデジタル ワーク & ライフ スタイルに迫る。

―小室さんは現在、株式会社ワーク・ライフバランスの代表としてご活躍されていますが、会社を設立するまでの経緯と、起業されたきっかけをお聞かせください。
小室:大学在学中に一年間休学をして、アメリカに渡って住み込みのベビーシッターをしていたんですが、そこでの経験が転機となりました。当時、住み込み先の家主の女性は証券会社に勤めていたのですが、二年間の育児休業中にインターネットで資格を取得して、昇進して職場復帰を果たしたんです。これって日本では考えられないことですよね。彼女いわく、育児休業期間はブランクではなくブラッシュ アップ (能力を磨き上げる期間) だというんです。私はそれまで IT というと何だか怖いイメージがあったのですが、彼女の実体験から IT はハンディを手助けする温かいツールだという認識に変わりました。帰国後は早速 IT を学ぶために一年間ネット エイジ (インターネット事業・ネット企業育成を手がける企業)でインターンをさせてもらいました。その後、就職活動を経て資生堂に入社し、社内のビジネス モデル コンテストで、育児休業者のための職場復帰支援プログラムを会社に提案しました。そのビジネス モデルを社内ベンチャーとして立ち上げたことが、後に起業するきっかけとなりました。
―ワーク・ライフ バランスの概念は現在のビジネス モデルの軸となっている思想だと思うのですが、小室さんの考えるワーク・ライフ バランスとは一体どのようなものなのでしょう?
小室:一般的にはワークとライフのバランスをとることだと思われがちなのですが、実はそうではありません。私の理想とするワーク・ライフ バランスとは、ワークとライフを限られた時間の中で案分するイメージではなくて、むしろライフの充実に重きをおいた考え方なんです。ライフをしっかりと充実させることで、人脈や発想やスキルが手に入って、ワークの方にも好影響を与える。そうした “正” のスパイラルが私たちの考えるワーク・ライフ バランスなんです。今の日本はどちらかというと “負” のスパイラルですよね。ライフがないからアイディアがない。アイディアがないから皆でゼロから考える。ゼロから考えるから会議が長引く。会議が長引いて皆が疲れる割に、アウト プットが少ないという ……。 これでは残業代がかさんで企業としても儲からないですよね (笑) 日本のじり貧の構造というのは、こうしたところからきているのだと思いますね。
―小室さんは現在、育児をしながらお仕事をされているわけですが、会社を経営している自分と、育児をしている自分は、どのようにバランスをとっているのでしょう?
小室:私は現在 2 足のわらじどころか、実質 4 足のわらじを履いていることになるんです。ひとつは家庭での自分。もうひとつは経営者としての自分。それから、学生たちに向けてボランティアでプレゼンテーションの講座を開講している自分。さらには現在、女性 7 人で “ミアマーノ” という商品企画のチームを結成し、企業からの要望を受けて女性向け商品の企画・開発を行っています。これはやってみて気付いたことなのですが、4 つの仕事をしていると、不思議なことにそれぞれの仕事がそれまでの 4 分の 1 の時間で終わってしまうんです。本当に 9 時~ 6 時の間に仕事が終わってしまうんですよ (笑) これはなぜかというと、それまでの 4 倍の人に会い、4 倍のアイディアが入ってくるので、仕事のアイディアや人脈に困ることがない。つまり、仕事の効率が格段に上がったんです。
―今後の事業において、何かチャレンジしてみたいと思うことはありますか?
小室:休業者職場復帰支援プログラムである “armo (アルモ)” に関して、これまで多くの企業に導入していただき、育児の分野に関しては非常に充実してきたと思います。今年はそれに加えて、これまでテスト展開してきた “介護向け” と “メンタル向け” がリリースされる予定になっていますので、それらの土台作りに注力したいと思います。そしてもう一つは、ワーク・ライフ バランスというものを、私たち以上に広めてくれる人材を育成してゆかなければいけないと考えています。この業界はまだまだ人手不足ですので、ワーク・ライフ バランス コンサルタントが多く必要なんです。
―小室さんにとって、現在のお仕事にはパソコンは欠かせないものだと思うのですが、そもそもパソコンと出合ったきっかけはなんだったのでしょう?
小室:私がパソコンを手に入れたのはアメリカにいる時なんです。当時は帰国後に就職活動をしなければいけないという状況にも関わらず、一年間アメリカにいて、日本の情報から遠のいていたんですね。そんな状況がとても不安だったのですが、友達に見せてもらったインターネットの世界に、日本の就職活動の掲示板があったんです。そこには当時私が疑問に思っていた就職活動に関する情報がいろいろと書かれていて、それを見て心から安心しましたね (笑) そうか、インターネットを使えばいつだって日本の情報にリーチできるんだと (笑) それで早速インターネットに接続しました。それがパソコンとの出会いですね。
次ページでは、いよいよ小室さんのデジタル ワーク & ライフ スタイルに迫ります。
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