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東京から少し離れて 第6回

第 6 回 旧暦のススメ

東京から海の近くの街に引っ越し、少しだけ旧暦を意識するようになった。旧暦とは明治の初期まで日本で使用されていた太陰太陽暦のことで、普段私たちが使っているのは、太陽暦 (グレゴリオ暦) でいわゆる新暦。

きっかけは、海に近くに住んでいることで、潮の満ち引きに関心を持つようになったことから。潮の満ち引きは月の引力によるものだが、見た目上は月の満ち欠けにリンクする。大潮と呼ばれている干満の差が一番大きな時期は、新月と満月の前後。逆に半月の頃には干満の差が一番小さくなる。海は月によってリズムづけられているのだ。

旧暦もまた、月の満ち欠けにリンクしている。旧暦における一か月は、必ず新月の日から始まることになっている。約 15 日で満月へ変わっていき、約 30 日で次の新月へ。そして新しい月の誕生と共に次の一か月が始まるというわけだ。強引にまとめてしまうと、海の近くに住んでいると、どうしても月の満ち欠けと旧暦を意識せざる得ないことになる。 

今日という日が旧暦で何月何日にあたるかは、インターネットで調べればすぐにわかる。すぐに計算してくれるサイトがいくつもあるのだ。僕は毎朝、今日という日が旧暦が何月何日かをネットでチェックするのが習慣になっている。日にちがわかれば月の形も潮の干満も推測できる。なんだか楽しい。

この旧暦、千年以上にわたって使われてきただけあって、日本の文化や伝統行事と密接に繋がっている。例えばお正月。年賀状などに「新春」と書かれたりするが、新暦ではまだ真冬。それが旧暦だと、2 月上旬 (2008 年は 2 月 7 日) になることが多く、もうすぐ梅が咲き始める季節でまさに春直前。しかも必ず新月で、新しい月が生まれる日だからめでたさも倍増する。

七夕もそう。今の暦の 7 月 7 日は、まだ梅雨が明けきらない頃で、彦星と織姫星は雲に隠れることが多い。しかし旧暦の 7 月 7 日 (2008 年は 8 月 7 日) だと、梅雨はとっくに明けていて、必ず上弦の月で地平線に沈む時間が早いため、本来は天体観察にはもってこいの夜なのである。

このように、旧暦の日付で考えると、納得がいく行事や慣例が多くある。俳句の季語は旧暦に沿っているし、仲秋の名月のように、今でも旧暦で祝う行事も残っている。古典を読む時には、旧暦を頭に入れておかないと、季節感がズレてしまうことがある。

もちろん、旧暦の方が優れているなんて言っているわけじゃない。新暦の方が合理的だし便利だ。そもそも、東京に住んでいる時には、月と潮の満ち引きの関係もよくわかってなかったし、旧暦のことなんて考えたこともなかった。
でもちょっと旧暦を意識するだけで、自然に対する見方が変ったりするのがおもしろい。月の満ち欠けは、潮の干満だけでなく、生物の誕生などに大きな影響をあたえると言われている。夜、月を見上げて、ああ、今は一か月のうちのどのあたりなんだな、と気づくのも悪くない。
 
インターネットがなかった時代は、手元に旧暦に対応しているカレンダーがなければ、今日が何月何日か知りたくてもわからなかった筈だ。古いと思われている旧暦と、最先端のデジタル ライフは、意外と相性がいいのかもしれない。

文:川上 徹也
iNNO. by Microsoft 編集部より:
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