IT 先進企業
森本昌義社長が語る情報技術と企業体質の改善との密接な関係IT をフル活用し、経営改革を断行する

完全公開された意思決定機関
2 年も前倒しで利益目標を達成
Case study

□2 年も前倒しで利益目標を達成

さらに森本氏は「重点方針」の一つに掲げた「営業力の強化と商品力の向上」に乗り出した。

「営業力の強化」では、主力商品の「進研ゼミ」の DM (ダイレクトメール) 以外の営業手法の開発に着手。これまで「進研ゼミ」のマーケティングは、住民基本台帳をもとにした個人情報を基に DM 送付を基本とし、その費用は年間 200 億円にも達していた。

そこで、それまでほとんど行ってこなかったテレビ CM を流す一方、ホームページの充実などのメディアミックス戦略を採った。そうした努力の甲斐もあって、04 年 4 月には前年同月比で「進研ゼミ」の会員数は 4 期ぶりに増加に転じ、ベネッセのブランドイメージ確立にも貢献した。

「商品力の向上」では IT を使って顧客の志向に沿った形でセギュメントを行い、「進研ゼミ」の個別教材へのシフトに取り組んでいる。

「それまでの文部科学省の学習指導要領に沿った標準的教育サービスではなく、レベル別、志望校別コースなど、パーソナライズされた教育サービスの提供に改めました。『進研ゼミ』の教材の種類は例えば高 1 の数学で 2000 種類ありますから、ユーザーの多様な選択に合わせて、個人個人に適したレベル別の対応は十分可能です」 (森本氏)

森本氏は「経営の重点方針」にあえて「IT 技術をフルに活用した、新しい教育技術の研究・開発を積極的に行う」との 1 項を入れた。これまで「進研ゼミ」の会員の販売・顧客管理に使われていた IT を、商品作りなどにも積極的に活用すべく、情報企画部を発展改組して、04 年に IT 戦略推進部を発足させた。

また教材制作の工程改革にも着手。PC 上でレイアウトまでを行うなど、IT を活用して、低コストで効率的かつ品質の高い教材を作ろうとしているのだ。

そうした中、IT 技術をフルに活用せざるをえない事態が持ち上がった。05 年 4 月に施行された個人情報保護法である。法律の施行により個人情報保護の意識は高まり、住民基本台帳の閲覧そのものが制限される可能性が高まった。

閲覧禁止ともなれば、それまで入手可能だった住所、氏名、年齢などの個人情報が入らなくなってしまう。これまでの「進研ゼミ」のビジネスモデルの根幹にもかかわる事態を前に、ベネッセは先手を打った。05 年 9 月 20 日の新聞各紙の紙面で、住民基本台帳の閲覧停止を自ら宣言したのである。

「当時でも、住民基本台帳の閲覧を断られる市町村がありました。私自身、個人情報の取り扱いを審議する総務省の委員になっていたこともあり、もう閲覧はやめますと宣言したのです」 と、森本氏は語る。

こうした事態を受けて 05 年 11 月には、CRM (カスタマー・リレーション・マネジメント/コンティニュアス・リレーション・マネジメント) 委員会を発足させ、マーケティングの深化を図ろうとしている。テレビ CM の拡大、ホームページのさらなる充実により顧客の誘導を図り、主力の「進研ゼミ」の会員に加えて、LTV (ライフ・タイム・バリュー) カンパニーが手がける雑誌の読者、語学や福祉事業の顧客を取り込み、IT 利用をベースに顧客との生涯にわたる関係性を築くのがその狙いだ。

「一度、会員になってくださった方と、コミュニケーションをとりながら、生涯にわたる長いおつきあいをしたいと考えています」 (森本氏)

一連の改革の結果、森本氏が社長に就任した 2002 年度には 163 億円だった営業利益は、04 年度には 261 億円まで急進して、中期経営計画の利益目標を 2 年前倒しで達成した。

「IT は、紙と鉛筆、郵送での赤ペン指導と DM が主体だったビジネスを大きく変えつつあります。その意味で、ベネッセはもはや教育産業というより情報産業といっていいと思います」 と、森本氏は語る。

ベネッセは IT を活用した経営改革によって、次なる成長への大きな一歩を踏み出したといっていい。

第三の創業にあたり新しく育みたい社風
  1. 日本社会を知る。社会通念、ビジネスの常識などを日頃から勉強する。
  2. 世界の潮流に思いを致す。
  3. 世の中の変化を先んじて感じる Sensitivity、高いアンテナを持つ。
  4. 市場の実態を客観的に観察して「顧客になってくれていない人々」のニーズを、顧客満足のスタートとする。
  5. 同時に誰が競合かを見極める。競合との関係や業界での位置づけを常に意識する。
  6. 平均値ベースで事業をとらえない。顧客セグメント毎に細かくニーズを把握する。
  7. 過去の経緯、成功体験、義理人情にとらわれず、ゼロベースで考える。
  8. わかりやすく誰もが理解できる言葉 (数字・事実・論理) を使って議論する。
  9. 社内コミュニケーションに心がけ、意思決定の透明性を確保するとともに、意思決定の理由をきちんと説明する。
  10. 意思決定者やその関係者に、自由に意見を述べることができる。
  11. 社内の他部門のビジネスにも、どしどし口を出すことができる。
  12. 経営環境の変化に対応して、方針を変える柔軟性を持つ。迅速に軽く動く。(あえて朝令暮改も良しとする)
  13. 社員の多様性および個人のコンピタンスを尊ぶ。
  14. 現在の事業領域、個人の担当業務を超えて、創造性を発揮し、ビジネスチャンスを追求することができる。
  15. 人事、業績評価にあたっては、FAIRNESS を旨とする。
  16. 成果主義に徹するが、敗者復活戦にチャレンジできる。