1.資産運用ビジネスを取り巻く環境変化と求められる対応
- 資産運用ビジネスを取り巻く環境変化
投信投資顧問会社、生命保険・損害保険および信託銀行の運用資産部門に代表される資産運用ビジネスは、市況の低迷が長期化する中で非常に厳しいマーケット環境に直面しており、かつ業界内での競争はますます激しくなる様相を呈している。資産運用ビジネスにおいて競争環境が激化しているその主な要因を以下の3つの視点から整理してみたい。
市場環境
- 基金の自主運用拡大に伴う相対的なマーケットサイズの縮小
- 変額年金など資産運用系商品の拡大(生保系投資顧問など)
競合他社
- マスタートラスト解禁に伴う信託銀行と投資顧問会社間の競争の激化
- 高い運用ノウハウを持つ外資系資産運用会社の参入・国内系との提携
顧客
- 運用成績・サービス向上に向けた期待の高度化
- 資産運用に係る選択肢の拡大に伴う委託先選別への動き
- これからの資産運用ビジネスに求められる対応
それでは資産運用会社がこうした厳しい競争環境の中で勝ち残るためには、どのような対応が考えられるだろうか。上記のような環境認識を踏まえると、資産運用会社の収益性強化に求められる対応としては、主に(1)運用力(質)の向上、(2)営業力(資産規模)の拡大、それらを支える(3)業務執行力の強化という3つのポイントが考えられる。
(1)運用力(質)の向上
- 運用力への注力、会社資源の適正配分
- その結果として達成される運用パフォーマンスの向上
営業力(資産規模)の拡大
- 単位顧客あたり運用資産の拡大と既存顧客リテンション率の向上
- 新規顧客の獲得
業務執行力の強化
- 手作業の負荷軽減による担当者の本来業務への注力
- STP化の推進、関連会社とのネットワークインフラの拡充・強化
資産運用ビジネスにおける競争力の源泉としては、当然のことながらこれら「運用力」「営業力」「業務執行力」のいずれもが重要な要素となる。問題はこれらの視点から、競合他社に対し、どの領域でどのような差別化を図ってゆくかである。それでは、これら3つの競争力の源泉それぞれについて、どのような対応が考えられるだろうか。
まず、運用力の強化についてであるが、運用パフォーマンスの向上は当然のことながらこれまでも継続して追及されてきた課題である。このポイントについては、今後も継続的な努力が必要であることはもちろんであるが、その一方で例えば優秀なポートフォリオマネジャーやファンドマネジャーを外部から一気に多数ヘッドハンティングでもしてこない限り、ある日突然、他社の追随が困難なほどのレベルで運用力が強化され、運用パフォーマンスが急激に向上することは現実的には想定できない。
また業務執行能力の強化についても、資産運用会社の業務プロセス自体がブローカーや信託銀行等の外部の関連会社と密接に連動していることから、資産運用会社単体でとりうる対応には限界がある。したがって関連業界を巻き込む業務プロセスの効率化やシステム化にあたっては、個別の資産運用会社が単独で対応するよりも、複数の資産運用会社が協同で取り組んだ方が効率的なものが多い。業態の構造としても、金融業界における他業態と比べて、資産運用業態は相対的に多数の小規模な会社で構成されていることから、個社別に取りうるシステム投資負担にも自ずと限界があると言えよう。
一方、営業力の強化については、これまでの定型的なサービスや受動的な個別対応によるサービスの提供が中心であった対応からさらに一歩踏み込んで、顧客へのアプローチ方法や顧客へのアピール内容等で競合他社との相対的な強みを発揮することで、他社とは異なる差別化を図ることが可能な領域であると考えられる。ただし、営業力の強化を通じた競合他社との差別化も決して簡単なことではなく、おそらく以下のような課題への対応が必要となろう。
- 顧客タイプに応じたアクティブな営業の展開:従来のプル型中心の営業から顧客別収益率に基づいたプッシュ型営業への転換
- 運用状況・環境要因に関する深い理解に基づく顧客へのアピール力の強化:運用ノウハウの活用による十分な理論武装
- ディスクローズ時に営業担当者が運用部門を必要以上に煩わせることなく活動できる環境の整備:本来業務への特化
- 営業担当者の負担を増やさず、多大な投資も必要としない解決策の模索:追加負担の軽減
以上のような考え方をとるとすれば、現在のビジネス環境下では、こうした「セールスエクセレンス」の追求により競合他社との差別化を図ることが、資産運用ビジネスでの競争優位性を確立・維持するための効果的な手段のひとつ(言葉を変えれば「今できること」)であると思われる。ただし、これらの課題への取組みにあたっては、単に営業に費やす時間の拡大といった量的な側面のみならず、スキルやナレッジの強化といった質的な側面にもスコープをあてることが、「セールスエクセレンス」実現のカギとなろう。
2.資産運用ビジネスに求められるITソリューション
こうした厳しいビジネス環境認識とその中で資産運用会社が直面している経営課題を踏まえ、アクセンチュアとマイクロソフトはグローバルアライアンスのもとで資産運用ビジネス向けにITソリューションを共同開発・展開している。以下では、このITソリューションの適用事例として、国内および米国における2つのケースをご紹介する。
(1)国内における資産運用ビジネスへのITソリューション適用事例
ここでは、資産運用ビジネスにおける競争の激化に対応するために、アクセンチュアとマイクロソフトが提供するITソリューションを採用し、高度な資産運用サービスの提供と顧客サービスの向上を通じて「セールスエクセレンス」を目指す国内資産運用会社の事例をご紹介する。
- ITソリューション導入の目的
この運用会社におけるアクセンチュア・マイクロソフトのITソリューション導入の目的としては、主に以下の4つのポイントがあげられる。
- 運用ノウハウの体系化
リサーチ情報やアナリストレポートなどだけでなく、各ポートフォリオやセクターにおける銘柄選定に至る意思決定の過程をナレッジ(知識・情報)と位置付けて一元管理し、共有化を図る。こうした対応により、資産運用における意思決定をより的確に、かつ迅速に行うことを可能とする。
- 顧客サービスの向上
年金基金など、法人顧客の基本情報や営業活動の履歴をデータベースに登録し、電子ファイルの形で保存される報告・提案資料及び運用関連情報とともに蓄積・管理することができる環境を整備する。これにより、顧客からの多様な要望への対応、一貫したサービスの提供が可能となる。
- 業務効率の向上
業務に関わる様々な経験則や仕事のノウハウを蓄積し、共有化を図ることにより、業務効率の向上を図る。また、こうした対応を通じて将来的なビジネスの拡大や要員増加等にも柔軟に対応することができるビジネス基盤を整備する。
- 意思決定のためのナレッジ(知識・情報)の活用
ビジネスの現場で蓄積されたナレッジ(知識・情報)にマネジメントも随時アクセスすることを可能とし、経営判断やビジネス運営に関わる意思決定を迅速に行うための判断材料を提供する。
- ITソリューションの機能概要
このITソリューションは、Share Point Portal Server ・ Exchange 2000 Server ・ SQL Server 2000 ・ Outlook 2000 ・ Digital Dashboard ・ Office 2000 といったマイクロソフト製品を全面的に採用しており(図1参照)、将来的には「Windows .NET Server」及び「SPSの.NET版」への移行を視野に入れている。
これらで構成されるシステムアーキテクチャーの上には、以下のようなシステムサポート機能を提供する業務アプリケーションが実装されている。
 図1.システム概念構成
「拡大図」
- 営業支援機能
・顧客のセグメント化・営業活動履歴管理等による営業活動の効率化支援機能
・ABC/ABM情報と運用報酬との対比による顧客別収益・採算管理機能
・顧客ニーズの取り込み・活用支援機能
・顧客に対するリアルタイムでの運用情報の提供
・顧客ニーズに応じたポータルサイトの提供 など
- ナレッジマネジメント機能
・社内情報の蓄積・共有・活用を促進するための支援機能
・データ参照ニーズに応じたデータ検索・加工機能 (運用残高、顧客情報など)
こうした営業支援機能の導入に併せて、既存のビジネスプロセスのリエンジニアリングを図ることで、定量的な予算・実績データや、顧客情報に基づく顧客セグメント毎にメリハリのついた営業のPlan・Do・Seeサイクルを確立することができる。また、ナレッジマネジメント機能により、会社全体として蓄積してきたナレッジ(例えば市況見通し、銘柄選定の経緯、過去の報告・提案資料や活動履歴情報など)の共有・活用を前提とする営業活動の支援を行うことが可能となる。(図2参照)

図2.ビジネスプロセスとシステムサポート機能の概要
「拡大図」
(2)米国における資産運用ビジネス向けITソリューション
続いて海外でのケースとして米国の資産運用ビジネスにおけるITソリューションの適用事例をご紹介する。
- 新たなITソリューションが求められる背景
ご存知の通り、米国ではSEC・SIAの強力なリーダーシップの下で、金融業界全体としてのSTP(ストレート・スルー・プロセシング)の実現に向けた取組みが進行している。この取組みがスタートするにあたり、アクセンチュアではSIAから委託を受け、業界全体としての必要投資額とそれに伴うコスト削減効果に関するスタディを実施し、2000年7月に調査レポートを発表した。
現時点では必ずしもT+1(証券取引翌日決済化)がゴールではなく、STP化を進めることに重点が置かれているが、仮にこのレポートでのT+1対応に係る試算を例にとれば、資産運用業界における必要投資額は証券会社等に比べて相対的には小さいものの、コスト削減効果も少なく、結果として最も長い投資回収期間が必要になるという結果が出ている。このスタディの実施後も、米国では同時多発テロの影響や長引く市況の低迷等により金融環境はますます厳しくなっており、現時点における資産運用会社を取り巻くビジネス環境はさらに厳しい状況になっているものと思われる。また、米国の資産運用業界は日本と同様に証券業界等の他業態に比べて多数の比較的小規模の会社で構成されていることから、業態全体としての必要投資額は相対的に少ないものの、各社個別の投資負担は相対的に大きなものになると想定される。金融業界全体としてSTP化を推進するためには、市場に参加する全てのプレーヤーが足並みを揃えて、業界インフラと連動しながら対応をとる必要があるが、資産運用業界として個社別の投資負担が大きい中でその対応をいかにスムーズに進められるかどうかは、非常に重要なポイントといえる。
また、これまで資産運用会社では、ビジネスを行う上で必要となる外部リソースを各業務領域毎に個別に調達してきた。例えば情報システムでは個別の業務アプリケーション毎にそれぞれパッケージシステムを導入したりASPサービスによる外部委託をしたりといった対応がとられ、多数の情報提供ベンダーと個別に契約をしてマーケット情報の提供を受ける、バックオフィスや人事給与等に係る事務処理はカストディアンや事務代行会社に個別にアウトソースする等、といった具合である。そして資産運用会社では、このような外部からの様々な提供サービスを受けながら自社の中でそれぞれ独自にインテグレートして、ひとつの業務プロセスを整備している。こうした状況の中でSTP化への対応を図るためには、業務フローの抜本的な見直しに伴い、既存の外部からの提供サービスそれぞれに対して個別に変更をかけながら新たな業務プロセスの再編成をしなければならないことになる。
- ITソリューションの概要と提供価値
こうした状況の下で、各資産運用会社の個社別の投資負担を抑えながらSTP化への対応をサポートするために、アクセンチュアとマイクロソフトは、コンパックやバンクオブニューヨーク等とのアライアンスによりエンコンピス(Encompys)という新しいソリューションビジネスをスタートした。エンコンピスのビジネスモデルは、資産運用会社が業務上必要となるシステムサポートやマーケット情報、事務処理等のすべてを1つのアクセスポイントを通じて整合性のとれた形で一元的に提供するものであり、各資産運用会社は個社別にシステムリソースや事務処理要員を自前で抱えることなく、STP化への対応をとることができる。
例えばエンコンピスでは、資産運用ビジネスにおいて必要となるすべてのシステムサポート機能を段階的にリリースしている。具体的には、顧客情報管理や営業サポートとしてのCRM機能を第1段としてリリースし、その後順次、プレトレードサポート機能としてポートフォリオ管理・マーケットデータ提供・データ分析・モデリング、トレーディングサポート機能として売買・注文管理・コンプライアンス・注文回送・注文執行、ポストトレードサポート機能としてマスターレコードキーピング・会計処理・リコンサイル・カストディアンインターフェース、パフォーマンス評価・分析、さらには人事給与管理・経営管理・プロキュアメントといった資産運用会社に必要となるサポート機能がASPサービスとしてひとつのポータルサイトを通じて提供される(図3参照)。また、これらのシステムサポート機能と整合のとれた事務処理のアウトソーシングサービスやカストディアンサービスも併せて、全体としてひとつのサービスパッケージとして提供されている。

図3.エンコンピスへの一元的なアクセスポイントとなるポータルサイト
「拡大図」
エンコンピスでは、こうした一連のサービスを一元的に提供するために、各領域で専門サービスを提供する企業がビジネスパートナーとして集まってアライアンスを結び、新しいソリューションの提供をスタートしたのである。例えば、システム基盤はマイクロソフトのアーキテクチャーを全面的に採用し、ハードウエアはコンパックが提供、カストディアンサービスは業界最大手のバンクオブニューヨーク、そしてこれらのサービスを一元的に提供するためにアプリケーションサービスをパッケージングし、資産運用会社へのアクセスポイントを統合・運営する役割をアクセンチュアが担当している。この他にも、個別の業務領域をサポートするアプリケーションパッケージベンダーや外部情報の提供ベンダーなど、多数の企業がビジネスパートナーとして、このビジネスに参加している。個別の領域でいかに優れたサービスを提供する企業であっても、資産運用ビジネスで必要となるすべてのサービスを1つの企業だけで一貫して一元的に提供することはできない。こうした発想から、資産運用会社への提供サービスにおいて、それぞれの領域を得意とするエキスパート企業が集結してアライアンスを結び、新しいビジネスをスタートしたのである。
エンコンピスにアクセスをすれば、STP化を図る上で必要となるさまざまな外部リソースについて整合性のとれた形で一元的に提供を受けることができる。資産運用会社はこうした提供サービスを受けることによって、競合他社との差別化には直接つながりにくい経営資源を自前で保有することから開放され、まさに「持たざる経営」を実現することができる。資産運用会社はビジネス本来のコアコンピタンスである運用力・商品力・営業力の強化に経営資源を集中することが可能となるのである。
アクセンチュアとマイクロソフトはグローバルアライアンスのもとで、日本市場においても、こうしたサービスの提供をスタートすべく、さまざまなビジネスパートナーと連携しながら、現在、その準備作業を進めている。
|