本シリーズは、シーズ=市民活動を支える制度をつくる会のホームページ
から転載したものです。
第四回 特定非営利活動法人熊本すずらん会プロジェクト名: 青壮年期脳卒中者の自立支援に向けた IT 活用
■ 団体概要 設立:
所在地: 熊本県熊本市 目的: 脳卒中をはじめとする不特定多数の方に対して、健康と福祉の向上及び相互の情報交換や交流に対する事業を行い、自立と社会参加を支援するとともに、県民が安心して生活できる社会の実現に寄与する。 スタッフ: 有給職員 3 名 (フルタイム 1 名、パート 2 名) 会員: 正会員 90 名、準会員 35 名、個人賛助会員 30 名、団体賛助会員 (病院) 27 団体 主な事業:
![]() すずらんは北国だけの花ではない。九州熊本にも可憐に咲いている。花言葉は「幸福の復帰」。脳卒中によって身体的自由を奪われた人たちが、もう一度「しあわせをとりもどそう」と「熊本すずらん会」につどっている。 熊本すずらん会は、青壮年期の脳卒中者や障害者の支援のために、熊本市内で活動している NPO 法人である。現在、Microsoft giving NPO 支援プログラムの助成を受けて、脳卒中者や障害者などを対象としたパソコン教室、ホームページを通じた情報提供などにも取組んでいる。 熊本駅そばの事務所にて、事務局次長の宮田喜代志さんにお話を伺った。 1)しあわせをとりもどそう 「脳卒中者は、ある日突然、脳卒中という大病にみまわれ、肉体的・精神的に言葉には言い表せない苦しみを体験します。さらに、その後の障害により、身体や手足はツッパリ、変形してシビレや痛みに苦しめられるのです。不自由な身のために人の手助けを必要とし、悔しさとすまない気持ちで自分がとても惨めになり、人に会うのも恥ずかしく、世を呪い死んでしまおうかという気持ちになる人もいます」と、宮田さんは脳卒中者の胸のうちを話す。 脳卒中とは、脳の血管が詰まって血液が流れなくなったり、脳の血管が裂けて出血したりする病気で、脳梗塞、脳血栓、脳出血、クモ膜下出血などの総称だ。命をなんとか取りとめることはできても、意識障害や片麻痺などの運動・知覚障害、言語障害など、重大な障害が残ることも多いという。また、ダメージを受けた脳の部位によって障害の特徴が異なるために、ニーズも多様で個別支援も難しいそうだ。 熊本すずらん会の原型は、1980 年に熊本市内の病院に通院していた数名の脳卒中者が集って作ったゆるやかな自助の会。当初は、患者同士の交流会や会報の発行が中心だったが、1985 年には「熊本すずらん会」として役員体制をととのえ組織を整備、活動を徐々に広げてきた。1999 年には NPO 法人となり、2001 年からは介護保険事業にも参入、2002 年からは脳卒中者・障害者のための就労センターもスタートさせた。 「脳卒中は高齢者に限った病気ではありません。20 代 ~ 50 代にかけての脳卒中者も結構いるのです。40 歳以上になれば、脳卒中者は『特定疾病』として介護保険の対象となりますから、デイセンターなどに通うこともできるのですが、そういうところではどうしても浮いてしまうんですね。昨日までサラリーマンとしてバリバリ働き家族を支えてきた人が、高齢者に混じって風船で遊んだりしても気持ちは晴れません。大事なのは『仕事・生きがい・役割』を見いだせるようにすることです」。 さらに、宮田さんによれば青壮年期脳卒中者は近年増える一方で、それに連れて、これまでの障害者福祉や介護保険では補えないニーズが増大しているという。そして、「何よりも青壮年期の脳卒中者が切望しているのは、自尊心を取り戻して働くことなのです」と強調する。 2)生きている証し ![]() 熊本すずらん会の活動は多様だ。脳卒中者はどうしても家に閉じこもりがちになり、そのことで精神的に塞ぎこんでしまうため、一泊旅行や野外活動、俳句教室などを開催することで、仲間同士で交流し励ましあう機会を提供している。また、言語障害の脳卒中者のための言語教室、リハビリを兼ねたスポーツ教室、介護保険事業としての訪問介護、活動や通院の送迎援助などのための移送サービスもある。そして 2002 年にいよいよ開所させたのが、「働く場」である「就労センターすずらん」である。 この就労センターでは現在、自主製品として、ごまクッキー『ボン・セサミ』やコンブチップの製作、しいたけや棒昆布の袋詰めを行ってこれらを販売しているほか、毎週土曜日には「健康新鮮青空市場」と題して、朝市を開いている。就労センターの裏手には大型マンションなどもあることから、青空市場は好評だ。 就労センターの一周年を特集した 2003 年 9 月の機関誌「すずらん」に、F さんが手記を寄せている。F さんが脳卒中に突然見舞われたのは、まだ医学生だった 23 歳の時。記憶の全てを失い、身体も不自由になってしまった F さんだが、その後のリハビリで徐々に言葉を取り戻し、身体も少しずつ動くようになってきているという。 「青壮年の脳卒中者が少なくて、中々話す機会がなく、又自分の体にも自信も無いのに仕事をするなんて考えてもみませんでした。だからといって人に甘えるだけで良いのだろうか ?僕は僕なりに何か少しでも社会に役に立てる事があるのではないだろうかと思い、呼びかけてきました」。 今は 32 歳の F さんは、就労センターで仕事をするようになってからのことを、次のように続けている。 「病気してから『世の中の厄介者』と思っていたのですが『少しでも役に立っている』という『生きている証』がある事に気づいた時、目の前がパァーっと開けてきました」。 3)指一つで無限に広がる可能性 熊本すずらん会では現在、脳卒中者や障害者などを対象としたパソコン教室を開催している。ここには、マイクロソフトからの力強い支援がある。 事務局次長の宮田さんは、「今の時代、仕事をするにあたってはパソコンが不可欠です。それに、パソコンなら、片麻痺でも動く方の手でキーボードを叩くことができます。座して半畳は誰にも同じ条件。指一つで無限に可能性が広がるのです」と目を輝かせる。 「マイクロソフトの助成を知った時、すぐに応募しようと思いましたが、正直に言うと私たちの活動が助成の条件にあてはまるのかなぁ、と心配もしていました。だから、助成が決まった時には本当にびっくりもしました。でも、ありがたいことだと心から感謝しています。おかげさまで、この一年は助成事業でびっしりです」。 パソコン教室の会場は、熊本市の繁華街にある「熊 (ゆう) メディアステーション」。交通センターのすぐそばと、足の便も良い NTT ビルの中にある。コンピューターがずらりと並び、大型スクリーンも備えた施設は、NTT 西日本のご好意により借りている。 このパソコン教室の特徴は、受講生の要望や進み具合にあわせて、ほぼマンツーマンで教えていることだ。講師の他に、宮田さんや他の職員も入って、ていねいに対応している。脳卒中者の持つ障害が多様なために、それぞれに違ったサポートが必要となるからだ。 宮田さんは「私たちも教え方の技法を少しずつ学んできています。分かりやすく板書することも大事です。文字を太字にしたり斜体にしたりなどする時も、作業の途中でするのではなく、まず文章を全部ヒラ打ちにして、その後に飾り文字にするなどした方が理解してもらいやすいことも学びました」という。 ![]() また、片手しか動かない人が、コントロールキーやシフトキーとともに、別のキーを打ちたい時には、ちょっとした重しを使えば普通のマウスでも簡単にできること、それから、言語障害の方が入力する時に最も大事なことは『待つこと』だということ、等々・・・。 基礎コースは、3 月から 12 月までに合計 5 回の開催。ひとコース 5 日間のカリキュラムになっており、毎週土曜日に開かれている。そこで使われているテキスト「自立を目指す脳卒中者・障害者のための 超わかりやすいパソコン入門講座」は、宮田さんらが習得したことを反映して、これまで何度か改訂されてきた。 4)一人一人がイキイキと パソコン教室の基礎コースには、これまでにのべ 40 名が参加している。その受講生のなかには自分でパソコンを購入し、自宅でも使い始めた人がいるという。そうはいっても、途はそうそう楽なものではない。 「基礎コースの修了生を対象に、ステップアップ・コースも設けて実施したのですが、なかなか・・・。結局、内容は基礎コースとほぼ同様のものになってしまいました」。 当初、受講生のニーズは、パソコンの技術を就労に生かすことではないかと考えていた。しかし、ニーズの多くは、パソコンを使ってたくさんの人とコミュニケーションすることであることがわかった。教室を始めてみて、パソコンを使うことが脳卒中者の生活に大きな刺激になることが、今まで以上に実感できたという。 「課題は他にもあって、たとえば、助成金をいただいて立ちあげたホームページの管理がなかなか追いついていないなどの問題もありました。でも、これについては最近展望が見えてきました」と、宮田さんは、N さんのことを話しはじめた。N さんは、脳卒中になってから 7 ,8 年間ほど家に閉じこもりがちの生活をおくっていたが、その後、熊本すずらん会と出会い、会に参加して仲間と交流するようになってからは随分と表情も変わってきた。閉じこもりがちだった期間の N さんの友人はパソコンだったというほどで、コンピューターの知識はかなりのものだという。 「それで、N さんにホームページを改良してもらうことにしました。それに第 5 回目のパソコン基礎コースでは、サブコーチとして教える側で参加してもらう予定でもあります。近い将来は、就労センターにパソコンも何台か常設して、そこで脳卒中者や障害者などを対象としたパソコン教室をやりたいと思っていますが、ここも N さんとあと数人とで進めてもらうことを考えています」。 こうした展望も、マイクロソフトからの支援を受けたことではじめて拓けてきたのだと、宮田さんは嬉しそうに語ってくれた。これまで脳卒中者として、支援を受ける側だった N さんが、今度はパソコン講師として、またパソコンの技術者として、能動的な活動を始めるのだ。 もちろん、さらなる広報の充実など、活動をより広く知ってもらうなどの活動なども必要だが、F さんや N さんのように、一人ずつが生きがいを得て、自分の個性を生かした役割を確認できるよう、熊本すずらん会は今後も活動を続けていくことだろう。
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