本シリーズは、シーズ=市民活動を支える制度をつくる会のホームページ
から転載したものです。
第五回 特定非営利活動法人障害者在宅就労支援 NPO チャレンジド・カシオペアプロジェクト名: 障害者へ対する新しいステンドグラス製作技術の指導とその試作および普及事業
■ 団体概要 設立:2002 年 7 月 (法人登記) 所在地: 岩手県 九戸郡 軽米町 目的: 社会参加が困難なチャレンジド(障害を持つ人たち)の方々に対し、働く喜びを感じてもらい、自立した生活ができるようにするために、IT(情報通信技術)の習得など、チャレンジドの就労を支援するための事業を行い、障害者の福祉の増進に寄与することを目的とする。 主な事業:
代表者: 高橋克典さん(代表理事) スタッフ: 3 名 (常勤 2 名、ボランティア 1 名) 会員: 正会員 23 名、利用者 (当事者):約 10 名 (2003 年 10 月現在)
盛岡市郊外にある「ふれあいランド岩手」は、プールやジムも備え、年齢や障害に関係なく使えるように設計された総合レクリエーション施設である。ホールでは、マイクロソフト助成事業発表の場でもある「障害者行動展」が開催されていた。会場を訪ね、チャレンジド・カシオペア代表理事、高橋克典さんにお話を伺った。 ![]() 1)若い頃の夢を手がかりにして 特定非営利活動法人チャレンジド・カシオペアは、盛岡市からさらに 2 時間以上青森県よりの二戸郡軽米 (かるまい) 町にある。パソコンによる障害者の就労支援を目的とし、障害者に対するパソコン教室や講座を中心に、障害者が自分の技術を使って地域で生きることができるよう、様々な支援を行っている。カシオペアの名は、軽米町を含む近隣 5 市町村の形が W の字をしていることから、北の空に輝く星座にちなんでつけた。 設立は 2002 年 7 月。活動をはじめてまだ 1 年を少し過ぎたばかりだが、高橋さん自身のパソコンとの付き合いは長い。高橋さんは 11 年前、自宅の階段から転落して頚椎損傷を負い、重度障害者となった。絶望から酒浸りの生活になり、このままではいけないと最初に取り組んだのが、パソコンを使ったグラフィックデザインだった。「実は若い頃、美大を目指して勉強していたことがあるんですよ」。アーティストの夢をあきらめ、家業の薬店を継いだが、絵には心得があった。 まだインターネットも普及していない時代。田舎で十分な情報を得ることは難しかった。近所の電気店でパソコンで絵が描きたいから、と相談し最初に買いそろえたのが、設計用の専門的なソフトと、ビニールシートに印刷できる特殊な業務用プリンターだった。「電気屋さんもパソコンでできることが何か分らないから、近くでコンピューターグラフィックをしている人を捜して聞いた。それがたまたま設計屋さんだったので、その人が使っていた機械を買ったんです」。 笑い話のようだが、この偶然が思いがけない方向へ展開する。 2)生産性が悪いからこそ取り組みたい 「日本では、ステンドグラスに取り組む人はあまりいません。手順がかかり、生産性が悪いからです。それを知っていたので、やってみよう、と思って」。なぜステンドグラスだったのか、高橋さんの答えは極めて明快だ。 ステンドグラスは普通、グラインダー (研磨機) で削って整形する。手が不自由でも簡単にガラスを整形できないか、といろいろな道具を探す中で、石材加工に使う電動糸鋸に目をつけた。「使ってみたら、摩擦熱をさますために絶えず水をかけるので、下絵がすぐに消えてしまう。それなら、ビニールシートに絵を描いて、ガラスに貼って切ったらどうだろう、と」。 偶然と発想の転換が、障害者によるステンドグラス制作を生んだ。「使えない手をしばって固定して作業をしているうちに、少しずつ動くようになりました」。 ![]() 高橋さんがコンピューターグラフィックを始めた頃、社会でも徐々にパソコンが浸透するようになってきた。パソコンのことがわかる人は田舎にはほとんどおらず、いろいろな相談や注文が来るようになった。偶然買ったプリンターは、デザインの仕事を始めるのにすぐに役立った。 パソコンを使い自宅で仕事をしている障害者がいる、と、近隣の障害を持つ仲間が相談に訪れるようになった。「この辺りはまだまだ、家族に障害者がいることを隠しているような文化です。私のように生活していけることを、分ってもらいたかった」。 仕事ぶりを見た人から、他の障害者にパソコンを教えてみないかとすすめられ、事務系ソフトの使い方を教えた。薬店を営んでいた時のパソコン経験が活きた。結果、「最初に教えた 3 人が全員就職できました。それを見てさらに人が集まってきて」。 3)個人の取り組みをより確かなものへと 障害者就労の推進で有名な関西の社会福祉法人「プロップ・ステーション」の活動を知り、同じような活動を立ち上げようとしたのが、新しいチャレンジのはじまりだ。「個人でやっていたら、道楽で終わってしまうよ、と言われたんでね」。高橋さんは照れたように笑う。賛同してくれるメンバーを募り、NPO 法人を取得した。 ![]() 「リハビリに効果的だとステンドグラスづくりを勧めたら、夢中になってやりはじめた人が出てきて」、インターネットの助成金検索で見つけたマイクロソフトのプログラムで、ステンドグラスを教えるプロジェクトを申請した。他の助成金とは違い、備品や人件費などに使えることが魅力だった。助成金で機材や、材料となるステンドグラス購入などの初期投資をまかない、プロジェクトがスタートした。「7 月に法人格を取得、11 月に応募して 12 月に通りました。立ち上げ期にこの助成を受けられて本当にラッキーでした」。 ステンドグラスの工房は、現在、制作の中心を担っている数名によってチャレンジド・カシオペアの手を離れ、小規模作業所として新しい道を歩もうとしている。「ステンドグラスだけで利益を上げていくのは難しいでしょう。しかし、私が関わっていると、みんな私に考えてもらえると思ってしまう。自立自立と口で言いきかせても自立なんかできない。自分たちだけでやってみないことには」。 就労支援の取り組みが評価され、活動は次のステージへと動いていく。「厚生労働省の、障害者就労支援の助成先全国 8 か所のうちの 1 つに選ばれました」。8 か所の中には、目標とするプロップ・ステーションも含まれている。 4)「障害者だって地域で生きられる」 消防署の横断幕やお菓子のパッケージ、町おこしのキャラクターが描かれた旗。障害者行動展には、手掛けた仕事の数々が紹介されていた。 「ふれあいランド岩手」には岩手県 IT サポートセンターが運営する、最新のパソコン設備が使える教室がある。この教室で、近隣の盛岡養護学校の生徒を対象に、昨年からパソコンを教えはじめた。障害によって自分が否定されることの意味を身をもって知っている高橋さんは、生徒の気持ちが分る講師として引っ張りだこだ。「人は、自分が何にもできないとわかったとたん、人間として生きることをやめるんだと、障害者になってはじめて分りました。あきらめて、考えることもやめてしまったら、その人はもう変化しない。そうやって心にも障害を負ってしまった人はいっぱいいますよ」。 障害を持って生まれた子どもは、小学校に上がる頃から高校を卒業するまで、寮のある養護学校に預けられることが多い。「他県のことは知りませんが」、高橋さんは続ける。「卒業して世の中に出て、自分は役に立たない、お荷物だと思い知る。この辺りでは、養護学校の先生でさえ、『自宅で仕事ができる生き方』を知らない。だから、高校卒業が近づくと、子どもが次に行く施設を探しはじめる自分たちに疑問を持たない」。 卒業したら大人用の施設に移り、一生を終えるのが当たり前、そのような意識が一般的な中、高橋さんがパソコンの技能を教えた養護学校の生徒の一人が、卒業後自宅に帰って地域で生活を始めた。現在は、自分で営業してデザインの仕事を請け負っているという。「町内会のチラシ 1 枚でもいい、自分が役に立つ、自分のセンスが評価されるという実感を得ることで、自分の中の価値観が変わる。障害者にとっての仕事の意味はそこにある」。ただ能率を求めるだけが仕事ではないと語る高橋さんの言葉には、絶望感から立ち上がってきた人の重みがある。 ![]() 本人が希望しても、世間体を気にする家族が講師を家にいれないことも多いというこの地域で、新しく岩手県が訪問による障害者向けの IT 講習を始めたことは画期的、と高橋さんは見ている。「ここ 1 年くらいで、IT に対する理解がすごい勢いで進んできていると感じます。パソコンは、それぞれのセンスを活かすための素材を与えてくれる。どうすればそれを活かして生活していけるのかを、もっと教えていこう、と、養護学校の先生方と話し合っています」。 パソコンが、単に効率をあげるための機械ではないことを、カシオペアのチャレンジは教えてくれている。
ご注意: マイクロソフトの社会貢献活動に関するお問い合わせ先 : jpgiving@microsoft.com | 目次 |