■ 養護学校の授業にパソコンを利用
パソコンを活用した授業の様子 「またやってみたい!」そう、元気に答えたのは、仙台市にある宮城県立光明養護学校高等部の小島君。パソコン上のタッチパネルに触れ、好きな音楽を選んで聴ける。今日は、状況に応じた適切な対応を学ぶ授業の一環で、CD ショップで試聴をするシミュレーションを行ないました。このクラスの担当は鶴淵先生。授業を受けたのは 6 人の自閉症の男子生徒たちです。以前校外学習で実際の CD ショップに行きましたが、試聴機のヘッドフォンをつけて、音楽に合わせ声を出して歌ってしまった生徒がいました。公共のマナーとして、どんな風に試聴すれば良いのか、実際にやってみます。正しい例では全員が手で丸を、良くないとバツを作ります。生徒はみんな楽しそうに、代わるがわる試聴する役を務め、積極的に授業に参加しました。担当の鶴淵先生が体を揺すりながら試聴する人を演じて見せると、生徒たちは一斉にバツを作り「だめー!!」と答えました。理由は、「踊ってるから!」なぜ踊ってはいけないのかの問いには「公共の場だから!!」
■ 教職員向けの ICT (※1) 研修
宮城県立光明養護学校 中学部 阿部浩也教諭 鶴淵先生をはじめ、光明養護学校のどの先生も、以前はこのような授業に紙製の絵カードを用いていました。宮城県では情報教育を積極的に推進しており、その一環で、ICT アクセシビリティ (※2) 研修を 2005 年に導入しました。これは、障害のある子どもの担任の先生を対象に、子どもたちが最大限にパソコンを活用できる方法を学ぶための研修で、鶴淵先生も 2005 年の夏に受講しました。受講前は特にパソコンが得意だったわけではなく、授業に IT を用いることも想像できなかったという鶴淵先生は、今日のような授業をこう語りました。「生徒たちの集中度が紙のカードでやっていた時と全く違います。私は授業に限らずパワーポイント (※3) を使った経験がなかったのですが、今日のこれ (CD試聴機の模擬版) も自分で作ってパワーポイントで表示しているんですよ。実際に使ってみると生徒の集中力は高まりますし、授業が格段にスムーズに運ぶようになりました」
 生徒たちに今日の授業の感想を聞いてみると、「簡単だった」「楽しかった」「パソコンは面白い」「こういう授業は好き。これからもいろいろ挑戦したい」といった答えが返ってきました。光明養護学校には様々な障害を持つ約 250 名の生徒が通っています。高等部の生徒はその半数を占めますが、すべての教室にパソコンを設置しており、休み時間には自由に使うことができます。この日も慣れた手つきで「ドラえもん」と検索し、インターネット上でドラえもんのゲームを楽しむ男子生徒の姿がありました。ドラえもん、そしてパソコンが大好きだそうです。

 中学部の阿部先生は、この学校で教え始めて 4 年、国語や数学を教えています。やはり 2005 年の夏に、ICT アクセシビリティの研修を受けました。
阿部先生がパワーポイントを使って制作した教材
■ ICT アクセシビリティ
鶴淵先生(右)とマイクロソフト株式会社 公共インダストリー統括本部 滝田裕三 鶴淵先生や阿部先生が受けた ICT アクセシビリティ研修は、ICT 教育推進プログラム協議会 (2003 年 11 月設立) とマイクロソフトが共同で開発した、ICT スキルアッププログラム (※4) のコースのひとつです。ICT スキルアッププログラムは、教育における ICT の利活用を推進するため、小中高等学校の教職員を対象に、研修の実施、カリキュラムや教材の提供を行うものです。ICT 教育推進プログラム協議会は情報教育に関わる NPO などの団体を正会員として構成されており、文部科学省や総務省などが後援しています。
■ 宮城県の試み
宮城県立光明養護学校
宮城県教育庁教職員課 研究免許班 主査(管理主事) 手代木章宏氏 ICT アクセシビリティ研修の導入を県下すべての盲、聾、養護学校に対して決めた自治体は宮城県が初めてでした。宮城県では、平成 16 年度の国の教育推進構想を受け、情報教育の推進を掲げていましたが、他都道府県では例のない一斉導入に踏み切りました。


宮城県教育庁教職員課の手代木章宏氏は導入の理由をこう話します。「私たちも最初は、障害を持つ子どもたちがどれだけパソコンを利用し、役立てることができるのかよく見えていませんでした。しかし、学習をする上でも、情報を得たり自己表現として発信するためにも、障害を持つ子どもこそが潜在的にパソコンを必要としているのだと、今は確信しています。IT は彼らの自立を助けるために欠かせないツールなのです。宮城県では、情報教育推進とともに、福祉先進県を標榜し、障害のある子どもたちへの自立教育にも力を入れていたところでしたので、ニーズが合致しました。公の教育に携わる者の責任として、当然慎重に検討させてもらいましたが、マイクロソフトのような IT の先端企業が提案してくれるノウハウを教育の現場に取り入れることができるなら、導入の価値は十分あるだろうという結論に至ったわけです」

宮城県教育研修センター 情報教育班 班長 岩渕龍氏 宮城県教育研修センターの岩渕龍氏も口を揃えます。「今は自宅にもパソコンがある先生が多いですし、事務的な仕事での活用を含め日常的に使い慣れてはいますが、IT を用いてわかりやすい授業をできるかとなると、自信のある先生は少ないものです。また、例えばキーボードを使用しなくても入力できる機能など、Windows にもともと含まれていて、しかも障害のある方が使いやすい機能について、すべての先生が詳しかったわけではありません。IT が障害を持つ子どもたちの自立を助けるならば、教える側の先生の知識を増やし、スキルを上げる必要があるという結論に自ずと至るわけですが、ICT アクセシビリティ研修は、そのために大きな役割を果たせるだろうと期待しました。実際に、カリキュラムも派遣される専任の講師の方も非常に素晴らしかったので、研修を受けた先生からの反響は大きかったです。授業にも反映されているのを見て、確実な成果を感じています」
■ より多くの人が IT の恩恵を受けられるように
 手代木氏はこう続けました。「ICT アクセシビリティ研修を通じて、IT が障害のある方に非常に役立つものだという認識を得たと共に、普段コンピュータを使っている経験を超え、障害を持つ方を含む多くの人々のために、操作に関する支援ができると教員自身が気づけたのが大きな成果です。コンピュータは、かつてはホーキンズ博士のような特殊な一部の方にしか享受できないものでしたが、今やずっと身近になり、障害のある方でも少しの工夫で情報を入手し発信できるようになってきているのは、素晴らしいことです。これからますますデジタルデバイドが減り、世界中の人々が障害の有無を問わず IT の恩恵に預かれるようになったなら、私も教育に携わる一人として、これほど幸せなことはありません」
■ マイクロソフト担当者の思い
パソコンを活用した授業の様子 マイクロソフト公共インダストリー統括本部の滝田裕三は、2004 年の ICT スキルアッププログラムの立ち上げからかかわってきたメンバーです。彼に一番苦労した点を聞いてみると、次のように答えました。「デジタルデバイド解消を目的に全世界で展開している活動の一環として、マイクロソフトが ICT 教育推進プログラム協議会との連携の下、日本で進めているのが“ICT スキルアッププログラム”です。日本でこのプログラムをスタートするにあたって、アメリカの本社サイドで作られた教員研修用のテキストを、日本の先生たちを対象とした研修にそのまま適用しようとすると、馴染まないことがわかったのです」そこで、本プログラムの立ち上げを担当したメンバーは、アドバイザーの先生方と一緒に、テキストを含めた日本独自のプログラム作成に着手しました。一番心を砕いた点は、このプログラムが先生たちにとって押しつけにならないようにということでした。「ICT スキルアッププログラムを、先生にとってもその先にいる子供たちにとっても、可能性を広げるものにしたかったのです」こうしてICT スキルアッププログラムはスタートしました。この仕事が好きで、研修を受けた先生たちが実際に現場でその成果を役立てていると聞くと何より嬉しいという滝田は、しかしながら、現在のプログラムが決して完成形だと思っていないと言います。「これからもっともっと良くしていきたい」と。


 2004 年にスタートした ICT スキルアッププログラムは、現在までに宮城県のほか、兵庫県、茨城県、東京都、埼玉県で導入されています。これまでの受講者数は 8,500 名を超えています。また、17 の国立大学において、教員を目指す学生のためにカリキュラムを提供しています。



(※ 1) Information and Communication Technology の略。情報コミュニケーション技術のこと。日本では IT と呼ばれることが多いが、世界的には ICT と呼ぶことも多い。
(※ 2) IT スキルアッププログラム (※4 参照) の研修コースの一つ。特別支援学校の教職員を対象に、(子どもの) 障害に応じたユーザー補助機能(Microsoft(R) WindowsやMicrosoft Officeなどに標準搭載)の使い方や教材の作成方法を紹介。
(※ 3) Microsoft (R) Office PowerPoint 。プレゼンテーションのためのソフトウェア・アプリケーション。
(※ 4) マイクロソフト本社が全世界で展開している Partners in Learning (パートナーズ・イン・ラーニング) プログラムを日本向けに変更、2003 年 11 月から「ICT 教育推進プログラム協議会」を通じて展開中。内容は次の通り。
  1. 学校に企業等から寄贈されたパソコンの OS のライセンスを提供する「スクール OS 無償プログラム」
  2. 協賛企業から提供された使用済みパソコンを再生して寄贈する「リサイクル PC 寄贈プログラム」:パソコン設置台数と活用プランをもとに応募者の中から寄贈先を選定。
  3. 教職員の ICT スキル向上をサポートする「ICT スキルアッププログラム」



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