大学における IT 活用の課題は何か? 将来像は?
日本初の大学 CIO フォーラムを開催 [
次のページへ > ]
去る 2005 年 11 月 18 日、主要国立、私立大学の CIO や情報担当の方々を迎え、「大学における IT 活用の課題と将来像について」というテーマ設定で活発な議論が行われた。ここで明らかになった課題を基に、次回の CIO フォーラムでは「大学の IT ガバナンスに関する提言」が発表される予定となっている。
[パネリスト] |
「教育」は社会にとって重要な役割を担っています。
マイクロソフトは大学におけるさまざまなニーズをサポートしていかなければなりません。
現在、大学は予算の削減や人口の減少といった厳しい環境にさらされています。その中にあって、IT は大学における研究や学生の学習をサポートするだけでなく、大学の運営面でも貢献できると思います。マイクロソフトは、この大学 CIO フォーラムを通じて、大学の IT ガバナンスや IT 活用のベストプラクティスに関するガイドラインづくりにも積極的に貢献していきたいと思います。
マイクロソフトコーポレーション 最高経営責任者 スティーブ バルマー |

社会の縮図としての大学 IT を有効活用するすべを追求
バルマー (ファシリテータ) : まず、皆様の大学では IT において、どのような課題や問題点があるのかをお聞きしたいと思います。
石川 (東京大学) : 情報を社会基盤として育成することは、社会に対する責任がより高くなるということで、CSR を自覚する必要があります。また、21 世紀に入って知識の総量が爆発的に増大しており、日本固有の文化を維持したまま情報化を進めていくことが情報基盤を構築するうえで重要になっています。
腰塚 (筑波大学) : 情報基盤を作るのも利用するのも「人」ですから、結局、人を育てるというところに帰すると思っています。大事なことを見極められる人をより多く育てる、また、システムをうまく利用できる人を育てるように努力しているところです。
酒井 (東京工業大学) : e-Learning や学務のための情報基盤づくりなど、大学内の安定した基盤を作るのには相当な労力をとられます。それをどういう人が、どのような責任でやるべきかが大きな課題になっています。
谷口 (立命館大学) : 現在、すべての情報資源のデジタル化に着手していますが、古い文献や図書は人手でデジタル入力をしなければなりません。この予算をどうやって工面してくるか、限られた予算の中で何を優先するかが課題になっています。また、デジタル化した資源が将来にわたって読み出せるのかという不安。さらにはこれらの資源を広く公開した場合の著作権料の問題。膨大な費用をかけたのだから利用を有料化すれば、という声も上がっています。
椿 (広島大学) : 国立大学の法人化によってガバナンスの体制が変わったので意思決定が早くなり、大学全体を見通して情報化を進めることができるようになりました。一方、予算が厳しく投資的な予算が取れない、人の再配置ができない、職員の意識が国家公務員の時代から変わっておらず予算と実行において目標管理ができていないという問題があります。
久武 (青山学院) : 遅れているのは IT で大学運営をサポートする面です。計数管理ができるように基幹システムを強化し、発生源入力、電子決済などをできるようにしましたが、先生方への徹底ができていない部分もあります。IT の保守管理費用も悩みです。
ヒューマンウェアを埋め込んだ人と社会に役立つ情報基盤を
松山 (京都大学) : これからは、IT の活用法とか、IT がどう進化するかではなく、人間と情報システムとの関わり合いにもっとフォーカスを当てるべきです。そのシステムの中で、人の振る舞い方や考え方、その国の文化、大学の文化がどう考えられているか、が重要になってきます。大学の情報ガバナンスをやるときでも、その大学の文化に根ざさない限り、だれも一緒に作っていこうということにならない。情報環境、ヒューマンウェアというものを設計開発ターゲットとして、社会学、心理学、経営学の方々を含めて、どう設計していけばいいかで、試行錯誤しています。
村井 (慶應義塾大学) : IT の活用だけが大学の使命ではありません。知の編纂をし、知に関わる人を育てることです。情報技術も常に大学から生まれてきています。データベースもインターネットも一般よりも 5 年くらい先に大学で実現しています。最近になって放送と通信の融合と言われるようになりましたが、大学では以前から遠隔授業の中でごく普通に実践してきました。大学の役割は、情報技術が人と社会にどう役に立つのかというメトリックを作りながら、未来の情報社会のテストベッドを提供するところにあります。
バルマー: ありがとうございました。フォーラムに関わる素晴らしいテーマをたくさんいただきました。私は世界の情報環境の中でも大学ほど複雑なものはないと思っています。
知を創造する大学の情報基盤が未来の情報社会をリードする
松山 : 一般企業向けのシステムを大学に持ってきてもうまくいきません。大学には企業とは違った人材、すなわち学生がいるからです。彼らはカスタマでもあり、パートナーでもあり、大学自身の将来を担う人たちです。セキュリティやアクセス権限で微妙な立場にある何万人もの人たちをいかにサポートするか。こうした課題解決が次の社会のストラクチャーになるかもしれません。
バルマー: たしかに、学生たちと同じように、企業のシステムでも取引先相手までは管理できません。その中でどうやってセキュアな管理を行い、協業し、情報基盤を共有していくのか。大学には先生方もおられます。社員と違って、セキュリティの維持のために新しいソフトのインストールまで禁止できませんし、情報の共有、基盤管理の面で複雑性が増すという状況にあります。
村井 : 世界の大学が国境を意識しないグローバルなネットワークを結んでいます。大学は情報社会の先駆者として、今後、グローバルに発展していく社会で情報技術をどのように活用していくか、グローバルに展開した情報基盤をどのようにマネージしていくのかを提示する役割と責任があると思います。
石川 : 情報環境が整うと知識はグローバルに共有されるので、大学はもはや知の集積拠点ではなくなります。大学には知の創造拠点としての役割が求められるのです。情報技術でいかに新たな世界を、独創的な研究成果を生み出すかという点にこれからの情報技術の方向性を見出していきたいと考えています。
バルマー: 単独の大学だけの問題ではないテーマがいろいろと提供されました。次回のこのフォーラムで、ベストプラクティスを含めて議論したいと思います。本日はありがとうございました。
※文中、敬称略
【プログラム】セッション 1 「大学における IT 活用の課題」
ファシリテータ : スティーブ バルマー (マイクロソフト コーポレーション 最高経営責任者)
セッション 2 「大学における IT 活用の将来像」
〜 教育充実のための IT、大学における IT ガバナンスの方向性、大学の競争力強化 〜
ファシリテータ : 多田 和市 (日経情報ストラテジー編集長)
セッション 3 「国の政策動向と今後の取り組み」
・文部科学省 研究振興局 情報課 学術基盤整備室 室長 柴崎 孝
・経済産業省 商務情報政策局 情報プロジェクト室 室長 市原 健介
・マイクロソフト株式会社 執行役 公共インダストリー統括本部 本部長 大井川 和彦