Apple's Eye
パソコン業界は、年末のクリスマス商戦に向かって、いよいよ盛り上がりを見せ始めている。
どうやらこの記事が掲載される頃には、Windows 7の発売にあわせるように、新しいMacが発表されることになりそうだが、あいにくと本稿はタイミングが悪く、新機種の正式発表を待たずに仕上げなければならない。こちらの事情とはいえ、その点はご理解を願えればと思う。
新機種発表前、Mac関連では、アップル社からこれといって特に大きな発表は行われていないが、今や映画からテレビまでプロ用映像編集ソフトの定番となったFinal Cut Studioとプロ用音楽ソフトの定番、Logic Studioの2つを深く知ることができる「Pro Studio World Tour」というイベントが11月6日、東京国際フォーラムで開催される。
アップルがおとなしい一方で、iPhone関係ではソフトバンクがいくつか重要な発表を行っている。同社は15日、iPhoneの法人導入事例を紹介するイベントを開催。
iPhoneが医療、教育、企業にどのように食い込んでいっているかの事例を紹介した。
医療関係ではCTスキャンやMRIといった医療画像をPDF化してiPhoneに転送し確認するシステム(ソフトバンクテレコム社とJ-MAC社が共同開発)や、在宅医療をiPhoneを使って効率化する医療法人社団プラタナスの試みが紹介された。
教育関係では、すでにiPhoneを全面導入している青山学院大学の社会情報学部が、インフォテリア社の「HandBook」というiPhoneアプリを使って講義資料の配布を行うようになったことのほか、日本電子専門学校に来年から設立されるケータイ・アプリケーション課においてiPhoneプログラミングの授業をやることが紹介された。
同様に「iPhone村」とも呼ばれる岐阜県のドリーム・コアで、iPhoneプログラミングを通したビジネスインキュベーションや町興しの試みが行われていることも紹介。
だが、なんといってもおもしろかったのは大阪府柴島高等学校の事例なので、これは今回、本編でしっかりと紹介したい。
ソフトバンクの法人向けイベントでは、このほか、スポーツ関連として関東学生アメリカンフットボール連盟がiPhoneの導入を始めたことや、ソフトバンクホークスも対戦相手の過去の対決を動画で研究するなど、iPhoneを使ったIT野球を実践していることが紹介された。
またAIGエジソン生命やNJCネットコミュニケーションズといった企業へもiPhoneの導入が進んでいることが紹介された。
一般コンシューマーに広く浸透し、ゲーム業界や出版業界でも注目を集めてきたiPhoneだが、今やじわじわと企業市場にも進出し始めていることがわかるイベントだった。
さて、今回のソフトバンク法人事例紹介イベントで、なんといっても大きな注目を集めたのが大阪府柴島高等学校の事例だ。
実はこれを仕掛けたのは、リクルート社出身、都内中学校で初の民間校長として2003年、東京都の杉並区立和田中学校長に就任し、それまでの日本の教育に一石を投じるような教育改革をやってのけた藤原和博氏だ。
藤原氏は「私立を超えた公立校」を目指し、学校で習った知識を、実際の世の中で役立てることを目的とする「よのなか科」を用意したり、補習の充実や習熟度別授業、少人数授業を導入するなど、本質と向き合った授業を展開し、テレビなどでもたびたび紹介されていた。
その藤原氏がどうやら2008年3月31日に5年間の任期満了で和田中学校長を退任し、現在は大阪府教育委員会特別顧問を務めているようなのだ。
大阪といえば、橋本徹府知事が学校への携帯電話持ち込みを禁止する発言をしたことなどでも注目を集めているが、そこでiPhoneを使った授業とはいったいどういうことか。
藤原氏は、「小中学校と高校では大きく異なる」と語る。藤原氏も小中学校への携帯電話の持ち込みには基本的に反対の方針だ。
その一方で、高校では臭いものに蓋をするようにして携帯電話を禁じるのは、あまりに世の中の実際の流れに反していて不自然だと言う。
そんな藤本氏が、携帯電話を活用して始めたのがC-Learningという教育方法だ。
「C」はコミュニケーション、コラボレーション、コミュニティといった意味を持つ。
いったいどんな授業なのかというと、教師が、「これについてどう思うか?」といった具合に、生徒に向かって質問をする。すると生徒達が携帯電話を取り出して自分たちの考えを打ち込み始める。
打ち込んだ答えは、サーバーを通して教壇の横にあるパソコンに集計される。
藤原氏は教師が「~~がわかる人?」といって手を挙げさせるような授業では「わからなくて手を挙げない生徒達は、そこで考えるのを止めてしまう」という。何か考えがあっても、そこで飲み込んでしまい、学習に結びつかない。授業への参加も消極的になってしまってよくない。
これまでの正解重視の教育では、正解がわかっていることばかりが重視され、自分でしっかりと考えることが軽視されてしまいがちだ。
だが、同じ事柄について、生徒一人一人に考えを聞けば、表現のうまい下手こそあれ、それぞれが何かしらの考えを持っている。
もっとも、だからといって生徒全員に答えを一斉に言わせたとしても、教師の方ではすべての答えを聞き取ることはできない。
そこで出てくるのがC-Learning、生徒1人1人が、携帯電話を持ち、自分の考えを教室に向かって表現する、という方法だ。
柴島高校では、これまで何度かこうした実験を行ってきた。最初の2回では、生徒達に自分の携帯電話を持ってこさせた。
ほとんどの生徒が自分の携帯電話を持っていたと言うが、持っていない生徒には携帯電話を貸し出して使い方を教えた。
ほとんどの生徒が、携帯電話をほぼ完璧に使いこなし、用意されたサーバーシステムへのアクセスを含め、携帯電話の操作について質問が出ることはなかったという。
授業の最後では400文字を超えるような長い感想を募集したが、わずか数分で答えが返ってきたと言う。
若い学生達は携帯電話を使った文字入力を苦と感じていない。
この柴島高校では、現在、iPhoneを使ったC-Learningの実験を始めている。iPhoneに触れたことがある生徒はほとんどいなかったが、直感的操作のおかげで、皆、すぐに操作に慣れてしまったようだ。
従来の携帯電話と比べて画面が大きく、直感的な操作が可能で、ソフトキーボードをうまく活用すればさらに高速な日本語の入力ができそうなiPhoneによりC-Learningの現場がどう変わっていくかは、非常に興味がわくところだ。
藤原氏は、「文科省はデスクトップパソコンを前提に予算を取っているが、早ければ5年以内には任天堂DSかiPhoneのようなモバイル端末が教育現場を変えると思う。」と語る。
パソコンルームの中にいる間しか使えないパソコンよりも、これからの生活で実際に日々使っていく携帯電話に触れていくことが大事であり、同氏としては、次に大きな機材の入れ替え判断がある2~3年後までに、こうした携帯電話を使った授業の効果などを認めさせていきたいようだ。
もちろん、携帯電話がイジメや犯罪などに使われる側面もあるが、だからといってこの世の中から携帯電話がなくなることはない。であるなら、なおのこと触れさせて、プライベートな情報とパブリックな情報との使い分けなども教えていく必要がある、と藤原さんは考えているようだ。
日本の教育は、戦後長い間、大学入試で合格することだけに最適化されてきた。しかし、ほとんどのビジネスがグローバル化したこの時代に、日本の大学入試をパスするための勉強が役に立つ場面が多いようにはあまり思えない。
同じようなひっかけ問題で決まったような解き方を叩き込まれるような教育で、どのようにして、他とは違う世界で際立つ存在になれるのだろう。
それよりも、自分が興味を持ったことを徹底的に突き詰める探究心の旺盛さや、他の人が思いもつかなかったような洞察や着眼点を磨く教育、他者があきらめた後でも物事と向き合って考え抜く力、チームをまとめて行動をなしとげるリーダーシップや協調性……。
もし人生のゴールが大学合格ではなく、社会に貢献する立派な人材となることであれば、もしかしたら、そのような教育を受けることこそが本質的なんじゃないだろうか。
筆者はこれまでいくつかの教育機関も取材をしてきたが、世界から優秀と認められている教育機関では、決まった問題に決まった答えを言わせるような教育はせず、いかに考え、いかに取り組むかを生徒達に試行錯誤の後に発見させるような教育をしていたように見受けている。
ITを「うまく」使うことで、こうした教育がもっとしやすくなる気がしてならない。
実際、すでに米国だけでなく日本でも多くの大学が、東京大学モデルの後を追ってMacを使って講義のPodcast配信など、先進的な取り組みを始めており、そのことは以前の連載などでも触れてきた。
しかし、今回、取り沙汰したいのは、実際に生徒達が「考える」ことを促すルーツとしてのITの活用だ。
となると、筆者が真っ先に思い浮かべるのが、アラン・ケイ博士が開発していたSqueakを使った教育カリキュラムだ。
アラン・ケイといえば「パーソナルコンピューター」という言葉の生みの親で、ゼロックス社パロアルト研究所(PARC)で、Smalltalkというコンピューター環境を開発、このSmalltalkが動くAltoという巨大コンピューターが、アップル社にMac開発のインスピレーションを与えたのは有名な話だ。
その後、アラン・ケイ博士は、このSmalltalkをさらに簡単にし、小学生でも数時間試行錯誤すれば、簡単なプログラムがつくれてしまうSqueakというプログラム開発/実行環境を生み出し、それを使った教育カリキュラムを開発しているのだ。
以前、筆者がテレビで見たそのカリキュラムの内容がおもしろかった。
先生2人が屋上にいって、重いボールと軽いボールを同時に落とすけど、どっちが先に地面に着くかを生徒に質問する。
アメリカの生徒達は、C-Learningを使わないでも、小学生でも、皆すぐに口を開いては「あーだ、こーだ」と自分の意見を言い始める。そこで先生が「それじゃあ、観察してみよう」といって、2つのボールを同時に落としてみる。
「さあ、どうだった?」との問いに「また、あーだ。こーだ」といった意見が飛び交う。
どちらが先に着地したかは一瞬のできごとで、なかなか見極めることができない。
もっとも、授業の別のスタッフが、落としたときの様子をビデオカメラで撮影しているので、あとでこのビデオを教室に持ち帰ってスローモーションで再生してみたり、数分の1秒ごとの画面を書き出してみたりして、生徒達の発見を促す。
そのうち1人の生徒が「なんか時間が経てば経つほど、ボールの落ちる割合が大きくなっている」と言い出す。加速度の発見だ。
ここでSqueakの登場となる。子供でも簡単にアニメーションのプログラミングができるSqueakを使って、ものが落ちるという現象を実際に小学生達にプログラミングさせることで、重力と言うものを体感的にも、仕組み的にも理解させようという試みなのだ。
筆者がこの授業を見たのはかなり前だが、今は21世紀、教育の現場がこのくらい進んでいてもいいんじゃないか、と期待するのは筆者だけだろうか。
なお、Squeakの情報は、日本語でも「Squeakland」、「Squeakで学ぼう」、「Fun Fun Fun Squeak」などで得ることができる。また「Squeak Introduction Page!」という技術的詳細と関連リンクをまとめたページもある。 このSqueakには、Mac OS X上で動くものもあるが、それに加えて、発展途上国の子供に配られるOLPC(通称:100ドルPC)にも標準搭載されている。
我々の生活がどんどんデジタル化していくことで、教育とITとも切ってもきれない関係になっていくはず。みなさんの考えをぜひTwitterを使って共有してください。
答える際は、答えの最初に指定した2つのタグをつけるのを忘れないように(タグの間には半角の空白をいれるのを忘れずに!)。
お題1. 子供には何歳から携帯電話/パソコンを使わせるべき? [タグ:#appleseye #ITage] 筆者の答え: #appleseye #ITage パソコンは幼児期からDVDプレーヤーやお絵描きソフトは触れさせてきたが、距離は取ってきた。小さいうちはできるだけバーチャルよりも、まず本物に知って/触れて欲しい。パソコンを与えるのは中学高校から、それまでは共用で良いのでは?
お題2. 携帯電話/パソコンを使ったおもしろい教材や教育事例を知っていますか? [タグ:#appleseye #eLearning] 筆者の答え: #appleseye #eLearning iPhone用アプリがおもしろい。小学館の図鑑やアルクの教材が続々とiPhoneアプリになっているが、いずれもよくできている。
なお、Twitterがなんだかわからない人は、ぜひ「No.238 - 「Twitter」のススメ」をあわせてお読みください。
関連リンク
アップル社の「Pro Studio World Tour」のページ
C-Learning
ようこそ、スクイークランドへ!
Squeakで学ぼう
Fun Fun Fun Squeak
Squeak Introduction Page!
Twitter タグ:#appleseye #ITage
Twitter タグ:#appleseye #eLearning
No.238 - 「Twitter」のススメ」
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