iusers

iUsers へ戻る | 過去の掲載コラム一覧へ

No.143 − iPod の新しい挑戦

〜電子ラジオ文化、Podcasting の創出

[2005 年 6 月 24 日 掲載]

■ ラジオ界でもっともホットなできごと

今月初めに行われた Worldwide Developers Conference。その基調講演で発表されたのは、何も Mac のインテル製 CPU 移行だけではない。

もう 1 つ無視できない大きな発表が、まもなく登場が期待される iTunes の新機能、Podcasting についてだ。
Podcasting (ポッドキャスティング) は、なかなか説明の難しい技術だ。ジョブズ氏は、これを 3 つの言葉で説明した。

・TiVo for radio (ラジオ版 TiVo)
・Wayne's World for Radio (ラジオ版ウェインズ・ワールド)
・Hottest thing going in radio (ラジオの世界で起きているもっともホットなできごと)

このうち、日本人が理解できるのは 3 番目だけだろうが、簡単に解説すると、TiVo というのは、最近日本でも増えつつある、登録した番組を自動的に録画し続けてくれるハードディスクビデオレコーダーのこと。
これと同様に、Podcasting は、登録した番組が放送されるたびに、それを自動的に Mac のハードディスクに記録してくれる。
一方、「ウェインズ・ワールド」は、ロック好きの若者 2 人が、自宅から世界に向けてロック番組を発信する映画のこと。
Podcasting を使えば、あなたも自宅から世界に向けて、オリジナルの番組を発信することができる。

ここでちょっと語弊があるのが「ラジオ」という表現だが、実際に電波を通して流れているラジオ番組が、突然 Mac で聞けるようになるわけではない。
Podcasting で聞けるのはあくまでもインターネットで配信されている Podcasting 用として制作された音声番組だ。
とはいえ、これがいかに大きな変化かを考えてみてほしい。今、毎日の通勤電車で大勢の人が iPod を使っている姿を見かけるはずだ。
しかし、彼らが聞いているのはあくまでも CD から取り込まれた音楽だけ。いつでも、どこでも聞きたいと思った瞬間に、聞きたいと思った曲が聴ける iPod は、まさに革新的な製品だったが、これにあまりに頼りすぎてしまうことで、思いがけない曲や思いがけない情報との出会いがある「ラジオ」というメディアと接する機会が少なくなってしまった。

実際、一部では、そのことに気づき iPod を携帯型ラジオに切り替える人もでているようだ。
しかし、Podcasting は、この状況を変えてくれる。
iPod で、従来のような取り込んだ音楽に加えて、日々変化するラジオ番組も聴くことができるようになるのだ。
おまけに実際のラジオ放送と違って、電車の乗り換えなど、意識を集中して聴けない間は、一時停止をすることもできる。地下鉄に乗っても、聞こえなくなることもない。
聴きたい番組が 2 つ同時に放送されても、Podcasting なら困ることはない、どちらもダウンロードしておいて、好きな順番で聴けるのだ。
もちろん、後から聞き返すことだって可能だ。
これまで聴きたい時に聴きたい曲を楽しめたように、聴きたい時に、聴きたいラジオ番組を聴ける、iPod ならではの便利さを加えて進化させたラジオ──それが Podcasting である。

■ 大企業も注目する Podcasting への流れ

「Podcasting」という言葉は、日本ではまだあまり耳にしないかもしれないが、アメリカでは一般の新聞雑誌でも頻繁に取り上げられている。
さらに、通常のラジオ番組から Podcasting への移行という大きな流れも形成されつつある。
下はスティーブ・ジョブズ氏が基調講演で紹介した Podcasting を採用し始めている企業の一段だ。

アメリカの 4 大放送局の ABC ニュースや英国の BBC なら日本でも名前を耳にしたことがあるだろう。こうした放送大手に加え、NewsWeek 誌や Forbes 誌といった雑誌や Washington Post、San Francisco Chronicle といった新聞、そしてディズニー、ワーナーブラザーズ、フォード、ジェネラルモーターズといった会社も Podcasting を使った取り組みを始めているといえば、これがどれだけ大きな社会現象になっているかが伝わるだろう。

一方、日本ではというと、一部の Web サイトや雑誌が熱心に取り上げ、草の根の放送局は多数立ち上がっているが、大手の参入はほとんど聞かない。
大手と呼べるところで、Podcasting に手を出したのは、「ラジオ NIKKEI」くらいだろう。あとはライブドアがすでに行っていたインターネットラジオ局の「ネットラジオ/ねとらじ」を Podcasting 化したくらいだ (ライブドアが株を取得したことで、ニッポン放送もかなり Podcasting 化に近いポジションにはありそうだ) 。

この大きな差は法整備という面にも現れている。米国では、Podcasting などのインターネット放送をする際の、著作権二次使用 (番組中での楽曲の利用) などの法整備も進み、実際のラジオ局が、これまでの放送に加えて、Podcastingを使って番組を流すケースも増え始めているのだ。
番組制作社は、こうすることで自分たちが作った番組を、これまでリーチできていなかった、視聴者にも届けることができ、しかも、もらさず、繰り返し聞いてもらうこともできるようになる。

■ あなたもラジオパーソナリティーに !

さて、実は Podcasting については、もう 1 つ、忘れてはならない重要なポイントがある。
実はPodcastingは聞くだけではなく、発信するのも楽しいのだ。
ラジオとなると、放送局としての免許や設備も必要になってくるが、Podcasting だと、マイク付きのパソコンが 1 台あれば、誰でも放送ができてしまうのだ。
さきほどのジョブズがあげた導入事例の中にも、放送局だけでなく、雑誌社や新聞社、自動車メーカーの名前があったが、これらの会社も、従来、紙や Web ページで文字として発信していたコンテンツを、音声という形でも流通するための手段として Podcasting に注目している (*1) 。

話しが少しそれたが、放送局なしで番組が発信できるということは、当然、雑誌社、新聞社だけでなく、一般のユーザーもラジオ番組を持てる、ということだ (まさにウェインズ・ワールドのラジオ版だ) 。
必要なのはインターネット接続と、マイクのついたパソコン、そして音声を録音するソフトだけだ (*2) 。
最近では、日本でも、Podcasting を使って、独自のラジオ番組を持つ人が、少しずつ増えてきている。
効果音を使ったり、ちゃんと取材をしていたりといった本格的番組もあれば、日記のような内容のものも多い。
残念ながら、番組の中で、曲が流れることは少ない。これは現在の日本の法律が、そうした新しい文化の創造に対して、あまり配慮されていないのが、何よりの原因だろう。

■ Podcasting を試してみよう

さて、ではそうした Podcasting の番組は、どこで配信されているのだろう。
日本の Podcasting の発信局 (サーバー) として、もっとも有名なのは「ケロログ」、「シーサーブログ」、「デジオの宇宙色々」の 3 サービスだ。
シーサーは一般のブログサービスだが、記事のカテゴリーの 1 つに Podcasting というのがあり、ここを選ぶと、Podcast の番組が現れる。

ここで、ちょっとだけ、Podcasting の裏にある技術についても触れると、実は Podcasting は、まさにブログと同じしくみでなりたっている。
サーバーに音声のコンテンツをどんどん追加していくのだが、このときにブログと同様に RSS というサイト情報も更新される。
Podcast 用クライアントと呼ばれる特別なソフトが、この RSS 情報を通して、新番組が放送 (サーバーに登録) されたことを察知し、それをダウンロード。それが iTunes を通して iPod に転送される、という仕組みになっている。

これまでの Podcasting 用クライアントというソフトは、シェアウェア/フリーウェアとして他社が提供していたが、まもなく登場予定の次期 iTunes では、この機能が標準で搭載されるようだ。
WWDC の基調講演では、欧米で展開中の音楽販売サービス、「iTunes Music Store」にそっくりな画面で、Podcasting 番組の選択や購読、試聴をする様子が披露された。
Podcasting 対応の iTunes が、最終的にどのような仕様になるかは、まだ不明な点も多いが、今すぐさっそく Podcasting を試したいという人は、Podcasting 用クライアントを試用してみてはいかがだろう。
Mac OS X 用としては、「iPodder X」と「NewsFan」が有名だ。
なお、Podcasting についての、情報は、上で紹介した Podcasting 対応サーバーのほか、「Podcast Now!」にも詳しく記されているので、ぜひそちらも参考にしてほしい。

Podcasting 用クライアントを操作するジョブズ

ブログの楽しさと iPod の楽しさをあわせた Podcasting。今年は欧米だけでなく、日本でも、本格的に広まり始めるのではなかろうか。
この勢いのあるトレンドが追い風になるように、法整備なども進んでくれるといいのだが。

(*1)
もっともこれには、ちょっとした前奏曲があった。
アメリカの iPod ユーザーの間では、米 Audible.com という会社の朗読コンテンツも、それなりに人気があった。同社はもともとベストセラー書などの朗読コンテンツを、iPod で聞けるデータとして販売していたが、そのうち定期購読型コンテンツ、というのを発売し始めた。
これは雑誌や新聞など、定期的に新しくなるコンテンツのことだ。
これによりたとえば毎朝起きると、まずは iPod に Wall Street Journal 紙の朝刊の朗読をダウンロードして、それを聞きながらジョギングに出かける、といったライフスタイルも可能になっていた。
実際、この定期購読型コンテンツはやがて、Audible でももっとも人気のあるコンテンツになってきた。同社もそれを受け、人気ラジオ番組も販売し始めている。
Audible.com のサービスと、現在の Podcasting の最大の違いは、後者に課金システムがないこと。つまり、Podcasting のコンテンツは、無料で聞ける、という点だろう。
実はこの Audible の前にも、重要な土壌があった。
アメリカでは、以前から視覚障害者に配慮して、ベストセラー書や新聞などの朗読コンテンツが多く作られている、という蓄積があったのだ。そのコンテンツが iPod というメディアを通して、一般の人にも便利に活用されるようになる──まさにこれこそユニバーサルデザインではなかろうか。

(*2)
ちなみに Mac は、音声の録音だけでなく、効果音や著作権フリーの BGM を付けることまで可能な Garage Band というソフトが無料で付属している。ラジオ番組制作には、最適のパソコンといえよう。

インテル製 CPU への移行という世紀の大発表が行われた Worldwide Developers Conference 以降、アップルは久々に沈黙を守っている。

同社ホームページはいつも通り細かに更新されているものの、これといった目立った発表やニュースはない。
それと対照的に、コンピューター関連のニュースサイトは、常にアップルの話題で持ち切りだ。特に Mac 専門のニュースサイトでは、アップル社が新たに行った商標登録などの話題が連日のように報じられており、アップルが沈黙の影で、活発に次のアクションの準備をしていることがうかがえる。
渋谷にオープン予定の Apple Store も、気になるアクションの 1 つ。来月中にもオープンするのではないかかと噂されている。
このほかに気になったニュースは、アップル社の CEO、スティーブ・ジョブズ氏が、スタンフォード大学の卒業式で行った講演についてだ。
昨年、すい臓がんが見つかり「死を感じた」というジョブズ氏が、自分の半生を振り返りながら語った講演は、Mac 好きでなくても聞くに値する。
残念ながら英語のみで翻訳版はないが、スピーチの全文はこちらに、その一部を映した映像はこちらのサイトで見ることができる。

過去の掲載コラム一覧へ