
[2005 年 11 月 18 日 掲載]

'80 年代、スティーブ・ジョブズが好んで用いていた言葉のひとつに「Wheels for Mind」というのがあるーー「心の車輪」もう少しわかりやすく言えば「知力の自転車」といったところだろうか。
まだマックが誕生する前、アップル II の時代、ウォールストリートジャーナル紙の広告によれば、「A 地点から B 地点に、もっとも少ないエネルギー消費で移動できる生物」は「コンドル」で、「人間」はあまり効率がよい部類ではないという。ところが、この「人間」に「自転車」を与えると「コンドルの 2 倍も効率がよくなる」という。
アップル社はこの広告で「パソコンは 21 世紀の『自転車』」だと唱った。
ジョブズは最初、「Mac」を「Bicycle」という名前にしようとして反対されたが、Mac の誕生後はこれをしばしば「Wheels for Mind」と例え、やがてジョブズがアップル社を去った後は、この言葉とそれを現したロゴマークがアップル社の大学機関向けプログラムに使われた。
さて、そんな私が最初の Mac を買ったのは '80 年代、米国の大学に通っていた時代だ。 Mac についてはデビュー前から知ってはいたが、当時の日本では高価過ぎて買えず、アップル社の教育向けディスカウントを使って購入した。
買った時には、ワープロソフトの MS Word がバンドルされたセットを購入した。まだ、MS Word 3.x の時代で、買ってすぐにバージョン 4.0 にアップグレードしたのを覚えている。
当時の Word は、まだ日本語には対応していなかったが (*2) 、大学で論文などを書く上で必須ソフトの 1 つだった。
私が Word を特に気に入っていた理由の 1 つが、ワープロとしての機能にアウトラインプロセッサーとしての機能をみごとに融合していたことだ。
アウトラインとは、話の骨子を箇条書きにしたようなもののこと。
アメリカの論文は、基本構成がかっちりと決められていて、まず最初の段落で論文の主題を明確にし、つづく 2~3 の段落で具体例を挙げた後、最後の段落で話を結論づける。
アウトラインは、この骨格を描くのに大変都合がいい。それまではブレインストームした内容を、紙に書いてからアウトラインにまとめ直していた。しかし、これがパソコンのアウトラインプロセッサーを使うと、項目の順番を簡単に入れ替えができる。さらに関連ある事柄を階層的に整理することもできる。
また階層の下位の項目を隠すことができる。話の大枠を練りたいとき、あまりにも項目が多すぎると、気が散ってうまくまとまらないことがある。下位の項目を隠して、高次の項目だけに集中して整理できた方が作業がはかどる。
Mac は、最初のアウトラインプロセッサを生みだしたパソコンであり (*3) 、もともとアウトラインとは縁が深い存在だった。

Word をアウトラインプロセッサとして使用する
それでは私が、アウトラインプロセッサーをどう使っているかを簡単に紹介しよう。
何か文章を書いたりするとき、とりあえず思いついた項目を、バーっと書き出してみる。いわゆる「ブレインストーム」だ。
例えば「テレビ」について書こうとする。すると頭にはすぐに「アナログ放送 (まもなく終了)」、「地上デジタル放送」、「BS 放送」、「ワンセグ」、「ハイビジョンはきれい」、「受信障害、ゴースト」、「コピーワンスによるコンテンツ保護」、「ビデオ Podcast」といった言葉が浮かぶ。
キーワードがそれ以上出てこなくなった段階で、これらのキーワードの整理を始める。
例えば「受信障害、ゴースト」は「アナログ放送 (まもなく終了)」に属する (下位の階層に属する) だろう。
一方、「ハイビジョンはきれい」や「コピーワンスによるコンテンツ保護」については「地上デジタル放送」、「BS 放送」のどちらにも当てはまることなので、もしかしたらこの 2 つをくくる項目、「デジタル放送」が必要なのかもしれない。
このように書き出した項目をドラッグして、順番を入れ替えたり、階層構造を使って整理していくと、きれにアウトラインがまとまっていく。
できたアウトラインから、また別のアイディアが出てくることもあれば、既にアウトラインがよくできていれば、これにいろいろ肉付けして文章にすることもできそうだ。
Word では、このアウトラインを別名で保存し、直接肉付けしていく感触が好きだった。
しかし、10 年くらい前から「直接、肉付けしないでもいいのでは」と考えを改めた。
Word で作業をする場合も、1 つのウィンドウでアウトラインを見ながら、その横のウィンドウでそれに沿って文章を書く、というやり方に移行し始めた。
作業しているウィンドウの下に、アウトラインの次の項目だけが見えている状態よりも、こちらの方がはるかに効率的だった。
![]() | Step 1 : キーワードをリストする |
![]() | Step 2 : キーワードを整理する |
![]() | Step 3 : アウトラインを元に文章の肉付けをしていく |
![]() | Step 4 : アウトラインを見ながら横のウィンドウで文章を書く |
「アウトラインは別ウィンドウでも OK」という発想の切り替えで自由度が増した。ここ数年は「マインドマップ」を使った思考法にハマっている。
友人が Mac 用日本語版の改良を加えていたオープンソースのソフト、「FreeMind」が、よくできていたこともあり、このソフトを多用して、あちらこちらで人に勧めていた (後述) 。
「マインドマップ」とは「知性のマップ」ーー先ほどのアウトラインに出てきたような項目を、アウトラインプロセッサーのように行で並べるのではなく、紙をいっぱいに使って自由に配置し、項目同士を線などで結ぶ方法で、英国人、トニー・ブサン氏の発明だ (*4) 。
地図のように、空間的に配置していったり、項目やそれを結ぶ線に色をつけたり、アイコンをつけたりすることで、左脳だけでなく、右脳の側も刺激され、思考の全容も把握しやすくなる。
人間の脳にはものごとを空間的に認識する能力がある。例えばいきなり「あなたが仕事で使っている道具をおしえてください」と言われても、4~5 個くらいしか思い浮かばないかもしれないが、頭の中で自分のデスク机を思い浮かべ、右側に何があったか、左側に何があったか、引き出しの一番上には何があったか、その下には何があったか、と空間的に思い出してみると、次々とアイテムが思い浮かんでくる。
これと同じでマインドマップ も、書いた後、目を閉じてみても「たしか右側には新しいデジタル放送関係の動向をまとめていた。下の方には、『地上デジタル放送』が、その上には確か『BS デジタル放送』があって、その上には両者共通の特徴が書いてあったな…」
「たしか一番上が『ハイビジョンはきれい』で、一番下が『コピーワンスによるコンテンツ保護』」
おそらく、今、これらの文を読みながら、あなたも頭の中にこういった地図を描いていたはずだ。人によっては、左上から右下に向かって時間の流れが見える並べ方になっているのかな」とかいろいろ想像を巡らせていて、「『ハイビジョンはきれい』と『コピーワンス』の間に、私ならこんな項目を入れるだろう」などと考えていたかもしれない。
考えをマップにまとめると、こうした脳の普段は使われていない部分も刺激され、頭が活性化する。
それに何も書かれていないところに、いきなり頭を使ってアイディアをひねり出すのは、なかなか大変だが、例えば「地上波テレビ (アナログ放送)」といった項目を見て、そこから関連ある項目を連想するのは、それほど難しくない。
連想した項目から、さらに別のアイディアを連想する、といった形で、マインドマップ を使うと、アイディアが次から次へと湧いてくる。
後はできあがったマップを、頭の中で (あるいはソフトの機能で) アウトライン形式に翻訳して、肉付けなどを行っていく。
![]() | FreeMind で発想 |
![]() | FreeMind でメモを取る |
![]() | FreeMind でプレゼン |
アウトラインやマインドマップ は、文章を練るためだけの道具ではない。
人に見せて内容を説明する場合、わざわざ文章にして読ませるよりも、アウトライン形式やマインドマップ 形式にした方が、説明がしやすい。
実際に PowerPoint や Keynote などを使って行うプレゼンテーションも、つまるところはこのアウトラインを項目ごとにスライド化したものであり、他社製アウトラインプロセッサーや多くのマインドマップ ソフトには、できあがったアウトラインを PowerPoint 形式、Keynote 形式で書き出すオプションも用意されている。
もっともマインドマップ 形式では、聞く相手側も、説明を受けた項目を空間的に記憶できるので、できればマップのまま見せてあげた方がいいという気もする。
10数人以上の相手に、プロジェクターを使ってみせる場合は、必ずしも適切ではないが、相手が1~2人くらいで、同じデスクを囲んで話をするなら、マインドマップ を使って説明する方が、相手も全体像を意識しながら聞けるのでお勧めだ。
アウトラインやマインドマップ は、メモやノートを取る手段としても適している。
相手の話やスライド (ホワイトボード) の字を聞きながら、それを階層構造やマップ構造にリアルタイムで翻訳し、書き残していく。
こうすれば講演者の意図も掴みやすいし、内容が記憶に定着しやすくなる。
実際、筆者も講演の内容や、取材の目的に応じて、MS Word の Word Note 機能でアウトライン的にメモを取る (しかも録音しながら) こともあれば、マインドマップ 作成ソフトでメモを取ることもある。
Word Note には、録音機能のおかげで、聞き逃した箇所を聞き直せるという大きな強みがあるが、マインドマップ には講演の内容が記憶に残りやすい、という強みがある。
![]() | Word Note 機能でメモを取る |
マインドマップ は、何もパソコンの活用を前提とした発想法ではない。しかし、パソコンを使えば、項目の再配置や移動の取り消し、カット & ペーストといった試行錯誤がしやすく、それはそれで便利で、Mac でマインドマップ を書くためのソフトも意外にたくさんある。
筆者も旧 Mac OS 時代は「Inspiration」というソフトにはまっていた。このソフトは、現在、日本語 Mac 版はないが、海外では Mac OS X 対応最新版が出ていて相変わらず人気が高い。
筆者のマインドマップ 熱に火をつけたのは、友人がハマっていた「FreeMind」だ。FreeMind では項目の配置がある程度、抑制されてしまうが、その代わり情報密度が高いマップがつくりやすい。
私はどうしてもマインドマップ をつくりだすと、どんどんいろいろなアイディアを書き込んですぐに地図が巨大になってしまう。
1 画面に表示できる項目は 10 個くらいまでというマインドマップ のソフトもあるが、FreeMind では 1 画面にたくさんの項目を表示してくれる。おまけに関連ある項目の枝葉をひとくくりにする「雲表示」という機能があって、これも気に入っていた。
項目の並べ替えなどすべてを Mac らしいキーボードショートカットで操作できるのもよかった(これは私の友人、drikin の功績が大きい) 。
FreeMind は Java でつくられたソフトで、最近、Mac OS X の Java 環境での日本語入力が不安定なのを受けて、FreeMind そのものでの日本語入力も時々不安定になることがある。
機能もあるが、お気に入りのマップが何度かクラッシュした後、やや利用頻度が下がっている。
Mac OS X の Java 日本語入力環境が安定したら、ぜひともまた戻って活用したいソフトだ。
一方、「FreeMind」の前に愛用していたのが「NovaMind」というソフトだ。とにかく多機能なソフトだが、それに加えて、Mac OS X の Quartz グラフィックを最大限に活用して、おそらく世界で (今のところ) 一番きれいなマインドマップ がつくり込めるソフトだろう。最初から日本語化もされており、項目を自由に配置できる「自由レイアウト」モードもある。
書き上げたマップを PowerPoint や Keynote のスライド、JPEG 画像など、さまざまな手段で書き出せるのも、同ソフトの優れた特徴だ。
一方、最近愛用しているのは「Pyramid」というソフトだ。やや荒削りなところがあるが動作が軽快なのと、FreeMind 並みに情報密度が濃いところ、そして自由にノードをつくれるところが気に入っている。
FreeMind や NovaMind は、思いついた項目をなんとかマップのどこかに配置しないといけないが、Pyramid では、マップにつながっていない適当な場所に、どこにも当てはまらない項目を書き加えることができ、それを別のマップに発展させることもできるのだ。
また、マインドマップ があまり巨大になるのを避けるための機能として、Excel に似た「シート」の概念を採用しているのもなかなかいい。「Excel」にはシートという本のページのような概念がある。これを使って関連ある表やグラフをひとつの書類ファイルにまとめることができるのだ。
それと同様に Pyramid でも、シートを切り替えて関連するマインドマップ を 1 つの書類にまとめることができる。
テキスト形式や画像形式でのマインドマップ 書き出しにも対応している。
独立した項目を追加できるという点では「オムニグラフ (OmniGraffle)」も優秀なツールだ。マインドマップ 専用のツールではなく、どちらかというと作図ツールだが、マインドマップ 的活用もできる。
成蹊大学法学部助教授で現在、スタンフォード大学客員研究員の友人、塩澤一洋氏も同ソフトを使ってマップをつくるという。
パソコン用のマインドマップ ソフトの多くは連想型を基本にしている。
だから、今回、冒頭の Word の使い方のところで紹介した項目をとりあえずブレインストームしてからマップに整理するという方法にはあまり向いていない。オムニグラフはそうした使い方には便利なのだ。
![]() | Inspiration |
![]() | FreeMind |
![]() | NovaMind のインターフェイス |
![]() | Pyramid のインターフェイス |
![]() | Pyramid のシート機能 |
![]() | オムニグラフ |
最近、パソコンもテレビみたいになってきた。何か気になることがあったら、検索して Web ページをだらだら見る。
それはそれで便利だし、楽しい使い方だ。人類は、自分一人では一生かけても獲得できなかったであろう知識にパソコンとインターネットを通して簡単に触れられるようになった。しかし、知識は自分ではない。
その知識をどう活かし、どう活用するかこそが自分のアイデンティティーだ。
そしてパソコンは、こうした思考を支援するための知性の自転車としても十分便利なツールなのだ。
今回はアウトラインやマインドマップ に焦点を絞って話をしたが、世の中にはこれ以外にもいろいろな発想法を生み出してきた。帰納的思考や演繹的思考、結論思考などをキーワードに検索してみよう。
また、ノートの取り方の方法にしても、アウトライン型やマインドマップ 以外にもいろいろな方法が発案されている (トヨタ式文書や PostIt! に書き込んだ項目を配置を考えて貼付けていく、という方法もある) 。
また、パソコン用アウトラインソフトやマインドマップ ソフトも他にもまだたくさんある。
ぜひ、この記事をきっかけに、自分にあったものをいくつか見つけて、用途に応じて使い分けてみて欲しい。
(*1)
マインドマップ, MindMap は登録商標です
(*2)
エーアンドエー (株) が提供する「SweetJAM」というソフトを併用すれば使うことができた。まだ日本語環境が充実していない頃の Mac で、快適な日本語環境を提供していた SweetJAM は現在、同社ホームページからフリーウェアとして提供されている。
(*3)
最初のアウトラインプロセッサは「ThinkTank」という製品で、Mac 業界では有名なプログラマー、デイブ・ワイナー氏が開発した (彼は ThinkTank 以前にも VisiText という幻のアウトラインプロセッサを開発していた) 。ワイナー氏は、その後、このアウトライン的発想をいかして RSS の規格策定や普及でも活躍することになる。
(*4)
マインドマップについては、発明者ブザン氏公認の唯一の公式本『ザ・マインドマップ』トニー・ブザン・バリー・ブザン著/神田昌典訳/ダイアモンド社が先日発売され、現在、新刊キャンペーン中。「マインドマップ」はここ 1~2 年は、日本のビジネス書やビジネス雑誌でもよく取り上げられている。
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iPod の国内シェアがついに 60% を超え、アップル社は相変わらず絶好調だ。この影響で、これまでは Mac ユーザーだけのヒーローだったスティーブ・ジョブズ氏も、今や「時代のヒーロー」となりつつある。11 月 14 日発売のアエラの巻頭記事は「ジョブズになりたい」というもの。スティーブ・ジョブズの半生を綴った書籍「iCon −− スティーブ・ジョブズ − 偶像復活」(東洋経済新報社 / ジェフリー・S・ヤング (著), ウィリアム・L・サイモン (著), 井口 耕二 (翻訳)) も大きな話題となっている。
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スピーチの全容を iPod に入れて聞きたい人は、スタンフォード大学が iTunes を使って提供している情報サービスを利用するといい。こちらの Web ページを表示して、「Open Stanford on iTunes」をクリックしてみよう。
ジョブズのスピーチは「Heard on Campus」というコーナー内の「Interviews and Speeches」にある。
なお、ジョブズ株急騰に便乗するつもりはなかったが、筆者も少し前から「dice-k」という Web サイトで、「Jobs & Co.ーーAn Apple Story」という復活後のスティーブ・ジョブズを描いた連載を執筆中なので、そちらも読んでいただければ幸いだ。