
[2006 年 5 月 26 日 掲載]

待望の新製品、MacBook が発表された。
この発表で一番重要なのは、同機が加わったことにより、新しいインテル Mac 時代のノート型製品ラインアップが完成した、ということだ。読者の中には「私は 12 インチ液晶搭載の軽量ノートが出るまで待つ」とか「14 インチ iBook の後継機を待つ」と考えている人もいるかもしれない。しかし、アップル社にはそうした製品を出す予定はない。
これから Mac を使い始める人は白い MacBook を、現在 iBook や 12 インチ PowerBook G4 を使っている人は、変化を求めて黒い MacBook を購入することになる。
MacBook の 13 インチ液晶は、iBook の 14 インチ液晶よりも小さいながら解像度は高くなっている。
インテル CPU の搭載で、速度はこれまでの iBook G4 と比べて 5 倍高速、PowerBook G4 (12 インチ) との比較でも 4 倍高速だ (*1) 。
新しい 13 インチ液晶は、表面に光沢があるクリアワイド液晶──黒をより黒く、白をより白くと色彩表現にめりはりがある。光沢のある液晶は、環境光を反射して見にくくなることがあるが、アップルはこうした反射を十分抑える技術が成熟したのを見守って、その採用に踏み切った。なお、これにあわせて MacBook Pro シリーズでも、Apple Store の BTO でクリアワイド液晶を選べるようになっている。
液晶サイズは 13 インチと、従来の 14 インチ iBook と比べて小さいが、解像度は1280×800 ピクセルで、iBook G4 や PowerBook G4 (12 インチ) よりも向上している。また液晶そのものも、従来の iBook と比べ 37% 明るくなった。
これに加え、旧機種のユーザーにとってうれしいのが iSight の内蔵と Apple Remote の付属だ。
普段、なかなかビデオチャットをしないという人が多いかもしれないが、そんな人が「ぜひビデオチャット」をしたいと思うのが出張中や旅行中だろう。新しい MacBook シリーズなら、別途 iSight を持ち歩かなくても、本体だけでビデオチャットができる。これは、たとえば本体をインターネットカフェに持ち込むような場合にも非常に便利だ。
それに iSight 内蔵マシンだけに付いている「PhotoBooth」というソフト、これがなかなかおもしろい。家族や友達と一緒にしばらくは腹を抱えて笑いながら楽しめるソフトなのだ。 写真や DVD を観るのに、わざわざ Front Row を使わないという人もいるだろう。しかし、付属の Apple Remote は Front Row 専用ではない。実は QuickTime Player や DVD Player、iTunes、そして iWork 付属のプレゼンテーションソフト、Keynote などの操作も行うことができる。今後はさらに対応ソフトが増えていくことだろう。
だが、新しい MacBook シリーズの魅力は、こうした機能だけに止まらない。
やはり、まず心を奪われるのが、そのモノとしての溢れるばかりの魅力だ。
MacBook の白モデルは、これまでの iBook G4 をさらに洗練されたような外観だ。光沢仕上げの白いポリカーボネートボディは、iBook よりも 20% 薄くなったことで、より引き締まった印象を与える。
初代 iBook ではラッチなしの構造が売りだったが、後続の iBook ではいつのまにかラッチが復活していた。MacBook は液晶の周囲にマグネットを埋め込むことで、ラッチなしで開閉できるしくみを復活させた。これにより本体手前側 (のラッチがあった部分) もよりすっきりしている。
MacBook の黒モデルは、白モデルのすべての美しさを継承しつつ、表面の質感で高級感を醸し出している。白モデルとは違って、こちらはツヤ消しのマット仕上げなのだ。
黒いベゼルは、たとえばワイドフォーマットの DVD や写真を見る時、周囲の黒い帯が目立たず映像も引き締まって見える良さもある。
一方、MacBook Pro は見た目にもクールで、肌触りもいいアルミボディを採用。強力な Mobility Radeon X1600 を搭載し、本格的な業務用ビデオ編集ソフトから、スピード重視の科学技術計算系アプリケーションもそつなくこなす。
新しい MacBook のラインアップは、アップル史上最強かつ、もっとも魅力的なラインアップであることは間違いない。
MacBook が発表される一方で、少し寂しいニュースもある。1991 年に発表されて以来、世界中の Mac ユーザーに愛され続けてきたブランド、「PowerBook」がついに 15 年の歴史の幕を閉じることだ。
パソコン業界の先駆者というイメージが強いアップル社だが、ノート型パソコンの開発では、むしろ後発の部類だった。
アップル社初の携帯型 Mac は、ノート型と呼ぶには無理がある重量 7.1Kg ある巨大なパソコンだった (1989年) 。
充電なしで 1 日中、仕事ができるようにバッテリー駆動時間は 12 時間、また CRT と同品質が達成できない限り、携帯型Macは作らないという公約により、当時はまだ高価だったアクティブマトリクス液晶を採用。これにより本体価格は 6,500 ドル──大失敗に終わった。
それから 2 年後、アップル社が満を持して発表したのが初代 PowerBook。PowerBook 100、140、170 の 3 機種だった。
PowerBook 140、170はハイエンドCPU (68030) を搭載したビジネスマシンで、重さは 2.7Kg。液晶サイズは 10 インチで、解像度は 640×400 ドット (白黒 2 階調) 。ちなみにメモリは 2〜4MB でハードディスクは 20〜40MB だった。
PowerBook 100 は、ソニーが製造を行ったマシンで、フロッピードライブを外付けにすることで本体を 2.3Kg に軽量化している。
Mac の新製品発表といえば MACWORLD EXPO 会場を思い浮かべる人も多いかもしれないが、PowerBook は、当時、世界最大のコンピューター関連展示会だった COMDEX で発表された。アップル社はビジネス市場進出への意気込みを見せ、1991 年に初めて COMDEX に参加。その会場で初代 PowerBook シリーズと 68040 という CPU を搭載したハイエンドデスクトップ製品、Macintosh Quadra シリーズを発表した。
当時、すでにノート型パソコンは珍しくなく、COMDEX でも、アップル社の発表前から他社製のノートパソコンの広告や展示がそこかしこで行われていた。
しかし、PC の OS は MS-DOS が主流、まだ Mac を使う必要がなかったため、ノート型はトラックボールもトラックパッドもないのが当たり前で、キーボードは本体手前の縁ぎりぎりのところに配置されていた。
これに対して PowerBook は、キーボードの手前、中央にトラックボールを配置し、キーボードの手前に大きなパームレストをつくり出した。
このデザインのおかげで、手をキーボードのホームポジションに置いたままでのマウス操作が可能になった。しばらくすると、このデザインはノート型パソコンのスタンダードになっていた。
PowerBook シリーズには、その後も 145、150 といったさまざまなモデルが登場し、1992 年にはカラー液晶を搭載した 180c も登場した。
![]() | Macintosh Portable |
![]() | PowerBook 100 |
![]() | PowerBook 100、140、170 |
PowerBook 全シリーズ中でも、筆者にとってもっとも印象深いのが PowerBook Duo と呼ばれるシリーズだ。
この重さ 1.9 キロ、Mac 史上、最軽量のマシンは、フロッピードライブも内蔵していなければ主要な周辺機器接続ポートも備えていない。本体背面には内蔵モデム用のモジューラポートと、巨大な横長のスロットが用意されているだけ。だが、同機の最大の特徴は、このスロットにあった。
同機はこのスロットに、ミニドックと呼ばれるアダプターを加えることで、他のノート型 Mac と同等の拡張ポート類を追加できた。重さ、価格、用意されたポートが異なるさまざまなミニドックが発売されていた。
また、それとは別にアップル社は Duo Dock という製品も発売していた。これは一見すると据え置き型 Mac のように見えるが、手前側に巨大な挿入口があり、ここに Duo の本体を差し込むと、Duo を自動的に中に引き込みデスクトップマシンに変身させた。
Duo Dock を使えば、ノート型 Mac のユーザーにとっては無縁だった拡張カードスロットも使うことができた (当時はビデオ取り込みボードなどの拡張カード類がたくさん発売されていた) 。
初代 Duo シリーズのコード名は「Best of Both World」──まさにノート型のいいところと、デスクトップ型のいいところ取りをした究極のマシンだった。
![]() | PowerBook Duo |
![]() | Duo Dock |
PowerBook の次なる記念碑的製品は、ブラックバードというコード名が愛称にもなった PowerBook 500 シリーズだ。
アクティブマトリクス液晶搭載の PowerBook 540c、少し質が落ちるパッシブ液晶搭載の 520c のほか、グレースケール液晶搭載の 520、さらには日本市場向けに作られたという黒モデル、PowerBook 550c というモデルもあった。
Mac は 1994 年 3 月から新しい CPU、PowerPC の搭載を始めるが、PowerBook 500 シリーズは、この PowerPC の搭載が約束された最初の PowerBook だった。
PowerBook 500 シリーズには、もう 1 つ重要な特徴がある。トラックパッドの採用だ。
それまでの PowerBook は 100 シリーズにしても、Duo シリーズにしてもトラックボールを採用していた。しかし、PowerBook 500 シリーズは、これに代わって静電方式のタッチパッド──トラックパッドを採用し、これを本体の薄型化に活かしていた。
いや、実際には PowerBook 500 は、それほど薄いマシンではなかったが、トラックパッド採用により、その下をバッテリーの格納スペースにすることができたのだ。
PowerBook 500 は、後に PowerPC アクセラレーターの追加で PowerPC 対応になった。
PowerPC を最初に搭載したのは PowerBook 5300 シリーズだ。発表は 1995 年。今年の夏、映画、Mission Impossible-3 が公開されるが、PowerBook 5300 は、10 年前、この映画の第 1 弾に登場した。アップルは同機と一緒に 68LC040 を搭載し、5300 相当にアップグレード可能な 190 というシリーズもあった。
この後しばらく 5300 を頂点に、その下のモデル番号を埋め始める。
1400 は、ブックカバーという透明プラスチックカバーを特徴としていた。このプラスチックカバー部分に装飾用の紙を挟むことで、自分だけの個性を演出することができた。
続いて日本で発表された PowerBook 3400c は 3.2Kg とヘビー級ながら、当時としては最高速の 240MHz の PowerPC 603ev を搭載し、『世界最速ノート」を高らかに謳った。これ以後、PowerBook シリーズは、常に世界最速を謳い続けた。
つづいて 1997 年に発表された PowerBook 2400c は、日本向けに作られたモデルだ。日本市場では軽量ノートが愛されるという調査に基づき、IBM 社の大和工場が製造を引き受け、1.99Kg の製品に仕上げた。アップル社で現在、プロダクトデザインを手掛けるジョナサン・アイブ副社長がちょうど頭角を現し始めた頃の製品でもある。
PowerBook 2400c は、日本の一部のユーザーに熱烈に支持をされ、米国でも一部で発売された。大ヒット製品にはならなかったが、話題性の点では他の大半の PowerBook を上回るほど連日話題になった。
その後、アップル社は PowerPC G3 搭載、PowerBook の提供に乗り出す。最初の G3 搭載パソコンは、PowerBook 3400c などに似た Macintosh PowerBook G3 という製品だった。
しかし、そのすぐ後、アップル社は初代 iMac と一緒に、新しい PowerBook G3 を発表する (Macintosh PowerBook G3 は短命でほとんど売れなかったが、それだけにものすごく希少価値は高い) 。
![]() | PowerBook 5300 |
![]() | PowerBook 2400 |
3 次元曲線をそこかしこに活かしたラバー筐体の PowerBook G3 は、PowerBook の歴史上、もっともワイルドなデザインの PowerBook だ。そのワイルドなデザインと仕様を洗練させ、最終的に行き着いたのがコード名、Pismo と呼ばれる名機で、同製品には「PowerBook G3」ではなく、シンプルに「PowerBook」という名前がつけられた。
アップル社は、ちょうど 1 年前に初代 iBook を発表し (*2) 、製品名を iMac、iBook といったシンプルなネーミングに切り替えようとしていた。このため、PowerBook からも余計な「G3」を削ろうとしたのかもしれない。
しかし、これは 1 製品限りのことだった。次の PowerBook では、新 CPU、PowerPC G4 が搭載が決まり、これを製品名でも強調する必要があった。
アップル社が 5 年前、2001 年の MACWORLD EXPO/SAN FRANCISCO で発表した PowerBook G4 は、その G4 の文字以上に素材であるチタニウムにスポットライトが当てられた。チタニウム合金は加工が極めて難しい素材だが、アップルはベストなノートパソコンを作るために、さまざまな新素材も試していることがわかったからだ。多くの人は同製品をチタニウムの元素記号、「Ti」にちなんで「TiBook」などと呼んでいる。
TiBook は、それまでの PowerBook (G3) から一転して、ミニマリズムのシンプルデザインを採用していた。
性能的、機能的には究極を突き詰めた Pismo だったが、アップルはこれに最新 CPU の PowerPC G4 を搭載するだけでは事足りず、これを世界一薄いノート型にしようと考えた。
それは日本市場から常に聞こえてくる軽量型ノートへの要望の 1 つの答えだったのかもしれない。光学式ドライブを搭載した上で、重さ 2.4Kg、厚さ 1 インチ (2.54cm) を達成した PowerBook G4 (Ti) は日本の辛口批評家達からも (条件付きで) 賞賛された。
なお、2001 年 5 月には PowerBook G4 の後を追うようにして、iBook もデザインチェンジが行われた。iBook 最後の製品となった iBook G4 と同じ白いシンプルな筐体は、この時から採用が始まった。
翌 2002 年は、PowerBook に再び大きな変化が起こる。
それまで 1 つのサイズで、すべての Mac ユーザーのニーズに応えようとしていた PowerBook に、12 インチ液晶のモデルと、17 インチ液晶モデルが加わった。新 PowerBook はアルミボディを採用しており、後に 15 インチの TiBook も 15 インチ版アルミ筐体の PowerBook G4 に置き換えられた。
その後も PowerBook シリーズは、CPU 速度やハードディスク容量はもちろん、内部構造から液晶の明るさ、外付けモニターの表示性能、さらには AC アダプターに至るまで常に改良が加えられ進化を続けてきた。
新たに登場した MacBook シリーズは、これら PowerBook シリーズの 15 年分の試行錯誤やノウハウを反映した、もっともパワフルかつエレガント、そしてシンプルなノートパソコンに仕上がっている。
![]() | PowerBook G3 |
アップル社が公表しているベンチマーク結果。iBook G4 1.42GHz との比較では整数演算で 5.1 倍、浮動小数点演算で 5.7 倍高速。
PowerBook G4 (12 インチ) との比較では整数演算で 4.7 倍、浮動小数点演算で 5.3 倍の差。整数演算は SPECint_rate_base2000、浮動小数点演算は SPECfp_rate_base2000 というテストの結果。
初代 iBook の発表は、それはそれで衝撃的な事件だった。アップル社は iMac の発表後、iMac のノート版、つまりコンシューマー市場向けノート製品を発売することを予告しながら、その製品名も詳細も明かさず『1999 年に発表する」ことだけを予告していた。
1999 年夏の MACWORLD EXPO/NEW YORK で満を持して発表されたのがタンジェリン (オレンジ色) とブルーベリー (青色) の 2 色の初代 iBook だった。無線 LAN 機能の Air Mac も、この 2 製品が最初に採用した。
まだ当時は IEEE 802.11b 規格が最終承認される前の段階。アップル社は同技術を業界に広める偉大なる功労者となった。
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満を持して登場した MacBook は、iBook の魅力と PowerBook G4 (12 インチ) の魅力を併せ持つ新製品だった。アップル社の新しいノート型ファミリーも出揃い、これらの機種で新しいインテルMac生活を送り始めている人も大勢いる。 |