
新iMac発表で幕を開けた「Mac新時代」
[2007年8月17日更新]

アップルは、アルミボディで生まれ変わった新しいiMacと、例年は1月のMACWORLD EXPOで発表してきたiLife、iWorkの最新バージョンを発表した。実はそれに加え、特に謳ってはいないがIntel Core 2 Duo搭載のMac miniや、Gigabitイーサネット搭載のAir Mac Extremeベースステーションも同時に発表されている。
発表は、MACWORLD EXPOやWorldwide Developers Conferenceといった展示会ではなく、アップル本社でこぢんまりと開かれた発表会で行われた。アップルがiPod関係の製品を発表するときよく行う「Special Event」というやつで、そのことからも、今回の製品発表が「ただごとではない」感じが伝わってくる。
筆者は残念ながら現地の発表会に行くことはできなかったが、日本の製品発表会での製品発表を見て、やはり「ただごとではない」ことを実感した。
「Mac新時代の到来」――などと言うと大げさに聞こえるかも知れないが、本製品からは、そうした雰囲気が伝わってくるのだ。
Webページの情報を見たかぎりは、ただの「アップデート」にも思えるのに一体なぜだろう?
新iMacのCPUは、2.0または2.4GHzのIntel Core 2 Duoだ。BTOでIntel Core 2 Extremeという新型CPUも選べるが、少なくともこの点ではそれほど真新しさは感じない。
メモリ搭載容量は、これまでの3GBから1GB増えて4GBになったが、これにもそれほどのインパクトはない。
ハードディスクが最大1TB(BTO時)まで選べるようになったのは大きいが、これも「アップデート」的な進化でしかない。
スペックシートに記されていること、箇条書きの文字で表せる範囲の変化から、「新しさ」を読み取るのは難しい。
だが、本体の写真を見れば「ただごとではない」ことが直感的に響いてくるはずだ。

新iMacの外観は、シルエットを見る限り従来と変わっていないようだが実は大きく変わっている。
確かにシルエットは、スタンドの上に板状の液晶ディスプレイが載った一体型と従来通りだ。
しかし、形は同じでも、その見た目はまったく異なっている。
これまでコンシューマー・パソコンの代表格だったiMacには、「愛らしさ」や「親しみやすさ」を表したどこか暖かみのあるポリカーボネート素材とは切っても切れない関係にあった。
CRT型から液晶搭載の首振り型、そして液晶搭載の前モデルとフルモデルチェンジが行われてもこの点は一貫していた。
これに対して、新iMacの素材は「プロフェッショナル」、「堅牢性」そして「クール」さが漂うアルミ素材と、そのアルミに溶け込むように見事に調和したガラス素材がベースになっている。
また、ガラスの液晶画面を取り囲む黒いフレーム部分が大きな特徴だ。この特徴からはデンマークの高級音響機器メーカー、バング&オルフセン社の高級薄型テレビを思わせる風格が漂ってくる。
このフレーム部分は最近の高級AV機器のトレンドで、画面に映し出される映像を引き立たせ視認性を高めるといったことに加え、今日の多様なビデオコンテンツに柔軟に対応できることを意味している。
今日の映像コンテンツは、標準的な横:縦の比率が4:3の映像はもちろん、16:9、さらには映画でよく使われる1.66:1、1.85:1といった多彩な形状のものが混在しており、画面の比率に合わない映像はレターボックス、つまり画面の上下に黒い余白を表示して対応している。
画面の周りに黒いフレームを用意すれば、このレターボックスの部分が溶け込んで不自然さを感じさせないのだ。
先にあげたバング&オルフセン社の製品はもちろん、ソニーを始めとする一部日本メーカーやサムスンのLG電子の高級薄型テレビなど、世界に認知されたAV機器ブランドが、やはり同様のデザインを取り入れている。
そう考えると、新iMacはまるでリビングに飾るために作られた新時代の高級AV機器のように見えてくる。
実際、世界中のAV機器のリモコンの中でも、もっともシンプルな「Apple Remote」を手に取り「Menu」ボタンを押せば、「Front Row」が起動し、ハードディスクに撮りためた映像コンテンツや写真、音楽を自在にブラウズして再生できる。こんなにエレガントなAV機器は他にないかもしれない。
新しいiMacは、リビングに置けば新時代のAV機器かもしれないが、オフィスに置けば、世界で一番クールな仕事用マシンに早変わりする。
これまでのiMacの親しみやすい白いポリカーボネートは、家庭的ではあったが、あまり仕事向きという印象ではなかったかもしれない。
しかし、新しいiMacでは、仕事場に置いてもまったく不自然ではない。
実を言うと、新iMacにもポリカーボネート素材は相変わらず、背面部分に使われているが、真っ黒に塗られ、これまでとはかなり違う印象にしあがっている。

新しいiMacの外観は、「親しみやすさ」を卒業し「クール」に生まれ変わっているのだ。
考えてみれば、今のiMacは画面の大きさ的にも、CPU性能、メモリ容量そしてハードディスク容量的にも、十分プロフェッショナル用途で使うことができるし、仕事用マシンとして理想的だ。
よほど高度なビデオ編集や科学技術計算をする人ならMac Proが必要だろうが、そうでない人なら、すべてが一体型のコンパクトなボディに収まっているiMacの方が机のスペースにもゆとりが生まれて理想的だ(iMacは非常にわずかなスペースしか占有しないことを忘れないで欲しい)。
もちろん、ビジネスに使えるからといって、家庭で使えなくなるわけではない。iMacのデザインはクールであると同時に、ニュートラル(中立)なデザインでもあり、子供でも違和感なく楽しめるデザインだ。
実際、米国でもこの秋には多くの小中学校にこのiMacが導入されることだろう。
ところで、アップル社がアルミ+ガラス+液晶の周りの黒いフレームという特徴の製品を出すのは、このiMacが初めてではない。
日本のユーザーには馴染みが薄いかもしれないが、アメリカで現在、話題沸騰中の「iPhone」も、やはりこれと同じ特徴を持っている。
そう考えると、新iMacはこれからのMacの新しいデザイントレンドを示唆しているのかも知れない。
Macのデザインは、時代とともに変化している。たとえば今から9年前、初代iMacが登場してからしばらくはプロ用のPower Mac G3やノート型の初代iBookも半透明でカラフルなポリカーボネートを採用。このトレンドは他のパソコンや周辺機器にも大きな影響を与えた。
その後、登場したPower Mac G4は、プロ用製品はよりおとなしい色彩で統一という新しいトレンドを生み、2001年にチタニウム製のPowerBook G4と真っ白なiBookが登場すると、プロ用製品はメタリック/シルバー、コンシューマー用製品は白という色の使い分けが生まれ、ノート型もデスクトップ型も曲線を減らしたシンプルな形状に変わっていく。
インテル時代になると、iPodで採用していた白モデル/黒モデルという組み合わせがMacBookにも反映されるなど、アップル社の外観は常に他の製品との相互作用を続けながら進化を続けてきた。
そう考えると、新しいiMacのデザインは、これから出てくるMacBook ProやMacBook、さらにはApple Cinema Displayといった製品の外観にもなんらかの影響を与えるのではないかと思えてくる。
冒頭で筆者は、新iMacに「Mac新時代の到来」を感じると書いたが、その理由の1つは、こんなところにある。

「Mac新時代の到来」を感じる理由はほかにもある。新iMacのキーボードだ。
単体でも販売が始まっている新「Apple Keyboard」は、その薄さとMacBookのそれに似たキートップ、そして大きく変わったキー配列が特徴だが、それに加えキートップの刻印にも新たな特徴が表れている。
最上段ファンクションキーの左側にダッシュボードの呼び出し用などのアイコンが書き添えられ、右側には再生/一時停止や巻き戻し/早送りといったメディアコントロールの機能が刻印された。また、これまでアップルマークが刻印されていたコマンドキーからはそれがなくなり「command」と記されるようになった。
こうしたところからもアップルが、ただこれまで、前例を踏襲し続けてきたキーボードをアップデートしたのではなく、Macとユーザーをつなぐキーボードというデバイスのあり方を、もう1度、原点に立ち返って考え直したことが伺える。
同じことは8月末から発売が始まる新Apple Wireless Keyboardからも感じ取ることができる。Bluetooth技術を使ったApple Wireless Keyboardは、これまでApple Keyboardからケーブルを取り去っただけの製品だった。
しかし、新キーボードでは「ワイヤレスのキーボード」は、置き場所を移動したり、ひざのうえにのせたりと、もっと気軽に扱えるようにあるべき、という考えにのっとって数字入力用のテンキーをなくし、より小型のキーボードとして仕上げている。
MacBookライクなキートップも、高低差を無くしたほうが手にかかる負担が減るという考えに基づいたもので、ただキートップの背を低くするだけではなく、手首を反る角度が小さくなるように、キーボードそのものを薄型化している。
アップルをアップルたらしめているのは「think different.」の発想だ。
世の中の多くのメーカーは、1度、製品を作ってしまうと、後はひたすら前の製品の改良で機能を付け足すことしか行っていない。
これに対して、アップルは何年かに1度、土台の部分から見直しができる企業なのだ。
新しいiMacが「Mac新時代」を感じさせるのは、久々にこの土台部分からの見直しが行われ、これからのMacの新しい秩序やトレンドを提示しているからかも知れない。
実はこれはハードだけの話ではなく、新iMacに標準バンドルのiLifeにも感じ取ることができる。
「iLife '08」は、これまでのiLifeの中でも最大のアップデートだ。iLifeといえば、毎年1月のMACWORLD EXPOで新バージョンが発表されるのが「ならわし」だった。しかし、アップルは今回、そのリズムを崩して、iMacとともに新バージョンを発表した。
これはおそらく春ごろに次期OSのLeopardと共に発表される予定だったものが、Leopardのリリースが遅れたことで、今回のiMacと同時リリースに変更になったのだろう(実際、iLife '08の製品仕様ではMac OS X "Leopard"対応が明記されている)。
新機能を見て筆者がそう思うのは、新iLifeには、いくつかLeopardと共通する文法を見て取ることができるからだ。

代表例はiPhotoに用意された「イベント」という概念だ。
パソコンでは、これまで情報はフォルダで仕分けして管理するというのが常だった。しかし、フォルダに入れるということは、情報を見えない場所にしまってしまうこと、隠してしまうことでもあり、必ずしも便利とは限らない。
そこでLeopardでは、「スタック」という概念が採用される。
机の上に重ねて置いてある書類や、本の束のようなもので、フォルダのように一束として扱うことができるが、それと同時に、見ればそこに何があるのかわかるのが特徴だ。
iPhotoのイベントもそれに似た発想で、写真を日付ごとの束に自動的に仕分けしてくれる「イベント」という仕分け方が用意されている。ユーザーが写真を海水浴、花火大会、誕生日パーティーといった「イベント」ごとに束ねることができるのだ。
これまでのiPhotoでも「フォルダ」によく似た「フォトアルバム」という単位で仕分けをすることもできたが、フォトアルバムは、開いてみないことには、どんな写真が入っているのかがわからなかった。
これに対して、「イベント」では、カーソルを「イベント」アイコンの上にあわせて左右に動かすことで、他にどんな写真があるかを覗き見することができる。
要するに「開く」という一手間があるかないかというだけの差ではあるが、実はこの差が小さいようで大きい。

使い込んでいくうちにこれがいかに大きな差であるかを実感できるようになる。
同様の覗き見感覚は新iMovieでも、取り入れられている。
画面に表示されるムービーのサムネールの上でカーソルを左右に動かすだけで、動画をプレビュー再生できるのだ。

Leopard以降のMacの世界では、このように情報との距離感に、大きな変化が表れる。
Leopardに先行して登場したiLife '08からは、そうした新時代の距離感が伝わってくる。
iLife '08、そしてiWork '08も、iMac同様にもう1度、原点に立ち返って考えられた製品だ。なかでも、象徴的なのがiMovieだろう。

これまでのiLifeに付属していたiMovie HDは、もっとも手軽にビデオ編集ができる定番ソフトだった。実際、映像作品作りのプロの多くの人も愛用している。本格的な作品作りとなるとFinal Cut Proの方がいいが、手早くそれなりの作品を作るにあたってはiMovie HDの方が圧倒的に効率いいからだ。
ところがアップルは、新iLife '08では、このiMovie HDを捨ててしまった(噂によればアップル社は近々、iMovie HDを無償で配布するという)。
iLife '08では、iMovie HDに代わってまったく新しく生まれ変わったiMovieが付属している。
iMovie HDはビデオ編集ソフトとしては使いやすかったが、これまで多くの人が、そもそもビデオ編集という作業をしなかった。
ビデオカメラを持っている人も少なければ、それをわざわざパソコンに取り込もうとする人も少なかった。ましてや、それを編集して作品作りに生かそうという人は、ほとんどいなかったからだ。
これまでのiMovie HDでの作品づくりには、確かに「ひと仕事」という雰囲気があった。
まずはプロジェクトというファイルを作成して、テープから映像を取り込んで、それを必要なクリップにわけ、タイムラインに並べ、場面転換やフィルタ、BGM、タイトル文字などを重ねていく。
よほど高いモチベーションを維持しないと、ここまでの作業はできない。
そこで新しいiMovieは、iPhotoのような映像コンテンツの管理ソフトに生まれ変わった。デジタルカメラで撮影しiPhotoに取り込んだ動画はすべて新iMovieの「イベントライブラリ」というウィンドウに一覧表示される。それらの動画をカーソルでなぞってプレビューできる。
もちろん、iMovie HDのような映像作品を作る機能を捨て去ったわけではない。「イベントライブラリ」に表示された映像の中で、気に入ったものがあれば、それをドラッグして、「プロジェクトライブラリ」にドラッグ&ドロップし、同様に場面転換やフィルタ、BGM、タイトル文字という効果をドラッグ&ドロップしていけば、あっという間に作品ができあがってしまう。
あまりビデオ編集をやったことがない人には、これまでとの違いがわかりにくいかもしれないので、もう少し丁寧に説明しよう。
まず、デジタルカメラを使ってビデオを撮っている人の場合、そもそも動画の取り込みという面倒な作業がなくなることになる。デジタルカメラの写真をiPhotoで取り込む際に、一緒に動画も取り込まれているからだ。
以前のiMovie HDでは、取り込んだ映像はいくつかのクリップに自動的に切り分けられるが、ユーザーはそのクリップから、さらに最終的な作品で使いたい部分だけをくりぬくことになる。つまり、使いたい部分の前にある余計な部分を切り捨てて、使いたい部分の後にある余計な部分も切り捨てる。
これに対して、新iMovieでは、「イベントライブラリ」に並んでいるクリップのうち、使いたい部分を選択して、「プロジェクトライブラリ」に追加する。
始点と終点をドラッグ選択するだけなので、圧倒的に手間が少ない。
こういった調子で、新iMovieを使えば、これまでのiMovie HDよりも圧倒的に少ない手間で動画作品が作れるのだ。
もちろん、従来通りビデオカメラの動画を使う場合には、面倒な取り込み作業が相変わらず必要だ。それだけに新iMovieは、フラッシュメモリや内蔵ディスクに映像を記録する新世代のムービーカメラを買う動機づけ、ビデオカメラからデジタル時代の動画カメラへの移行をするきっかけにもなりそうだ。
これまでムービーカメラを持っていた人々は、とりあえず動画をたくさん撮りためたまではいいものの、うまく編集する手だてもなく、ただただハードディスクの無駄遣いに終わらせることが多かった。それがiMovieによって大きく変わり始めそうなのだ。
同様にアップルはiPhotoやGarageBandやiDVDといったソフトも一から見直している。
次回のApple's Eyeでは、このiLife '08が提案する新しいデジタルライフスタイルについて考察してみたい。