
生まれ変わる生産性アプリケーションたち
[2007年12月7日更新]
実はこの記事を書くのは3度目になる。1度目の記事は、冒頭を誤り話が広がりすぎたので自主的にボツにした。2度目の原稿は、いいところまで書き進んでいたが、内蔵ハードディスクがクラッシュして大半を失ってしまった。
どんなきっかけでクラッシュしたのか?
帰宅し、MacBookをスリープから復帰して無線LANにつなごうとしたら、うまくつながってくれない。レインボーカーソルがくるくる回り始めて、アプリケーションの起動も、終了もできなくなった。しばらく待ってもそのままの状態なので待ちきれず、強制再起動をしたところ、マシンがいつまでも起動しない。
先日、どうしてもビデオ編集の都合でハードディスクの空き容量が必要になり、Time Machineのバックアップ領域を使ってしまったばかり。ここでディスクがクラッシュしたままだと、年内の仕事に深刻な影響を及ぼしそうだ。
とりあえず慎重に慎重を重ね、1ステップ進めるごとにハードディスクの完全なバックアップを取りながらハードディスクの問題を修復しOSを再インストール、9時間ほどを無駄にしてしまった。保存前だった原稿にかけた時間を合わせると、半日は失ったことになるのかもしれない。
冒頭にあえてこの話を入れたのは、読者のみなさんも、ぜひともハードディスククラッシュに備えて欲しいからだ。
今や500GB級のハードディスクでもかなりお手頃になってきた。
私もこれからはTime Machineでバックアップしつつ、大事な書類を.macのbackupでバックアップし、さらに.macの同期機能を使って設定もバックアップしておこうと思う(実はハードディスク復旧中は、この同期機能のおかげで昔使っていたPowerBookで少しだけ作業ができた)。
ちなみに筆者はラッキーで、ハードディスクのクラッシュは軽傷だった(今、ことえりが「警鐘」と変換したが、「ハードディスククラッシュが『警鐘』」というのは確かに間違っていない)。
簡単に復旧のプロセスを紹介しよう。
1.まずはMac OS X v10.5 "Leopard"のディスクを用意する。
2.ディスクを挿入して、optionキーを押しながらMacを起動する。
3.ディスク選択画面が出たらDVD-ROMを選択する。
4.言語選択メニューで日本語を選ぶ。
5.OSのインストール画面が現れたら「ユーティリティー」メニューから「ディスクユーティリティー」を選ぶ
ここで「ボリューム」がちゃんと表示されれば望みがある。大事なのは「ディスク」のアイコンではなく、そのすぐ下に「ボリューム」が表示されていることだ。ディスクというのはハードディスクのハードウェアそのものを指している。ボリュームというのは、ハードディスク上に用意したデータ保存領域のことで、ハードディスクにつけた名前(通常は「Macintosh HD」)はここに表示される。

ボリューム名が表示されなければ、「ディスクウォーリアー」や「テックツール・プロ」といったツールが必要になる(これらのソフトでも復旧できなかった場合は、「Data Rescue」というソフトで、書類だけ取り出せる可能性がある)。
5で「ボリューム」がちゃんと表示されたら…
6.もし、内蔵ハードディスクがまるまる入るくらいの空き容量がある外付けハードディスクがあれば、この状態でデータをバックアップしておこう。ごく稀にではあるが、ディスク修復がうまく行かず症状を悪化させ、ボリュームを認識しなくなってしまうことがある(筆者は少なくとも20回ほどのハードディスククラッシュ経験中、2度はそういうことがあった)。
バックアップ方法は簡単で、「ディスクユーティリティー」の左側で「ハードディスク」または「ボリューム」のアイコンを選択して「ファイル」メニューの「新規」という項目から「disc0s2(Macintosh HD)からのディスクイメージ」を選択し、ディスクの内容をまるまるイメージファイルとして保存する。

7.続いて「ディスクユーティリティー」の「First Aid」タブをクリックし、「ディスクを修復」をクリックする。
ちなみに筆者は「ディスクを修復」をする前に一度「ディスクを検証」し、どういう問題があるかを確認してから「修復」するようにしている。
これはディスクユーティリティーによって得手不得手があり、破損の内容によっては他のユーティリティーを使った方が修復できる可能性が高かった時代の名残だ(残念ながら現在のユーティリティーの得手不得手は、あまり把握できていない)。
長い脱線で始まったが、今回はアプリケーションソフトについての話を書きたい。
'80年代後半から'90年代前半にかけては、パソコンといえば「生産性アプリケーション(Productivity application)」が王者だった。
「ワープロ」、「表計算」、「データベース」ソフトこそがパソコンを使う一番の理由で、パソコン雑誌の話題もどのソフトがどれだけ優れているかの話題で持ちきりだった。
その一方で毎月のように新しいジャンルのアプリケーションも登場し、いくつかは定番となった。「プレゼンテーションソフト」や「写真レタッチソフト」もそうしたジャンルの1つだろう。
ただし、'90年代後半になると、インターネットブームがやってきて、生産性アプリケーションは主役の座を奪われてしまった。おまけにアプリケーションソフト市場の寡占状態が進んだため、競争もなくなってしまった。
そんな中、Mac版のMicrosoft Officeは、いつも新しいことにチャレンジし続けてきたおもしろいソフトだ。
アップル社もiWorkというライバルソフトを出してきたが、このライバル登場がMicrosoft Officeにもいい刺激になっているようで、次のMicrosoft Office 2008 for Macは、かなりいい仕上がりになっている。
実は筆者は役得で、このMicrosoft MacTopia内Apple’s Eyeの連載用ということで、特別に同ソフトのβ版を使わさせてもらっているが、一度、本腰を入れて使い始めると手離せなくなる。
Word、Excel、Entourage、PowerPointと、それぞれどのソフトもよくなっているが、今回、一番気に入っているのはPowerPointだ。
Mac市場のプレゼンテーション用ソフトといえば、スティーブ・ジョブズCEOが愛用するiWork付属の「Keynote」が圧倒的な人気を誇っているため、実はちょっと心配だった。
筆者自身も、Apple's EyeのイベントのときはPowerPoint 2004 for Macを使ったが、普段はKeynoteを使うことも多い。
だが、PowerPoint 2008 for Macは、筆者の不安をいい具合に裏切ってくれた。
上っ面の機能を触っただけでは本当の良さはわからない。そこで、今回はあるイベントの講演を、試しにPowerPoint 2008で作ってみた(先日行ったMOSAのイベントでの講演のスライドだ)。
実は、最初は慣れているKeynoteで作業を始めたのだが、作りづらい箇所があったため途中でPowerPoint 2008に切り替えたら、そのまま元に戻れなくなってしまった。
スライドの最終的な出来もかなり満足できた。
ここでは、筆者がKeynoteからPowerPoint 2008に乗り換えたポイントを紹介しよう。
「Keynote」は少ない手間で魅力的なスライドが作れる。これは素晴らしいことだ。しかし、その一方であまり手間をかけずに作ったスライドは、カッコはいいけれど、どれも似たような見た目に陥りがちだ。
それでも聴衆がWindowsユーザー主体ならなんとか目を惹くことができるが、Macユーザーの聴衆が多い講演では「ああ、Keynoteね」と思われがち。
その点PowerPoint 2008は後続の強みで、まだ聴衆の目が慣れていないだけに有利だ。おまけにスライドのテーマは60種類以上と豊富だ。
もちろん大事なのは量ではなく質の方だが、これも悪くはない。
筆者はこのページに掲載しているスライドでも使った「たそがれ」を愛用しているが、他もなかなかよくてかなり迷った(実は最初は「シック(chic)」というテーマで作っていたが、誤って「たそがれ」をクリックしたところ一目惚れして、そちらに切り替えてしまった)。

ちなみにテーマの選択はただ背景が変わるだけでなく、ちゃんとフォントの種類や文字の色もその背景に合うものに切り替わるが、こちらの趣味もなかなかいい。
いやそれどころか、グラフや表の配色などもかなりセンスがいいのだ。

だがなんといっても、「SmartArtグラフィック」という機能が決め手だった。
写真と文字、そしてグラフだけのスライドは単調になりがち。概念的な説明をする場合は、集合図やピラミッド図、階層構造、循環といった説明している要素の関係を視覚化する図を盛り込むことが多いが、PowerPoint 2008には、これを描くためのツールが付属している。
それが「SmartArtグラフィック」だ。
おまけに、ここが大事だが、この機能を使って描く図がこれまたこれでけっこう、カッコイイ!


もちろん、PowerPoint 2008が出てきたからといってKeynoteの価値が下がるということはないが、これまで話題を独り占めしていたKeynoteにPowerPointが反撃をしかけたのは、両ソフトのユーザーとしても実にうれしいかぎり。
今度はKeynoteが頑張って「SmartArtグラフィック」の対向機能を搭載してくる番だ。それが達成されたら、Officeの次のバージョンでPowerPointがそれをまた抜く。
こうした健全な切磋琢磨こそ、生産性アプリケーション復興に必要なのではなかろうか。
Office 2008 for Macは本当によくできている。アップル社流の紹介をすれば、「(Windows版も併せた)これまでのOfficeの中での最高傑作」といっていい。
おまけに、これまででもっとも手頃なOfficeでもある。「ファミリー&アカデミーパック」で2万2800円という価格は、Windows機に付属のOEM版Officeと比べてもいい勝負だ。いや、OEM版OfficeにPowerPointがついていないことを考えると、Mac版の方が圧倒的にお得と言えるかもしれない(「Office 2008 for Mac」が素晴らしい点は、こうやって独占状態のWindows版Officeにも、いい刺激を与え続けていることかもしれない)。
さて、生産性アプリケーションといえば、もう1つおもしろい話題がある。ファイルメーカー社のBENTOだ。

前述したように、昔はパソコン用アプリケーションと言えば、「ワープロ」、「表計算」と「データベース」ソフトが三種の神器だった。多くの人がパソコンを使って蔵書やワインの管理を行ったり、住所録を作ろうとしていた。
そんな折登場したファイルメーカーは、個人でも簡単に利用できるデータベースソフトとして革命を巻き起こした。
一方、Macに付属のHyperCardというソフトをデータベース的に使う人も多く、Macはさまざまなデータベースの宝庫となっていた時期もある。ワインのデータベースやらコレクターズアイテムのデータベースといったものが、HyperCard用の書類(スタック)として配布されていたのだ。
しかし、その後こうした情報はどんどんWebブラウザー上で扱うようになり、データベースソフトも個人用パソコンではなくサーバーで動かすソフトに変わってきてしまった。
ファイルメーカー社も、個人向け商品よりは、企業向けのデータベースソフトとサーバーソフトへ軸足を移している印象があった。
Mac用ソフトとしては、アップル社が以前出していたAppleWorksに、個人用データベース機能があったが、これも今や過去のソフトだ。
そんな中、ファイルメーカー社が、久しぶりに思いっ切り個人ユーザーをターゲットにした汎用データベースソフトを発表してきた。
「BENTO」という名のソフトで、現在、公開ベーター版を配布中だ。
あらかじめ用意されたテンプレートをカスタマイズしながら使うというアプローチは極めてiWork的で、これまでデータベースに慣れていなかった人にも使いやすそうだ。

Macの、それもMac OS X v10.5 "Leopard"だけに最適化したという潔さも新時代のアプリケーションを感じさせるし好感が持てる。
発売時期など不明な点も多いが、このソフトの登場はアプリケーションソフト業界全体にいい刺激になるのではないかと思う。
'90年代に成功体験のあるソフト開発者の多くが、インターネット時代以降ソフトが売れなくなったと嘆いている。
たしかにこれからはWebアプリケーションの利用がどんどん増えていく時代ではあるが、すべてのアプリケーションがWeb上に移行することはないはず。
それよりも大事なのは、アプリケーションをこれまでの延長線上でとらえて累加的に進化させるのではなく、現代のコンテクストに合う形でもう一度土台から見直し再デザインすることが、日増しに重要になってきているのだと思う。
そういわれれば、アドビ社の製品も最新のCS3からはアイコンまでガラっと変え、インターフェースも大幅に見直した。
そうしたソフトが増えてくれば、もしかしたらWebアプリケーションの話題と並行してパッケージアプリケーション市場、ひいてはパソコンそのものの再興もまだまだありえるのかもしれない。