
キーワードは「streamline」!?
[2007年12月21日更新]
「ストリームライン」という言葉がある。「ストリーム」は「流れ」、「ライン」は「線」。辞書を引くと直訳通り「流線形」という意味合いの言葉だが、動詞として使われることもある。
Mac OS X v10.5 "Leopard"のSpotlight機能に「Streamline」と打ち込み、辞書のアイコンを選んで詳しく調べてみると、
動 詞・他動詞
1 …を流線形にする.
2 〈仕事などを〉能率的にする, 合理化[簡素化]する;…を現代的にする.
と出てくる。
試しに「Apple streamlined」の組み合わせでWeb検索をかけてみると、
「Apple streamlined customer Internet accounts by merging .Mac (pronounced "dot Mac") accounts and Apple ID(アップルは.MacとApple IDのアカウントを1つに合わせることで、顧客のインターネットアカウントを簡素化した)」リンク
「Its elegantly streamlined industrial design includes many built-in conveniences(その[Apple Cinema Displayの]エレガントに簡素化した工業デザインは、またいくつもの便利さを実現するものでもある)」リンク
といった例文が見つかる。
私自身は、この語を耳にすると、右脳でアップル社製マウスのような滑らかで優美な曲線をイメージしながら、左脳で「それまでゴチャゴチャとしていたものを均して(ならして)きれいにまとめあげる/洗練させる」といった意味合いが思い浮かぶ。
2007年のアップルの活躍をもっともうまく象徴しているのが、この「Streamline」という言葉なのではないかと思っている。
スティーブ・ジョブズがアップルに復帰してから10年目、2007年のアップル社は、この10年の中でも最高レベルのワクワク感とともに幕を開けた。
新年、アップル社のWebページには「(創業から)これまでの30年は、ただの始まりに過ぎない。2007年へようこそ」という意味深なメッセージが掲げられた。
お正月開け早々に開催されたMACWORLD EXPO基調講演には、まだ陽が昇る前から尋常でないほどの人が長蛇の列を作っていた。外はまだ暗く寒かったが、その熱気と興奮ぶりは驚くべきものだった。
この基調講演でアップルが発表したのが「Apple TV」と「iPhone」。

どちらもiPodに続く新世代のデジタル機器で、Mac OS Xをベースにしている。
10年ほど前、ジョブズがアップル社のPDAプロジェクト、「Newton」を廃止したときに言っていたのが、「1社で複数のOSを同時に成功させるのは難しい」という理由だった。
当時のアップルはMac OS Xの開発を進めながら、並行してMac OS 8や9の開発もしなければならなかった。
Newton OSにまで手を出していたのでは、ちゃんとすべてを監督していいものが作れない。
あれから10年近くが経ち、Mac OS X(とiPodのOS)だけに注力し、それを洗練させてきたアップル社だが、この2007年から次のステップとして、このMac OS XをMac以外の家電製品にも応用し始めたのだ。
その第1弾がApple TVであり、第2弾がiPhone、そして第3弾が秋に発表されたiPod touchだ。

新しいiPod shuffle、iPod nanoそしてiPod Classicが採用する組み込み型OSは別として、アップル社は「OS X」を柱に、パソコンと家電製品の融合を図る企業への第一歩を踏み出した。
「パソコンだけのメーカー」脱皮を宣言すべく、「Apple Computer社」という社名から「Computer」の単語を取り去り、名実ともにデジタルライフスタイルのメーカーに生まれ変わったのだ。

アップルの中核技術とも言える「OS X」も、今年、大きく生まれ変わった。
Mac OS X v10.5 "Leopard"の登場だ。

このOSの最大の特徴と言えば、以前に触れたSpotlight(「No.204 - Leopardは「魔法の鏡」)もそうだが、見た目的にはFinderがカバーフロー表示に対応したことも大きい。
気がつくと基本となるユーザーインターフェースも、いつのまにかきれいにstreamlineされており、手の平にすっぽりおさまるiPod nanoから、巨大な箱に収まったMac Proまでカバーフローで統一されている(Apple TVは少し違うが、今後ソフトウェアアップデートで変わるかもしれない)。
同様にFinderのサイドバーもiTunesの影響を受けて、項目の並びを新たに整理し直している。
アップルは、これまで独立した事業としてややバラバラに進んでいたところもあるMacとiPod事業を、streamlineして両者のユーザーインターフェースの統一された秩序を作り出そうとしている。
デジタルライフスタイルのあり方も、streamlineされ、ついにiPodでも本格的に動画が活用され始めた。
今では、MacはもちろんApple TVやiPod shuffleを除く全iPod、そしてiPhoneでもMPEG-4/H.264形式の動画ファイルが再生できる。
これに加え、MacとiPod touch、iPhone、Apple TVではYouTubeのオンライン動画も楽しめるようになっている。
アップル製品はMac、iPod、Apple TV、iPhoneと種類こそ増えたが、それぞれの製品の間で用意されている機能やユーザーインターフェースは、統一感が保たれている。
おまけにこれらのラインアップがきれいにstreamlineされているから、製品の買い物体験も楽しい。
現在アップル社の商品には、デジタルハブ(つまりパソコン)であるMacと、スティーブ・ジョブズが「ポストPC機器」と呼ぶデジタルデバイスの2種類がある。
Macのラインアップは、とにかく安価に始められるMac mini、安価なコンシューマー向けノート型製品のMacBook、大型ディスプレイや大容量ハードディスクなどデスクトップ機ならではの魅力を満喫できるiMac、小脇に抱えられるサイズながら業務放送用の移動編集スタジオ、あるいは音楽の編集/演奏環境としてクリエイティブプロフェッショナルに愛用されているMacBook Pro、そしてとにかく最高位の性能を満喫したい人のためのMac Pro、そしてサーバー向けのXserveといった具合に、ニーズがきれいに分かれた6製品で構成されている。

同じメーカーの製品なのだから、どの製品がどんな人向けと分かれているのは当たり前のようだが、あたりをよく見渡してみると、なぜかそういう分類ができている会社は少ない。
一方、ポストPC機器についても、とりあえずお気に入りの音楽を楽しめればいいという人には、ファッションアイテムとして身につける楽しさもあるiPod shuffleを選べばいい。
液晶画面を使って曲順を選んだり、動画の再生も楽しみたい人はiPod nanoを。充実の音楽/ビデオライブラリーをすべて持ち歩きたい人には、初代iPodのコンセプトを今に引き継ぐiPod Classicを。
そして新世代のタッチ操作やネット接続、iTunes Wi-Fi Storeを楽しみたい人はiPod touchを選び、さらに携帯電話の機能も欲しい人はiPhoneを選べばいい(欧米の場合)。

このiPodとiPhoneは、それぞれ約50〜100ドル差の価格設定で、見ているとついつい欲しいと思っている製品より1つ上の製品が欲しくなるが、このあたりの価格戦略もうまくstreamlineされている。
一方、同じ音楽やビデオのコンテンツをリビングルームのテレビで楽しみたい人は、Apple TVへというきれいな流れができている。
もちろん、iPodをiPod Hi-Fiや、他社が販売するスピーカー製品に挿して音楽を楽しむことも可能だ。
リビングを飛び出して外出するときも、電車で行くときはiPod/iPhoneで、そして自家用車で行くときには、実は最近、米国で発売されている新車はほとんどの車種にiPod対応モデルが用意されているので、クルマに乗ってドック端子付きのケーブルにiPodをさせば、後はハンドルからiPodの操作ができてしまう。
このようにiPodを中心としたデジタル音楽/ビデオのライフスタイルも、場所やシチュエーションに応じて最適な形が選べるように、きれいな流れが練られている。
2007年のアップルを振り返って、もう1つ見逃せない重要な変化が、黒とメタル基調への移行だろう。
これまでMacというと、白とメタルの組み合わせが主流だった。
これまではiPodも白主体だったし、Macの看板製品、iMacや旧iBookも白1色だった。
ところが、今年に入ってから、アップル製ハードの基調色が引き締まった黒とメタルの組み合わせに切り替わった。
話題の製品、iPhoneやiPod touchも黒とメタルの組み合わせだし、Macの看板製品、iMacも最新モデルはこの組み合わせだ。
気がつけばiPodも、Classicとまで呼ばれる一番象徴的な製品から白モデルがなくなり、黒とシルバーの2色構成になった。
アップル社のホームページやiTunes Storeのページも黒地のものが増えて来ている。
まだまだ移行途中というイメージが強いが、アップルが現在、徐々に白基調から黒基調への移行をしていることは間違いなさそうで、おそらくこの移行が完了する頃には、最初の30年に続く、きれいにstreamlineされたアップルの新しいチャプターの製品ラインアップと、技術、ブランドイメージが確立されているのではないかと考えている。
アップルは動きの速い会社なので、おそらくその移行は2008年中頃には完了するのではないかと勘ぐっている。
2007年は、アップル新時代のプロローグだった。
2008年はおそらくアップル新時代の新しい幕が開く年になり、これまでのアップルに捉われない大胆な跳躍をしてくれることだろう。
64ビットOSのMac OS X "Leopard"を見ても、次世代のMacが搭載するであろう新しいCPU技術や新しいストレージ技術を見ても期待が膨らむし、待望のiPhone日本進出のことを考えても期待が膨らむ。
さらにはここへ来ておもしろくなってきたMac用アプリケーションも、胸を高鳴らせる(ついにMicrosoft Office 2008 for Macは試験期間を終え、量産体制に入ったし、前回紹介したBENTOには最新ベータ版が登場した)。
2008年のお正月は、いい初夢が見られそうだ。
最後に寒い冬休みの時間を持て余している方のために、いくつか提案をさせてもらおうと思う。
Apple's Eyeでは、これまでにもMacを有効活用するためのさまざまな提案を行ってきた。しかし、日頃は忙し過ぎてそうした提案を目にしてもなかなか実践にうつせなかった人も多いかもしれない。
第195回では:
「「アップル」と「学び」は好相性!」ということで、Podcastなどを使って大学の講義から語学のレッスンなどをする方法を紹介した。
ちなみにこの時には紹介していないが、最近、ブロガー達の間では「I Know」というインタラクティブな語学レッスンのWebサイトが大変な人気を博している。こちらもお勧めだ。

第198回では:
「iMovie、8年目の挑戦」というタイトルでiLife '08付属のiMovie '08と、今年一気に種類が増えた携帯型動画カメラを使ってムービー作りをする楽しさを紹介したが、これが本当に気軽に編集できて楽しい。
おまけに編集した動画をそのままYouTubeなどで公開できるのが非常に便利なので、これもぜひ試してみて欲しい。
第203回では:
「Leopardの情報を効率よく収集」というタイトルで、Mac OS X "Leopard"についての情報を効率よく継続的に入手し続ける方法を紹介した。
この記事で紹介したブログ検索サービスとRSSリーダーの組み合わせや、ソーシャルブックマークサービスの利用は、うまく使いこなすと、Leopard以外の情報収集でも非常に便利なので、ぜひともこの冬休みに習得して欲しい。
なお、RSSのその他の便利な活用方法については、2年半前に書いたこちらの記事も参考になるかもしれない:「第145回:RSS 9 つの活用術」。
同じ2005年に書いた「第148回:Macで読書」も休暇向けのトピックだ。
さて、読書と言えばパソコンを使った読書もいいが、紙の本を読むのもいい。
今年に入ってからのアップル社の好調ぶりに後押しされるように、今年はアップル関係の本がたくさん発売された。
手前味噌ながら、筆者も2冊ほど本を書かせてもらった。

1冊は「スティーブ・ジョブズ〜偉大なるクリエイティブ・ディレクターの軌跡〜」(アスキー刊)という本だ。
アップル社を牽引するカリスマ、スティーブ・ジョブズの半生を、彼の言葉と写真で振り返る著書だ。文章はそれほど多くないが、パラパラとめくりながら写真とジョブズの鋭い言葉を楽しむことができる。
中央にはマイクロソフト共同設立者、ビル・ゲイツとの対談をまとめたコラムもある。
もう1冊のタイトルは、「iPhoneショック」(日経BP社刊)。
ケータイ業界のあらゆる常識をことごとく打ち壊した型破りなケータイiPhoneが、これからのケータイ業界にどういう意味を持つのかを踏まえつつ、激変するケータイ業界で、日本のメーカーがどうしたらいいのかを考えるための本だ。アップル社が、どのような方法でiPhoneやiPodといった大ヒット製品を生み出したかを紹介しつつ、今の日本のメーカーでは、どうしてそれと同じことができないのかを検証している。
興味がある方はぜひ、手に取っていただければと思う。
もちろん、筆者の本以外にも、インターネットの書店で探してみると、多くの類書やDVDなども見つけることができる。
執筆時点ではまだ入手していないが、ディスカバリーチャンネルの「アップル再生:iPodの挑戦」というDVDもおもしろそうだ(中味は以前、ディスカバリーチャンネルで放映された50分のドキュメンタリーのようだ)。
また、アップル社ではないが、スティーブ・ジョブズが創業したもう1つの会社、ピクサーの最新アニメーション作品「レミーのおいしいレストラン」のDVDもこれまでのピクサー作品同様、大人が観ても十分楽しめる、よくできた作品なので、まだの方はぜひ観てみて欲しい。
映画の中には「過去にこだわってると未来を見失う」「世間は新しい才能(や創造物)に冷淡であるため、新人には支持者が必要だ」といったスティーブ・ジョブズの生き様を彷彿とさせるセリフも飛び出す。こちらも絶対のお勧めだ。
それでは、よいお年を!