
[2003 年 6 月 20 日 掲載]

最近の、アップル会心のベストセラー商品といえば、まず思い浮かぶのが iPod だ。日本で最大シェアを誇る音楽プレーヤーというだけあって、都内で電車に乗って出かけると、iPod を使っている人を何人も見かける。先日、取材で訪れた名古屋の街でも大勢見かけた。新幹線の中もしかり。
彼らはきっと、いつも音楽を身近に置いておくことがどれだけ素晴らしいかを知っているのだろう。
iPhoto のスライドショーに音楽を添えたり、話題のソフト、Life with PhotoCinema を触ったことがある人なら、音楽が普段から見なれている映像にさえも深みを加え、どれだけドラマティックに見せることができるかがよく実感できたはずだ。
同様に、いつも眺めている風景も、あなたが厳選したとっておきの 1 曲を聴きながら目にすれば、驚くほどドラマティックな景色に変わることもある。曲調が明るく変わるタイミングで、雲の合間から陽光が差し込んでこようものなら、それだけで鳥肌がたってしまう。
この音楽を身近に置くという楽しみを知っている人は決して少なくない。アップル社は最新型 iPod を発表する前段階で、すでに全世界で 70 万台の iPod を出荷していたという。年内には確実に 100 万台を達成しそうだ。
なんといってもおもしろいのは、この 70 万台強の iPod のほとんどすべてが、外観は同じでも中身がまったく異なることだ――音楽の趣味はそれを聴く人を映す鏡であり、おそらくどの iPod もその人にとって最高に趣味のいい内容に進化しているに違いない。
今回の Apple's Eye は、マックユーザーに取っての iPod の魅力をもう 1 度、再確認してみたい。なお、iPod が何かあまりよくわかっていない人には、別途コラムを用意したので、そちらを読んで欲しい。

iPod はちょうどトランプの箱と同じくらいの大きさの携帯型音楽プレーヤーだ。外出時に持ち歩いて、ヘッドホンで音楽を楽しめるようになっている。携帯型のカセット、MD プレーヤーなどに似ていると言えば似ている。
しかし、大きく異なるのがパソコンを持っていることを前提にしていること、そしてメディアの交換ができないことだ。
カセットテープではレコードから、MD では音楽 CD から音楽をダビングして楽しんだが、iPod では音楽 CD の内容を一度、パソコンに取り込み、さらにこの音楽を今度は iPod に転送するしくみになっている。
2 度も転送があると聞くと、ちょっと面倒に思える人もいるかもしれないが、実はまったくその逆で、カセットテープや MD よりはるかに優れた使い心地を実現する。
まず第 1 に、パソコンへの取り込みだが、これにはマック付属の iTunes というソフトを使う。同ソフトでは MD などへのダビングと違いパソコンの性能に応じて 2〜十数倍程度のスピードで行うことができる。4 分程度の曲でも数十秒ほどで取り込み終わってしまうのだ。
次に取り込んだ曲を iPod に転送する段になると、かかる時間はさらに短く、CD 1 枚でも約 10 秒ほどしかかからない。
その上、ほとんどの音楽 CD は、パソコンに取り込んだ際に自動的にそれを認識して曲名などの情報も同時に登録される。
ユーザーはこの曲名を見ながら、プレイリスト (再生する曲とその順番を決めたもの) を自由に設定することができる (例えば「海で聞きたい音楽」や「懐かしい青春時代の音楽」といった具合だ) 。
テープや MD と違いメディアの交換ができないので、そのことを不自由に思う人もいるかもしれないが、これまた大きな勘違いで 1 台の iPod には MD 数百枚分の曲が入るのだ。もし、あなたが数千枚の MD を用意したとしたら、確かに MD プレーヤーの方がより多くの曲を楽しめるプレーヤーになるかもしれない。しかし、それだけのディスクがあると持ち運びはもちろん、管理も大変になる。
iPod なら、ポケットにすっぽり収まる小さな筐体に最大約 7500 曲 (アルバム約 500 枚) を収録して持ち歩け、しかも、その膨大なライブラリーの中から目的の曲を指 1 本わずか数秒の操作で選びだすことができるのだ。
iPod の最大の魅力はハードディスクの搭載にある。現在、最新最上位のモデルには、ヘタなノート型パソコンよりも大容量な 30GB のハードディスクを内蔵している。1 曲約 4 分としても、最新の AAC (Advanced Audio Coding) 技術で圧縮したという前提なら約 7500 曲もの収録が可能になっている。アルバム 1 枚あたり 15 曲とすると、なんと 500 枚も持ち歩ける計算になる。
500 枚という数は、ビートルズの全アルバムと解散後のソロアルバムすべてを加えてもまだまだ余裕がある。これにローリングストーンズの全アルバムとソロアルバムなどを加えたとしても 3 桁にやっと届くくらいだろう。ちなみに CD ケース 1 枚の厚みは約 1cm なので、これを全部つみあげると 5m にもおよぶ。中にはこれより多くの音楽 CD を持っている人もいるだろうが (実は筆者もそう !) 、ほとんどの人はこれだけ余裕があれば全音楽ライブラリーを収めることが可能かと思う。
ただ曲を詰め込めるというだけなら大したことはないかもしれないが、iPod がもう 1 つ素晴らしいのは、高速な FireWire を採用していることだ。このおかげで CD 1 枚分程度の曲データーならわずか 10 秒ほどで転送が終わってしまう。
しかも、この転送作業が実に簡単なのだ。iPod を Mac につなげば、自動的に全ライブラリー内容を同期してくれる。
ご存知の通り、世の中には iPod 以外にも多くの携帯型デジタル音楽プレーヤーが存在する。しかし、これらのプレーヤーは、容量が極めて限られているフラッシュメモリーを搭載するというあやまったスタートを切ってしまっていた。そのため、外出前にユーザーが「今日聴く音楽」というのを手動で 1 つ 1 つ選んでコピーする必要があるのだ。これはかなり面倒な作業だ。
これに対して iPod ではつなぐだけ、あるいは最新 iPod ならドックと呼ばれる台に置くだけで後は全自動というお手軽さだ。
なかには iPod の全容量を使いきってしまう人もいるだろう。その場合は、iTunes のプレイリスト単位でどれを iPod にコピーするのかを選ばなければならない。しかし、これも一度決めてしまえば次からはその内容が自動的に同期される。
アップル社はこの AutoSync と呼ばれる同期機能の特許を持っており、これは今後も他社製の音楽プレーヤーでは同様の使い勝手がなかなか実現しないということを暗喩している。
iPod は、再生時の操作性も秀逸だ。数千曲の中から目的の曲の頭出しをしようとすると、かなり大変そうだ。これをカセットテープや MD でやろうとしたら気が遠くなるだろう。
ところが iPod ではわずか指 1 本で、しかも数秒から十数秒程度の操作で簡単に目的の曲を見つけだすことができる。
第 1 の秘密は「ブラウズ」と呼ばれるメニュー項目で、これを使えば収録曲をアーティスト名、アルバム名、曲名、ジャンル、作曲者名の 5 つの分け方で再分類し表示してくれる。例えばアーティストを選ぶと、アーティストの名前一覧が現れ、適当なアーティストを選び、「選択」ボタンをクリックするとそのアーティストのアルバム一覧が現れる。ここで目的のアルバムを選べば、その中の曲一覧が現れる。このようにブラウズでは階層構造を使って目的の曲へのアクセスをしやすくしているのだ。
第 2 の秘密は同製品の外観上の特徴ともなっている「スクロールホイール」と呼ばれる円盤形の操作部。音楽ライブラリーも 15GB ほどになると、登録アーティストの数も500〜1000近くなってくる。ブラウズのアーティスト一覧では全アーティストの名前がアルファベット (あるいは 50 音) 順で一覧表示されるが、1000 人近くの中から目的の 1 人を選ぶのは大変だし、何よりも W, X, Y, Z といったアルファベットで始まるアーティストにたどり着くだけで大変そうに思えるだろう。
ところが iPod のスクロールホイールはユーザーがその上で指をどれくらい速く動かすか (回転させるか) をモニターしており、それに応じてスクロール速度を加速させてくれる。今、加速状態にあるかどうかは、回す時に出るカチカチカチという音の間隔で直感的にわかるようになっている。たとえば 800 人羅列されたアーティストの一番最後の 1 人でも、勢い良く指を回せば数秒で呼び出すことができるのだ。
そう iPod にはスピーカーがないと思っている人がいるかもしれないが、実は iPod にもスピーカーはちゃんとあるのだ。ただし、このスピーカーは、音楽を聴くためのものではなく、製品を使いやすくする、ただそれだけのために用意されたものだ。
もったいないという人もいるかもしれない。
しかし、筆者には実はこれこそが非常に大事なことであるように思えてならない。
あなたが毎日使っている家電製品を 1 度じっくりと観察してみて欲しい。もしかしたら、あまりにわかりづらいために使っていない機能が 2〜3 はあるのではないだろうか。
技術者がどんなに頑張って、いい機能を組み込んでも、それを使う気にさせるデザインがなければ意味はないのだ。
iPod はただ技術的に全音楽データを詰め込めるようにしただけでなく、その膨大な楽曲を、あまり操作を意識しないでも心地よく楽しめるようにデザインされた希少な音楽プレーヤーなのだ。
そしてだからこそユーザーは、好きな時、好きな場所で、あなたが所有する全音楽ライブラリーの中の好きな曲を楽しむことができる。
そして実はこれは素晴らしい体験だ。
あまり音楽は聴かない、という人を別にすれば、世の中のほとんどの人は、ここで紹介した事柄だけでも十分、iPod に満足できるはずだ。だが、iPod はこれだけではない。
iTunes 側の設定さえ変えれば、電源ケーブルいらずの外付けハードディスクとしても活用できる。最近、どこでもインターネットにつながるようになったとはいえ、電子メールで送受信できるファイルはせいぜい 2MB くらいまでだ (実際にはもっと可能だが、インターネットのエチケットとしてこれくらいのサイズまでが望ましいとなっており、メールの送受信サーバーによってはこれよりも大きいメールは受け付けないものがある) 。
しかし、iPod ならたとえば旅行で撮った全写真データや流行のテレビキャプチャー製品で録画したテレビ番組 (1 時間で約 2GB 程度) といったものを入れて持ち歩くことも可能だ。
アップル社は推奨していないが、iPod に Mac OS X をインストールし起動ディスクに使う人もいる。こうすれば人のマックを自分の設定で起動することが可能だからだ。
よく考えてみれば、最新 iPod の 30GB というハードディスク容量は 1〜2 世代前の iBook や PowerBook G4 のハードディスクよりも容量が大きいのだ。
音楽再生 + ハードディスクというのは iPod の基本。実はこれは 2 年前に最初の iPod が発表された時から実現していた機能だ。
しかし、iPod はこの 2 年で大きく進化した。最大の進化は大容量化と薄型化、そしてドックに置くだけで同期ができるようになったことだが、実はこれ以外にもいくつか重要な進化がある。
1 つは携帯情報機器としての進化だ。まずアドレス帳機能がつき、つづいてカレンダー機能が追加され、さらに最新 iPod ではメモ機能も用意された。
PDA のようにペンや小型キーボードを使って情報を入力できるわけではないので、あらかじめマックに入力した情報を同期転送するのが基本になる。vCard などの標準フォーマットを使っているため、マイクロソフト Entourage などのデータでも表示できるのがうれしい特徴だ。
これに加えて意外に便利なのが「時計」という機能。旧型 iPod の時計はただ時刻を表示するだけだったが、最新型 iPod は、iPod 単体でアラーム時刻やスリープタイマーをセットすることができる。
つまり、iPod で音楽を聴きながら眠りにつき、朝は iPod の音楽とともに目覚めることが可能なのだ。
睡眠中に取れてしまいそうなヘッドホンで使うのは現実的でないが、ベッド脇のステレオ機器やラジカセにつないで使えば、なかなか便利そうだ。後述するがアクセサリーが豊富なのも iPod の魅力、今はまだないが、しばらくすれば充電も可能な新型 iPod 用スピーカーも登場することだろう。
iPod で進化しているのは情報端末機能だけではない。再生機能についても進化している。iTunes と iPod 用最新ファームウェア (iPod 内蔵のソフト) を最新版に更新すれば従来の 75% の容量で高音質が楽しめる Advanced Audio Coding (AAC) 形式に対応する。
もう 1 つ、おもしろいのが Audible.comという朗読型コンテンツにも対応したことだ。
朗読というと、書店などでたまに売っている文学作品の朗読を思い浮かべる人も多いだろう。実際、Audible.com の Web サイトにはベストセラー本の朗読データがたくさんある。同社は数時間におよぶ朗読データをわずか数十 MB の小さなファイルに圧縮する技術を持つ会社で、Audible.com コンテンツの再生では、再生を中断して曲などを聴いた後でも、次回、ちゃんと続きから再生する機能が用意されている。
だが、Audible.com でなんといってもおもしろいのが、書籍だけでなく新聞や雑誌、ラジオ番組といった日替わり、週替わりあるいは月替わりのコンテンツも用意されていることだろう。同社は近日中に日本進出も果たすという。
iPod のさらなる魅力は、アクセサリーが豊富にあることだ。
一番多いのは、本体に傷が付かないようにするシールや、専用のケースだ。
また車の中で iPod を楽しむための製品も数種類ある。カーオーディオを使っての再生に加えて、充電や iPod 本体の固定が可能な TransPodという製品が人気を集めているようだが、それ以外にも iPod 本体にぴったりマッチするデザインの iTripという製品も人気がある。どちらの製品でも無駄なケーブルが露出するようなことはなく、取り扱いが簡単なのもうれしい。
筆者が最近、気に入って使っているのはバード電子という会社の EZISON2という製品で、これは簡単な手持ちハンドルがついたステレオスピーカーになっており、中央に iPod がぴったりおさまるスペースがある。ここに iPod をおいて、ケーブルを iPod のヘッドホン端子につなぐと、iPod が個人で楽しむオーディオプレーヤーからラジカセのように変身する。電池もいれないのに、そこそこ大きな音がする。iPod のバッテリー動作時間は 8〜10 時間なので、家中どこの部屋でもケーブルを気にせず持ち歩けるのがうれしいところだ。ただし、新型 iPod の場合は充電用端子が本体下の方にあるため、同製品においたままでは充電ができない。
そう、今、アクセサリーが充実しているのは第 1、第 2 世代の iPod であって、最新型 iPod 用ではないので購入時には自分の iPod でも大丈夫なのか店員に確認をした方がいいだろう。
最新型 iPod のアクセサリーが出回るのはまだまだこれからだが、実はこれがさらにおもしろいことになりそうだ。というのも、最新 iPod の底面には大きな新型コネクターがついており、これを使えば、例えば音声の録音など、これまでの iPod にはできなかったさまざまな新しい機能が使えることになりそうだからだ。
このように常に進化するミュージックプレーヤーであることも、iPod の大きな魅力の 1 つと言えそうだ。
![]() | EZISON2 |
![]() | 年に 1 度のアップル社世界開発者会議 (Worldwide Developers Conference) が 6 月 23 日から開催される。これまでは慣例的に毎年 5 月に開催されていたイベントで、今年も当初は 5 月 19 日が予定されていたが、アップル社が突然、日程を変更。会場も、例年より巨大なサンフランシスコ モスコーニセンターに移した。 |
インターネットのマック情報サイトでは、さまざまな新製品の噂が飛び交っている。筆者の情報ソースも、何の発表があるか正確にはわからないが、これまででも最多の製品発表が行われる可能性を指摘している (それだけいろいろ新製品が準備されているが、果たして本当に全部一度に発表されるかはわからない、ということのようだ。実際、来月には MACWORLD Creative Pro というイベントも控えている) 。
1 つ確実にわかっていることは、Mac OS X の次期メジャーアップデート、パンサー (コード名) が披露されることだ。
Mac OS X 10.1 までは、とりあえず旧 OS から Mac OS X への移行を促すべく、使い勝手を旧 OS に近付けるといった工夫の方が目立ったが、Mac OS X 10.2 でアップル社は完全に攻めの姿勢に転じ、これまでになかった新しい技術を積極的に取り入れ始めた。
今度のパンサーが、この攻めの姿勢をさらにどこまで押し進めるのか、また、なかなか広まらない新技術をどのような形で、ユーザーが使える形に仕上げるのかは注目すべきところだろう。
もちろん、新型 Mac が発表される可能性も大きいので、そちらにも注目をしたい。