
Webの登場で可能になった「群衆の叡智」の不思議なパワー
[2008年5月16日更新]

Macの世界で「イベント」といえば、1月のMACWORLD EXPO/SAN FRANCISCOと、6月に開催される世界開発者会議(Worldwide Developers Conference)が注目の的だ。6月9日から開催予定の今年のWWDCでは、世界中で話題の携帯電話、iPhoneについて何かしらの発表が行われると期待されている。
WWDCに向かって盛り上がりをみせるなか、5月には東京でいくつかおもしろいイベントが開催されるので、ここで紹介しよう。
まずはこの記事が掲載された直後となる、5月18日(日)のイベントを紹介しよう。
10分間のプレゼンテーションを通して未知のアイデア/デザイン/ソフトウェアの素晴らしさやすごさを実感するイベント「DEMOsa」の第2回目が、六本木にある東京ミッドタウンで開催される。
開発者の団体、特定非活動法人MOSAが主催で、同会の常任理事、大谷和利氏が中心になって企画したイベントだが、注目の最新テクノロジーや最新製品を一堂にみることができる必見のイベントだ。
第1回の様子は、こちらのページで、動画付きでレポートされている。
大成功だった第1回では、このApple's Eyeで過去に紹介したTypeTrace(No.210 - Macでアートを楽しもう)が紹介された。
第2回でもこの連載で紹介したソフトが登場する。どこでも無線LAN接続を実現するWMWifiRouter(No.211 - 無線LAN 2.0)だ。
これに加えて、筆者がもう1つ大注目しているのが、有限会社オッティモが紹介予定の「エモン」というソフト。実は筆者も2003年3月に「Friends of "X"」というイベントで当時のバージョンを見ており、その頃ブログにレポートを書いている(nobilog1:「掘れるQuickTimeムービー」)。作者のホームページで古いバージョンが公開されてはいるが、いきなり触ってもおもしろさがわからないソフトなので、機会があればぜひ、作者自身による秀逸なデモを目にして欲しい。


DEMOsaの3日後には、「群衆の叡智サミット2008 - (WOCS2008Spring)開催」というイベントが行われる。昨年11月に開催した第1回目には筆者もパネルとして出させてもらったが、非常におもしろかったので、簡単に紹介したい。
「群衆の叡智」と言われても、なんのことだかわからない人も多いかもしれない。これはWebの登場によって可能になった「知のコラボレーション」を指した言葉だ。
例えば「Google」という人気の検索サービスがある。「Google」の検索は創業時から「欲しい情報が見つかりやすい」として人気が高かったが、これがどのようなメカニズムで動いているかご存知だろうか。
それまでの多くの検索エンジンは、ただWeb上にある情報を索引化して検索していたが、Googleは、「他のWebページからのリンクが多いページほど重要度が高い」という考えで、Webページをランク付けしている。つまり、「Web上で話題になっているWebページほど、他の人も見たいはずだ」という発想で、これを実践してみたところ人気に火がついた。

これは見方を変えれば、Webを利用する大勢の人の知識や(リンクしようと言う)意図の総和が、新しい知識(ページの重要度)を生み出した、ということである。
同様にWikipediaという有名なオンライン百科事典があるが、これも一般の人々が、自分が関心を持つ事柄について記事を書き、それを読んだ他の人が、さらに自分の知識を加筆したり、修正したりしてできたもので、市販の百科事典よりもかなり情報が詳しい。
日本では「誰が作ったかわからない、信頼に足らない百科事典」と見る人もいるが、米国では学校などでもWikipediaを正式の百科事典と認めているところが増えており、ドイツでは紙の百科事典として印刷されることも決まった(ただし米国版のWikipediaでは、情報を加筆する場合はできるかぎり出典を明らかにするという暗黙のルールが、正確さを期すために用意されていたり、信頼性向上への取り組みがよりしっかりしているという側面もある)。
「群衆の叡智サミット」とは、Webの登場によって可能になった、こうした新しい変化についてさまざまな分野の識者が語り合うイベントだ。「群衆の叡智」というだけあって、聴く方も聴くだけではなく、携帯電話などを使ってスピーカーへの反応を返せる仕組みが用意される。
専門家が多く集まるため、ある程度は最新のIT事情について知っていた方が話を楽しみやすいが、世の中の最先端のトレンドを扱っている会合ということで参加しておいて損はないだろう。
今回のApple's Eyeは、この「群衆の叡智」という話題について、少し話を膨らませてみたい。

そもそも「群衆の叡智」は、James Surowieki(ジェームズ・スロウィッキー)という人が書いた『「みんなの意見」は案外正しい』(角川書店刊/小高尚子訳)という本から話題に火がついたテーマだ。2007年1月、「ウェブ進化論」、「ウェブ時代をゆく」などの著書を持つ梅田望夫氏が、自身のブログで、「Wisdom of Crowds(群衆の叡智)元年」という記事を書いたのが発端で、テックスタイルという会社が、11月に「群衆の叡智サミット」を開催して、さらに注目を集めた。
『「みんなの意見」は案外正しい』という本には、いろいろとおもしろいことが書かれている。いっぱいにビン詰めされたジェリービーンズ(キャンディーのようなもの)が、果たして何個入っているかを当てようとする場合、数学などの専門家に意見を求めるよりも一般大衆の人を大勢集めてその意見を集計した方が、正確な答えが得られるというのだ。
集める一般大衆が、偏りがなくある程度、多様性を持った集団であることなど、いくつかの条件はあるが、その条件を満たす限り、実は専門家の意見よりも群衆の叡智の方が正しいことを大勢の研究者が証明している。
こうした仕組みを実社会に応用した仕組みの1つが、株式市場だろう。これも『「みんなの意見」は案外正しい』で紹介されている話だが、宇宙開拓史に残る悲劇、打ち上げ直後に爆発したスペースシャトルのチャレンジャー号の事故が起きたときも、どの部品が原因かを特定する調査にはかなりの長い時間を要したが、株式市場では、事故の直後からその部品を提供していた会社の株価だけが、突然、落ち始めたのだという。
これは、見方を変えれば「群衆の叡智」が未来に起こる出来事(その部品メーカーの責任追及)などを明確に予測した、と見ることができる。
最近、米国の大企業などでは、こうした「群衆の叡智」による「予測」の力をビジネスに役立てようとすることが増えてきている。そこで使われるのが「予測市場」と呼ばれるメカニズムだ。
これは未来の出来事について賭けをしたり、有望な人物や技術などを株式の銘柄に見立てて取引するというものだ。

米国では、毎年アカデミー賞の各賞を予想するHollywood Stock Exchange(HSX)やIT業界の次の流れを予想する「the Industry Standard」といったサイトが有名だ。特にHSXは、2004〜2007年度においては、予測した計33の受賞対象のうちの29賞を的中させている(的中率は87.8%)。しかも、2005年は8賞すべて正解だった。

日本でも、昨年の「群衆の叡智サミット」にあわせて「Prediction」というサービスが立ち上がって注目を集めている。
執筆時点で同サービスを覗くと、「東京六大学野球春季リーグの優勝校は?」や「キムタク主演月9ドラマ「CHANGE」の最終回視聴率は?」、「ヒラリー・クリントンは女性初の大統領になれますか?」といったテーマが取り上げられている(また、筆者も「6月、日本版iPhoneが発表される」というBet市場を作ってみたので、興味のある方は賭けに参加してみて欲しい)。

「予測市場」を狙ったものではないが、株式市場を模したゲーム的サービスは、昔からある。例えばどの芸能人が、どれくらい旬かを株式市場で取引する「芸能証券」も昔から人気があるサービスの1つ。さらにBSテレビ局のBSフジでは、テレビ連動型でトレンド商品を株として取引する番組「お台場トレンド株式市場」という番組を放映していた(2002年まで)。筆者も何度かゲストとして登場したことがあるが、おもしろい番組だった。
予測市場は、もちろん未来予想をするための有用なツールという側面もあるが、その一方で、自分の関心事について世間がどんな反応を示しているかをリアルタイムで確認できるというおもしろさがあり、毎日の生活にハリを与えてくれる。
これが本物の株式となると、真剣かつ頻繁にチェックせざるを得ないが、そういうわけでもない。株式の緊張感と遊びの楽しさ、そして未来の出来事についての予測という実用性のバランスがなんとも楽しい。

「予測市場」というものに興味が湧いた人は、駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部准教授の山口浩氏のブログを読んでみるといい。山口氏は、日本における「予測市場」の第一人者で、同ブログにも「予測市場」というカテゴリーが用意されている。
もっとも、HSX以外の予測市場は、まだそれほどすごい実績を残せてはいない。
その理由について、これは筆者の個人的な意見だが、それはまだ「予測市場」というものに興味を持っている人が偏っていることも大きいのではないかと思っている。
『「みんなの意見」は案外正しい』では、群衆の叡智が機能するために満たされているべき、4つの条件をあげている:
1.意見の多様性
2.独立性(他者の考えに左右されないこと)
3.分散性(身近な情報に特化し、それを利用できる)
4.集約性(個々人の意見を集約して集団の一つの判断にするメカニズムの存在)
その中でも、筆者がとりわけ重要だと考えているのが、1.の多様性だ。

実はミシガン大学のScott E. Page(スコットEページ)教授が「THE DIFFERENCE」という本を書いているが、この本の内容は『「みんなの意見」は案外正しい』を受け、その中でもとりわけ重要な「多様性」について解説している。まだ、日本語訳がない上にかなり分厚い本なので、あえて読もうとする日本人は少ないかもしれないが、実はScott E. Page氏のホームページで、彼がこの本に関連して行った講義のPowerPointスライドが配られている。

こちらのページにある「Part 1: An Introduction to Diversity」、「Part 2: The Implications of Diversity」というのがそうで、これを見ると、1人の専門家と多様な人の集合だと、後者の方が正しい結果を出しやすいことを実験結果や数式を使って証明している。
このテーマについての、その他の参考文献としては、『「みんなの意見」は案外正しい』の著者、スロウィッキー氏が、「IT Conversation(英語)」という毎回IT業界の重要人物のインタビューや講演を紹介しているPodcast番組に登場しているので、そのインタビューを聞くことができる。
少し脱線するが、「群衆の叡智」のような最先端のトレンドを学ぶのにちょっと便利なWebサイトがあるので、ついでに紹介しよう。

「slideshare」という、プレゼンテーションのスライドを共有するためのWebサイトで、世界中のさまざまな人がPowerPointで作ったプレゼンテーションが公開されている。
ここで「群衆」を意味する「Crowds」というキーワードで検索をかけてみると、すぐにたくさんのスライドがヒットする。
The MindReading Agencyの「Predictive Markets & the Wisdom of Crowds Experiments」(予測市場と群衆の叡智の実験)のほか、「群衆の叡智が建築の世界をどのように変えるか」やクラウドソーシングと呼ばれる未来予測を群衆にゆだねるビジネスの紹介など、おもしろいスライドがたくさんみつかる。
さて、今回はMacともOfficeとも、あまり関係ない話をしてしまったので、最後に米国の「The Industry Standard」からAppleやMacに関するおもしろい予測をピックアップして紹介してみよう。
まずは「3G版iPhoneが6月までに出る可能性(3G iPhone arrives within 60 days)」についてだが、75%が賛成している。
また、「米国では8月まで次世代iPhoneが出ない(No next generation iPhones in the US before August 2008)」という予想の支持率は39%で、大方が6月の3G版iPhone発表と同時に、これが米国でも発売されるとみているようだ(事実、米国では現在、iPhoneの受注をストップしてしまっている)。
アップルが「iPhone用にビデオチャット機能を発表する(Apple rolls out mobile videoconferencing on iPhone)」という予想の支持率は49%で白黒つけにくいが、アップルが「iPhonenano」を発売するという予測は支持率41%と人気がない。
アップルが、「予告通り2008年中に1000万台のiPhoneを出荷する(Apple will ship 10 million iPhones in 2008)」という予想の支持率は60%で、これはなんとか達成できそうだ。
他にも、アップル社の「iTunes StoreがWall-martを抜いて、米国最大の音楽販売ルートになる(Apple's iTunes to displace Wal-Mart as largest music retailer in U.S.)」という予想は支持率88%で、実際にそうなった。
また、Mac関係では、「2月の時点で14%を達成したMacの市場シェアが、年末までに18%を達成するか(Apple hits 18% share of US computer market by end of year)」という予測が69%の支持を得ている。
日本ではどうなるのかも気になるところ。Prediction.jpで、市場をつくってみようかな……
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