
[2005 年 5 月 2 日 掲載]


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ゴールデンウィークの幕開けを告げた 4 月 29 日夕方、銀座 3 丁目の交差点は熱気であふれていた。 |
そこにはあるのは、金属質の深い光沢の外壁に白い大きなリンゴのマークの建物、Apple Store Ginza があった。おびただしい数のカメラマンがしきりにシャッターを押し、「報道受付」と書かれた札を持っている人もいる。
道行くカップルの会話が聞こえてきた。
「なにこれ? 誰か有名人でもくるの?」。
おそらく男は、建物の前に置かれたプレートの「Tiger ワールドプレミア Tonight」の文字を見たのだろう。「うん、なんかタイガー・ウッズが来ているみたいよ」
もちろん、そうではない。
4 月 29 日は、約 1 年半ぶりとなる Mac OS X のメジャーアップデート、Mac OS X v10.4 'Tiger' が発売された日だ。これにあわせて、アップルは全世界の Apple Store で「ワールドプレミア」というイベントを開いた。最近、新製品発売というと夜中に行列ができることが多いが、この世界規模のイベントを、もっと大勢の人に楽しんでもらおうという配慮もあってか、開始は午後 6 時となっていた。

この日も Apple Store はいつも通り午前 10 時の開店だったが、夕方 5 時頃には、一度店を閉め、その間に店内の全マシンに Tiger のインストールが行われたようだ。
それまで店内にいた人たちも、Tiger にいち早く触れようと列に並び、5 時時点では列は 300m ほど先の明治屋のあたりまで伸びていた。6 時の開店の時点で、行列に並んでいた人は 1000 人にものぼったという。
これは Mac を使っていない人には異様な光景だったかもしれないが、銀座通りに並ぶほかの店は、Apple Store 開店からの 2 年ですっかり慣れた様子だ。
ある店の人は、「こんな行列をつくるのはどうせアップルさんでしょう」苦笑まじりに列を見つめる。
店内からは大音量で音楽も流れているし、「なんだか、楽しそう」と行列先頭に割り込もうとするおばさん衆 3 人組も見かけた。



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銀座 3 丁目の交差点のそんな群衆を、ちょっと遠巻きにやさしい笑みを浮かべながら見つめている男性がいた。黒いTシャツとジーンズ姿のこの男性、よく見るとアップル社代表取締役の前刀禎明氏だーー米アップル本社の副社長も兼任し、日本の Mac ユーザーの事情を代弁してきた人物でもある。 |
「本当にうれしいことです。OS の発売ですよ。それでこんな長い行列ができるなんて、考えられますか ! おそらく、こんなことは Windows 95 の発売以来のことでしょう」
そう、今からちょうど 10 年、Windows 95 の時は、ちょうどインターネットブーム到来とタイミングが重なって「パソコン」そのものが盛り上がっていた。
猫も杓子もパソコンに飛びついた。何を隠そう、Mac が日本で一番売れたのもこの Windows 95 発売の年だ。
あれから 10 年、パソコンは一家に一台が当たり前の存在になったけれど、その一方でなんだかつまらない存在にもなってしまった。
誰でも、とりあえず、Web ブラウジングと電子メールはするけれど、そこでオシマイ。
十数年前によく聞かれた「パソコンなんて買って何に使うの ?」という質問は聞かなくなったけれど、その代わりパソコンを楽しそうに語る人の姿も見かけなくなってしまった。
もちろん、iMac の発売や Mac OS X の発売、iLife の登場など、マイルストーンとなるイベントは幾度かあった。それらを使う人々は、知らない人々よりはるかに楽しいデジタルライフスタイルを満喫できていたはずだ。
ただし、その楽しさを知っている人の規模は、ちょっと少なかったのかもしれない。
だが、ここへきて iPod が久々にデジタル製品の楽しさを教えてくれた。そして、その人気が Mac にも波及し始めた。おそらく、そんな影響もあったのではなかろうか。
4 月 29 日、銀座 3 丁目の 5 時 50 分は熱気に溢れていた。



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6 時 10 分前、Apple Store 店内では、緊張と興奮が交錯していた。緊張した面持ちの店員が、しきりに入り口を出入りしている。その周りでは報道陣がベストなカメラポジションの奪い合いをしている。 |
大勢の店員と、報道陣、アップル社からかけつけたスタッフの視線は、入り口の 1 点に集まっている。
5 分前、同店の初代店長で現在は日本国内の Apple Store を監督する Steve Cano 氏が入口に立った。
2 階への吹き抜けの方に視線を投げながら「Music! Louder」と叫んだ。
視線の向こうでは DJ EZ が、大音量でグルーヴサウンドを奏でている。
続いて、入り口に立った店長が、大声で叫んだ。「あと 1 分 !」
「おぉ !」店内から大きな声があがり、手拍子も鳴り始めた。
「3、2、1....」
「わ〜〜〜っ」という歓声とともに、最初の顧客が入ってきた。
前日、会社を休み、発売の 25 時間前から並んでいたという強者だ。この日のためにスーツを着込んできたという。
その後もぞくぞくと人が入ってくる。
よく見ると通行人たちも足を止めて、店内をいったい何事かと思って見つめている。
銀座通りに溢れていた熱気が、一気にApple Store店内になだれ込んだ。


