
2009 年 4 月より、日本の受注ソフトウェア開発業にも、工事進行基準が原則として適用されることになりました。工事進行基準とは何か、開発現場や情報システムの準備は何が必要になりかをご紹介します。
工事進行基準の導入にあたり開発現場で必要となるのが、プロジェクト マネジメントの強化です。特に重要なのが、業務プロセスの標準化と精度の高い見積もりの作成、そして迅速な進捗の把握です。

1. 業務プロセスの標準化
標準的な開発フローを「テンプレート」として定義することで、開発プロセスの均一化を図ることが可能となります。またテンプレートの使用により、標準化の徹底や、属人的な見積もり誤差の排除が実現し、品質の均一化を図ることができます。テンプレートには、プロジェクトを立ち上げるにあたって必要になる、会社のルールや、必要なタスク、組織で実施することが義務付けられている、たとえば部門長による計画の承認など、業務のフローを記述します。また各フェーズごとに必要になる成果物や、必要な担当者のスキルや標準的な工数を記載します。テンプレートを作成する際には、過去に実施したプロジェクトの実績を再利用します。プロジェクト管理ツールのファイルには、過去に実施したプロジェクトの実績情報すべてが保存されています。各タスクにどれだけの工数が発生したのか、当初の計画との差異はどの程度あるのか、チーム メンバの負荷はどうだったのかといった情報が記録されていますので、これらの情報をテンプレートとして再活用することで、必要なタスクの抜けを防止して、新規計画の見積もり精度を向上させることが可能になります。テンプレートは、各フェーズごとやアプリケーションの種類別に整備することでさらに、プロジェクト計画作成時間の短縮と、精度の向上が可能になります。

テンプレートは、Web 上に各種参考になるものが、公開されています。
プロジェクト テンプレート集はこちら。
2. 精度の高い見積もりの作成
日本の IT 業界は慣例的に要件定義が終わる前に開発を「見込み」でスタートさせたり、要件が確定していないのに、設計、開発、テストなどの下流工程も含めた見積もりを一括でするなど見積もりが甘い業界でした。工事進行基準においては、プロジェクト全体のスコープを顧客と合意したうえで詳細な見積もりを作成することが求められてきます。これまでのようないわゆる「人月」による概要レベルの見積もりではなく、WBS を用いた詳細レベルでの精度の高い見積もりとリソース計画の作成が必要となります。
2-1. WBS の作成
プロジェクト管理において見積もりを厳格に行うには、詳細な WBS の作成が重要です。WBS を使った見積もりでは、細分化された個々の項目について工数を見積もったうえで、それらを積み上げることで、全体の工数を求めます。必要な作業項目が漏れなく十分に詳細レベルまで洗い出されていれば、見積もりも十分に正確なものとなります。WBS を使いフェーズごとに担当者をアサインできるレベルまで詳細化をすることで、現実的な計画を立てることが可能となります。WBS は、プロジェクトマネジメント全体の基盤となるもので、見積もりの妥当性を示す、有力な資料となります。WBS を作成することで、顧客に対して、正確でかつ説得力のある見積もりの根拠を提示することが可能になります。

2-2. リソース計画の作成
リソース計画とは、作成した WBS に対して、実際の作業担当者をアサインすることです。プロジェクト管理で最も重要なことは、実はリソース管理です。プロジェクトの収益率の向上を目指す際、プロジェクトのリスクに応じた選択受注が必要ですが、そのリスクを判断する鍵になるのが、経験のある人材をきちんとアサインできるかどうかの判断です。現在では人材は最も大きなプロジェクトのリスクファクタになってきており、さまざまな経験やスキルを持った人材群をプロジェクト群にどうやって最適化配置していくかが、プロジェクトの正否を決めてしまいます。表計算ソフトなどを使用してプロジェクトを管理していては、人材のスキルや、稼働状況に応じたリソース配分が困難です。プロジェクト管理ツールにより適切にリソースを管理することが重用です。リソース計画作成時には、WBS は、担当者をアサインできるレベルまで充分に詳細化する必要があります。通常 IT プロジェクトでは、1 人の担当者が、開発やテスト、ドキュメント作成まで幅広く複数のタスクを担当するために、リソースの調整が重要になります。単純に作業をアサインしてしまうと、作業の重複が発生し、担当者の負荷が増大し、成果物の品質の低下につながり、手戻りの発生の原因にもなります。
各担当者はそれぞれ専門分野が異なりますし、人件費も異なります。コストの範囲内で、担当者のスケジュールや作業の空き時間を考慮しながら、最適な担当者をタスクにリソースとしてアサインすることが重要です。優秀な開発者をひとつのプロジェクトに固定するのではなく、会社としてプライオリティの高いプロジェクトに適切にアサインするためには、全社のリソースのスケジュールや負荷を一元的に管理することが必要となってきます。

2-3. ボトムアップ見積もりの実施
営業段階においては、概算的にトップダウンで見積もりを行うこともありますが、プロジェクトの計画段階にあたってはボトムアップ見積もりの実施が必要となります。ボトムアップ見積もりは詳細見積もりとも呼ばれますが、WBS をベースとして、個々のタスクの工数とリソース単価を掛け合わせた合計で見積もりを算出する方法で、トップダウン見積もりと比較して、高い精度で見積もりを行うことが可能になります。

3. 迅速な進捗の把握
原価比例法による正確な進捗率を把握するためには開発コストの把握、つまりメンバーの作業時間収集が必要となります。
3-1. 発生主義によるプロジェクト単位での原価の把握
新基準のもとでは、基本的に進捗率は原価比例法あるいは、EVM で算出します。土木や建築とは異なり、ソフトウェアという成果物の完成状況が判断しづらい開発においては、実際に発生した作業時間を基準に進捗率を算出する方法が合理的です。その際に重要になるのが、どうやって発生原価を算出するかです。ソフトウェア開発においては、下請けへの外注費用を別にすると、開発コスト≒人件費と考えられます。発生原価を算出するにはプロジェクト単位で、投入した要員工数や作業時間を把握することが必要となります。人件費のそれぞれ異なるプロジェクト メンバが、それぞれのプロジェクトに対して、どれだけの作業を行ったのかをリアルタイムにトラッキングすることが必要です。ソフトウェア開発においては通常 1 人のメンバが、複数のプロジェクトにアサインされていることが多いので、単純に出退勤時間からは個々のプロジェクトの作業時間を把握することができないため、プロジェクトごとの作業時間を把握するシステムが必要となってきます。また、月次会計、四半期会計に対応するには、この作業時間の集計を迅速に行うことが必要になります。
3-2. 進捗管理体制の構築
作業時間管理を実施するにあたり重要になるのが、いかに現場への定着を促進するかです。 2 重入力などにより作業時間トラッキングのために現場の負荷が増大してしまっては、日次や週次でのリアルタイムな作業時間のトラッキングが困難となります。Microsoft Office Outlook のような普段の業務に使用しているツールを使用して、予定表や、タスク リストにプロジェクト タスクをインポートして、直接作業時間報告を可能にするといった、現場での使いやすさや抵抗感の少ないシステムが必要とされてきます。Microsoft Office Project Server 2007 を使用すると、Outlook コネクタにより会議などの自分の予定と同じように、プロジェクト マネージャによってアサインされたタスクが、予定表に表示されます。ユーザーは予定表を見て、自分にアサインされたタスクを確認して、Outlook から、作業時間を報告することが可能です。

工事進行基準では IT 企業が進捗を恣意的にコントロールして、計上する売上げを操作できてしまうことの可能性が指摘されています。IT 企業には、会計監査に耐えうるレベルで進捗率を厳密に測定していることを、開示可能な手法で計測できることが必要となります。WBS の作成と作業時間のトラッキングのデーターは、IT 企業が適切な進捗管理を行っていることを証明する有力な情報になります。
また損失を確定して、工事損失引当金を計上するには、プロジェクトの進捗状況のリアルタイムな損益状況モニタリングの仕組みが必要となってきます。
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