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司会者:ありがとうございました。まさに、21世紀を担う若者への大変興味深いメッセージをいただいたように思います。 引き続き、質疑応答を行います。なお、質問者は本学の学生、または一般の学生の中からあらかじめ選ばせていただいております。これからの進行は、立教大学観光学部教授 鳥飼玖美子先生にお願いいたします。質疑応答でも、同時通訳を使用いたしますので、レシーバーはそのままお使いください。 鳥飼玖美子教授:ゲイツさん、非常に刺激的かつ革新的なプレゼンテーションをどうもありがとうございました。質疑応答に入ってもよろしいでしょうか。 ビル ゲイツ:はい、お願いします。 鳥飼玖美子教授:インターネットであなたが立教大学に来てくださるということを発表したところ、7,000人以上もの人が参加を希望し、5,000以上の質問がよせられました。いくつか質問を紹介したいと思います。例えば、「21世紀にはどのような情報化社会が訪れると思いますか」といった質問や、またご想像通り、多くの人がマイクロソフトの将来について聞きたがっています。講演でも簡単にご説明していただきましたが、多くの人が、マイクロソフトの方向性についてのお考えや、何を行うべきだと考えていらっしゃるのか、あるいは、マイクロソフトに何が起こると考えていらっしゃるかを知りたがっています。 そしてもうひとつの質問は、グローバル化したデジタルの世界では、対面コミュニケーションはどうなるのか、地域的な文化はどうなるのだろうか、という点に関してです。デジタル・デバイドについてもはどのように取り組むべきでかという質問があります。もし時間が許せば、後ほどこうした質問にお答えいただきたいと思いますが、会場にもたくさんの出席者がいらっしゃいますので、若い参加者に直接質問をしてもらうことにしましょう。 たくさんの質問をいただいておりまして、全員に、というわけには行きませんので、こちらの方で何名かの方を選ばせていただきました。質問をすることになっていらっしゃる方は、お名前を呼びますので、中央のマイクまでいらして下さって、そして質問していただきたいと思います。まず、一番目の方です。白井聖隆さん、お願いします。 質問者(白井):大変興味深いお話ありがとうございました。立教大学社会学部社会学科3年の白井聖隆です。早速ですが、ビル ゲイツさんは、現在、情報社会のメインツールであるパソコンが21世紀情報社会のメインツールであり続けると思いますか。と言いますのは、携帯電話特にi-modeの登場やデジタル家電の登場などにより、21世紀もパソコンがメインツールであり続けるかどうか、疑問なところがあるのです。そこの点について、どう思いますか。 ビル ゲイツ:それは「PC」をどのように定義するかによると思います。私にとってパソコンとは、スクリーンの前に座って、創造活動やフル・スクリーンで文書を読んだりする、フル・スクリーンの端末です。従って、例えば、パソコンを使って「Microsoft Word」(ワープロソフト)を利用する。あるいはビデオの編集を行ったり、家族のアルバムを整理したりすることは、フル・スクリーンでやりたいと思うでしょう。例えば今日i-modeのような小さなスクリーンでできることは、非常に印象的です。天気や株価、地図、そういった類のものを見ることができます。しかし、それらは非常に補助的なことです。未来のPCも、ワイヤレス・ネットワークに接続されることになります。起動するのに全く時間がかからなくなり、今日のような複雑性はなくなるでしょう。しかし、音声や、手書き、Web上の情報検索、そして根本的に新しい創造活動を行うことは、PC端末が独自の役割を持ちつづけるでしょう。さて、テレビや携帯電話、フル・スクリーンのPCといった様々な端末がありますが、これらは、作業を行う上で主要な端末になると思います。マイクロソフトは、これら全ての端末用にソフトウェアを作ります。実際、ほとんどの人が求めているのは、例えば一つの端末でスポーツといったように興味の対象を特定すれば、全ての端末に同じ情報が表示されることです。インターネット上のソフトウェアこそが、これを可能にする重要なものなのです。端末数では小型のものの方が大型スクリーンよりも増えるかもしれませんが、新しいソリューションで面白いのは、こうした複数の端末間の連係だと思っています。 鳥飼玖美子教授:はい、それではですね、2番目の方にいきたいと思います。次は、伊藤美絵さんです。 質問者(伊藤):興味深く励みになる講演をありがとうございました。立教大学4年の伊藤美絵と申します。二人の子供の父親としてのゲイツさんに質問があります。ゲイツさんは、大学を中退して起業することが、アメリカ社会では大きな成功につながることを示されたと思います。とてもかわいいお子さんをお持ちですが、将来大学を中退して会社を立ち上げたいと言い出したら何とアドバイスしますか? ビル ゲイツ:いい質問ですね。私がハーバード大学をやめたとき、休学扱いにしたことは運が良かったと思います。事実、今でも休学扱いなのです。いつでも戻ることができます。追い出されたりしたわけではないので、両親は私が大学をやめて会社を起こすと言った時には、事業に失敗する可能性も高いし、大学に戻るだろうと思っていたと思います。でも私がどんなにわくわくしていたかはわかっていました。両親はたくさんの質問をし、私はよく考えました。資金は十分あるのか。何をするのか。しかし、私がどれほど真剣だかわかり、最悪のシナリオでもそう悲惨なことにはならないことを理解してくれると、両親は私の決定に賛成してくれました。ですから私も、若いうちの好奇心と、無茶苦茶で馬鹿げているように見えることを追い求めることの二つの面で、私の両親と同じように子供達を勇気付けられればと思っています。 鳥飼玖美子教授:どうもありがとうございました。それでは、次にまいります。次は、中田 達也さんです。 質問者(中田):素晴らしい講演をありがとうございました。立教大学で英米文学を学んでいる三年生の中田 達也です。グローバリゼーションの時代である今日、異なった言葉を話す人同士が対話を求められています。コンピュータは、こうした言葉の壁を越えることを可能にするとお考えでしょうか。例えば、機械翻訳はどの程度の進歩をもたらすと思われますか。 ビル ゲイツ:非常に良い質問です。現在、その分野で多くの研究が行われています。もちろんインターネットは、プラットフォームとしては世界中の言語をサポートしているので、誰もが異なった言語でサイトを作ることができ、私たちはソフトウェアでこれをサポートするという意味では優れた役割を果たしてきたと思います。しかし、共通の言語を持たない場合、常に、あるいは少なくとも今後20年間は、問題が残ると思います。インターネット上で自動的に翻訳を行うソフトウェアも、既に存在します。Webページにアクセスすれば、こうした機能を利用して、翻訳の内容がどのようなものか無料で見ることができます。ですが機械翻訳の質はかなり低いので、これから署名しようとしている契約書や、飲もうとしている薬の説明書については、こうした無料の翻訳に頼ろうとは思わないでしょう。しかし、インターネットのサービスでは、あらゆる種類の文書の翻訳を請け負ってくれる翻訳会社を数多く見つけることができるのです。文書の量や内容、翻訳の品質や速度によって、数百の会社がサービスを提供しています。従って、「1時間でお願いします」と言ってクレジット・カード番号を教えて、完成品をインターネットを通じて受け取ることすら可能なのです。人による翻訳が、このようにして促進されています。機械翻訳は改良が重ねられていくとは思いますが、本当に完全な翻訳をするためには、世界についての認知というもの、世界についての理解が必要なのです。これは、過去20年間色々な取り組みをしてきたにも係らず、あまり発展してこなかった分野の人工知能の問題なのです。したがって、個人的には、今後20年たっても完璧な機械翻訳はできないのではないかと思っています。しかしこれは、今後20年間にインターネットにより第二言語としての英語が急速に広まることを意味するものでもあります。 質問者(中田):どうもありがとうございました。 鳥飼玖美子教授:私たち人間の翻訳者の仕事はなくならないということですね。 ビル ゲイツ:その通りです。そして外国語を学ぶための努力も無駄にならないということです。 鳥飼玖美子教授:それは良かったです。 鳥飼玖美子教授:それでは、次の方です。河野 祐介さん、お願いします。 質問者(河野):お越しいただき、そして素晴らしい講演を、ありがとうございます。立教池袋高等学校1年の河野 祐介と申します。質問があります。今、非常に成功なさっているわけですが、過去の大きな失敗を振り返って、それをどのように乗り越えたか教えて頂けますか。事業が困難に直面したとき、どのように問題を解決したのでしょうか。 ビル ゲイツ:最後の部分をもう一度お願いします。 鳥飼玖美子教授:事業に困難があったとしたら、どのように解決しますか。通常、問題に直面したらどのように乗り越えますか。 ビル ゲイツ:私の学生生活にもビジネスにも、たくさんの失敗やアップ・ダウンがありました。会社については、失敗を犯した時に、これに早めに気付き、責任のなすり合いをせずに、一歩下がって新しい手法をどうするかに集中するだけの賢明さがあったので、運が良かったと思っています。以前にOS/2というオペレーティング・システムを開発しようとしたのですが、途中でIBM社が抜け、独自の開発を始めてしまったのです。当時IBM社は私たちの20倍の規模だったので、これは恐ろしい経験でした。彼らは今でも私たちの5倍の規模ですが、当社を破滅させてやると言われたのです。私たちは必死で働きました。今となってはそれがモチベーションとなったと言えますが、当時は非常に怖い状況になったと感じました。私たちが開発した多くの商品は、最初は目標を達成できず、辛抱していると、人からはよくマイクロソフトの商品は三つ目のバージョンが非常に良い業績を達成すると言われます。いつもそういうわけではありません。最初のバージョンが成功することもあれば、全部だめなこともあります。しかし当社は、粘りと改善で知られているのです。私は学生のころ、いつも良い成績を取っていたわけではありませんでした。 13歳の頃に、競争させるために生徒を二人ずつ組ませていたクラスがあったのですが、私は本当に何も理解していないと思っていた生徒と組まされました。自分の成績も悪かったし、「何も分かっていないと思われているんだ」と思いました。そこでその時、「いい成績が取れることを見せてやる」と思ったのです。私はその学校で、その年から次の年にかけての、少なくとも成績が伸びたということついて、一番成績が変わった記録を作りました。今まで非常な困難に直面したことがありますが、幸運にも、重要な時期に私を指導し、共に作業をしてくれる人にめぐり合うことができました。私の最初のパートナー、ポール・アレンと私は、コンピュータについて共に学び、一緒に会社を作ることを夢見て、それを実現したのです。このように仲の良い友達と一緒に作業することで、問題を解決したことが何度もあります。今は、当社の最高経営責任者に就任することに合意して、私に製品関係の問題に専念させてくれる、スティーブ・バルマーがいます。これは、本当に運の良いことです。困難な事態が発生すると、スティーブと私は、長い時間をかけて、一緒にそれに取り組むのです。ですから私にとって、危機を乗り越えてその危機をチャンスに変える鍵となっているのは、一緒に成長することができ、信頼できる同僚を持つことです。 質問者(河野):どうもありがとうございました。 鳥飼玖美子教授:あまり落ち込んだりせず、基本的には楽観的な方でいらっしゃるんですね。 ビル ゲイツ:私は多分、これ以上ないくらい楽観的な人間だと思います。これは、合理的な世界観に基づいたものです。自分の楽観主義を、異常だとは思いません。世界は劇的に発展しているのです。慈善事業に参加し、貧しい国々や途上国の難しい問題を見ても、「さあ、50年前と比べて今の状態はどうだろう」と考えればいいのです。女性の権利の問題であれ、健康や教育の問題であれ、基本的には良い方向に向かっています。私は、何かで落ち込んだときには、その問題から離れて時間を過ごすための趣味をたくさん持っています。 鳥飼玖美子教授:例えば何でしょう。 ビル ゲイツ:ブリッジやゴルフをしたり、読書をしたり、今なら一番多いのは子供と遊ぶことですね。その後には、問題に対して落ち着いて取り組むことができます。落ち込むことは、問題解決の役には立たないと思います。悪い状況を現実的に見つめることが、問題解決につながるのです。真剣に選択肢を検討するためには、少し感情を忘れる必要があります。 鳥飼玖美子教授:それでは、もうおひとかた、お願いしましょうか。鈴木 健太さん。 質問者(鈴木):とても興味深いプレゼンテーションありがとうございました。私は、静岡県立浜松北高校の2年の鈴木 健太です。よろしくお願いします。ビル ゲイツさんは、ソフトウェアの開発にあたって、どのような発想や考えが今、求められていると思いますか。それはまた、ビル ゲイツさんの場合、どんな時や場所で生まれるのでしょうか。 ビル ゲイツ:多分それは・・・私を優れたソフトウェア開発者にした要因は三つあると思います。一つは子供の頃、たくさんの読書をしたことです。私は読書が好きでした。私が子供の頃、夏休みに何冊の本を読んだかというような競争があったのですが、いつも女の子と私の対決になっていました。男の子はそんなに本を読まないものだったのですが、気にしませんでした。第二の要因は、数学に興味を持っていたことです。高次代数のような離散数学、そして論理学や数学や行列学で見られる正確な思考, モデルを構築して考えること、算術理論等。数学的思考における正確さは、コンピュータ科学を含む全ての科学で、極めて重要なことです。「コンピュータ・プログラミングの技術」というシリーズ本があります。内容のほとんどは、今日では低いレベルの算術と見なされるものです。しかし、これを独学で3冊とも全部読み、全ての問題を解いたことが、ソフトウェアについて受けた教育の中で最も良いものだったと思っています。最後に、ソフトウェアの開発を始めるときには必ず、優れたソフトウェア製作者のソフトウェアを読みます。その後、自分のソフトウェアが完成したら、彼らに自分のソフトウェアを読んでもらって批評してもらいます。私はこうして、人が6ヶ月かけて開発したソフトウェアを取り上げて、3、4時間かけて間違いを探し、どうやったら良かったかということを伝えることを面白いことだと思うようになりました。これは言わば広帯域の、刺激的なことだと思うのです。結果として、常に切磋琢磨することになり、「自分以上に優れたソフトウェア開発者はいない」と思うたびに、誰かが必ずもう少し良いものを作っていることになるのです。弛まぬ学習を続けつつ、多数のソフトウェアを開発することは、若いうちにした方が良いと思います。若いうちに熱中したことは、チェスであれ囲碁であれ、自ずと世界的なレベルの技術が備わることが多いのです。50歳から始めて、「ソフトウェアを開発したい」と言っても、できる可能性がないわけではありませんが、難しいでしょう。 質問者(鈴木):どうもありがとうございました。 鳥飼玖美子教授:それでは、まだもうちょっと時間ありますでしょうか。先ほどご紹介しました、たくさんの方から寄せられた質問がありますので、少し戻って伺おうかと思いますけれども。会場の方々以外からの質問をさせて頂いてもよろしいでしょうか。最初の質問、「情報化社会では何がおこるのか」については、既にお話の中で、触れていただいたと思います。多くの人が心配しているマイクロソフトの将来についてはいかがでしょう。マイクロソフトをどのような方向に導こうとお考えですか。特に決まった方向性や方針はありますか。 ビル ゲイツ:その答えは簡単です。私たちはこの大学ほど古くはありませんが、25年というのは長い期間です。25年前にすごいと思っていたこと、つまり、素晴らしいソフトウェアは大きな違いを生むことができるという信念こそが、私たちの未来です。多くのソフトウェアメーカーが、映画スタジオや雑誌会社を買収することや、事業の多様化について話しています。私たちも、通信関連企業に投資を行ったりはします。しかし、私たちが毎日出社するときに考えていることは、ソフトウェアの開発です。完璧に操作が簡単で、完璧にパワフルな、完璧と言えるソフトウェアができるまで、私たちはその開発に取り組みつづけたいのです。私が生きている間に、素晴らしいソフトウェアの開発の種が切れるということはないでしょう。 鳥飼玖美子教授:憂慮されているデジタル・デバイドについてはいかがでしょうか。特にご提案や解決方法をお持ちですか。 ビル ゲイツ:これについては、薄利多売に専念してきたパソコン業界を誉めるべきだと思います。他のコンピュータ産業では、このようなアプローチは見られませんでした。貧しい国へ行っても、あまり成功しているとは言えない人の場合でも、パソコンには手が届くのです。米国内については、「18,000の図書館がある。図書館側では、良い本を置く他に、子供がパソコンに触れに来ることに興味があるだろうか。」と聞きました。アメリカのほとんどの子供の家から、数マイル以内の場所に図書館があります。ですから、ほとんど全ての人が図書館に行くことができます。そこで、一部の図書館でパイロット・プロジェクトを実行したところ、結果は驚くべきものでした。皆本当に熱心だったのです。子供は本当に来ました。子供達はコンピュータで遊ぶだけではなく、とても役に立つ利用の仕方をしていました。私は、最終的に4億ドルをかけて、米国内の全図書館にパソコンとインターネット接続を確保する約束をしました。今、その半分くらいが実現しています。つまり、18,000ヵ所のうち9,000ヵ所の図書館をインターネットに接続しました。そして、今後2年間で18,000のすべての図書館がインターネット接続を果たします。こうしたことで、違いが生まれてきます。生徒一人一人がパソコンを持ち、全ての家でパソコンを持つというのが究極的な目標ですが、常に目指すべきものです。日本におけるパソコン利用で私が驚いたのは、学校における利用が広まっていないことです。アメリカでは、全ての学校がインターネットに接続されています。欲しいと思う数のコンピュータは揃っていないかもしれませんが、インターネットに接続されてはいるのです。少なくとも一部のカリキュラムは変更されています。より小さな国々の中にも、大学だけではなく、教育システムにおけるインターネットの取り込みに非常に素早く取り掛かっている国もあります。アメリカのほとんどの大学では、宿題はデジタルで提出します。課される宿題も、デジタル化されたものです。授業要覧はありません。100%インターネットで行われているのです。アメリカ以外では、大学レベルでも、ここまで普及していないでしょう。授業要覧は印刷されています。レポートは手書きで提出することが要求されるという、おかしな状態です。大学レベルでさえ完全に変化していませんが、大学での変化はやさしいはずです。難しいのはより低い学年ですが、とにかく始めてしまわなければなりません。影響は非常に大きいのです。日本やアメリカのような先進国以外の国では、「何が大切なのか」という優先順位をつけなければなりません。毎年600万もの子供が、この国と同じレベルの医療が世界中に広まっていれば助かるはずの病気で亡くなっています。ですから、「何が大切なのか」と自問しなければならないのです。「どちらのデバイドを改善するのか。子供の健康か、それともコンピュータか。」答えは多分、健康でしょう。私たちが気にかけなければならないことは数多くあり、目標もいくらでもあります。私たちは「20年後には、できる限り多くの人が、健康でコンピュータを持っていなければならない」と言うべきなのです。しかし、最初に取り組むべきは健康問題だと思います。できることがたくさんあります。この問題は、私の基金の最優先事項になっています。基金では世界の健康の問題について専門家の意見を聞き、彼らが素晴らしい進歩を遂げられるよう、資金的な援助をしています。 鳥飼玖美子教授:まだたくさん質問が残っていますが、文化の問題についてはいかがでしょう。多くの人々が、極端にグローバル化したデジタル化世界では、アイデンティティーが失われ、全てが普遍化、グローバル化するのではないかという懸念を抱いています。地域的な文化はどうなるのでしょうか。 ビル ゲイツ:それについては、多くの人々が話しています。問題は、誰かに道具を渡したときに、その人がどのように使うかということです。本が出現したときには、人々は実体験を失うと心配しました。本ばかり読んで、実際には何もしなくなると思ったのです。もちろん、そのような劇的な問題は起こりませんでした。人々は引き続き、色々な経験もしたかったのです。今日、パソコンでEメールを利用する人は、電子的に予定を立てたり、電子的に連絡をとっていたとしても、実際に人に会いますし、社交的な活動は全てそのようにして行われています。私が朝マイクロソフトに出社すると、世界中から雇った従業員が開発センターに出勤しているので、非常に興味深い光景を見ることができます。自分の国の新聞を読んだり、ラジオを聞いたり、故郷の親戚に写真を送ったり、インターネットを通じて連絡を取ったりしている従業員がいます。今日の世界では、生活をしている一つの社会や、生活をしている社会と会社という二つの社会に所属するだけではなく、複数の社会に所属することができるのです。出身地とは連絡を取り続けることができます。もし特定の病気の研究等、特別な興味の対象を持っているなら、同じ興味を持って取り組んでいる全ての人と連絡を取り、協力してこれに取り組むことができるでしょう。ですから、これは道具なのです。今までで一番素晴らしいコミュニケーションの道具なのです。自国の文化を保存したいと思う人々は、この道具を使って文化を保存するでしょう。過去における主要な批判は、パソコンよりもテレビについてのものでした。アメリカのコメディーを世界中で放映したとしたら、一部の人々の感想は、「あの人たちはすごい車を運転しているなあ、女の子はかわいいし。皆良い食べ物を食べているようだ」という内容だったかもしれません。そして、「あんな風になりたい」と思い、貧しい国の若者達が「アメリカ的な」コメディー文化から刺激を受けます。しかしその後、他の人同様、そうした番組の出演者ほど外見をよくできず、そのような富を実現できないことに嫉妬するようになります。テレビは、人々の期待水準をつり上げてしまっているのです。これによりモチベーションを与えられることもあるかもしれませんが、逆に「あの連中はどうして楽しそうにしているんだろう。いつも冗談を言って笑っている。すごく面白そうにしている。」などと思って気落ちしてしまうかもしれません。このような懸念については、考えなければならないと思います。しかし、ただ座って見るだけではない双方向の道具を得れば、アイディアを伝えたり、連絡を取り合ったりできますし、しかもチャンネル数が限られることもないので、状況はまったく違ったものになります。やりたいことが何でもできるのです。 鳥飼玖美子教授:その場合、直接的な対面コミュニケーションはどうなるのでしょうか。日本では、対面コミュニケーションを非常に重視していますが、双方向のデジタル化されたコミュニケーションの道具の出現で、その重要性が失われるとお考えですか。 ビル ゲイツ:いいえ、失われることはないでしょう。しかし、いつまでも同じ場所に留まることはできません。孫に電話するだけではなく顔を見ることができれば、その方が良いでしょう。会いに行くことができれば、そうするでしょう。ビジネスの場では、出張せずにビデオ会議で済ませられれば、夜は家に帰って子供と一緒に過ごせます。ビデオで会議を行うことで、早く家に帰って、子供と直接会えるわけです。このバランスを取ることができるようになります。この国では、世界中のどこの国よりも多くの挨拶状がやりとりされます。これは直接的なコミュニケーションではなく、郵便や紙がなければ、このようなことはできないのです。では、挨拶状は直接的なコミュニケーションの代替手段でしょうか。いいえ、全く違ったものです。これは驚くべき現象なのです。 鳥飼玖美子教授:確かにそうですね。それでは少し個人的な質問に戻ってもよろしいでしょうか。あなたは非常に成功した起業家であり、全てを手に入れているように見えます。素晴らしいご家族を持ち、ビジネスは成功し、富も名声も得ていますが、後は何が欲しいとお思いですか。何かこれ以上求めているものがありますか。 ビル ゲイツ:プライバシーですね。私の大きな目標、私が本当に楽しいと思うものは、まず第一に、家族です。 私の家族はまだとても若く、娘は4歳で、息子は1歳です。多分、子供の数は増えるでしょう。ですから、家族生活を始めているところです。これは今までやったことの中で、最も難しく、そして楽しいことです。私の仕事の内容を見ていただくとご理解いただけると思うのですが、私は株価がいくらになるかということではなく、本当に使いやすいソフトウェアの開発に、常に取り組んできました。若いときに夢見た内容と比べると、現在のソフトウェアも十分とは言えません。では半分くらいは達成できているのか。多分、半分にも達していないでしょう。非常に野心的な目標を定めることで、私はゴールに到達してしまうという問題に直面せずにすんでいます。マラソンにたとえるならば、まだ13キロ地点くらいです。そのような目標を持つことは、良いことだと思います。新しい企業に行って「私たちの目標は株式公開です」などと聞くと、「何だって?」と思わず聞き返してしまいます。そのような短期的目標を持っていたのでは、必要な人材を採用することも、正しい研究を行って優れた社会的貢献の基盤を作ることもできません。私の問題は、興味の対象が多いことです。例えばバイオテクノロジーが大好きなのでこれについて読むことや、健康問題全般、ブリッジがすごく上手になることや、ゴルフがそこそこうまくなること、などです。 鳥飼玖美子教授:囲碁もされますよね。 ビル ゲイツ:ええ。いい碁盤を立教大学からいただきました。学生の頃から碁はやっていました。 鳥飼玖美子教授:本当ですか。 ビル ゲイツ:本当です。私は韓国からの交換留学生と一緒に住んでいたので、彼に碁を教わったのです。私はハーバード大学に入ったのですが、あまり碁がうまい学生がいなかったので、ものすごく碁の上手な学生が多くいたMITまで行っていました。その中でも私はうまい方だったのですが、まあそれはいいとして。で、また始めようと思っています。でも、碁のソフトウェアはあまりよくないですね。 鳥飼玖美子教授:だめですか。 ビル ゲイツ:ええ。囲碁は正方行列で平方因子が19、因子が361あり、難しいゲームなのです。色々分析する上で、碁はチェスよりも難しく、チェスはチェッカーよりも難しいのです。コンピュータが一番強くなるまでには、まだまだ時間がかかるでしょう。チェスでは、まだ人間が勝っていますが、力は伯仲してきています。碁では、人の方が・・・コンピュータはうまくないのです。それはさておき、私にとっての問題は、時間を作ることです。「さあ、やるべきことは皆やった。」と言えるような状態ではないのです。全く反対です。やるべきことは山ほどあるので、時間をきちんと配分して、友達や、家族や、大きな違いをもたらすような研究や、そういったものに時間をかけられるようにしなければならないのです。選択肢がとにかく多いですから。 鳥飼玖美子教授:一日にどのくらいの数のEメールを受け取って、どうやって時間を作っているのか興味があるのですが。私は20件程度で、もうアップアップです。 ビル ゲイツ:本当ですか。私は毎日100件から200件くらい受信します。興味を持ったトピックについてのグループメールに参加すれば、更に100件から200件増えます。その100件から200件のうち、30、40件には答えを出さなければなりません。ほとんどは週次の売上報告や、出張報告、トレンドについての報告で、それらには答えを出す必要がありません。「このアーキテクチャーを採用したいのですが、それでよろしいでしょうか」とか、「今非常に大きな意見の相違にぶつかっていて、相手がこれを台無しにしています。彼を止めてくれませんか。」というような内容のものであれば、返信が必要となります。ですから、一日に約2時間ほどをEメールに費やします。 鳥飼玖美子教授:このセッションもそろそろ終わりに近づいてきました。最後に日本の若者に短いメッセージをお願いできますか。 ビル ゲイツ:では非常に手短ですが、本日はご出席ありがとうございました。今日、あなた方の前に広がる水平線は、今までの全ての若者が見たものよりも広いのです。 私は皆さんに、本当に好きなことを選んで、素晴らしい道具をどう使っていくか、考えて欲しいと思います。とても楽しいひと時を過ごさせていただきました。どうもありがとうございました。 (拍手) 鳥飼玖美子教授:それではこれでビル ゲイツさんの質疑応答の時間を終了いたします。どうもありがとうございました。学生があなたに差し上げるために花束を用意しています。 ビル ゲイツ:どうもありがとう。素晴らしいですね。 (拍手) 司会:花束の贈呈がございます。 ビル ゲイツ:ありがとう。 司会:講演会の終了にあたりまして、総長より、ビル ゲイツ氏へお礼の挨拶をお願いいたします。 総長:今日は、本当に若い人たちに貴重な話とメッセージいただきまして、ありがとうございました。この話がきっと、これから将来大きくふくらんで、いい仕事を若い人がしてくれるんじゃないかと思います。ぜひ、近いうちにまた、校友として立教大学にお出かけいただければと思います。どうもありがとうございました。 司会:これをもちまして、立教学院創立125周年の記念の講演会を終了したいと思います。どうもありがとうございました。
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