デザイナ主導の開発に挑戦
Expression® Studio には Windows Vista® 用のデスクトップ アプリケーション (WPF) デザイン ツールという側面もある。
アゼストは 2008 年 1 月 16 日に公開された楽天市場向けのアプリケーション、楽天株式会社「楽天ランキング TOWN」の開発で、ビジュアル デザインによるブランドイメージ作りを最重要課題に据え、機能性とビジュアル デザインというクオリティの両立に挑戦した。
アゼストのマネージャー秋葉卓也氏によると、最初のチャレンジは「アプリケーションの開発にもかかわらず、クライアントとのやりとりの前半はほぼデザイナのみで対応したこと」だった。
アプリケーション開発は通常、要件を仕様に落とし込むまでの技術的な検討、つまり「何ができて、何ができないか」を検証する作業が優先される。今回の要件が楽天市場ランキング情報のビジュアライズと比較的単純だったとはいえ、作業を進めるに当たっては困難があったのではないだろうか。
エンドユーザーのターゲットを女性に、という要望は早い段階で固まっていたという。そこで女性デザイナを起用し女性好みのイメージを形にする作業を優先した。手描きのスケッチを通じて何度もテイストを確認し合い、半年かけて企画やビジュアルコンセプトを整えた。その後、技術担当も参加し、アプリケーションのパフォーマンスやモーションの調整を重ねつつ、基本設計約 3 週間、製造約 3 週間で開発を完了させた。

サイドバーガジェットに常駐するアプリケーションをクリックすると、画面上に「街」をモチーフとした WPF アプリケーションが起動する。各タワーはユーザーが任意に設定した楽天市場のランキング カテゴリに該当する。ズームすると各商品の概要情報にアクセスできる。従来のウェブページとはまた違ったウィンドウ ショッピング感覚が味わえる。
理想論だったコラボレーションを現実に
こうした進行はデザインと開発のワークフローが適正に機能しないと難航するはずだ。特にその要となるツールの適、不適は「問題が生じた場合の切り分けが柔軟かどうかにかかっている」と開発を担当したアシスタントマネージャーの後藤雄介氏は指摘する。「開発工程でビジュアル デザインの修正はどうしても納品直前に飛び込んでくるもの。ロジックのコードとビジュアルが 1 つに混在していると、修正に応えるためにはソースコードに手を入れなければならない。これをしてしまうと時間をかけた動作検証作業などがムダになる」 (後藤氏) 。従来のリッチ クライアント開発技術では、修正の発生を見越してデザインを細かく部品化したうえで PNG などに書き出し、個別に配置する作り方が現実的だったという。画像を差し替えれば済む状態とはいえ、これではデザイナの思いをそのまま形にするには難しい。ましてや事例のようにデザインやモーション主導で進めるならとくに、動作時のパフォーマンスも意識しながらビジュアルを調整しなければならないはずだが、パフォーマンス調整時に一方的に開発者の視点を優先すれば、デザイナのモチベーションも下がり、結果的に理想的な UI は仕上がりにくい。
デザインと、開発のツールが分かれていても、現場での両者の幸福なコラボレーションはこれまで理想論に過ぎなかった。そこで事例は UI 開発に Expression Blend™ を採用し、UI を XAML 化した。XAML はいわば、デザインの成果物であるビジュアルと、ロジックとを繋げる UI の共通言語だ。色や形の修正も、ロジックと切り分けられた XAML のパラメーターを修正すれば良いため、柔軟な対応ができた。ロジックの実装は C# で行っている。
XAML はもともと C# などで記述される UI 定義のコードを UI デザイン用に置き換えたようなものなので、パフォーマンスの最適化だけを優先するなら、すべて C# で実装する方法も検討できるという。しかしそれではデザイナが UI デザインに関わりにくくなる。「ビジュアルの質を確保するなら Expression Blend™ を介すほうが現実的」 (秋葉氏) のようだ。
Silverlight™ 2 にも期待
アゼストは 2008 年 3 月 5 日にベータ版が公開されたランタイム環境の Silverlight™ 2 にも期待を寄せる。Silverlight™ 2 からサポートされる「コントロール」で、Web でも見慣れた UI パーツを使ったアプリケーションデザインができるため、工数も処理速度も向上できそうだ。また今年米国 Las Vegas で開催された「MIX 08」に参加した秋葉氏は、 SIer などの開発現場も UX (ユーザー体験) という言葉に対して本格的に価値を見いだし始めた印象を強く受けたという。秋葉氏は「例えば、デザイナ的にはビジュアルのインパクトや体験価値を軸に、開発者的には入力される数値のバリデーションや情報構造を軸にと、それぞれで多少「UX」の定義が違っていてもいい。ただ同じ方向性を志向することで基幹業務システムなどに代表されるエンタープライズ分野での市場が広がってくれればチャンスが生まれる。」とした上で「プログラミング言語にたけた開発者がツールを駆使してインタラクション デザインを始めることは考えにくい。しかし Flash などのデザイン経験があるデザイナが Expression Blend™ を使いこなすのは比較的簡単だ。Expression Blend™ を使えば SIer との理想的な協業が可能になるのではないか?クリエータにとって今はそのための種まきの時期だ。」と過去に無かった新しいデザイン市場の広がりを予測する。秋葉氏は Expression® Studio から「Web デザインで得たノウハウを生かしながら、エンタープライズ向けシステムの UI をリッチにラッピングするビジネスは、これから確実に需要が伸びるのではないか、という印象を得た。」と語る。今後はその領域でも、デザインとエンジニアリングの協力体制を円滑化する手法の確立にのぞむ予定だ。
(インタビュー : 矢野りん)