 |
製造現場のリアルタイムな状況を、ユビキタス環境で提供
工程データ管理システム「MAPDIS」
|

|
オリンパス光学工業株式会社 (以下、オリンパス光学工業) DEM 技術部は、製品開発から生産準備、製造までの効率化と品質向上を実現する一貫した工程データ管理システム「MAPDIS (マプディス) 」を Microsoft® Windows® 2000 Server と Microsoft SQL Server™ 2000 で開発しました。このシステムは、製造の現場から離れている場所でも、あたかも製造ラインを直接見ているように、リアルタイムのデータ収集ができるようになっています。MAPDIS は現在、オリンパス光学工業の海外生産工場や協力メーカーを含む 16 拠点に展開され、大きな効果を上げています。
<導入の背景とねらい>
開発から量産までの期間短縮を目指し 「デジタル一気通貫」プロジェクトに着手
オリンパス光学工業では、デジタル・エンジニアリングの全社統合環境 (社内では、トータル・バーチャル・エンジニアリングと呼んでいる) の構築推進を目的とし、2002 年 1 月に DEM (Digital Engineering and Manufacturing) 技術部を発足しました。「開発から生産まで、デジタルデータによって一気通貫する (デジタル一気通貫) 」を合言葉に、開発部門と製造部門との壁を崩し、情報の流通を活性化して、よりよい製品をすばやく開発・生産する手段を提供していくという大きな使命を担っています。三次元の CAD データを生産準備段階で十分にシミュレーションし、生産に有効活用していくこともその目標の一つです。
 |


オリンパス光学工業株式会社
研究開発センター
生産技術研究所
DEM 技術部長
渡辺正樹氏

|
「デジタルカメラなどの製品は、商品のライフサイクルがますます短くなってきています。開発から量産までの期間を短縮する新しい開発サイクルを構築し、市場の変化にフレキシブルかつスピーディに応えていかなければ、激しい競争には勝ち残れません」 (オリンパス光学工業 研究開発センター 生産技術研究所 DEM 技術部長 渡辺正樹氏)
量産までの期間の短縮や歩留まりの向上は、利益に直結します。さらに量産後の安定した品質の保持は、市場での信頼に欠かせないばかりではなく、生産コスト低減や、安定供給にとっても重要です。DEM 技術部はこの課題に取り組むため、部門の壁を取り払う工程データ管理システム「MAPDIS (マプディス) 」の開発・導入に取り組んできました。
<導入システムの紹介>
通信サーバーとコンポーネント化で迅速にシステムを構築 システムの基本構成をマイクロソフト製品で
MAPDIS システムとは、工程データを生産設備などからLAN 経由で自動収集して、サーバー上のデータベースに自動的に格納し、製造工程の管理をほぼリアルタイムで実行するシステムです。
構成は、大きく三部分からなっています。
第 1 のブロックは、Microsoft Windows NT® などで稼働している設備 PC 群で、各生産ラインでの生産設備を制御し、常時監視しています。このPC 群から、「工程データ」が全自動で収集されます。工程データとは、調整設備、検査設備などの調整値、検査データ、製品検査ラインでの判定の結果、商品とそれを構成するユニットを紐付き管理するためのユニット照合データなどの総称です。工程データの収集は、自動設備だけでなく、手入力にも対応しています。
第 2 のブロックはサーバーで、設備PC から集められた工程データがデータベースとして収められます。Windows 2000 Server、SQL Server 2000 が活用されています。
第 3 のブロックは、製造工程の管理を行うユーザー側のPC 群で、各種問い合わせに応じ、検査結果、生産実績の集計、QC データの検索、データのダウンロードなどの各種データ検索サービスが実行されます。
ユーザーからの検索や問い合わせは、専用ソフトウェアではなく Web ブラウザが使われ、必要なデータを表示できるようにしています。そのため社内LAN を始めとして、ユーザーサイドのさまざまな環境からのアクセスが可能になっています。Web ブラウザと通信環境さえ揃っていれば、各種データ検索がリアルタイムで実行でき、現場で発生している事態に、たとえ遠隔地からでも即座に対応できるようになっているのです。
「通信サーバー」を介してパフォーマンスを維持
MAPDIS の特徴は、第 1 の生産ラインにある設備コンピュータ群が自動収集したデータを第2 ブロックのSQL Server 2000 に直接書き込むのではなく、「通信サーバー」を介してデータを出力している点です。
 |


オリンパス光学工業株式会社
研究開発センター
生産技術研究所
DEM 技術部 製造技術グループ
グループリーダー
課長
丸山洋行氏

|
「設備 PC から直接データベースに工程データを保存処理すると、製造現場スタッフや技術スタッフあるいは開発者などのユーザーから検索がかかっている場合に、設備 PC の保存処理速度が低下する可能性があります。バッファとして通信サーバーを経由させることで、設備PC のパフォーマンスを確保し、ミッションクリティカルな製造工程に対応しています」 (オリンパス光学工業 研究開発センター 生産技術研究所 DEM 技術部 製造技術グループ グループリーダー 課長 丸山洋行氏)
稼働中の生産ラインの設備 PC は、連続してデータを収集しているので、工程データを出力して、すぐに次の検査を実行させる必要があります。そのため設備 PC は、「通信サーバー」に工程データをソケット通信で出力し、通信サーバーのメモリに工程データを一度貯える構成にしています。通信サーバー上では、最大 40 ポートのマルチスレッドで、ソケット通信ポートから工程データを受信し、適宜データベースに書き込んでいきます。こうすることで、設備 PC のデータ出力を高速化し、しかも工程データをリアルタイムに限りなく近い状態で、データベースサーバーのSQL Server 2000 に保存することが可能になります。
同時に、接続する設備 PC が増えた際にも、40 台を 1 単位として通信サーバーを増設して、負荷のバランスを取るだけで対応できるという拡張性のメリットもあります。
調整項目の仕様作りに苦心
システムの構築に当たって最も多くの時間を費やしたのは、開発者と工場の技術スタッフ間で、どの設備でどのような検査・調整を行うのかといった調整仕様を作成して、標準化していくことでした。生産効率や品質保証という目標は一致しているものの、実際にどのような調整を行うかは、それまで工程ごとの現場判断に任されていたため、システム化に当たっては、一定の様式で記述する必要があったのです。
「それまで担当者が個別に調整仕様を設定していましたので、それぞれの工程で、異なった調整仕様の考えがありました。システム開発の立場からは、それを一定の様式にまとめなければなりません。つまり『どの製品について』『どの工程の』『どの調整項目か』を明らかにして『詳細な調整項目を明確にする』という 4 つの階層で調整仕様を定義し、システムで取り扱えるようにすることに多くの時間が必要でした。まさに、暗黙知を形式知にしていくという作業です」 (丸山氏)
開発環境にもマイクロソフト製品、Windows ベースのコンポーネント化で導入を容易に
統合的なMES システムは、生産現場で発生する大量のデータを処理し、必要な情報を適宜ユーザーに提供するため、システム構築に要する時間と労力は大きくなります。MAPDIS の開発においては、Windows をベースにしてソフトウェアのコンポーネント化を徹底して行ないました。このため、製造現場からのデータ収集を始め、ユーザー側のインターフェイスなどの導入が容易になり、わずか数か月という短い期間でシステムの立ち上げが可能になりました。
「以前は UNIX で動かしていたシステムも存在していたのですが、専門の担当者がいなければ扱えないという状態になっていました。マイクロソフトの SQL Server 製品などは、最初期のバージョンから使っていますが、2000 バージョンになってかなり機能も充実して、たいへん扱いやすくなってきたという印象をもっています。MAPDIS では、設備 PC と通信サーバーを接続する COM コンポーネントの導入だけでデータ収集できますから、導入が非常に簡単になりました」 (丸山氏)
また各コンポーネントの開発には、幅広いクライアント向けソリューションを構築できるように、Microsoft Visual Studio® が使用されました。
<導入の効果>
年間1億以上の大きなコスト削減効果を実現
システムの開発には、コアシステムで約 60 人月、各製造工程に対応したシステムの開発では約 30 人月の工数を要しました。これらをコストに換算すると約 4,500 万円になります。その他、新たに購入したサーバーが 1,500 万円、ソフトウェア製品が 800 万円で、合計約 6,800 万円という規模の投資でした。構築に要した期間は、概略、コアシステムに約 2 年間、各製造工程への対応に約 3 年間の合計 5 年間です。
一方、この投資によって得られた効果は、不良率の低下による廃棄費、修理費、製品の原価、試作に必要な検討部材費などが低減でき、合計で年間 1 億円以上のコスト削減を実現できました。
また作業工数の削減ができ、人件費に換算すると、さらに年間約 4,200 万円程度の節約も果たしました。
この MAPDIS システムは 2002 年 11 月現在、オリンパス光学工業の国内 5 工場、海外 3 工場、国内の部品メーカー 3 社、組み立て協力会社 4 社、海外部品メーカー 1 社に導入展開されています。直接のコスト削減効果のほかにも、開発者が出張しなくても製造工程の状況を把握できるため旅費交通費が節約できるという、副次的なメリットも得ています。さらに製造現場での異常発生に対して、かつての約 4 倍という迅速な対応が可能になりました。 またコスト以外の効果としては、製造工程からのデータが確実に把握できるので、トラブルが発生した場合でも、お客様への対応や技術対策に際しても理路整然とした議論ができるようになったと言います。
設計の段階から品質を織り込んでいくという手法は、日本の製造業が持つ強い競争力の 1 つです。
「自社で持っている生産技術をうまく活用するには、設計と製造でデータを共有して、意志疎通をこれまで以上に密にする必要があります。さらには品質保証やアフターサービスにもデータを活用していこうというのが、我々の『デジタル一気通貫』の考え方です」 (渡辺氏)
たとえばある 1 台のデジタルカメラに付けられた製造番号を辿ると、使用された部品、調整工程、検査結果などすべての履歴データを照合できます。最終検査で不良が発見された場合は、どの段階で原因があったかをすぐに突き止められるようになっているのです。
さらに販売後の製品に万一不具合が起きた際にも、原因を究明できるだけでなく、修理も迅速に完了できるようになります。以前は、サービスセンターから工場修理部門に修理品を送り、修理して送り返すというアフターサービスのフローを踏んでいました。MAPDIS により工程データ管理を一貫させると、一例として、持ち込まれたサービスセンターで回路基板の交換を行い、工程データを元に調整データを再度回路基板に書き込むことで修理を行うことができるようになり、迅速にお客様にお渡しするということも可能になりました。
「製造時の工程データは自社の利益を生み出すだけでなく、お客様によい製品とサービスを提供するためのものだと言えます。すばやく修理できるということも、品質の 1 つなのです」(渡辺氏)
<今後の展望>
.NET対応でグローバルに有効活用し、外販も視野に
「現段階は、開発が一段落したところです。今後の大きなテーマは、完成したシステムを .NET 対応にしていくことです。海外の生産拠点とは、現在は夜間にデータ転送を行っていますが、DEM 技術部にデータセンターを構築して、すべての生産拠点のデータを XML Web サービスを応用してリアルタイムに近い形で収集できるようにと考えています」(丸山氏)
生産拠点が日本国内だけでなく世界各地に拡大している今日では、製造現場に駆けつけなくても、製造の状況を瞬時に把握し、問題が発生した時点で迅速に対応できることは、さらに大きなメリットです。
「デジタルカメラを中心に今後はさらに海外拠点での生産が増えますから、各地の実状に合わせたローカライズも必要になります。特に中国は今『世界の工場』と言われるほどの生産拠点になってきていますから、MAPDIS の中国語バージョンにも取り組み始めています」(渡辺氏)
素材系の製造業では、早い時期からコンピュータによる自動操業が行われてきました。しかし、組み立て産業では、加工そのものの自動化が困難だっただけでなく、段取りや検査を含めた一貫した自動化には、多くの困難を抱えていました。大規模なシステム構築や確実なデータ転送、多くの労力が必要とされてきたことなどが原因です。
「自社の生産ラインで有効性を実証しましたので、来年の 4 月頃を目処にシステムを他の製造業界に外販していく計画もあります」 (渡辺氏)
ニュースリリース:こちら
また本システムは、日経 BP 社主催「Windows デジタル エンジニアリングシステムアワード」の 2002 年度マイクロソフト賞に輝きました。この賞は Windows プラットフォームを利用し、製造業で十分に効果を上げている優れたシステムを対象に審査、表彰するものです。システム導入による具体的な効果は元より、システム構成が優れていることや拡張性などについても高い評価を受けた結果です。
「以前は、現場からの要望に応えてシステムを開発していくというのが、製造に関わるシステム部門の立場でしたが、DEM 技術部は、システム開発の側から社内外にある情報資源を使いやすい形で提供したり、有効な手段を提案し、開発、提供するという役割に変わっています。今回の受賞で、MAPDIS が社内外から着目してもらえるきっかけになり、さらにいろいろな製造工程で使っていただけることを期待しています」 (丸山氏)
|
|  |
本ケーススタディに記載された情報は初掲載時のものであり、閲覧される時点では変更されている可能性があることをご了承ください。
本ケーススタディは情報提供のみを目的としています。Microsoftは、明示的または暗示的を問わず、本書にいかなる保証も与えるものではありません。
|
|
 |
|
|
|