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市場の競り情報を音声入力して販売時点管理。
バックオフィス業務を限りなくゼロに近づけ、営業活動へのパワーシフトを実現。
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威勢のいい「競 (せ) り」の声が響く水産物卸売市場。競り人と買参人 (ばいさんにん : 仲卸業者) の間で鮮魚や水産加工品をせり販売していきます。早朝に行われる水産物の競りの時間は実質 1 〜 2 時間しかありません。
その時間のうちに、1 万件を優に超える水産物の取引が行われます。市場としては、1 番ホットでスピーディな場面といえるでしょう。仙台水産では、従来、「競り」の売買情報は市場での売買が終わってから事務所に伝票を持ち帰って整理し、システムに入力するしかありませんでした。そのため、 1 日の業務の大半がその作業に費やされていました。この無駄を省くために同社が導入したのは「競り」情報の音声入力システムです。今では「競り」情報は社員の声で即時に端末に入力され、無線 LAN を使って同社のサーバーに送られ、情報の発生時点で処理が完了されます。この画期的なシステムによってバックオフィスでの作業が合理化され、7,000 万円以上のコスト削減とパワーシフトによる営業強化が可能になりました。
<導入の背景と狙い>
膨大なバックオフィス業務を ゼロにする挑戦
100 万都市仙台と近隣地域の食生活を支える東北地方最大規模の仙台市中央卸売市場。この市場内に本拠を構える株式会社仙台水産は、年商 500 億円を超える東北地域トップの卸売業者です。同社は、これまでも IT 化に積極的に取り組んできました。
同社経営企画本部の熊谷純智副本部長は、「以前は 1 日の売上が 3,000 行 (データ件数) くらいの時代もありました。しかし現在は、1 万 7,000 行程度の売上が朝の 1 〜 2 時間の間で発生します」。市場には、毎日膨大な量の鮮魚や水産加工品の入荷があり、仲卸を経て量販店や小売店、料理店などが買い付け、短時間の間に出荷されます。その時間の間に、入荷した水産物を確認して販売準備「上場下付け」を行い、その水産物が「競り」などによって値付けされて売買が成立し、「荷渡票」が商品に付けられて、物流工程へと渡ることになります。そのプロセスのなかで発生する販売情報が同社の生命線とも言える基幹情報なのですが、従来は市場で社員が伝票を起こし、それを事務所に持ち帰って販売管理システムに入力するしかありませんでした。
「現場で伝票を手書きで作成して、事務所に持ち帰って何十人ものパンチャーが同時に入力してやっと結果が出ます。これでは結果が出るまでに何時間もかかってしまいます」(同社情報システム部・佐藤浩部長)。この膨大な労力が必要なバックオフィス業務をいかに合理化するかが同社の課題であり、システムのボトルネックだったのです。
一方、同社の島貫文好社長は経営の観点から、今後の水産卸マーケットには顧客優先の考え方、営業主体の業務体制への変革が必要だと考えていました。「社員がマーケットに沿った動き方をすることが今後はますます重要な時代になります。この業界のサプライチェーン には無駄が多い。その無駄を無くすことで社員の仕事の仕方や考え方を変えていきたい。それは IT の活用によって成し遂げられると考えています」(島貫社長)。
<導入の経緯>
音声入力技術を「競り」の現場に活用する決断とシステム開発の経過


株式会社仙台水産
情報システム部部長
佐藤 浩 氏
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このような経営上の課題とシステム上の課題を前にして、同社が注目した技術が「音声入力」です。ヘッドセットのマイクを通して、人間の声をパソコンが認識、文字や数字に変換して入力するこの技術がどう生かせるのか、同社の検討が始まりました。
「これは何に使えるんだろうと。荷受に使えるんじゃないか、いやそうじゃないだろう、などと検討していましたが、社長は競りで使おうというのです。しかも、『移動競り』で」(佐藤部長)。移動競りとは、市場内の決まった場所ではなく、商品が置いてあるその場に競り人や買参人が移動して、その場で行われる競りのことです。それを聞いた佐藤部長は驚きました。「うーん、参ったなあと。移動競りのスピードはものすごい速さなんですよ」。
音声入力技術を同社に紹介したのは、日本電気株式会社東北支社の営業担当の松村浩治氏でした。「まったくの飛び込み」営業で紹介した技術でしたが、松村氏と仙台水産は、やがてビジネスへの活用方法をともに考え、アイディアを出し合うようになりました。競り情報入力への応用という方向が見えてきて以降、松村氏はシステム運用が軌道に乗るまでの数年間、システム開発のプロジェクトに全精力を傾けることになりました。
「仙台水産さんほどの規模で音声入力を使うシステムを作るのは、それまで前例がありませんでした。それから 1 年間、市場に何百回も通いながら調査しました。苦労覚悟で始めた仕事です。熊谷副本部長には『絶対あきらめないよ』という言葉をいただいており、私もそのつもりです」。松村氏が提案した音声入力システムは、仙台水産が提案を受けた他社製品より認識率が高く、また業務に合わせた音声辞書のカスタマイズが可能という特徴がありました。
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日本電気株式会社東北支社ソリューション推進部
セールスエキスパート
松村 浩治 氏
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開発プロジェクトには、日本電気株式会社東北支社のほか、音声エンジンを提供する 日本電気株式会社社会情報ソリューション事業部、NEC パーソナルプロダクツ株式会社の山形工場も巻き込み、一大プロジェクトチームが編成されました。日本電気株式会社東北支社からの依頼によりデータベース構築をはじめとするプログラム開発を行った月電ソフトウェア株式会社は、本社のある福島市から毎日のように泊りがけで SE を派遣し、佐藤部長の設計した仕様を少しずつ形にしていきました。「仙台水産さんの場合、プログラムができたら現場にどんどん先に出してくれるんですね。現場で使ってみるから、と」(松村氏)。
この開発手法は、システムに現場の声を反映するのに大きな効果があったといいます。「競りのスピードに入力がついてくるかどうかに苦労しました。営業の方や競り人の方にいかに使いやすいものにするか、実際に使っていただきながら、佐藤部長と相談してより喜んでいただけるものを作ろうとやってきました」(月電ソフトウェア・鈴木氏)。「使う人がいろんな情報を 1 つの画面の中でシームレスに得られるものを作りたかったんですね。そうすることによって、一目ですべての状況が把握できると」(佐藤部長)。
前例のないシステム開発は、こうして業務現場本位で進んでいきました。困難な開発ではありましたが、それを振り返って熊谷副本部長はいいます。「検討して実行しない罪と、実行して失敗する罪とを比べたら、前者のほうが重い。そんな社風ですから、困難な仕事であっても失敗を恐れずにできました。NEC さんはじめ、皆さん成功しようという思いで一生懸命やってくれました」。
<導入の成果>
大幅なバックオフィス業務の削減とパワーシフト効果
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株式会社仙台水産
経営企画本部副本部長 取締役
熊谷 純智 氏
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こうした苦労が実り、音声入力を特徴とする「競り情報管理システム」は 2001 年に稼動が始まることになりました。このシステムにより、現在の仙台水産の市場での業務は大きく変貌しました。
朝 2 時からの入荷にともなう下付け業務は、社員がパソコンをもち、ヘッドセットをつけて、商品を見て回りながら声で入力をしていきます。その情報は無線 LAN を経由してサーバーへと送られ、データベースに登録されます。競りの時間となると、競り人の近くに陣取った社員が、やはりパソコンを前にヘッドセットを装着して次々と競り落とされる売買情報を声で入力していきます。入力に要する時間は 2 〜 5 秒。驚異的なスピードで行われる売買の進行に遅れることはありません。タッチパネルも活用しながら、すばやく、しかも
正確に販売時の情報がサーバーに送られ、データベースを更新していきます。
この業務の合理化は市場での社員の伝票作成の手間をなくしましたが、劇的に変化したのはむしろその後のバックオフィス業務です。「売場での仕事のあと、従来は作成された伝票を持ち帰って整理し、集計する作業が待っていました。これにはほとんど 1 日いっぱいかかっていました。時間でいえば午後 2 時くらいまで。それが今では 9 時から 10 時くらいまでには終わってしまいます。これまでも日次決算はやってきていましたが、結果が出るまで 4 時間は縮まった。午後一番には社長に今日の当期利益までを報告できるようになりました。大卒の人間を伝票書きのために採用しているわけじゃないですから、人材に本来してほしい仕事に十分な時間を割り当てることができるようになりました」(熊谷副本部長)。
バックオフィス業務が目標のゼロに限りなく近づいていくにつれ、社員の業務は様がわりし、事務作業から解放された社員たちは余裕をもって量販店や小売店を訪問して営業活動が行えるようになりました。「同業者から『どこに行っても先にうちの営業がいる。怖い』と言われるくらいにならないとね」(熊谷副本部長)。小まめに小売店をまわり、陳列支援や特産物企画などの手伝いなどを行う営業活動にパワーシフトすることにより、同社が目標とする「顧客優先」の事業がより効果的に行えるようになりました。「問題があるかないかと探る経営者は後れをとる。問題があること、その問題がどのようにして起きて、それに対してどうするかがこれからの経営には大事です。我々は問題をすぐに抽出でき、それを共通な認識事項として、対策を講じることができます。クイック レスポンスですね」(島貫社長)。
同社の試算では、このシステムは年間 340 万件の入力作業を省力化し、実質的に 7,000 万円以上のコストが削減できたといいます。しかも、人材の有効活用と、経営の問題発見・意思決定のスピードがレベルアップしていることを考え合わせると、コスト削減効果以上の成果が出ていることは間違いなさそうです。
「人材という資産、その仕事の仕方、方向性が明確に変わりました。そのことが最終的には経営力のアップ、そして競争に耐えうる強力な体質を作り上げるもとになるのではないかと思います」(島貫社長)。 先進的システムを作り上げた同社は、いまや同業者からはもちろん異業種からも注目される存在です。特に全国の市場からは視察が絶えず、同種のシステムを導入した業者もあります。困難を恐れず、現場に本当に必要な IT を妥協せずに取り入れることが、同社のチャレンジを成功に結びつけたといえるでしょう。
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