BI の失敗パターンは「使われない」「始まらない」「続かない」の 3 つ 「自分の会社が何をしたいのか」を真剣に考えることから BI が始まる SQL Server と Office system は、中長期で考えられた BI プラットフォーム 「キーマン Interview : SQL Server 2005 の真実」第 6 回目は、株式会社アイエイエフ コンサルティングの平井 明夫 (ひらい あきお) 氏に話をお伺いしました。平井氏は、BI (Business Intelligence: ビジネス インテリジェンス) という言葉が定着する以前から、データ分析 (今でいう BI) 関連のソフトウェア製品の開発やマーケティング、導入コンサルティングに携わっている BI 業界の第一人者です。雑誌や書籍の記事や、セミナーの講演などでご存知の方も多いのではないでしょうか。長年にわたって BI に携わり、経験豊富な平井氏ならではの“失敗しない BI システム構築のコツ”に、ぜひご注目ください。 一部の専門家が使うデータ分析から、“社員全員”が使える BI へ BI 浸透の理由は、レポーティングツールの登場など、インフラが整ったことにある ―― 平井さんは、いつ頃から BI に携わっておられるのでしょうか。 平井 私が初めて BI にかかわったのは、今から 12 年くらい前で、ちょうど BI という言葉が生まれたころです。BI は、当時ガートナーのアナリストだったハワード・ドレスナー氏が、「ホワイト カラー (インフォメーション ワーカー) の生産性を向上させるためには、企業データを誰でも簡単に取り出せて、加工できる IT インフラが必要だ」と定義しました。実際に、BI という言葉が浸透してきたのは、ここ数年のことで、それまでは単純に「データ分析」と呼ぶことが多かったですね。 ―― 現在の BI では、昔と比べて変わった点はありますか。 平井 少し前までの BI システムは、一部のパワー ユーザー、つまりデータ分析を仕事の中心とする専門家 (経理や財務、マーケティングなどの社員) 向けのシステムで、いわゆるグラフを作ったり、クロス集計を行ったりする人たち向けでした。同じような分野としては、需要予測やバスケット分析などのデータ マイニングもあります。 ようやく、最近では「誰でも簡単に取り出せて、加工できる」という本当の意味での BI が広がってきて、普通の担当者レベルの社員から、経営層までもが利用できるシステムが増えてきました。社員1人ひとりまでは、BI という言葉を知らないのかもしれませんが、多くの社員が使うようになってきたのは、昔と比べて大きく変わったところです。 ―― BI が浸透してきたという理由は、あるのでしょうか。 平井 インフラが整ってきたことが一番の理由だと思います。たとえば、レポーティング ツールの登場によって、Web ブラウザ ベースで簡単にアクセスできるようになったことや、ERP パッケージの導入によって、BI システムのソースとなる業務データが整備されてきたことなどです。 レポーティング ツールでは、BI の一環としての定型帳票や分析済みのデータへアクセスしたり、シンプルな分析操作を行ったりを Web ブラウザだけで簡単にできるようになったことが、非常に大きく貢献していると思います。 失敗しない BI システム構築のコツ 「使われない」、「始まらない」、「続かない」の 3 つの失敗パターン コンテンツの陳腐化を防ぐために、お客様と一緒に「戦略」を考えていくことが重要 ―― BI を導入したけれど、失敗してしまうケースは多いのでしょうか。 平井 結構ありますね。以前、業務システムの失敗事例は、「動かないコンピュータ」と表現されていましたが、BI システムの失敗パターンでは、“動かない”ケースは稀です。では、何があるかというと、「使われないコンピュータ」と「始まらないコンピュータ」、「続かないコンピュータ」の 3 つです。 「使われないコンピュータ」は、BI システムを導入したけれどもユーザーが使わない、あるいは使いこなせないケースです。2 番目の「始まらないコンピュータ」は、企画の段階で予算が取れなかったり、「これをやるといくら儲かるの」と聞かれて、答えられず頓挫してしまったりするケースです。 そして、一番良いところまで行って失敗するのが、3 番目の「続かないコンピュータ」です。これは、サービスを立ち上げたときには、みんなが使うのですが、時が経つにつれて使う人が減っていってしまうケースです。 ―― 使われなくなってしまう原因は、どこにあるのでしょうか。 平井 一番の原因は、「コンテンツの陳腐化」にあります。これは、データに問題がある場合とユーザー ニーズの変化に対応できない場合の 2 通りがあります。 データに問題がある場合は、データをリフレッシュするところを考えていないのが原因で、データが陳腐化してしまうケースです。この状況は、特にマスタ系で多いのですが、分析軸を固定で持っていて、マスタをきちんとシンクロできない場合に発生します。「組織」や、「商品」などのマスタ系データは、時間と共に入れ替わるものなのです。しかしデータ ウェアハウスは、何でもかんでも溜め置きをしておく場所なので、どんどんデータが増えていくわけです。そうすると、カテゴリが合わなくなってきて、「その他」ばかりになってしまいます。たとえば、製品カテゴリで「A」、「B」、「C」と「その他」があって、最初は「その他」が 10 %だったのに、メンテナンスができていないと、どんどん増えていって、40 %とか 50 %が「その他」になってしまうというケースです。これでは分析の役には立ちません。 ―― サービスを立ち上げたら終わりではなく、データの変化に応じて、メンテナンスまでを考えてシステムを構築しなければならないということですね。 平井 もう 1 つのコンテンツの陳腐化は、ユーザー ニーズの変化に対応できていない場合です。BI システムでは、ユーザーのニーズを最初からいっぺんに定義して、「これで良いですね」、「この通りに作りますよ」と、構築しても絶対に成功しません。というのも、BI の経験がほとんどないユーザーがヒアリングされているからです。これでは、一度で正しいニーズをヒアリングするのは困難です。ですから、本番やプロトタイプやパイロットなどで、何度も“ヒアリング”と“改築”を繰り返していくことが重要です。私たちは、それを「スパイラル アプローチ」と呼んでいます。BI システムでは、コンテンツを陳腐化させないために、一般的なシステム構築でよく利用される「ウォーター フォール型」アプローチは、採用できないのです。 ―― ヒアリングのコツというのはあるのでしょうか。 平井 海外の企業では、CIO (情報戦略統括役員) と呼ばれる人がいて、情報戦略を統括しています。そのような企業では、「自分たちのやりたいことは何か」がはっきりしているのですが、日本ではまだ少なく、お客様のニーズがはっきりしない所から話が始まります。そこから少しずつ話を育て、膨らましていき、「それでしたら、こういうシステムになるかもしれませんね」と、いくつものフェーズを経て、積み上げていくことが重要です。 ―― お客様と一緒に「情報戦略」や「データの活用方法」を考え、理解したうえでシステムを構築していくということですね。 平井 BI というのは、やっかいなことに、製品を導入したからといってシステムが完成するわけではないのです。既に製品を購入してしまったお客様に対しても、1 から「何をやりたいのか」、「誰が利用するのか」、「どういうデータがあるのか」と、ヒアリングを繰り返すことが重要になります。 BI ツールで失敗するケースはほとんどない 失敗の原因は、データに問題があることが多い データウェアハウスの構築が鍵となる ―― BI ツールが原因で失敗するというケースはあるのでしょうか。 平井 BI 導入後のアンケートでは、「ツールが使いづらい」と書いてある場合もありますが、実は突き詰めてみると、ツールが原因ではなかったというケースがほとんどです。データや、モデルの設計など別の原因が、ツールで表面化しているだけだったりします。中には、本当にツールが使いづらいケースもあるかもしれませんが、使いづらいという理由だけで、まったく使われないということはまずありません。結局は、データの問題であることが多いのです。 ―― 具体的には、どのようなことでしょうか。 平井 たとえば、BI の効果が高いので、一番ニーズの多いのが、経営戦略に結びついて会社の売上げを伸ばせる、経営層向けのシステムです。しかし、バランス スコアカード (BSC) での KPI (主要業績評価指標)戦略などの、経営層向けのきちんとしたデータは、ボトムアップでないと出せません。経営層向けのデータといのは、明細レベル (ボトム レベル) のデータを整備して、最後にできあがるところだからです。 しかし、明細レベルのデータは、インフラが整っていれば別ですが、あるデータはオンラインで得られても、あるデータは紙ベースでしか得られないというのは、実際にはよくあることです。そのような状況を踏まえて、システムを 1 から作るとなると、莫大な投資になってしまいます。BI ツールは進化していますが、データの問題というのは必ずしも解決してはいないのです。 ―― それというのも、データの蓄え方が重要ということなのですね。 平井 はい。データ ウェアハウスとは、とりあえず、どういうデータが必要になるかがわからないので、全部のデータをきれいに溜めておきましょうというもので、これに対して BI は、「何をやりたいのですか」、「最終的にどのデータがいるのですか」、「そのデータはどこからもってくれば良いのですか」という方向からアプローチしていきます。つまり、アプローチが逆なのです。これは、どちらが正しいというのではなく、理論上は、正しいデータ ウェアハウスを作れている企業であれば、経営層向けのシステムも比較的短期間でできます。しかし、現実はそうではないことが多いのです。  SQL Server 2005 は、中長期的に考えられた製品 マイクロソフトの BI プラットフォームは、コストメリットが大きい 標準のフロントエンドは使い慣れた Excel。特別なものを作っていないのが良い ―― マイクロソフトの BI プラットフォームについては、いかがでしょうか。 平井 SQL Server 2005 は、中長期スタンスで考えられている製品だな、マイクロソフトも真剣に考え始めたのだなと感じました。BI 専業ベンダの製品というのは、ニッチな業界なので、狭い世界、つまりBI 用途のためだけに高機能化し、重たくなっています。そういう製品を購入できる会社は、どんな会社なのかなと思うほどです。 しかし、マイクロソフトの BI 製品は、そうではなくて、ごく普通の企業が BI もやりたいと考えたときに、低コストで誰もが取り組みやすい作りになっています。発想が全然違うと思います。 ―― 気軽に始められるということでしょうか。 平井 はい。SQL Server 2005 と Microsoft Office Excel があれば、OLAP サーバー (Analysis Services) からレポーティング ツール (Reporting Services) まで、BI システムに必要なものはすべて揃っています。あとは、マニュアルや本をちょっと見るだけで、とりあえずのモノが簡単に作れるわけです。Reporting Services などは、Microsoft Office Access とほとんど同じような操作でレポートを作れるのがうれしいですね。 標準のフロントエンド ツールが Office system なところもマイクロソフトらしいですね。別の観点で大きなシェアを持っている Office 製品を使って、これで BI ができるというメッセージを出しているところが良いと思います。普段から使い慣れている Excel から SQL Server へアクセスできるのは、ユーザーにとってはとても自然なことです。BIへアクセスするための特別なものを作っていないのが良いですね。 ―― 専用の BI ツールだと、かなりの追加費用がかかるところを、Excel をそのまま利用できるのは嬉しいですね。 平井 以前は、BI プロジェクトを立ち上げるときには、社内の稟議とか予算取りなど、とても大掛かりだったのですが、SQL Server と Office の組み合わせであれば、無理して大変な思いをしなくても、今あるインフラを地道に少しずつ改善していけば BI を実現できます。マイクロソフトのアプローチは、そのような意味でもコスト メリットが大きいですね。BI の進歩のレベルを上げることにもなると思っています。 ―― Microsoft Office Excel 2007 については、いかがでしょうか。 平井 今度の Excel 2007 には、非常に期待しています。従来の Excel では Add-in として提供されていた機能が、Excel 2007 では標準で提供されるようになっていたり、大きくパワーアップしています。何よりも、65,336 行というデータ制限がなくなったことが大きいですね。これで、本格的な業務分析ができるようになるので、個人レベルのデータ分析であれば、Excel 2007 だけで十分ではないかと思うほどです。もちろん、データ量が多い場合や、データを共有したい場合には、SQL Server 2005 との連携が必須といえますが、その場合でもフロント エンドとしての Excel 2007 は非常に強力です。今後は、専業ベンダの BI ツールも、Excel 2007 との連携機能をいかに備えておくかが売りになってくるのではないでしょうか。 デモを構築しながらのアプローチは、確認の上で重要 習得すべきは、構築方法論 (メソドロジー) ―― 平井さんご自身が BI システムの提案をされるときに、特別に心がけていることはありますか。 平井 やはり、続かないコンピュータ (コンテンツの陳腐化) にならないように、お客様にはまず、「一度には作れない」ということを理解していただくことから始めるようにしています。そのうえで、「何がやりたいのか」を決めるところまでを、まずやりましょうという提案から行っています。その最初のスパイラルの中で、何をやりたいのかを明確にしてもらうために、簡単なデモを作ってビジュアル化し、確認していただくようにしています。 ―― データベース エンジニアにとって、BI ツールの操作を覚えることは簡単でも、平井さんのように設計までを含めて BI システムを提案し構築できるようになるためには、何を学べばよいのでしょうか。 平井 一番重要なのは、BI システムの構築方法論 (メソドロジ) だと思っています。BI システムは、通常の業務系のデータベース設計とはかなり違いますので、そこをどうやって習得するかがポイントだと思います。 ―― 構築方法論を学ぶのに良い方法はありますか? 平井 以前、DB Magazine 誌 (翔泳社刊) で「目指せ CIO! DB エンジニアのための BI 技術」という連載を書いていたのですが、これは SQL Server などのデータベースを勉強している方のために、その延長線上で BI を少しでも知ってほしいというコンセプトで書いていました。そのときに一番詳しく書いたのが構築方法論です。今は、連載をまとめたものが「BI システム構築実践入門」というタイトルの書籍になっていますので、ぜひ参考にしていただければと思います。 ―― 最後に、このインタビューを読んでいる方々へメッセージをお願いします。 平井 繰り返しになってしまいますが、「BI ツールを導入するだけで、BI が実現する」と思われている方が多いのですが、その幻想を捨てることが成功への第一歩だと思います。まずは、「自分の会社は BI で何をしたいのか」ということを真剣に考えて、そのために「必要なデータは揃っているのか、取り出せる形になっているのか」というところから取り組むことが重要です。その条件が満たされない限りは、どんなに適切な BI ツールを入れても、BI システムは作れませんし、動かないことになってしまいます。そこを逃げずに取り組むことが、成功への近道だと思っています。 ―― 本日はありがとうございました。平井さんは、現在、マイクロソフトと協同開催の無料セミナー「中堅企業のための ERP データ活用セミナー 〜データ分析シナリオから BI システム構築ポイントまで徹底解説〜」で講師をされています。このセミナーでは、製品の機能ではなく、データの活用方法について、重点的に解説されていますので、BI 構築のイメージが湧かないという方は、ぜひご参加ください。 無料セミナー:「中堅企業のための ERP データ活用セミナー」の参加登録はこちらから https://www.event-registration.jp/event-profile/mses/courseoutline.aspx?courseid=CWSS-005901  平井氏のセミナーの様子 本インタビューに関連するサイト書籍「BI システム構築実践入門」 (翔泳社刊) についてはこちら 「マイクロソフトの BI 宣言」についてはこちら
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