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2024/02/05

マイクロソフト ユニファイド サポートの手厚い支援を活用し、Power Platform で現場主導による業務改革アプリ開発を推進

近年の医療業界では、先進国において個別化医療の実現や高騰する医療費の抑制、また新興国・開発途上国においては、医療インフラの整備や医療アクセスの向上など、ニーズの多様化、複雑化が進んでいます。住む場所や立場に関わらず一人ひとりが適切な医療プロセスを享受し、生涯にわたって生活の質を保てる社会の実現は、世界中の人々に通じる願いと言えるかもしれません。

そのような中、改めて注目されているのが検査、診断の重要性です。適切な検査に基づいた診断を行うことで個々に最適な医療を実現し、健康不良時だけではなく、日常生活や治療を終えた予後においても最適なケアを提供する。シスメックス株式会社は「ヘルスケア ジャーニー」と名付けたこの一連のヘルスケアの「旅路」において、各ステージで価値を提供することをビジョンに掲げ、190 以上の国や地域でヘルスケアビジネスを展開しています。

Sysmex Corporation

成長を加速するシステムの刷新、一方で現場従業員の負担が課題に

同社では 1968 年の創立以来、血液や尿などを採取して調べる検体検査分野を核とした事業を展開してきました。2023 年からスタートした長期経営戦略では、世界中の人々が生涯にわたり健康な状態が維持できる社会の実現を目指して「より良いヘルスケア ジャーニーを、ともに。」を長期ビジョンとして掲げ、事業領域の拡大や人材の育成などのさまざまな施策に取り組んでいます。

「こうした施策を実現し、企業として成長を続けるためには、デジタル技術が大事な役割を担っていると思います」と語るのは、シスメックス株式会社 DX 戦略推進本部 デジタル企画部 シニアプランナーの東 昌芳氏。その言葉通り、世界規模で事業を展開する同社では現在、国によって独自の方法でデータが保管されるなど、個別最適化が進み非効率化してしまっている業務フローの標準化を目的として、基幹システムおよび周辺システムの刷新プロジェクトが進行しています。

基幹システムの刷新によって企業の成長スピードを加速できるはず、とその効果に期待を寄せる東氏ですが、一方で新たな課題も生まれていると言います。

「基幹システムの標準化に伴って全社最適化は進展する一方で、現場業務の負担に対する手当は出来ていないと感じていました。私たち DX 戦略推進本部は、業務・データの標準化を進めるシステム構築と現場の皆さんの手作業を効率化する仕組みづくりを両輪ととらえ、ともに注力する必要があると考えています」(東氏) 

そこで発案されたのが、ローコード アプリ開発ツールの Microsoft Power Apps をはじめとする Microsoft Power Platform を活用した市民開発促進プロジェクトです。もともと Microsoft 365 の活用推進者でもあった東氏は、Microsoft 365 が提供する機能のなかに使いこなせていない部分があると感じていました。そのなかに Power Platform も含まれており、あるとき日本マイクロソフトがリリースしていた事例記事を読んだ東氏は、Power Platform を使えば自社の課題を解決できるのではないかと直感したといいます。

「現場の要件をよく知っている従業員であれば、迅速かつ満足度の高いアプリがつくれます。さらにコストも少なくて済む。現場の業務負担を減らすためのツールとして、高いポテンシャルを秘めていると感じました」(東氏)。

試作によって Power Platform の効果を確信

東氏は意気込んでチームメンバーに Power Platform の導入企画を説明しました。ところが、最初の反応は芳しくありませんでした。シスメックス株式会社 情報ソリューション部 システム開発グループ 係長の松本 純明 氏は、過去にEUC(エンドユーザ・コンピューティング)がもてはやされた際、特定のヘビーユーザーが作りこみをしてしまった結果、異動や退職によってアプリケーションの運用継続や維持管理が難しくなる状況が多発したという苦い歴史を知っており、市民開発の推進に懸念を抱いたそうです。

「最初に東から話を聞いたときには、同じ轍を踏んでしまうのではないかという懸念を抱きました」(松本氏)。

ただ、Microsoft 365 は導入済みで、Power Platform 自体はすぐに使える状態だったことから、松本氏はまずは自らアプリを試作してみることにしました。そのとき松本氏が制作したのは、スマートフォンから社内会議室の空き状況を検索し、そのまま予約まで行えるアプリでした。松本氏は、制作にとりかかってすぐ「これは使える!」と感じたといいます。

「ローコードでのアプリ開発は初めてでしたが、必要な部品を組合せることと適当な設定を施すことで、想像以上に短時間、かつわずかな手間でアプリができあがりました。これなら、ITのバックボーンを持たない一般の従業員でもアプリを開発できるかもしれない。現場主導のDXが進めば、現場業務の効率化はもちろん、ITを使いこなせる人材の育成にもつながる。むしろ、市民開発によるリスクへの対策として、過去に EUC をうまく活用できなかった経緯を活かすべきではないかと考えなおしました。」(松本氏)。

こうして、東氏、松本氏、そしてシスメックス株式会社 情報ソリューション部 システム開発グループの堀 孝彰 氏が中心となって、市民開発促進プロジェクトの推進が始まりました。

“えこひいき型”の導入支援策により、局所的にユーザーを増やす

「Power Platform のメリットは、なんといっても非 IT 部門の人たちでもノーコード・ローコードでアプリがつくれる点。それから自分たちの困りごとを自分たちで解決できること、さらにそこから自発的に課題を解決しようとする動きが広まっていく点だと感じています」と東氏。

一方で、「Microsoft Teams のように使い方がわかりやすいツールではありませんから、導入したからといってすぐに使ってもらえるわけではない点も考慮しなければいけません」とその特性を分析。導入をアピールするだけではすぐにムーブメントを起こすのは難しいと判断し、推進チームは一計を案じることになりました。

「まず市民開発と親和性が高いと思われる部門をピックアップして、説明会やハンズオントレーニングなどの手厚いサポートを提供することで、局所的にユーザーを増やす“えこひいき型”の導入支援を展開することにしました」(堀氏)。

この“えこひいき型”導入支援の対象として、推進チームは研究開発部門に声をかけたのですが、研究開発部門よりもむしろ開発者を支えるバックオフィス部隊の方にこそ変革や改善を必要とする煩雑な業務がある事を知りました。そこで対象をバックオフィス部隊に変更して打診したところ、「やりましょう」という返事が返ってきました。

とは言え、この快諾の返答に対し「正直申し上げて、少し不安を感じていました」と東氏。IT の素養が高い人材が所属している研究開発部門とは異なり、バックオフィス部門のメンバーのほとんどがプログラミングの経験がなかったことから、IT の専門家ではない彼らが本当に開発出来るのか懸念を抱いていたのです。

ところが推進チームのメンバーは、すぐにその認識を改めることになります。

「説明会と 2 日間のハンズオントレーニングを経て、彼らは研究開発者向けの研修受講記録アプリや、海外への製品輸出の可否判定を支援するアプリ、さらには研究開発者の中途採用アプリなどを次々と、ほぼ自力でつくり上げてしまったのです。これにはとても驚きました」(東氏)。

マイクロソフトのユニファイドサポートでバックアップ体制を整備

こうして最初の Power Platform 導入支援プロジェクトは大成功。その要因として東氏は、参加した市民開発者の高い意欲やPower Platform 自体の機能性があったことはもちろん、日本マイクロソフトからの支援も大きな効果があったと語ります。

「ハンズオン トレーニングは日本マイクロソフトさんに伴走していただき、当日もつきっきりで、わからないことがあればすぐに質問できる体制を構築できました。その場で疑問点を解消できて、”自分もできる”という感触を持ち帰ってもらうことで、その後の継続的な取り組みにつながったと思っています」(東氏)。

日本マイクロソフトからの同社への支援は、こうしたイベント時だけではなく「ユニファイド サポート」を通したサポートも行われています。
ユニファイド サポートは単なる製品サポート サービスではなく、24 時間体制の、顧客に合わせた情報提供やサービスの効果的な活用方法提案、問題発生の事前予防・保安サービスなどを組み合わせた上位サポート サービスです。

「当社では 外部のIT サポートデスクに業務を委託しており、従業員からの IT 関連の問い合わせはそこで一次対応してもらうフローになっています。しかし、基本的な Q & A レベルであれば問題ないのですが、Microsoft 365 の機能に関して少し複雑な質問や活用方法に関する相談は解決することが出来ず、情報ソリューション部にエスカレートされるケースが多々あります。Power Platformは正にこの最後のパターンに該当することが予想されました。」(松本氏)。

情報ソリューション部のリソースが不足することも予想されたため、同社ではユニファイド サポートを活用しました。

ユニファイド サポートについて松本氏は、「問い合わせ対応以外にも新しいサービスの情報などもタイムリーに提供してもらえますし、こちらからの相談にも親身に乗ってもらえています」と高く評価。

堀氏も、「市民開発者からの問い合わせに対し、ベスト プラクティスを提案してくれるので、私達から市民開発者に回答するよりも有用だと感じています。月に一度、ユーザー向けに日本マイクロソフトのエンジニアの方との対面セッションを設けていただいているのですが、人気が高すぎてあっというまに枠が埋まってしまいます」とその効果を実感しています。

プロジェクト拡大フェーズに入り、想定課題への対策も準備中

バックアップ体制も整い、最初の Power Platform 導入支援プロジェクトで自信を得た推進チームは、サプライチェーンマネジメント部門、営業部門など他部門にも支援対象を拡大。順調に市民開発者は増加しており、いまや 40 以上のアプリが現場で開発され、業務効率化に役立てられています。

「社内ポータル サイトでアプリの事例紹介やアプリ カタログを公開したところ、“これができるならうちの部門でもやってみたい”という引き合いがたくさん寄せられるようになりました。いまや説明会は順番待ちの状態です」と嬉しい悲鳴の堀氏。今後は“えこひいき型”の導入支援ではなく募集型に切り変えて、広く社内に浸透させていく予定です。

松本氏は、前述の市民開発を推進することによるリスクにどのように対応したか語ります。
「情報セキュリティの確保と市民開発されたアプリを管理する仕組みづくりが課題だと捉えていました。そこで、どのようなアプリであれば市民開発してよいかというガイドラインを策定するとともに、Power Platformの利用環境全体に対してガイドラインに反する操作は出来ないような設定を施しました。また、どの部門の誰がどのようなアプリを作っていて、それがどのように利用されているのかを把握できる管理用のダッシュボードも準備中です。」(松本氏)。

まずはマインドを醸成すること。ブレーキはそのあとでも遅くない

このように安全性を担保しながらも「今はまだブレーキを踏む段階ではありません」と、東氏は力を込めて語ります。

「攻めと守りで言えば、今はまだ攻めのフェーズだと思っています。なかにはうまく効果を出せず無駄になる開発もあるかもしれませんが、それよりもこのムーブメントを止めてしまうことの方が、リスクが高いと考えています。」(東氏)。

この方針のもと、推進チームはユーザーから寄せられる相談については基本的に「まずは一度やってみよう」という方針で臨んでいます。さらに日本マイクロソフトと毎月定例会議を開催し、最新情報のキャッチアップやサービスのアップデートを行なっています。「私たちの状態をよく理解していただいているので、当社に特化したアドバイスをいただけるのでとてもありがたいですね」(東氏)。

「意欲ある人が自分のやりたいことを実現できて、“自分の隣で働いている人がアプリをつくった”、“自部門でもデジタル化への取り組みが出来るのだ”、そんな声が社内に広まるようにサポートしていきたいです」(松本氏)。

「Power Platform の魅力は、現場の人たちが既存の業務に満足するのではなく、自ら業務を変革したりデジタル化したりしようとするマインドを持てる点だと思っています。そういったマインドはこれからの私たちに大切なもののはず。これが会社全体に広がるように支援していきたいと思います。その結果、現場主導の DX 文化が根付き、シスメックス全社のデジタル化の加速につながると考えています。」(堀氏)。 

現場がのびのびと取り組む環境を整えるのが IT 部門の仕事

Power Platform をテーマとした他社との交流会を開催するなど、ますます市民開発のスケールアップを進めている同社。東氏は、プロジェクト成功の秘訣は「巻き込むこと」「現場を信頼すること」「自主性に任せること」だと語ります。

「興味を持ってくれた従業員だけでなく、その上司に市民開発の重要性を理解してもらうことも重要です。それによって開発者の心理的安全性が高まり、自発的にかつ自由な発想でのびのびとデジタル化に取り組むことが出来ると考えています。」(東氏)。

今後は Power Platform をベースにして AI を活用した業務の効率化にも取り組んでいきたいと意気込む東氏。「内部のリソースだけだと追いつかないところも出てくると思いますから、日本マイクロソフトさんには引き続き手厚いサポートをお願いしたいですね」と期待を語ります。

市民開発ツールを導入するだけでなく、導入の段取りやバックアップ体制、モチベーション維持にまで気を配ることで、自発的な社内DXを着実に進めている同社。この先きっと、ヘルスケアという私たちの暮らしに欠かせない分野で、ますます存在感を発揮し続けていくことでしょう。

“現場の要件をよく知っている従業員であれば、迅速かつ満足度の高いアプリがつくれます。さらにコストも少なくて済む。現場の業務負担を減らすためのツールとして、高いポテンシャルを秘めていると感じました”

東 昌芳氏, DX 戦略推進本部 デジタル企画部 シニアプランナー, シスメックス株式会社

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