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2021/10/21

Power Automate によって、生徒が健康管理アプリを開発。ICTへの興味関心を後押しできる学校へ

教育現場への ICT 導入が急ピッチで進む今、多くの学校では、授業での活用や業務のデジタル化・自動化といった具体的な実践が現場の先生に委ねられています。

現場に任せることは、さまざまな授業や各学校の実態に合わせた学びの個別最適化が可能となる一方で、「ICT に詳しい先生」がリードしなければデジタル化が進まないという課題感を生み出すことになりました。「世界一忙しい」とも言われている日本の教育現場では、新しいアプリやツールの使い方を調べたり、試行錯誤を重ねたりする時間がなかなか取れないという声も多く聞かれます。

そんな中、山梨県立甲府西高等学校は Microsoft 365 Education に含まれる Microsoft Power Automate や Microsoft Teams、Microsoft Forms といったツールを使い、生徒が主体となって、健康管理アプリを開発しました。それは教職員の働き方改革の実現であるとともに、探究型学習の実践でもあったのです。

Kofu Nishi High School

毎朝の体温チェックをどのように効率化するか

GIGA スクール構想によって急速に学校現場に導入されているデジタル テクノロジーは、子どもたちに新たな学びのスタイルを提供するだけでなく、教職員の「働き方改革」をも加速させることができます。

先生の仕事量の多さは、以前から子どもたちも感じ取っていました。北海道教育大学、愛知教育大学、東京学芸大学、大阪教育大学の合同プロジェクトが 2014 年に実施した調査※によれば、「学校の先生の仕事に対するイメージ」という問いに対して、小・中・高で最も多い回答は「忙しい仕事」です。中学・高校生ではさらに「苦労が多い仕事」がトップにきます。

※出典: 「教員の仕事と意識に関する調査」 HATOプロジェクト 教員の魅力プロジェクト

「せっかく ICT 活用ができるようになったのだから、もっと仕事を効率化していきたいという思いがありました」と語るのは、山梨県立甲府西高等学校 数学科教諭 志村奨氏です。甲府西高校は、2018 年からマイクロソフトの「ステップモデル校プロジェクト」に参加するなど、山梨県下で先駆的に ICT を導入してきました。

「甲府西高校では新型コロナウイルス感染症対策のため、2020 年 6 月から毎朝、生徒には、アンケートなどの作成が簡単に行える Forms というツールを使って体温を報告してもらっています。しかし、未入力の生徒を毎日チェックして、口頭で指示することが大変な手間になっていました。もっと楽にできる方法はないかと模索したところ、Power Automate を使うことによって、1 時間足らずで催促メッセージの送信を自動化できるようになったのです。早速、教職員間で活用している Teams の『アイデアお試し』チャネルにマニュアルを載せて、同僚の先生にも使えるようにしました」(志村氏)

Power Automate は、マイクロソフトの提供する業務自動化ツールです。高度なプログラミングスキルが無くとも、アプリの連携や操作の自動化といったシステムを組むことが可能になります。志村氏の開発した「体温未入力の生徒に催促メッセージを自動的に送る方法」はコミュニケーション ツールの Teams によって共有され、数人の先生が自分のクラスで使い始めました。

これに興味を示したのが、山梨県立甲府西高等学校 3 年の保坂一希さんでした。

「夏休みが明けたら、自動的に催促のメッセージが届くようになりました。『すごいシステムですね』と、すぐに当時の担任の名取先生に聞きに行きました。そこで Power Automate のことを教えてもらったのです。ただ、催促は自動化できても、Forms のリンクは毎朝早起きして送信しなければならないと聞き、それは大変だなと思いました。私は以前、スクラッチでプログラミングをしたことがあったので、『Power Automate を使ってもっと便利なシステムを自分で作ってみよう』、そんな探究心がめらめらと沸いてきたのです」(保坂さん)

プログラミングの専門知識が無くともアプリを開発できる「ローコード開発」が、昨今注目されています。Power Automate を活用することによって、エンジニアに外注するのではなく、現場が必要なシステムを自ら組み上げることがこの「ローコード開発」です。学校現場においても、申請手続きや遅刻・欠席連絡、面談日程の調整といった細かい校務を、先生自らがローコード開発する動きが、日本でも続々と登場しています。

しかし、甲府西高校においては、教職員ではなく「生徒主体」で、毎朝の健康管理という校務を効率化するシステム開発を進め、実装させたのです。

教員の後押しによって「検温丸」が全校導入

保坂さんとの開発の日々を、山梨県立甲府西高等学校 国語科教諭 名取美和子氏は楽しげに振り返ります。

「彼は Power Automate を知ってからすぐ、いろいろ調べては、『先生! ここはこう設定すると改善されますよ』『先生のパソコンで設定してもらってもいいですか?』と提案しに来てくれるようになったのです。そこで、私の隣で教員用の Surface Book を一緒に見ながら、試行錯誤することにしました。メッセージが上手く送信できなかったり、すごく重くなってしまうこともありましたが、2 週間ほどで、『健康観察自動化システム』が完成したのです」(名取氏)

「検温丸」と名付けられたこのシステムは、毎朝、生徒に体温を入力するための Forms のリンクが自動的に届き、データは Microsoft Excel に保存されていきます。未入力の場合は、Teams でリマインドされます。生徒は自身のモバイルデバイスからでも、生徒用の Surface Pro からでも入力が可能です。先生は Excel ファイルから、自分のクラスや顧問を務める部活、委員会などをフィルタリングして確認する事ができます。さらに、新型コロナウイルス感染症の陽性者が出てしまった場合、「追跡モード」にすることで、陽性者とクラスや部活などの所属が同じ生徒のデータを一覧し、接触者を迅速に特定することができます。

検温丸の便利さを実感した名取氏は、会議の場で同学年の先生にも紹介していきます。同学年のほかのクラスでも利用が始まり、やがて検温丸の噂は、当時、同校の校長を務めていた山梨県教育委員会 教育監 手島俊樹氏の耳にも届きました。

「実際にデモを見せてもらって、これは凄いと感じました。その時、『全校で使ってもらいたいが、現状は Power Automate や OneDrive に制限がかかっていて難しい』という相談を受けたのです。教育委員会にかけあったところ、すぐに対応していただくことができました。全校版の開発に着手できた彼は、バージョンアップするたびに校長室のドアを叩いて見せに来てくれるようになりました」(手島氏)

その翌年度に赴任した山梨県立甲府西高等学校 校長 初鹿野仁氏は、「検温丸を導入して欲しい」という要望を先生から受けたと言います。

「別の学校でも検温報告などの健康調査は行っていましたが、『生徒に紙で書かせて、担任が確認して、忘れたときは口頭で注意する』というフローでした。これでは、先生にも生徒にも負担がかかってしまうので、なにか改善策は無いものかと悩んでいたのです。甲府西高校に赴任して早々に、1 年次の主任から検温丸についての相談を受けました。素晴らしいシステムだと思いましたね。『全校版』の検温丸が完成次第、すぐに利用できるよう許可を出しました」(初鹿野氏)

こうして 2021 年 4 月末、甲府西高校の全校で「検温丸」の利用がスタートしました。

完全自動化により、健康管理が劇的に効率化

「毎日 30 分かかっていた作業が自動化された」と、志村氏は検温丸の効果について、力強く語ります。

「毎朝 5 時台に Forms を作成して、送信して、データを保健室共有の Excel ファイルに貼り付けるという作業は本当に大変でした。全学年で 18 クラスありますから、担任それぞれとはいえ、作業時間を合計すると相当な時間がとられます。検温丸はそのすべてを自動化してくれました」(志村氏)

「課題を解決する面白さに突き動かされた」と、保坂さんは検温丸の達成を振り返ります。

「先生方の負担を軽減したい思いもありましたが、1 番は探究心です。ある特定の課題をどうやったら解決できるのか、それを考えて作っていくのが面白くて仕方なかったのです。今でも思いついた時に機能改善をしていて、処理の高速化など、最適化が実現できています。昼休み中に、検温丸についての会話が聞こえてくる事があって、そういうときは嬉しくなりますね」(保坂さん)

そんな保坂さんの成長を、名取氏は感慨深げにこう話します。

「1 人で突き進んでしまわないように、開発中は “守るべきライン” についてはよく話し合いました。そうして 1 年経ち、自分に与えられた領分はどこまでなのか、やりたいことを実現するためには、誰にどのような許可を取れば良いのか、こういった判断ができるようになったことに、すごく成長を感じています。『生徒だからこんなことはさせられない』『先生だからどうせ分かってくれない』ではなく、お互いに尊重する心が良い結果を生んだのではないでしょうか。一緒に作った最初の検温丸は、私の宝物です」(名取氏)

「指導」の意識を変えて、生徒をさらに飛躍させていく

Power Automate による検温丸の開発そのものが、「主体的・対話的で深い学び」になったのではないかと、志村氏は言います。

「何が問題になっているのか? それを解決するにはどうしたらいいのか? Power Automate による検温丸開発のプロセスは、まさに協働学習や探究学習、システム思考の実践でした。ほかの生徒にも、こういったことに興味を持って欲しいと思います」(志村氏)

また、山梨県教育委員会 理事 降籏友宏氏は、甲府西高校における検温丸開発の意義を次のように語ります。

 「生徒の強みを教師が見抜いて、それを伸ばせるようにサポートするという、教育の根幹に関わる好事例だと感じています。システム開発に対する生徒の強い思いを、先生方がしっかりと汲み取って、後押しされた結果でしょう。飛び出る生徒の才能の芽を眠らせずに、伸ばせるように先生方が支援してあげること。単なる『指導者』として振る舞うのではなく、生徒の力を存分に発揮できるようサポートする。今回の検温丸開発による甲府西高校の先生方と生徒との一連の関係性は、これから本格化するICT 活用時代の新たな教育を実践していく上で、大いに参考になると思います」(降籏氏)

柔軟な発想と体制、それに ICT 環境があったからこそ、今回の課題解決が可能になったと初鹿野氏と手島氏の両名は続けます。

「"深い学び" は、ICT がなかったとしてもちろんできるのですが、ICT があることによって一気に深まると実感しています。さらに、今回保坂君のような事例が生まれたのは、手島先生をはじめとした先生方が『やってみて』と生徒に任せたおかげでもあると考えています。彼にしてみればこの体験で自己肯定感が高まったと思いますし、ますます何か別の課題解決に向けて挑戦しようという探究心や学びへの意欲を引き出せたのではないでしょうか」(初鹿野氏)

「周りの先生方の支えや、教育委員会がすぐに動いてくれたことも、彼のやる気をより刺激したと思います。たまたま今回は甲府西高校の保坂君の事例が取り上げられましたが、ほかの学校にも同じような良い事例がたくさんあるのではないかと考えています。そうした好事例を見つけ出し、県全体で共有しながら、より一層 ICT の活用を推進していきたいですね」(手島氏)

最後に、保坂さんは将来の夢をこう展望しました。

「実は、小学校の卒業式で『人の役に立つロボットを作りたい』という夢を発表したのですが、それがもう叶っちゃいました。『すごいね』『便利だね』と言ってもらえることはすごく嬉しいので、これからもシステム開発を通じて、人の役に立つことをしていきたいです」(保坂さん)

“『Power Automate を使ってもっと便利なシステムを自分で作ってみよう』、そんな探究心がめらめらと沸いてきたのです”

保坂 一希 氏, 3 年生, 山梨県立甲府西高等学校

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