Trace Id is missing
2024/07/11

Teams 電話の導入によりコミュニケーションを改革。丁寧な準備と検証で現場に寄り添う、気仙沼市の新しい働き方改革

気仙沼市は宮城県の北東部に位置する港町。国内屈指の良港である気仙沼港には、サンマやカツオ、マグロなどが水揚げされ、なかでもフカヒレの原材料となるサメの水揚げ量は日本一を誇ります。これらの豊富な海の幸と、リアス式海岸に囲まれた唐桑半島やヤマツツジが咲き乱れる徳仙丈などの地勢を有する同市では、グルメの街、観光の街を目指して観光産業の強化に取り組んでいます。

一方で、我が国の地方都市に共通する現象である人口減少への対応は、東日本大震災で受けた甚大な被害からの復興とともに大きな課題となっています。この課題を解決するための手段として、企業誘致や交通網の整備などと並んで同市が取り組んでいるのが、災害に強く持続可能な執務機能を持つ新庁舎の建設と、職員業務の変革です。

正職員 1,156 名、会計年度任用職員 524 名(2023 年 4 月 1 日時点)が務める気仙沼市役所では、PBX(電話交換機)のリース満了に伴い、Microsoft Teams 電話に移行することで庁内のコミュニケーションを抜本的に変革。新しい時代の働き方を実現しようとしています。

Kesennuma City Hall

コロナ禍で浮き彫りになった固定電話の抱える課題

同市でオンプレミス PBX からクラウド PBX や IP 電話への移行の検討が始まったのは、新型コロナウィルス感染症の流行に伴うニューノーマルな働き方が模索されていた 2021 年度のことでした。

もともと三層分離のセキュリティ強靭化モデルを、インターネット上で業務可能な範囲を広げた β’モデルで構築していた同市では、コロナ禍の早い段階でリモートワーク環境を構築。自宅で業務できる体制は迅速に整えられました。しかし、市民からの問い合わせや業者との連絡には主にオンプレミス PBX が使われており、電話対応のために出勤せざるを得ない状況が続いていました。

また、同市では業務用携帯電話は配布されていませんでした。一方で職員へのアンケート調査では、9 割以上が週一回以上は私物の携帯電話を業務時に使っており、業務用携帯電話の支給もしくは安全性の高い BYOD(Bring Your Own Device / 私用携帯電話の業務利用)環境の構築が望まれていることがわかっていました。

そもそも当時の市役所のバック オフィスでは、職場机の島ごとに設置された数台の固定電話のみ。課の代表番号に電話がかかってきたときには担当者への取り継ぎが必要となり、使いたいときには別の職員が使用中ということも多いため、業務の遅滞を招く一因となっていました。また固定電話の場合は,組織改編や人事異動があるたびにコストのかかる配線工事が必要となり、休日の工事立ち合いなどの業務は担当職員にとって大きな負担でした。

PC やスマートフォンから固定電話番号を利用できるTeams 電話を選定

気仙沼市 総務部 危機管理課 課長補佐の佐藤 充浩 氏は、2021 年当時は財産管理課 主幹兼施設管理係長の職にあり、ニーズやコスト、そして将来的な運用方法を見据えたコミュニケーション ツールの選定を行う立場でした。

「2023 年 8 月に PBX のリース期間が満了となるため、リプレイスを検討していました。コロナ禍での業務にも対応できるコミュニケーションツールの情報を集めるうちに、情報政策課からの情報で、Microsoft Teams には PC やスマートフォンから固定電話番号を利用できる Microsoft Teams 電話という機能があることを知りました」(佐藤氏)

同市ではすでに、大部分の職員が Teams を活用できる環境にあり、ライセンスを取得すればすぐに Teams 電話を利用可能な状況でした。佐藤氏は「Teams 電話を導入すれば、電話にまつわる諸課題を解決できるうえに、市役所全体の業務改善にも繋がるかもしれない」と希望を抱いたそうです。

「せっかく全職員が Teams を使えるのに、庁内では電話やメール文化が根強く、Teams のチャットや Web 会議といった機能の活用がなかなか進んでいませんでした。Teams 電話の導入は、その状況を変化させるきっかけにもなるのではないかと考えました」(佐藤氏)

佐藤氏からの提案を受けて、上司の立場だった気仙沼市 新庁舎建設・財産管理課 課長の阿部 正行 氏は「やらない理由はない」と感じたそうです。

「一定数反対はあるとは思いましたが、佐藤の理路整然とした説明を聞けば、全体の業務が改善されることは明白でした。新庁舎への移転も控えていましたし、すぐにプロジェクトを動かし始めました」(阿部氏)

想定される懸念事項解消のために、検証に基づく丁寧な説明を行う

Teams 電話の導入にあたって、佐藤氏はまず庁内から寄せられることが想定される懸念事項の解消に取り掛かりました。例えば停電時の不安に対しては自家発電装置の存在やスマートフォンの活用を、インターネット回線のトラブルには回線を冗長化済であることを提示。音質やヘッド セットの使用感などへの不安に対しては、トライアル期間を設け
て検証。さらに説明会を実施し、窓口業務ごとで独自に存在する電話対応ルールに関しては個別に相談しながら進めることで、庁内からの異論や不安を鎮めていきました。

「Teams 電話に関わらず、新たなことを始める際には、事前になるべく多くの情報を共有して、俯瞰的に見て有意な変化であると納得してもらうことが大切」と佐藤氏。不安の解消に加えて、Teams 電話のメリット訴求も同時に行っていきました。

「Teams 電話を導入すれば、リモートワーク時や出先からでも電話対応できるようになります。人手を要していた取り継ぎの手間も減らせます。新庁舎への移転時にも回線工事は必要ありません。こうした導入メリットを丁寧に説明することで、新たなオペレーションへの忌避感を抑えていきました」(佐藤氏)

こうして、2022 年から 2023 年にかけて導入効果の見極めと庁内の調整が行われ、2023 年 10 月に実装作業、11 月には早くも一部で利用が開始されました。ライセンスは、BYOD 導入も視野に入れて、Office 365 E3 から Microsoft 365 E3 + Teams Phone へとステップアップ。Microsoft 365 E3 に含まれる Intune などを活用し、セキュリティの担保を行なっています。

また、Microsoft ライセンスの調達や予算執行は情報政策課が主管し、通信キャリアが提供する Teams 電話のサービスの調達や予算執行を新庁舎建設・財産管理課が主管をされています。

技術的な部分を担った気仙沼市 震災復興・企画部 情報政策課 主査 菅原 秀和 氏によると、実装フェーズでは日本マイクロソフトのサポートサービスが大いに役立ちました。

「Microsoft 365 E3 の導入に際しては FastTrack for Microsoft 365 を活用させていただきました。当時私は現在の担当になったばかりで右も左もわからないような状況だったのですが、おかげでスムーズに実装を進められました。BYOD に関しても、まもなく運用を始められそうです」(菅原氏)

気仙沼市 震災復興・企画部 情報政策課 課長補佐兼情報政策係長 三浦 孝広 氏によると、BYOD 運用の制限については、情報政策課内ではすでに整理がついており、技術的にはセキュリティ対策は十分行われているが、個人端末の業務利用という繊細な部分のため、庁内の理解獲得を慎重に進めているそうです。

Teams 電話運用開始からまもなくして、目に見える効果を発揮。代表電話受信数が 1 万回から半減

本プロジェクトでは、佐藤氏が危機管理課に異動となったため、現在は気仙沼市 総務部 新庁舎建設・財産管理課 主幹兼施設管理・経営係長 菅野 真一 氏が Teams 電話の導入、運用フェーズを担当しています。

「2024 年 3 月現在で、職員数が多い 7 施設、609 台の PC、13 台の IP 電話を庁内電話として活用しています。佐藤が段取りをつけてくれたので、スムーズに導入を進められています」(菅野氏)
阿部氏によると、運用を開始してから日は浅いものの、直接個人の Teams 電話でやりとりが可能になったことによって、眼に見える形で業務の効率化を実現できているとのこと。

「導入前の2023 年 3 月は、ひと月で代表電話への受信数は 1 万回以上ありましたが、導入後の2024 年 3 月は 5,000 回程度と、まさに半減しました。これは、職員の手間が減るだけでなく、電話をかけてくる市民や業者の皆さまが取り継ぎで待たされる回数や時間も減っているということですから、導入効果としては十分と言えるのではないでしょうか」(阿部氏)

また、今までは折り返し電話を執務室で待つといった無駄な待機時間がありましたが、今では出先でも受信できるため、効率的な働き方ができるようになったとのこと。「現在はリモートワークする職員はかなり減りましたが、今後は業務内容によってはリモートワークも選択しやすくなるかもしれません」(佐藤氏)
固定電話機が足りないため、別の職員の電話が終わるのを待つといった時間もなくなりました。

管理者の目線では、春の人事異動時の番号変更などの設定作業が数時間の Web 画面上の作業で完結したため、配線工事や PBX 設定変更のコストや納期、また休日立ち合いなどの負担も解消できました。

職員から発信する際には自分の個人番号でかけるのか所属課の番号でかけるのかを選択できるため、職員のプライバシー保護も確保できています。就業時間を設定できるため、時間外の電話対応が発生することもありません。

さらに「先ほど佐藤が、副次的な効果として Teams 自体の活用促進を見込んでいたと言いましたが、実際に、チャットでのやり取りが通常の風景になってきました」と阿部氏。三浦氏も、「画面共有しながら通話できる、プレゼンス(在籍状況)を確認して通話ではなくチャットで連絡するなど、Teams 自体の本来の便利さに気づいた職員も増えてきていると思います」と、Teams 電話による働き方の変化は予想以上と口を揃えます。

現場の声を聞きながら、新たな技術にも目を向けていく

懸念されていた窓口業務の混乱についても、今のところ大きな問題は発生していないようです。

「各課で Teams 電話を前提とした運用に変更するなど、うまく対応してくれています。“ヘッドセットでの操作に慣れてしまったら、もう固定電話には戻れない” といった声も聞かれるくらいです」(菅野氏)

とはいえ、「まだまだ使いこなせているとは言えません」と阿部氏。情報政策課でも同じ問題意識は持っており、継続的に Teams の研修会を行なっていく予定です。

「昨年度、基礎的な操作をテーマにした研修会を開催した際には 50 名ほどの参加者がありました。今年度は基礎に加えて、さらに高度な機能の使い方までステップアップしていきたいと考えています」(菅原氏)
阿部氏は、「これまで同様、今後もアンケートを実施するなどして、職員の声に丁寧に対処していきたい」と語ります。

「職員が Teams 電話でどんなメリットを享受しているのか、また逆に不便になっていることはないかなどを調べていきたいと思っています。不満に感じられる点も出てくると思うので、その改善の際にはまた日本マイクロソフトさんに相談させていただきたいと思っています」(阿部氏)

佐藤氏は、次の展開として生成 AI に非常に大きな期待を抱いているとのこと。「文字起こしや文章作成、チラシ作成など、これまで人力で行っていた部分を大幅に省力化できる可能性があると思っています。ただ、Teams 電話と同様に懸念の声が上がることは確実だと思いますので、しっかり向き合って対処していかなければなりませんね」(佐藤氏)

「常に新たな技術に目を向けることはとても大切です」と、佐藤氏の言葉に頷く三浦氏。「ただ、私たち情報政策部門としては、便利なものはどんどん取り入れていきたいのですが、自治体としては財政的な部分を考慮する必要があります。日本マイクロソフトさんには、こうした私たちの事情を理解いただいたうえで、効果的なご提案を期待しています。」(三浦氏)

説得材料を用意して丁寧に調整することが成功の鍵

佐藤氏は、今回の Teams 電話導入においては、課内の理解を得たうえでの庁内の啓蒙と、財産管理課、情報政策課という異なる部署の連携が成功の要因ではないか、と総括。「行政機関は往々にして保守的になりがちですから、しっかり説得材料を用意して、丁寧に調整していくことが成功の鍵だと思います」と、後に続く自治体にアドバイスを送ります。

行政機関としての規範は守りつつも、常に新しい情報を得るためにアンテナを張り、オープンに議論を進めながら全体の理解を醸成し、最適化を目指す。気仙沼市の皆さんの姿勢は、多くの自治体にとって大いに参考になるのではないでしょうか。

私たち日本マイクロソフトも、行政機関の皆さまの事情をよくよく理解したうえで、将来を見据えるパートナーとして常に寄り添い、貢献できる存在でありたいと願っています。

“2023 年 3 月のひと月で、代表電話への受信数は 1 万回以上あったのですが、2024 年 3月には 5,000 回程度と、まさに半減しました。これは、職員の手間が減るだけでなく、電話 をかけてくる市民や業者の皆さまが取り継ぎで待たされる数や時間も減っているということですから、導入効果としては十分と言える のではないでしょうか”

阿部 正行 氏, 総務部 新庁舎建設・財産管理課 課長, 気仙沼市

次のステップに進みましょう

Microsoft でイノベーションを促進

カスタム ソリューションについて専門家にご相談ください

ソリューションのカスタマイズをお手伝いし、お客様独自のビジネス目標を達成するためのお役に立ちます。

実績あるソリューションで成果を追求

目標達成に貢献してきた実績豊かな製品とソリューションを、貴社の業績をいっそう追求するためにご活用ください。

Microsoft をフォロー