今、日本の成長戦略を支える施策の 1 つとして注目される「テレワーク」。2016 年 11 月には、テレワーク推進フォーラム (総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、学識者、民間事業者による構成) の主唱により、テレワーク普及推進策の 1 つとして「テレワーク月間」(2 年目) も開催されています。

「テレワーク」とはいったい何か? そして、「テレワーク」がもたらす可能性とはどのようなものなのか? テレワーク学会 会長であり、テレワーク月間実行委員会の委員長を務められている松村 茂 氏に、お話を伺いました。

 

 

目次

  1. 実は、1980 年代から研究されている「テレワーク」。実践も、それほど難しいものではありません
  2. 2020 年。そして、その先の日本の発展にテレワークの普及が大きなカギを握る
  3. 現在のテレワークは、まだ第 1 フェーズ。「働き方改革」の浸透と共に、テレワークも進化する
  4. 「地方創生」への貢献。テレワークで、地方に人が集まる社会へ
  5. さらなるテレワークの進化へ。IT 企業に期待すること

テレワークと「働き方改革」&「地方創生」

テレワークと「働き方改革」&「地方創生」の動画のサムネイル

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実は、1980 年代から研究されている「テレワーク」。 実践も、それほど難しいものではありません

テレワークとは、「ICT を活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」のことです。 
企業における、もっとも分かりやすい活用例は、「(育児参加などを目的とした) 在宅勤務」でしょう。

 

「在宅勤務」の実施例が増えて、テレワークという言葉が、あちらこちらで聞かれるようになったのは、つい最近のことですが、研究自体は 1980 年代から続けられています。 
当時はまだICT も浸透していませんでしたが、東京圏における住宅問題や職住遠隔化などの課題を解決するために唱えられた「業務核都市」などのテーマを含め、 "未来型の社会" の在り方や、可能性などを研究してきました。 
私たちが所属する日本テレワーク学会 (1999 年 6 月 5 日に設立) は、そうした研究者や実務者の集まった組織です。

 

そして ICT が広く普及している今、「在宅勤務」などを実践するために、テレワークを導入する企業が着々と増え始めています。しかしまだ、テレワークを経験されたことのない方も多いことと思います。 
実際に経験されないと、なかなかイメージが湧かないかも知れませんが、テレワークを実践することは、それほど難しいことではありません。

松村 茂 氏の写真

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今は、メールやチャット、SNS などを使って、遠距離の友人・知人と簡単にコミュニケーションできます。 
実は、テレワーク学会の理事会も、メールなどを使って行っています。役員の所属組織も、勤務地域もバラバラですから、一堂に会するよりも、よほど効率がいいのです。

 

会議用の資料も、完璧を求めて作り込むのではなく、議論すべき重要議題に絞って、要点だけをまとめていく……そうすると、資料作成の時間を、要領よく短縮できます。もしも、資料を見て分からないことがあっても、すぐにオンラインで質問すればいいわけですから。

 

今は、個人のデスク ワークよりも、チームによるテーブル ワーク……つまりミーティングやブレインストーミングなどで、さまざまなスキルやナレッジを持った人たちが意見やアイデアを交感し、新しい価値を創造していくことに、仕事の重心が置かれる時代です。

 

高密度にかつ高速に情報を交換することが大切ですから、ICT を活用したテレワークが、重要視されるようになったことは、当然の流れだと言えるでしょう。

参考リンク
 

・ 日本テレワーク学会

・ 業務核都市

 

2020 年。そして、その先の日本の発展にテレワークの普及が大きなカギを握る

「働き方改革」や「一億総活躍社会」といった、国家の成長戦略に関するキーワードを語る時に、安倍総理も、「テレワーク」という言葉を使用しています。 
 それは、数多くの課題を解決する糸口として、テレワークが期待されているからです。

たとえば、今の日本には、少子高齢化によって日本の総人口および生産年齢人口 (15~64歳の人口) が減り続けているため、成長に向けた人材確保が困難になっています。 
そうした中で、テレワークによって「通勤を必要としない働き方」が実践できれば、出産・育児あるいは介護によって離職せざるを得なかった方々や、優れた経験と知識を持ちながら定年を迎えられた世代の方々に、復職していただくことも容易になるでしょう。

 

また、時間と場所にとらわれず、柔軟に働くことができるようになれば、企業のビジネス パーソンもフリーランス ワーカーも、時間の使い方に余裕が生まれます。効率よく働き、プライベートな時間を今まで以上に確保することで「ワーク ライフ バランスの改善」が図れるでしょう。

 

そうした期待を背景に、11 月を「テレワーク月間」と定めて、私たちも普及活動に努めています。

 

そして、テレワーク推進活動の成果が試される 1 つの節目となるのが、東京でオリンピック・パラリンピックが開催される 2020 年です。 
実は、2012 年のロンドン大会の成功にも、大々的なテレワークの実践が影響していたのです。

 

ロンドンでは、数万人を収容するいくつもの競技場に対する観客輸送をどうするかという課題があったのですが、非常に多くの企業がテレワークを実践することで、地下鉄からも人が減り、道路の交通渋滞も緩和され、非常にスムーズな観客輸送に貢献していました。

 

日本でも、この成功事例を参考に、同じような施策を検討しています。

松村 茂 氏の写真

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現在のテレワークは、まだ第 1 フェーズ。 「働き方改革」の浸透と共に、テレワークも進化する

テレワーク導入企業数は着実に増えていますが、テレワークが本来持っている可能性は、まだまだ発揮しきれていません。今はまだ、第 1 フェーズに過ぎないと考えています。

 

テレワーク本来の魅力と可能性について、広く一般にまで理解していただけるようになるのは、テレワーク活用を、"第 2 フェーズ" へと押し上げる必要があります。 
ここで密接に関係してくるのが、「働き方改革」なのです。

 

すでに「残業ゼロ」などの試みが始まっていますが、給料が変わらず、無駄な残業が減って、自分の時間が増えるのであれば、ほとんどの方は今よりも密度の濃い働き方をするようになるでしょう。

これは「効率が上がる」というよりも、「要領よく業務を行う」と表現する方が、正確かもしれません。 
たとえば、数時間かけなければ作れない資料を印刷・配布して会議するのではなく、30 分程度で作れる重要なポイントだけを簡潔にまとめた資料をモニター上で共有し、ミーティングするようにすれば、費やす時間が大幅に短縮されます。

 

そしてもう 1 つ重要なポイントが、「裁量労働制の浸透」です。 
"オフィスに出社して働いていた時間" で管理する労働形態から、実労働時間ではなく "成果物で評価する裁量労働制" に移行すれば、定時出勤の必要は減じます。 
さらに言えば、旅行しながら仕事をしいたとしても、成果物をきちんと提出すれば問題ないわけです。

 

多くのビジネス パーソンが、時間と場所にとらわれず、自律的に働ける環境……それが、テレワークの第 2 フェーズです。

 

そして今、テクノロジーの進化によって、第 3 のフェーズも見えてきました。 
VR (Virtual Reality) の活用です。VR を使ったテレワークが実現すれば、物理的なオフィスの必要性も低くなり、通勤ラッシュも解消されるでしょう。 

VR テレワークに関しては、まだまだ研究の段階ですが、実現すれば「都市の在り方」まで、一気に変化させるほどの可能性があるのです。

松村 茂 氏の写真

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「地方創生」への貢献。 テレワークで、地方に人が集まる社会へ

そして、テレワークには、もう 1 つ重要なテーマがあります。それが、「地方創生」です。 
取組みの一環として、総務省が平成 27 年度から実施している「ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業」があります。
テレワークの環境を地方に整えることで、企業のサテライト オフィスを誘致し、新たな雇用を生み出す。あるいはまた、それまで都市圏で働いていた人が地方に移住しても、変わらずに仕事を続けられるようにする。それが「ふるさとテレワーク」の狙いの 1 つです。

 

ここで大切なことは、実は「地方は豊かなんだ」ということです。それは、「経済的な豊かさ」ではなく、「時間的な豊かさ」です。

 

私も、一週間の半分は山形で仕事をしているのですが、ワーク ライフ バランスの良さを実感しています。 
都市部のように時間に追われ、長時間勤務を常とするのではなく、朝・夕には、地域の人たちとスポーツを楽しんだり、釣りに出かけたりと、自分が楽しむ時間を持っている人がとても多いのです。 
こうした地方の魅力を知り、テレワークの便利さを実感した人たちが増えて、都市部と地方を自由に行き来して生活するようになれば素晴らしいと思います。 
「地方創生」を成し遂げるためには、まずは "交流人口" を増やしていくことが大切なのですから。

 

昔から、新しい価値を創り出し地域を活性化させるには、よそ者・若者・バカ者が必要だと言われていますが、その通りだと思います。 
地域には、活力ある「若者」が必要です。 
何度失敗しても、あきらめずに取り組み続ける「バカ者」も、大切な存在です。 
そして、その地域にはない、新しい価値観をもたらしてくれる、貴重な存在である「よそ者」。 
こういう人たちがいないと、地方は動きません。 
しかし、地方には特に、「よそ者」が少ないのです。高齢化も進んでいますから、「若者」も非常に少ない。

だからこそ、「ふるさとテレワーク」などの取り組みによって、交流人口が増えることに、期待が集まるわけです。さまざまな人材が出入りして、地域の中に情報が渦巻くようになれば、地方経済の活性化に貢献する、新たな価値創造も、自然に進んでいくと思います。 
実は、よそ者によって新しい価値が持ち込まれた地域には、U ターン者が増えていると思います。新しい価値に共感した人たちが地域に戻ってくるのです。テレワークによってよそ者が移住してくることは、地域創生にとって重要なポイントです。

 

そして今、自動車の自動運転技術も進化しています。私も東京-山形間を移動していますので、「自動運転できるようになったら、一体どれだけの仕事を片付けることができるだろうか」と、ワクワクしながら実用化を待っていますが、これも「地方創生」につながるテクノロジーです。

 

全国に Wi-Fi などの ICT 環境が整備され、いつ、どこに居ても仕事ができる。他人とコミュニケーションできる。そして、自動運転によって安全に、気楽に移動できるようになれば、都市部と地方を隔てる "物理的・時間的制約" が、減少していくでしょう。

 

そうやって、人が都市部と地方を行き来する "モビリティ社会" が実現した時こそ、初めて「地方創生」が達成できると、私は考えています。

松村 茂 氏の写真

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さらなるテレワークの進化へ。IT 企業に期待すること

今後のテレワーク普及に向けて、少しでも多くの企業が、「在宅勤務」や「モバイル活用」、「Skype などを使った Web 会議」などを実施して、徐々に慣れていただくことが、とても大切です。 
そういう意味では、日本マイクロソフトが主催した「働き方改革週間 2016」に、833 社もの法人が賛同し、テレワークの実践が進んだことは、とても素晴らしいことだと思います。ぜひ、今後も続けていただきたいと思います。

 

そして、より良いテレワークが実践できるように、さまざまな製品・サービスを開発して欲しいと願っています。ICT ツールが、もっと便利で使いやすく進化すれば、それを活用するテレワーク人口も、自然と増えていくでしょうから。

松村 茂 氏の写真

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たとえば、ノート PC。 
私が日頃から感じているのは「ノート PC は "入力装置" であって、"読む装置" ではない」ということです。文書を読むときには、紙を手にするように顔に近づけたいのですが、ノート PC だとそうはいきません。そのため、タブレットを 1 台カバンの中に追加して持ち歩いています。Surface のように、1 台 2 役の PC もありますが、資料を参照しながら書類を作成する際など、やはり 2 台あった方が便利です。

 

また、Web 会議を行う際、Web カメラの位置と、ディスプレイの位置が異なるため、どうしても、モニターの向こうにいる人たちと目線が合わなかったりします。 
こうした "ほんのちょっとしたこと" が改良されていくと、テレワークは、もっと快適になるでしょう。 
「明日は在宅勤務だから、あれもこれもプリントアウトして持ち帰らなきゃ! ノート PC にタブレットにスマートフォンもカバンに詰めなければ!」とやっていたら、大変ですからね。

 

ICT の進化は、まだまだ止まらないと思いますし、日本マイクロソフトならきっと、私たちが「あっ!」と驚くような製品やサービスが次々に出してくれると期待しています。

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