赤磐市、トヨタ・モビリティ基金が展開する道路維持管理の取り組み、AIによる分析をマイクロソフトが支援

交通事故の未然防止や災害発生時の避難ルート確保など、市民の安全、安心な暮らしを支えるため、欠かすことのできない道路の維持管理業務。その効率化・高度化に向けて、岡山県赤磐市、一般財団法人トヨタ・モビリティ基金 (以下、トヨタ・モビリティ基金)などが協働で取り組みを行っています。これは走行中の車両から収集されたデータを活用することで、事故の原因になりかねない「ポットホール」などの検出を効率的に行っていこうというもの。おもなデータ源としては車載センサーを利用していますが、その精度を向上するため、ドライブ レコーダーの映像を利用した取り組みも進められています。マイクロソフトはこの取り組みを、AI による画像分析技術の提供によって支援。より安全で災害に強い街作りにおいて、AI がもたらす可能性に期待が寄せられています。

自治体の大きな負担になっている道路維持管理、データ活用でその効率化を目指す

トヨタ・モビリティ基金は誰もが自由に移動できるモビリティ社会の実現に向け、2014 年 8 月に設立、幅広いプロジェクトを通じて世界中の移動課題の解決に取り組んでいます。
その一環として行われているのが、赤磐市での取り組みです。
道路の維持管理や安全対策は、市民の安全、安心な暮らしを支えるために欠かせませんが、最近では道路の老朽化や、頻発する自然災害による破損も増大。適切な管理や対策を長期的にどのように実現していくかは自治体の重要な課題となっています。

「きっかけは、事故が多発していた市内の幹線道路への対応でした。当初はガードレールの設置など経験則から従来の交通安全対策を行っていましたが、ドライバーの方々に制限速度を守ってもらうために学術的に根拠のある効果的な対策をできないかと岡山大学と共同で研究を始めました」と語るのは、赤磐市長の友實 武則 (ともざね たけのり) 氏。

古くは GIS (Geographic Information System:地理情報システム) を活用して、道路や上下水道などの固定資産の台帳を管理するシステムの開発を行うなど長年都市整備の業務に携わってきた市長は、以前からこの分野の課題を、先進技術によって解決していく可能性を感じていたと説明します。

「幹線道路の研究では、各車線内の右側を走行する車のほうがスピードをだしていることがわかり、右側を走らせないようにポールを設置するなど、データに基づいた対策を行い、効果も測定しました。先進技術を活用することで、少ないコストでポイントを絞った対策を行えることを実感していました」 (友實 氏)

「これまでにも高齢者などの交通弱者、安全上の弱者などを支援する取り組みを進めてきましたが、モビリティの基盤となるのはやはり道路インフラの整備です」と語るのは、トヨタ・モビリティ基金の福田 勝 氏。
「しかし日本のほとんどの自治体の課題として、道路診断に多くの予算を確保することができません。少ないコストでこの問題を解決する答えが、データの活用だと考えていました。そのようななか、市長が率先して先進的な手段を採用されておられる赤磐市と取り組ませていただくことになりました」 (福田 氏)。

このような背景から、2019 年 7 月、赤磐市、岡山大学、岡山県、赤磐警察署が、トヨタ・モビリティ基金と共に「道路維持管理の新たな手法を考える協議会」を設立。今回の取り組みを開始することになりました。

赤磐市 市長 友實 武則 氏

一般財団法人トヨタ・モビリティ基金
プログラム企画グループ プログラム・ゼネラル・マネジャー
福田 勝 氏

車載センサーと GPS のデータでポットホールの位置を検出、誤検知の影響を回避するため画像データの活用も

道路を守るためのさまざまな業務の中でも、ポットホールの早期発見と補修は重要だと友實氏は語ります。ポットホールとは、道路上にできる円形状の穴のこと。その発生原因としては、大型車の通行や車線横断勾配によって生じる負荷、降雨/降雪に伴う浸水で発生する表層と基層の接着力の低下などが指摘されています。最初は小さかった穴も、時間の経過と共に大きくなっていくのが一般的。中には 1 日でマンホールほどの大きさになるケースもあります。

赤磐市ではポットホールの発見のためにシルバー人材に業務を委託していますが、市内全域を一巡するのに、1 – 2 か月かかってしまうのが通常で、つまりポットホールが新たにできていても、最長で 2 か月間発見されない可能性があります。ではどうすれば自治体の負担を増やさずに、ポットホールの早期発見が可能になるのでしょうか。この問題の解決策として採用されたのが、すでに走行している車両で収集されている既存データの活用でした。

「現在日本で走行している多くの車両には通信機が搭載されています。24 時間 365 日サーバーと通信を行うことで、道路情報の自動更新や車の見守りサービス、オペレーターへの接続などを実現。その一方で各種車載センサーのデータもサーバーへと送信しており、GPS による測位データを組み合わせることで、道路に異常が生じた場所を検出できます」(福田 氏)

さらに、今回の取り組みでは、この地域で配送事業を展開する事業者にも協力してもらい、配送車に搭載されたドライブ レコーダーの映像の活用をすることで検知の精度を高めたり、検知までのリードタイムを短縮することも試みました。

AI による画像認識の可能性を示したマイクロソフト、ポットホール検出以外での活用にも期待

この取り組みを、テクノロジーの側面から支援しているのがマイクロソフトです。

「トヨタ・モビリティ基金様との協業のお話をいただいたのは、2019 年 10 月ごろでした」と振り返るのは、日本マイクロソフトでアカウントテクノロジ-ストラテジストを務める吉田 正裕。トヨタ・モビリティ基金は今回の取り組みに先行する形で、配送会社のドライブ レコーダー映像を活用する準備を行っており、その画像をモビリティの安全性確保に活かせないかという相談を受けたと言います。そこでマイクロソフトが提案したのが、AI を使った画像認識による道路上のオブジェクト検出でした。

日本マイクロソフト株式会社
オートモーティブ第一営業本部
アカウントテクノロジ-ストラテジスト
吉田 正裕

「最初に行ったのが、ドライブ レコーダーの映像を 3 秒間隔で切り出し、そこに何が写っているのかをタグ付けすることでした」と語るのは、実際に提案を行った日本マイクロソフト オートモーティブインダストリーソリューション本部 本部長の内田 直之。たとえば歩道のない道路に歩行者が写っていれば、その場所は歩行者にとって危険な場所だという判断ができる可能性があると説明します。

日本マイクロソフト株式会社
オートモーティブインダストリーソリューション本部
本部長 内田 直之

ドライブ レコーダーの映像から切り出した画像を AI で解析をしてタグ付けをしている画面例。危険と思われる場所をタグから検出でき、危険位置かどうか記録することが可能。

これと並行する形で、マンホール位置を地図上にマッピングするしくみも開発。そのベースになったのは前述の AI によるオブジェクトのタグ付けであり、2020 年 1 月にはこのアプリケーションのプロトタイプを提供しています。さらに、車載センサーによるポットホール検出システムと、連携したしくみも提供。ポットホールが検出された時に、その位置情報に合致する画像を提供する、ということが行われています。

「今はこの画像を目視で確認してポットホールか否かを判別していますが、マイクロソフトは早い段階から AI 分析の可能性を見せてくれました。その精度が実用的なレベルになれば、目視による確認も不要になっていくでしょう。車載センサーと AI による画像分析を組み合わせることで、どこまで精度を高めることができるのか。これがこれから取り組むべき大きな課題になっています」 (福田 氏)。

この課題がクリアできれば、低コストで継続可能な「サステナブルなしくみ」が確立でき、予算が限られている他の多くの自治体へも、同様の取り組みが広がっていくはずです。また、採算性を確保できれば、自治体だけではなく民間事業者がビジネスとして展開することも考えられます。さらにポットホール検出だけではなく、事故発生の危険性がある他の要因の可視化や、災害発生時のドローン映像の分析なども、AI によって行える可能性があります。

「マイクロソフトは AI 分析でデータが様々な社会課題の解決に活用できることを見せてくれました。今後さらにどのような可能性を見せてくれるのか。実証実験に参加するメンバー一同、今後の展開を楽しみにしています」 (福田 氏)。

赤磐市長の友實氏は、道路維持管理以外の行政での AI の活用にも可能性を感じています。
「例えば災害の現場や避難所で物や人の動きをトレースすることで、何が起きているのかを正確に把握し、対策や運営をうまく行うことにつながるのではないかと思っています。
交通安全や道路管理という面からスタートして、今後もさまざまな技術やノウハウを持っている人や団体と連携して、行政に有効なシステムを作り上げて、積極的に活用していければと考えています」 (友實氏)