ビジネス TOP > 導入事例 > 玉川大学

玉川大学

  印刷用ページを表示する印刷用ページを閉じる

掲載日: 2016 年 7 月 28 日

解決策は「ハチに聞く」! ミツバチの減少など、養蜂をめぐる深刻な課題解決に向けた共同研究に、Microsoft Azure 上に構築されたクラウド IoT ソリューションを活用

写真:玉川大学

玉川大学

玉川大学ミツバチ科学研究センターは、公的な研究機関がごくわずかしか存続していない (※) この研究領域において、ミツバチの基礎研究から養蜂業に貢献する応用研究まで幅広く手掛ける、重要な存在です。中村 純 教授の下、すべては「ハチに聞く」というキーワードを掲げる同センターでは、ミツバチに関するデータをより効率的に収集・分析し、全国の養蜂業者の役に立つ "標準的な方法論" をまとめ上げるために、スタートアップ企業との共同研究を実施。Microsoft Azure 上に構築されたクラウド IoT ソリューションを活用しています。

(※)「国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所 家畜育種研究グループ みつばちユニット (平成 28 年度より名称変更)」で課題研究を行うほか、「群馬県農業試験場」に研究者 1 名が残るのみ。

<IoT 活用の背景とねらい>
農薬被害や蜜源となる植物の減少など、ミツバチと養蜂をめぐる深刻な課題の解決へ

写真:玉川大学 ミツバチ科学研究センター 教授 中村 純 氏

玉川大学
ミツバチ科学研究センター
教授 中村 純 氏

玉川大学では、戦後の食糧増産への貢献も鑑み、1950 年から農学部にて、養蜂に資するミツバチの応用研究から着手。次第に、ミツバチの行動を理解するための基礎研究へと範囲が広げられていき、玉川大学にて新たに体系立てられた学問分野「ミツバチ科学」として確立。1979 年にミツバチ科学研究所 (現 : 研究センター) が設置されました。

以来、玉川大学ミツバチ科学研究センターでは、ミツバチに関わる基礎・応用から教材開発まで、広い分野を網羅。多方面にわたる国際的な研究交流と養蜂の普及と振興の両面での活動が行われています。

ミツバチの行動生態学を専門とする中村 純 教授の下、すべては「ハチに聞く」というキーワードを掲げ、精力的な研究活動を続ける同センターでは、2015 年 11 月から、「養蜂の現場から正確なデータを収集し、分析・活用することで、より効率的な養蜂のスタイルを確立できる可能性」を持ったプロジェクトを新たに開始しています。

それが、株式会社アドダイス (以下、アドダイス) が開発する「Bee Sensing」を活用した研究です。

中村 教授は、次のように説明します。
「近年、世界中でミツバチの減少が危惧されてきました。『農薬・殺虫剤』や『蜜源となる植物の減少』など、その原因は多様であり、問題は深刻です。2016 年度には、農林水産省からミツバチの減少を食い止めるために、蜜源植物を植えるための補助金事業も整えられました。しかし、この問題は短期的に改善できるものではありません。そもそも、花の減少を証明する定量的な数値データが存在しない上に、養蜂の現場も "経験と勘" で支えられており、生産性向上に広く役立てられるデータが存在していません。こうした状況を変えて、日本中の養蜂を存続させていくためにも、『Bee Sensing』のようなテクノロジーが有効活用できると考えたのです。」

写真:設置イメージ
Bee Sensing は、IoT (Internet of Things) と AI (Artificial Intelligence) を利用した、養蜂業向けのクラウド ソリューションです。
Web サービスやデータ分析などのしくみはすべて、マイクロソフトのパブリック クラウドである Microsoft Azure 上に構築されているため、ユーザーの手元にはアドダイスが開発した SoLoMoN デバイスと呼ばれる小型のキットを巣箱に設置するだけで、手軽に導入できます。
普段は蓋をしてあって見ることのできない巣箱の中にセンサーを設置して、随時データを取得し、インターネットに送信します。センサーが計測した温度・湿度などは、スマートフォンアプリに通知され、そのデータを参照しながら養蜂家が作業した履歴を「日報」として記録すると、AI (人工知能) が、その対応内容を学習。養蜂業の知識を蓄積し、業務の効率化と生産性の向上に活かしていけるように、システム全体がデザインされています。

こうしたソリューションの重要性について、中村 教授は次のように強調します。

「私が、大学の卒業研究でミツバチと付き合い始めた時のテーマも、巣箱内の温度・湿度の計測でした。養蜂に使われているセイヨウミツバチは、巣内の環境を約 35 度に保ち、幼虫や蛹に安定した成育環境を提供しています。そのため、一箱に 2 万 ~ 4 万匹いるミツバチが巣の中心部の温度を維持するため、さまざまな制御方式で温度の調節をしています。
外気温が高い昼間には、中心部の群れは少し大きく広がり、夜間にはギュッと固まるようにして、必要な温度を保つのです。当然、巣箱の端と中心部の温度差は一定の周期で変化します。この温度変化と、ミツバチの呼吸や蜜の量などで変化する相対湿度を計測・把握することで、巣箱の蓋を開けずとも、中の様子を予測し、ミツバチの健康管理ができるようになるのです。ちょうど私たちが体温を計測して健康管理に役立てるのと同じです。たとえば、冬のうちに巣箱内のミツバチが全滅するような事態も避けられるようになると思います。」

ブラックボックス化されている巣箱の状態をセンサーで可視化し、効率的な健康管理を

写真:株式会社アドダイス 代表取締役社長 伊東 大輔 氏

株式会社アドダイス
代表取締役社長
伊東 大輔 氏

外来種であるセイヨウミツバチは、日本の一部地域を除いて、野生化し、繁殖した例がありません。つまり、春から夏にかけての収穫期に、生産量を落とさないようにするためには、飼育しているミツバチの健康管理が重要になります。しかし、ミツバチの巣箱は「中の見えないブラックボックス」であり、越冬時には特に不測の事態も発生しやすいのだと、中村 教授と、アドダイス 代表取締役社長 伊東 大輔 氏は声を揃えます。

「日本の養蜂では、1 か所に 40 箱程度の巣箱を設置するのが標準的になっています。そのすべての状態を、毎日正確に把握しようとすれば、1 箱 5 分ずつ確認したとして、3 時間半近い時間を要します。しかも、巣箱の蓋を開けることは、ミツバチにかなりのストレスを与えることになります。そのため、巣箱の中の状態を詳細に把握することが難しいのです。
しかも、多くの場合は、他の養蜂業者の成功体験を参考に管理されているため、風通しや日当たりなど、設置場所ごとに異なるさまざまな条件を、健康管理に反映することができないのです。」(中村 教授)

「特に、問題が起きやすいのが冬です。秋になってミツバチの越冬に必要な蜜を与えた後は、一切蓋を開けずに春まで見守ることが、日本の養蜂では一般的な習慣となっています。実は、昨冬に試験運用に協力いただいた養蜂業者さんから、『巣箱内の温度計測値がどんどん下がっていく。機器の故障ではないか?』と連絡をいただき確認したところ、巣箱内のミツバチが全滅してしまっていたのです。しかし、こうしたデータが積み重なり、異常を検知した際の対処法が科学的に確立されていけば、もっと安心して冬を越せるようになると思います。」(伊東 氏)

また、養蜂の現場にこのようなクラウド ソリューションが導入されることは、「付加価値の高い商品提供にもつながっていく」と、中村 教授は言います。

「養蜂業者の視点で考えれば、もっとも重要なことは『ハチミツの商品価値』です。今、世界中で蜜源となる植物が減少し、特定の花の蜜だけを集めた『単花蜜』の供給量も、品質も昔とは変化しています。そのため、多様な花から収集した『百花蜜』のブランド ステータスを向上させることが大切になっています。そのために必要なものが、"いつ" "どこで" "どのように" 採取した蜜であるのか、きちんと消費者に提示するためのトレーサビリティ データです。そうしたデータも、Bee Sensing によって、簡単に蓄積できるようになるでしょう。これは、すべての養蜂業者にとっても大きなメリットになると思います。」

<Microsoft Azure の採用理由>
エンタープライズ システムへの親和性の高さと、スタートアップ支援プログラムのメリットから Azure を選択

ミツバチを失わないようにするための管理から、百花蜜などの商品価値を高めるためのデータ収集まで、さまざまな役割が期待される Bee Sensing は、開発当初は別のクラウド サービス上に、オープンソースのコンテナ型仮想化技術「Docker」を用いて「消費者向け生産履歴情報サーバー」と「API サーバー」、「アプリサーバー」の 3 種を構築し、開発されていました。

しかし、2 つの大きなメリットが得られることから、Azure 上に「そのまま移行させた」と伊東 氏は言います。そのメリットこそ、「エンタープライズ システムとの親和性」と「スタートアップ支援プログラムの存在」でした。

「Bee Sensing を広く展開していく上で、企業のシステムにも広く活用されている Windows プラットフォームとの親和性が高いことが有利に働くのではないかと考えました。また、年間にして 12 万ドル分の Azure 無償利用枠が提供される、スタートアップ支援プログラム『BizSpark Plus』 の存在も魅力でした。それに、Docker も公式にサポートされていますし、プラットフォームの移行にもまったく問題はありませんでした。」

図.システム概要図

図.システム概要図

<Microsoft Azure 導入効果と今後の展望>
トレーサビリティ データによって、ハチミツのブランドを向上。 市価平均よりも高額ながら、お客様に好評を得る商品もすでに誕生

Bee Sensing を活用した共同研究は、2016 年の春以降さらに本格的にデータを集め、さまざまな成果へと結びついていくことでしょう。また、2016 年 4 月 27 日に正式リリースを迎えており、着実に成果が上がっていると言います。

「Bee Sensing の共同開発者でもある、『はつはな果蜂園』では、瓶詰した商品のトレーサビリティ データをお客様に公開することでブランド価値を高め、プレミアム価格の商品ながら、東京・渋谷での即売会でもお客様に大好評であったようです。」(伊東 氏)

中村 教授も、さまざまな効果を期待していると続けます。

「まず、巣箱の様子を肉眼で点検する必要がなくなれば、従来と同じだけの人手で、より多くの巣箱を設置して、生産量を増やすことも可能になるでしょう。
また、ミツバチが飛翔する周囲 2 km の環境を、自分たちの目で確認して回る時間が作れるようになれば、どこで農薬や殺虫剤が使用されているか、どれだけの蜜源が確保できているか、より正確に把握し、養蜂に役立てていくことが出来るでしょう。そして、そのようなデータを得ることは、私たちの研究にも重要な進展をもたらしてくれるはずです。巣箱と向き合うことに労力のほとんどを費やす養蜂から、周辺環境とも向き合い、消費者により多くの情報を提供できる養蜂に変わっていくことが、今後の流れになっていくのではないかと期待しています。」

写真:ミツバチ
写真:SoLoMoN デバイス

ミツバチのダンスを翻訳して、農薬被害の回避から 周辺環境への効果的な「蜜源追加」など、幅広い効果を

写真:玉川大学 大学院 細野 翔平 氏

玉川大学
大学院
細野 翔平 氏

その理想を後押しするために、ミツバチの行動を、より正確に把握する研究も玉川大学ミツバチ科学研究センターで進められています。

それが、「ミツバチ ダンスの翻訳」です。

ミツバチが、蜜源の情報を仲間に伝達するために、巣箱内で 8 の字を描く "ダンス" をしていることは、広く知られています。中村 教授たちは、このダンスをより詳細に "翻訳" し、ミツバチの行動を把握するために、秒間 30 フレームで撮影した映像を、1 フレームごとに観察して、ミツバチのダンスに含まれる角度と距離情報を、最終的には緯度経度情報に置き換え、世界で広く活用されている統計解析ツールである「R」を用いて、ダンスが示す花の在りかをマッピングし、解析しています。

しかし、難点は「1 日分の撮影動画から、緯度経度を割り出すまでに、少なくとも 1 週間も時間を要すること」だと、研究を担当する院生の細野 翔平 氏は言います。

「今は、より多くのサンプルを効率よく得るために巣枠と呼ばれる板全体を 20 分撮影し、そこで行われているダンス情報をすべてマッピングするようにしています。ダンスは、3 度の反復を含めて、1回 10 秒程度。それが、20 分の間に、巣枠のあちこちで、100 回ほど行われます。それぞれのダンスをセンサーなどで自動的にマッピングできれば良いのですが、今のところはまだ実現できるテクノロジーに出会えていません。2 万匹近くいる巣の中で、体を揺すりながら素早く動き回るミツバチが相手ですから、技術的に難しいのでしょう。」

Azure では、「R」の強化版である「Revolution R」の活用準備も進められているほか、マシンラーニングの機能や動画解析の API など、さまざまなサービスが整えられ、刻々と進化し続けています。

「撮影した映像データも、今保存している約 1 週間分だけで 3 TB にもなります。動画の自動解析を含めて、Azure のようなサービスを活用できたら、とても楽になるのではないかと思います。」(細野 氏)

ミツバチ ダンスの解読結果は、「研究や養蜂に、非常に幅広く効果をもたらす」と、中村 教授は言います。

「今研究している秒間 30 フレームのデータでは、蜜源への正確な距離まで判読できませんが、指標地としては、まったく問題なく読み取れるようになっています。
私たちのセンターで生産監修を行っているオリジナルのハチミツを大学で販売していて、北海道産のものも含まれます。しかし、北海道ではミツバチの農薬被害も発生しています。それを回避するために自分たちで新しい花畑を作るにしても、ミツバチたちが実際にその花畑を利用したのかどうか、どのような蜜源を好んで利用するのか、ダンスしているミツバチに『直接聞く』ことが重要なのです。この成果は、冒頭にお話した養蜂をめぐる深刻な事態の打開策にもつながっていくでしょう。そしてまた、ミツバチの行動をこうして読み解くことが出来れば、より市場価値の高い商品開発にもつながっていくでしょう。」

最後に、中村 教授は「これまで見えなかった情報が見えてきたことが、テクノロジー活用の重要な点」だと強調します。

「昔、作家のアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリは、『複葉機のころは、目の前の天気を判断していれば良かったが、飛行機が高速で飛ぶようになったら、目には見えない何百キロも先の気象まで考えなければいけなくなる』という趣旨の文章を書いていましたが、私たちの研究が直面している状況も、正に同じことだと思っています。目の前にある巣箱だけでなく、ミツバチの行動範囲である周囲 2 km の環境から、さらに広い範囲の環境条件まで、広く、深く、把握していくことが大切なのです。研究者にも、現場の養蜂業者にも見えていなかった多種多様なデータが、クラウドなどの ICT 活用によって把握できるようになることを非常に期待していますし、そうした状況に関わっていられることを、今、とてもありがたく感じています。」

写真:2 名様集合写真

ダウンロード

Download File 5983-WI1.pdf

PDF ファイル 1,517 KB
Adobe Reader のダウンロードはこちら 外部サイトへ移動するため、別ウィンドウで開きます

ソリューション概要

プロファイル

玉川大学外部サイトへ移動するため、別ウィンドウで開きます は、1929 年に教職員 18 名、生徒 111 名の体制で設立されて以来、「全人教育」を教育理念の中心として、人間形成には真・善・美・聖・健・富の6つの価値を調和的に創造することを教育の理想としています。2010 年には、グローバル化する社会においては、国際通用性を備えた人材を育成する、質の高い教育を実践するべく、「Tamagawa Vision 2020」を構築。新たな玉川ブランドの確立と、社会の要請に応える教育を推進しています。

導入メリット

  • Windows プラットフォームが浸透している企業のシステム環境との親和性の高さ
  • スタートアップ支援プログラム BizSpark による無料利用枠の提供
  • 「Docker」などオープンソースの公式サポートにより、システムの構築およびクラウド間の移行も容易
  • 世界で幅広く活用されている、統計解析ツール「Revolution R」にも対応

ユーザーコメント

「今は、目の前にある巣箱だけでなく、ミツバチの行動範囲である周囲 2 km の環境から、さらに広い範囲の環境条件まで、広く深く把握していくことが大切なのです。研究者にも、現場の養蜂業者にも見えていなかった多種多様なデータが、クラウドなどの ICT 活用によって把握できるようになることを非常に期待していますし、そうした状況に関わっていられることを、今、とてもありがたく感じています。」

玉川大学
ミツバチ科学研究センター
教授 中村 純 氏

  • 日本のデジタルトランスフォーメーション浸透度は? (新規ウィンドウで開きます)
  • IT 担当者向け Microsoft 365 オンライン セミナー公開中! (新規ウィンドウで開きます)
  • オンデマンド配信中! Microsoft Tech Summit 2017 Online (新規ウィンドウで開きます)

本ケーススタディに記載された情報は初掲載時のものであり、閲覧される時点では変更されている可能性があることをご了承ください。
本ケーススタディは情報提供のみを目的としています。Microsoft は、明示的または暗示的を問わず、本書にいかなる保証も与えるものではありません。

ページのトップへ