Jellyfish Pictures は、VFX 〔視覚効果〕 やアニメーション シーケンスをレンダリングするための膨大なコンピューティング能力に、セキュアにリモートアクセスすることを求め、Microsoft Azure Virtual Machine Scale Sets、HBv2 仮想マシン、Avere vFXT for Azure を活用したクラウド ソリューションを導入しました。これにより、Azure クラウド上で、最大 9 万プロセッサ コアでのバースト レンダリングを実行することができました。さらに Azure Spot Virtual Machines を利用してレンダリング コストを 8 割削減したほか、Azure ExpressRoute 接続を用いてネットワークのレイテンシーを抑えつつ、単独のストレージでレプリケーションを必要としない、よりセキュアな一元管理も実現しました。
“Azure Virtual Machine Scale Sets を利用して、たった 1 つの画像を、アイルランド、オランダ、米国に分散した 500 ノードの Azure HBv2 シリーズ仮想マシンにレプリケートしました。これほどの広範なフットプリントなしには、われわれの最新プロジェクトは到底完成しなかったでしょう。”
Jeremy Smith 氏, 最高技術責任者, Jellyfish Pictures
アニメーション、VFX の制作会社である Jellyfish Pictures は、エミー賞、英国アカデミー映画賞、2 つの「視覚効果協会賞」と輝かしい受賞歴を誇る、映像業界で一目置かれた存在です。同スタジオが VFX を手掛けた作品には、『スター ウォーズ』シリーズ最新 3 部作をはじめ HBO の『ウォッチ メン』シリーズなどが挙げられます。さらに、オリジナルの子ども向け番組の制作に加え、ドリーム ワークス アニメーションの『ヒックとドラゴン 受け継ぐ者たち』といったアニメーション プロジェクトも手掛けています。
1 か所にとどまらない労働力、予測不能な IT ニーズ、融通の利かない納期
こうした映像関連の仕事、とりわけ VFX は、その大半がプロジェクト ベースであり、アーティストはプロジェクトに応じてスタジオ間を渡り歩きます。2021 年はトレンドが変わりつつあるものの、かつては大半のクリエーターがスタジオに出社してオンプレミスで作業するのが一般的でした。なぜなら、VPN 接続を使ってリモートで仕事をする場合、利用するブロードバンド サービスや住んでいる場所によっては接続スピードによる問題が頻発していたからです。また、アーティストが自宅で仕事をする場合は、電子メールでアセット ファイルを自分のアドレスに送信することが多く、こうしたファイルはマルウェアなどのサイバー攻撃に無防備に晒されていました。そのうえ、ばらばらに保管された膨大なファイルをトラックし、照合する作業は手間がかかり、プロジェクト スケジュールを進めるうえでのボトルネックとなっていました。
「こうしたスタジオは、大作映画の制作に向けてスケールアップする際、ハードウェアやソフトウェアの調達、何百人ものアーティストの起用に巨費を投じますが、プロジェクトが完了し、スタジオがスケールダウンすると、往々にして高価な特別仕様のハードウェアは残ってしまいます。こうしたハードウェアを最大限活用して元を取ろうと努力するか、それともクラウド ベースのフレキシブルなソリューションを選ぶか ―― 選択肢は2 つに 1 つです」と同社最高経営責任者の Matthew Bristowe 氏は説明します。「どのスタジオも一部の少数のトップ アーティストを奪い合っている状態です。しかし、スタジオがオンプレミスの限られた能力に縛られていたら、大型プロジェクトの依頼があっても断らざるをえなくなります。なぜなら、こうしたスタジオはインフラを迅速かつ効率的にスケールアップできないからです」 (Bristowe 氏)。
膨大なコンピュート リソースの必要性
オンプレミスの IT インフラに投資する多くのスタジオは、自社の物理的なロケーションにある限られたリソースしか使用できず、また、近隣に住んでいるか一時的にそこに転居できる人材しか採用できません。アーティストがアニメーションや VFX を制作する際には、レンダリングなどのタスクを処理するために、スタジオは膨大なコンピューティング能力を必要とします。マイクロソフトで Azure ハイパフォーマンス コンピューティング部門 (米州) を束ねる Jon Weisner 氏は次のように説明します。「アーティストは通例、ワイヤーフレームの制作から始めます。この工程では、シェイプ、テクスチャ、モーション、ライティングなどを作成します。次のステップのレンダリングでは、1 秒あたり 30 フレーム以上のモーション ピクチャー データをレンダリング処理しますが、これには膨大なコンピューティング能力と時間を要します。映像は年々精緻化しているうえ、業界のトレンドは 8K へと向かっており、必要なコンピューティング能力はますます高まっています。とはいえ、プロダクションの需要は安定しているわけではないので、業務が充分に回っているあいだはオンプレミスを運用し、スケジュールが厳しくなって追加のコンピューティング能力が必要になればクラウドへ一気に振り分けるような、フレキシブルなアーキテクチャが求められます」。
スタジオが容量制限のあるオンプレミスのレンダー ファームを用いる場合、レンダリング ジョブには通常約 2 ~ 8 時間、ときには数日間もかかります。レンダリングが完了し、仕上がったプロダクトの確認や調整ができるようになるまでのあいだ、アーティストは待機が求められます。待機中のアーティストの数を減らすには、スタジオはオンデマンドでコンピューティング能力を増強し、ジョブ待ちの行列をもっとスピーディーにさばけるようにする必要があります。
さらに、苦労して制作したこれらの知的財産を保護する必要性もあります。ある種のプロジェクトに適格とみなされるには、同社が Trusted Partner Network (TPN) などの業界団体から認定を受けなければなりません。こうした認定は多くの場合、モーション ピクチャー アソシエーション (MPA) のディレクティブに準拠しています。認定を受けたスタジオは定期的な監査の対象となります。
業界内で先駆けて 100 %の仮想化を実現
同社では、業界内でいち早く「仮想化こそ答えである」と結論づけ、2015 年にマイクロソフト、Teradici 社、AMD 社の 3 社と提携し、バッチ レンダリングなどの機能の導入に踏み切りました。そして 翌2016 年には初の仮想スタジオを開設、さらに 2019 年 12 月には 100%の仮想化を実現しました。
同社のオンプレミスのデータセンターでは、EPYC プロセッサ コアのみを使用しています。そのため、当然ながらクラウドでも同じプロセッサを選択し、120 個の AMD EPYC™ 7742 プロセッサ コアを搭載した Microsoft Azure HBv2 シリーズ仮想マシン (virtual machines: VM) を利用しています。同社最高技術責任者の Jeremy Smith 氏は「当社のクラウド消費量を踏まえると、AMD 社の EPYC が、われわれのレンダリング ワークロードにとってもっともパフォーマンスにすぐれ、コスト効果の高い VM SKU であるとの結論に達しました」と説明します。
同社では、Azure Virtual Machine Scale Sets を利用して、負荷を分散させるための種々雑多な仮想マシン群を作成・管理する大規模なコンピューティング サービスを構築しました。そして、Azure の各種サービスを用いて、GPU を含む広範なハードウェア上で多くのレンダーを並列実行しています。スタジオのクリエーターのワークロードがオンプレミスのデータセンターの処理能力を超過した場合、Virtual Machine Scale Sets を利用してバースト レンダリングを運用します。Virtual Machine Scale Sets は、需要の多寡や自己定義スケジュールに応じて、VM インスタンスの数を自動的に増減させることができます。
同社のスタジオでは、Teradici Cloud Access Software (CAS) を導入し、クリエーターに仮想ワークステーションを提供。また、オンプレミスのストレージには、pixitmedia 社のソフトウェア定義によるスケーラブル インフラストラクチャ PixStor を採用。これに加えて、Avere vFXT for Azure がオンプレミス レンダーファームの拡張として機能し、レンダー中のコンテンツをキャッシュすることで、ネットワーク負荷を低減しています。さらに、Azure ExpressRoute 接続を用いて、レイテンシーを最小限に抑えるとともに、レプリケーションを行わなくてもストレージを 1 か所でよりセキュアに管理できるようにしています。スタジオのこうしたソリューションは、TPN や CDSA の要件を満たし、クリエーターにファイルへのよりセキュアなアクセスと彼らが必要とするレンダリング パフォーマンスを提供しています。
オンプレミス比での処理能力が 7 割アップしたことで世界中どこででも仕事ができるようになった
同社は Azure コンピューティング サービスを活用して、クラウドまたはオンプレミスによる作業の比率を必要に応じてシフトさせながら、プロダクション サービスを運営しています。「Azure サービスが提供するフレキシビリティのおかげで、われわれはプロダクションのニーズを最優先に据えて作業を進めることができます。すなわち、個々のタスクにとってベストなクリエーターを彼らがどこに住んでいようと関係なく採用できるのです。もちろん、プロジェクトが完了すればスタジオは解散となります。次のプロダクションまで空調管理しながら遊ばせておくしかないような、金や場所を食うわりに充分に活用されないオンプレミスのハードウェアへの投資はもう必要ないのです」 (Bristowe 氏)。
2020 年の新型コロナウイルス感染症によるロックダウン期間中、同社は世界 20 か国余りから 200 人ほどの人材を採用している。「Azure Virtual Machine Scale Sets を利用して、たった 1 つの画像を、アイルランド、オランダ、米国に分散した 500 ノードの Azure HBv2 シリーズ仮想マシンにレプリケートしました。これほど広範なフットプリントなしには、われわれの最新のプロジェクトはまず完成できなかったでしょう。世界中に散らばったクリエーターが、同じ低レイテンシーとハイパフォーマンスを享受することができました」と Smith 氏は語ります。
クリエーターはどこを拠点にしていようと、サインインして CAS を使用でき、スタジオにいるのと同じように、すべてのインフラストラクチャにアクセスできます。Bristowe 氏は「Azure でのバーストレンダリングを活用すれば、ベストな人材と経済性にしたがって、ビジネスを拡大できます」とその効果を述べます。
同社がこうしたオプションを提供できるのも新たなスケーリング能力のおかげです。スタジオのオンプレミス レンダーファームは、約 2 万 2,000 個のプロセッサ コアを搭載しています。同社が 2021 年 1 ~ 2 月にかけて、大手スタジオのアニメーション映画プロジェクトを請け負った際には、Azure HBv2 シリーズ VM 上で 5,500 万コア時間以上を費やしました。Smith 氏によると、「われわれの Azure Virtual Machine Scale Sets は、6 ~ 7 万プロセッサ コアを2 か月間、持続的に稼働し、ピーク需要は計 9 万コアにものぼりました。Azure でバースト レンダリングを行うことで、自社のデータセンターの容量の実に 7 割に相当する処理能力を追加で獲得することができました。これにより、設備投資への長期的なコミットメントなしに、即座に大規模なスケールアップを行うことができました」
Azure インフラで実現した効率性とアジリティの向上
スタジオがそのクラウド支出から最大限の利益を得ていることは確かです。Smith 氏は「以前は、メモリ制限によってオンプレミスでは処理できないシーケンスもありましたが、いまでは、AMD プロセッサ コアと VM あたり500 GB 近い RAM を備えた HBv2 シリーズ VM によって、クラウドに膨大なアセットをロードできます」と説明します。
さらに同社は、Azure Spot Virtual Machines の利用によりコスト削減も実現しました。「Azure Spot Virtual Machines を活用することで運用コストを一気に 8 割も削減できました。これは、Azure の余剰コンピュート リソースを割引料金で購入するというオプションです」 (Smith 氏)。
Bristowe 氏によると、こうしたクラウド ソリューションは、クライアントにとっての安心材料になるといいます。「こうしたプロジェクトには莫大な資金が注ぎ込まれるため、クライアントは当社が確実に仕事を納品できるかどうかを確かめようとします。スケーリングのような技術力をもっていることは、こうした点からも大きなメリットです」と同氏は述べます。さらに続けて、「仮にメインの制作会社で VFX とは無関係の理由から撮り直しが必要になったとしても、当社は臨機応変に対応して期間内に作業を完了させるのに充分アジャイルな状態を常に維持しています ―― 新たなハードウェアを調達するかわりにボタン 1 つで対応できるのですから」。さらに、インフラ・アズ・コード (IaC) を Terraform によって追加することで、同社はプラットフォームのプロビジョニングを自動化しています。Smith 氏もこのメリットについて、「コードとしての Azure インフラは、基本的にクラウド上で Azure サービスを迅速にデプロイする方法を示すものです。これはデプロイメントを劇的に迅速化、簡略化でき、基本的な設定をしてしまえば、後からそれらを簡単にカスタマイズすることも可能です」と説明します。
Azure 活用でさらなる付加価値、アドバンテージを獲得する
同社ではスタジオ業務をクラウド ベースのワークフローに軸足を移しつつあります。「Azure は MovieLabs などによる業界の取組みを大きく後押しするものです。ソフトウェア定義による、クラウド ベースのワークフローを確立する取組みです」 (Smith 氏)。
もっとも、クラウド レンダリングはほんの始まりに過ぎません。Smith 氏はこう述べます。「Avere vFXT for Azure が Microsoft Azure Blob Storage をサポートするようになれば、機械学習によるデータマイニングが可能になり、われわれのデータからレポートなどを通じて、さらなる付加価値を生みだすことができるようになるでしょう」。同社は近々、データをクラウドにアーカイブし、非特定化して収益化するデータ マネタイゼーションをスタートさせることも計画しています。
今後どのような展開が待っているにせよ、同社のスタジオは準備万端です。「Microsoft Azure が提供するのは、仮想マシンやプロセッサ コアだけにとどまりません。Virtual Machine Scale Sets や Avere vFXT for Azure といったサービスは、当社のオンプレミスのデータセンターやハイブリッドなクラウド アプローチと非常にうまくマッチします。Azure は、メディア空間におけるプロダクトの総体的なエコシステムにシームレスにフィットするものです」と Smith 氏は語ります。そして最後に Azure のメリットについてこう述べました。「地理的地域に縛られずに、より多くのプロジェクトを引き受けられることは、当社にとって非常に大きなアドバンテージです。Azure サービスの活用により、われわれはグローバル規模で人材を起用し、クリエーターのリモート ワークを可能にするとともに、必要なときはいつでもコンピューティング リソースをスケールすることができるのです」。
“Azure でのバースト レンダリングを活用すれば、ベストな人材と経済性に従ってビジネスを拡大できます。”
Matthew Bristowe 氏, 最高経営責任者, Jellyfish Pictures
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