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2021/08/25

Power Apps によるローコードでのアプリ開発で営業活動のパフォーマンスが向上。旧来の図式を刷新し、現場社員が積極的に取り組む業務システムは企業の変革をもたらす

喫煙人口の減少、加熱式たばこの普及など、たばこ業界を取り巻く環境は大きく変化しています。このことは国内のたばこ産業をリードし、海外展開や多角化を進める日本たばこ産業株式会社の事業戦略にとって重要な課題となっています。

同社の営業は、販売店での販促活動など限られた領域で展開されてきました。しかし、今後は自社ブランドの価値を積極的にアピールする方向が模索されています。そのため、この変化に対応するべく業務システムの刷新が計画されました。そして、今年 (2021 年) に登場した新システムでは、ローコードでの開発が可能な Power Apps が導入され、ユーザーである業務部門の社員が自ら作成した各種のアプリが多数運用されています。

外部ベンダーへの過度の依存を抑えつつ、より現場のニーズに合った業務システムの構築をめざす同社の取組みに、熱い視線が注がれています。

Japan Tobacco

新たな営業スタイルに対応するシステム構築をめざして

日本で唯一のたばこ製造企業として知られる日本たばこ産業株式会社 (JT)。近年では海外たばこメーカー買収による国際展開や医薬、加工食品などの事業領域拡大も積極的に行うことで着実な成長を遂げています。

たばこを取り巻く環境はここ数年で大きな変化を見せました。世界的に禁煙化の動きが加速するなか、同社では喫煙に伴う健康へのリスクを低減させる可能性のある RRP (Reduced-Risk Products) 製品に注力するとともに、競争力のある多彩なブランドを武器に国内・海外市場でのプレゼンスを発揮し、お客様に信頼される企業価値創出に取り組んでいます。

一方、営業活動の部分では、同社が長年にわたって継続してきたスタイルを根本から見直す必要が生じていました。たばこ事業本部 セールスグループ 営業サポート部 次長 楠根 健次 氏は、「従来の営業活動は、たばこ販売許可をもつ店舗での売場活動に限られていたため、業務システムも 2005 年から同じものを利用してきました。ところが、従来の火をつけて吸う紙巻たばこと異なり、電子機器であるデバイスを使って喫煙体験を愉しむ RRP 製品が世の中に広まってくると、その使い方や特長を直接お客様にアプローチする活動が不可欠となってきました」と語ります。また、従来の業務システムでは、営業体制の変化に対応することができず、新しい営業スタイルと従来のシステムにおけるギャップが発生することがしばしばありました。そこで同社は RRP 製品を中心としたお客様への直接的なアプローチに加え、2020 年 4 月より施行された改正健康増進法を踏まえた分煙環境の整備を推進する組織を創設するとともに、これらの活動をサポートするシステムの構築を開始しました。

具体的には、ビジネスアプリケーションである Dynamics 365 を採用し、新たな活動で使うシステム「QuickS」を短期間、低コストで開発。2018 年から開拓営業への活用を開始します。

しかし、その後の変更に関しては「コストと時間」という課題の解決には至りませんでした。なぜなら、外部ベンダーに依頼する限り、従来どおりの要件定義と開発後の仕様変更が発生し、そこに多くのコストと時間がかかるからです。
新しいシステム構築の検討において候補に挙がったのが Power Apps でした。「これなら短期間の開発が可能で、各種サービスと組み合わせられる。とても便利だと感じました」と楠根氏は振り返ります。実際にアプリを作成し小規模なプロトタイプ運用を行ってから依頼する形にすれば、手戻りのない開発ができます。小規模とはいえ実際に運用するものであるため、手軽さの追求だけでなく、IT 部にも協力を求め、セキュリティや運用を意識した開発を進めました。そして2019年、Power Apps 60 ライセンスからなる「アジャイル プロトタイプ開発基盤」ができあがったのです。

また、個人の生産性向上については、全社で導入しつつあった Office 365 サービスをアンバサダー制度を通じて積極的に活用推進し、スマートフォンを配布することで、ユーザー主体の情報共有・共同作業基盤を構築しました。

ユーザー作成のアプリを業務システムと連携

JT では 2021 年から販売店とお客様への活動をひとつにすることに決め、販売店への活動を管理する「営業ポータル」と、お客様への活動を管理する「QuickS」も統合されることになりましたが、ユーザー数が格段に増えることで、コスト面でのネックがありました。

そうしたなか、同社はマイクロソフトから Power Apps で業務システムを構築する提案を受けます。Power Apps であれば、業務システムのみならず、プロトタイプ開発や、ユーザー自身によるアプリ作成、Office 365 など各種サービスの連携まで、すべてカバーして全員が利用できる、というメリットがあります。
「1 つの業務システムへの投資で、内製可能なアプリ開発のプラットフォームを手に入れられる。そう考えたらこの提案を断る理由はありませんでした」(楠根氏)。

ユーザー側で自由にアプリ開発ができるようになる。しかし、その開発環境を整備するにあたっては、セキュリティや運用面での対策が肝要となってきます。IT 部の土田 峻史 氏は開発環境の整備について以下のように語ります。「Power Platform はユーザーがアプリを自由に作成できることが大きな特徴ですが、自由にさせ過ぎて管理ができない“野良アプリ”が増えたり、セキュリティ対策が不十分になったりしないよう、開発環境に対する考え方や全体のセキュリティ設定の検討を綿密に行う必要があります」。

そこで、同社ではまず初めに Power Apps を活用するうえでの設計・構築、運用ポリシーを策定しました。目的ごとに運用環境を作成し、Azure AD と連携してアクセス権限を管理。また、各環境へデータ損失防止ポリシー (DLP ポリシー)を設定することで、自由なアプリ開発を進めるために基本となるセキュリティを確保しました。それに加えて、アプリを作成する際に管理者としてIT 部の担当者が自動的に登録される仕組みを入れることで、利用者の多いアプリケーションのリスクを IT 部門側でも把握できるように設計しました。こうした環境整備を進めたことにより、現場の社員が Power Platform 上で自由に安全にアプリを開発、活用できる仕組みを構築したのです。

営業部門 5,000 名のユーザーが活用

Power Apps を使った次期活動支援システムは、約 1 年間の開発期間を経て、2021 年 4 月から運用が開始され、現在は営業部門約 5,000 名のユーザーが活用しています。また、営業部門のユーザーが自らアプリを開発して業務を効率化できるよう、開発者の育成にも注力しています。その経緯について、たばこ事業本部 セールスグループ 営業サポート部 主任 田知花 諒氏は次のように語ります。

「ローコードでの開発ができるという魅力がある一方で、Power Apps を使いこなすには、ある程度のトライ・アンド・エラーが必要です。そこで、まず Power Apps を使ってどんなことができるのかを知っていただくためのハンズオンを実施し、社員の皆さんの理解を深めることに注力しました。ハンズオンは私たちがつくった勤怠報告アプリを教材にして計 4 時間ほど行ったところ、100 名以上のメンバーが受講してくれました。そして、受講者を中心に Power Platform のユーザー グループ コミュニティを立ち上げました。各種機能や操作方法の解説動画を Stream で公開、ユーザーが作成したアプリの動作をチェックするサービスの実施、またテーマに基づいて参加者がアイデアを出し合うハッカソンの開催などを行っています。ユーザー グループ コミュニティも現在では 520 名ほどになり、自分たちでアプリをつくるという意識が高まっていると感じます」。

Power Apps を用いて全社的な業務効率化を図るためには、製品の導入にとどまらず、実際に使ってもらうためのレクチャーも大切になってきます。同社では、Power Apps がどのようなものかを知ってもらい、使ってもらうため、積極的な情報提供とガイダンスを実施することでユーザーのスキル向上を図っています。

同社の社員が Power Apps で開発したアプリには、現場の社員が毎日の営業活動で役立てることのできるユニークなものが多くあります。一例をあげると、社員の誤登録によるリスクを防ぐため、「返品取替アプリ」があります。これは、スマートフォンのカメラで返品対象となる商品のバーコードを読み取ると、その場で返品金額を自動計算する機能を搭載したものです。さらにアプリで登録したデータは、運用中の次期活動支援システムに自動連携される仕組みとなっています。

「実際にアプリをつくるときに Power Apps の機能を理解していれば、“こういう要素を盛り込んでほしい”という希望を出すこともできます。基本的にはユーザーが自ら学んでアプリ開発・メンテナンスを行う方針ですので、まずはコミュニティに参加してもらい、質問や専門家のアドバイスは Teams で受けていただく形にしています」(田知花氏)。

多様化する現場のニーズに応え、業務効率化を実現

Power Apps を使った新業務システムの導入は、同社の活動にさまざまな変化をもたらしています。これまでに作成されたアプリは500 点を超え、前述の「返品取替アプリ」をはじめ、すでに複数のアプリが社内の公式アプリとして利用されています。

Power Apps の導入効果について楠根氏は「これまでセキュリティの問題などで触れられなかった基幹システムとも安全に連携できることで、『返品取替アプリ』のような基幹システムと連携できるアプリが内製化され、ベンダーにアウトソースするコストの削減が可能になりました。また、スマートフォンでアプリが使えることで、外出先からオフィスに戻って入力する手間が省けるようになったことは、Power Apps の大きな効果だと思います」と述べます。

最後に今後の展望について、田知花氏は「コミュニティで Power Automate の RPA ハンズオンやオンライン ハッカソンを実施し、さらにユーザーのスキルを高めていきたい」と抱負を語ります。さらに熱意をもった社員によるチームの結成も検討中とのことです。楠根氏は「現在はセキュリティ面を考慮し、データベースである Microsoft Dataverse の編集権限を絞っていますが、将来的にはユーザー部門にも開放し、高度なアプリまでユーザー側で内製化できるようになれば」と希望を語っています。

土田氏は、「営業部門では業務システムとして活用が進んでいますが、他の部門ではまだまだこれからです。今回の営業部門での取組みを機に、社内で Power Apps の存在が認知され、“こんなアプリができないか”という要望が出てくるようになりました。Power Apps の活用が、自動化やシステム化を考えるきっかけになったと思います。今後さらに活用が進むことで、社内の IT スキルが上がり、さまざまな部門で自作アプリが開発される環境がつくられることを期待しています」と述べました。

日本たばこ産業株式会社では今後、営業以外の部門にも Power Apps を展開し活用を進める方針です。「現場 vs 情シス」といった旧来の図式を刷新し、現場の社員が自ら開発を推進する同社の取組みは、自由で活発な企業風土醸成にも役立っています。

“当社の新業務システムには、マイクロソフトが提供する Dynamics 365 の技術が活用されています。社員によるアプリ開発は構築の過程で生まれたテーマでしたが、Dynamics や Office などのソリューションと親和性が高く、大幅なコストダウンが期待できる Power Apps の導入を進めることにしました。”

楠根 健次 氏, たばこ事業本部 セールスグループ 営業サポート部 次長, 日本たばこ産業株式会社

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