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2022/11/11

誰もが開発者になれる時代がすぐそこに。北陸先端科学技術大学院大学におけるローコード開発プロジェクト

石川県能美市に本部を構える北陸先端科学技術大学院大学(以下 JAIST )は、先端科学技術分野における国際的水準の研究と、それを背景とした大学院教育を実施するために設立された我が国初の国立大学院大学です。同学の情報社会基盤研究センターでは、全学的な DX を推進するために、まず自分たちのいくつかの業務をローコードのアプリ開発ツール Microsoft Power Apps と業務システム自動化ツール Microsoft Power Automate を用いてデジタル化。業務効率化と学生や教職員の利便性向上を図るとともに、学内への横展開を見据えて開発のノウハウを蓄積しています。

1990 年に開学した JAIST は豊かな学問的環境の中で世界水準の教育と研究を行い、体系的なカリキュラムに基づいた組織的な大学院教育が特徴で、幅広い能力を備え、グローバルに活躍できる次代の指導的人材育成を理念、目標としています。今回お話しを伺ったメンバーの所属する情報社会基盤研究センターは、JAIST のネットワークインフラから端末、プライベートクラウドまで、各種情報サービス基盤を整備し提供することで大学の教育研究活動を支えてきた部門です。2021 年に創設された、先端的な情報環境のための企画立案と実現を推進する情報環境・DX統括本部の指揮のもと、教育・研究活動、大学運営の総合的なデジタル化を担っています。

Japan Advanced Institute of Science and Technology Jaist

コロナ禍を好機と捉えて、まずは自分たちの周りから DX を推進

北陸先端科学技術大学院大学 情報環境・DX統括本部 情報社会基盤研究センター 担当 技術専門員 小坂 秀一氏は「大学間での競争が激しくなっている今、学生や教職員、そして事務職員がより質の高い教育研究活動や業務ができるインフラを今まで以上に追求していく必要があると考えています」と大学や担当部門が置かれている現状について語ります。 JAIST は開学当初から ICT ツールを積極的に導入するなど、比較的デジタル化が進んでいた一方で、デジタル化を進めてきたことで直面している課題もありました。

「さまざまな業務システムやサービスがデジタル化されているのですが、ユーザー視点で見ると、学内システムが多すぎる上にインターフェイスが統一されていないため、使い勝手が悪くなっていました。長年、システム統一化の必要性を強く感じていました」(小坂氏)。

契機が訪れたのは 2020 年のことでした。新型コロナウィルス感染症の拡大を受けて、文部科学省から教育機関に対して書面や押印、対面での手続きの見直しの要請がありました。同学で調査したところ、学内全体で 270 程度の押印業務がいまだ残っていることが判明しました。

「肌感覚ではこういったアナログな業務はもっと少ないだろうと予想していたため、少なからぬ衝撃を受けました」(小坂氏)。そこで小坂氏は、システムの運用や導入業務のプロジェクトマネジメントを担当し、教員側との橋渡し役を担う北陸先端科学技術大学院大学 情報社会基盤研究センター 講師(兼務)先端科学技術研究科次世代デジタル社会基盤研究領域 博士(工学)冨田 尭 氏に相談。逆にこれを好機と捉えて、既存システムの見直しと DX の推進に注力する方針を固めました。

「対面業務が難しくなっていた時勢もあって、DX ツール導入については比較的理解を得やすかったです。ただ全学一斉にではなく、まずは情報社会基盤研究センター周りのシステムから手をつけることにしました。自分たちが使いこなせなければ他の部局もついてきてくれませんからね」と冨田氏。こうして、まずは同センターの業務をデジタル化することによって改善し、その結果生まれた空き時間で他部局のシステム開発にノウハウを提供、全学に DX を波及させていくプロジェクトを進めることになりました。

限られた時間とリソースのなかで、必要なツールを見極める

DX の目的は、絶えず良い変化を促すことです。情報社会基盤研究センターの業務 DX に用いるサービスとして選ばれたのは、ローコードのアプリ開発で迅速な内製化を実現できる Microsoft Power Apps と ワークフローを自動化する Microsoft Power Automate でした。これらのサービスは、Microsoft Power Platform の製品群に含まれています。「新たに他のツールを導入する選択肢もありましたが、本学では Microsoft 365 Education A3 を包括契約 していたこともあり、限られたリソースで DX に取り組まなければいけない現状を鑑みると、使い慣れた Microsoft Excel や Microsoft PowerPoint に近い操作感でアプリの構築やシステムの自動化ができるマイクロソフトのローコード開発サービスが最適解でした 」と小坂氏。

さらに、必要に応じて機能を拡充できることもよりスムーズな課題解決を後押ししたといいます。

導入当初、同センターでは Office 365 のライセンスに含まれる Power Apps と Power Automate を利用していました。しかし、プロジェクトを進めるうちに、同センターが運用している他の外部サービスとの連携やその後の分析、データ活用のために、データの適切な管理・運用が DX 成功の一番の秘訣であることに気づきました。Power Apps と Power Automate には、その両方の機能が上位ライセンスにあることがわかり、すぐさま上位のライセンスに移行することにしました。現在は、オンプレミスやクラウド、他社製品も含めてさまざまなサービスと連携可能なコネクタ(Microsoft Premium Connecter)や、大量のデータを容易に保存し管理できる専用のデータベース(Microsoft Dataverse)で、よりハイレベルな作業環境を整えています。

プログラミングやアプリデザインが苦手なメンバーも含めたチームで「PC 端末貸与/返却アプリ」を構築

同センターがまず取り掛かったのは、学生向けの PC 端末貸与/返却フローのデジタル化でした。

JAIST では全学生に Microsoft Surface Pro シリーズを貸与しています。以前のフローでは、貸し出しや返却、延長などの申請は紙ベースで行われ、記入済用紙を PDF 化して保存した上で原紙はファイルに綴る、さらに職員が PDF の内容を手動で Microsoft Excel に入力して管理するといった煩雑な作業が伴っていました。書き間違いや入力間違いも多く、申請書と実態が伴わないケースも散見されるなど、端末貸与業務はその窓口を担う教育研究ユニットのメンバーにとって大きな負担となっていました。

北陸先端科学技術大学院大学 情報環境・DX統括本部 情報社会基盤研究センター 技術専門職員間藤 真人 氏は「貸与や返却のフローを自動化できないかという思いは前々から持っていたのですが、インターフェイスを用意する部分がどうしてもうまくいきませんでした。Power Apps と Power Automate であればその課題を解決できるのではないか感じました」と、導入時に感じた期待を語ります。

こうして始まった PC 端末の貸出/返却業務の自動化プロジェクトは、バックエンドの自動化処理はプログラミング経験の豊富な間藤氏が担当。一方でアプリの構成は、プログラムは不得手ながら Web デザインなどを担当してきた同ユニットの宮下氏が担当しました。

「私は、プログラミングがあまり得意ではありません。ですが、業務の煩雑さから DX の必要性は認識していましたし、目の前には PC 端末の貸与/返却業務という大きな課題がありました。ですから“まずはひとつ、自分の力でアプリをつくってみよう”という気持ちで挑戦しました」と北陸先端科学技術大学院大学 情報環境・DX統括本部 情報社会基盤研究センター 技術専門職員 宮下 夏苗 氏はプロジェクト開始時の心境を語ります。

試行錯誤しながらも、バーコードや QR コードスキャンによる入力、タブレットとタッチペンによる利用者のサイン画像取得、そしてデータベース登録や確認メール送信の自動化を実現。何度かのバージョンアップを経て 2021 年 10 月にリリース、この時の新入生からアプリによる貸出電子化を開始しました。

「それぞれの得意分野を生かしながらチームでアプリをつくりあげることができました。貸与/返却の業務にこれまでは 5 つ程度のとても煩雑な工程があったのですが、今はバーコードをスキャンするだけ。体感としては 10 分の 1 くらいの労力で済むようになりました」と宮下氏は嬉しそうにチームで開発したツールで自らの業務を効率化できた充実感を語ります。

「PC 端末貸与/返却アプリ」の経験を生かし、わずかな期間で報告書回収アプリを構築

このアプリ構築で得られた経験は別の業務デジタル化においても大いに役立ちます。

全学規模で利用していた、他社製のアプリの解約に際して、解約だけでなく、学内に配布したアプリを全てアンインストールする必要が生じたのです。アンインストールは各個人でやってもらう必要があり、完了報告書を提出してもらわなければいけません。その対象は、学内にいない教授や他大学などに異動した教員も含む 180 名超。なかには海外在住で連絡のつきにくい人もいました。さらに課題となったのは期間でした。わずか 2 ヶ月の間に全てのアンインストール作業を完了する必要があったのです。

そこで同センターでは、自動化によって業務の効率化を図ることに。担当は宮下氏でした。「Power Automate で削除依頼メールの配信、電子署名ツールへの誘導、報告書の提出記録、未提出者へのメール再配信までの作業を自動化しました。時間はありませんでしたが、テンプレートの流用も含めて PC 端末貸与/返却アプリの経験を生かせたので、比較的簡単に構築できたと思います」。結果、見事に期間内にアプリ構築からほぼ全員からの完了報告受領まで完了することができました。

宮下氏のように、プログラミングがあまり得意ではなく、プログラムを書いて業務に活用したことがなくても、一度アプリの構築を経験しただけでこれだけの成果を得られるのは、直感的に操作できるローコードツールならではの現象と言えるでしょう。同センターから始まった業務の自動化は学内に少しずつ広まっていきます。「新型コロナウィルスワクチンの職域接種を行うにあたって、総務課の事務職員が自ら申し込みシステムを構築した事例があります。本学内で少しずつ DX の垣根が広がっていることを感じます」と小坂氏は頬を緩めます。

コロナ禍ならではの課題を新入職員が中心となって解決 

着々とローコード開発による DX を進める同センターでは、もうひとつデジタル化を進めなければいけない業務がありました。それが「情報環境利用同意手続き」です。

JAIST では、新入生が一堂に会するオリエンテーションの場で、JAIST の端末やネットワークインフラなどに関する研修を行い、所定の利用方法に同意する紙の同意書をその場で集めていました。ところが、コロナ禍でオリエンテーションが中止になってしまいます。その結果、分散研修やタイミングをずらして書面を受け付ける手間が増えただけでなく、そもそも留学生は入国できないので、会うこともできません。早急に同意手続きをオンライン化する必要がありました。

この苦境を救うべく、手続きシステムのオンライン化を担当したのは、北陸先端科学技術大学院大学 情報環境・DX統括本部 情報社会基盤研究センター 技術職員 田中 琴子 氏でした。

田中氏は入職してまだ半年。学生時代に情報系を学んだ経験からある程度 ICT の知識は持っていたものの、実際に Power Apps や Power Automate に触れるのは初めてだった田中氏は、はじめて アプリを操作した時の感想をこう語ります。「こんな便利なアプリがあるのか、というのが最初の感想でした。Power Apps は PowerPoint を操作する感覚で、Power Automate はフローチャートを組む要領でスムーズに扱えました。テンプレートでは賄えない機能を加えるために一部プログラムをつけ足す作業も行いましたが、先に構築した PC 端末貸与/返却アプリという手本もありましたし、とてもとっつきやすかったですね」。

田中氏はオンラインの同意手続きシステムを、Web 上の編集画面を使ってアプリを制作できる、Power Apps のキャンバスアプリや上位のライセンスに含まれる Microsoft Power Pages (旧名称:Power Apps ポータル)などによって構築。田中氏によって作成されたオンライン同意手続きシステムによって、新入生はオンラインで同意手続きが可能となりました。入力された内容は自動的に Excel でつくられた対象者リストに反映、控えメールが送信される仕組みとなっています。田中氏は「マイクロソフトが提供する無料のオンライントレーニングである Microsoft Learn を活用したり、先輩方に認証関係の仕組みを手伝ってもらったりした部分もありますが、これまでの知識を応用して作業はスムーズに進行できました」と振り返ります。

特別な知識や技術を必要とせず、協働作業でモノづくりができる創造的な環境

現在、情報社会基盤研究センターでは、従前からの懸案だった学内システムのインターフェイス統一に向けた第一歩として、教職員向けの申請窓口を集約したポータルサイトを Power Pages で構築しています。「これまでつくったアプリを含めた各種申請をひとつのインターフェイスに統一する予定です」と田中氏は意気込みます。

このプロジェクトでは、利用者向けインターフェイスになるアプリは田中氏、管理者用アプリは宮下氏、バックエンドの自動処理は間藤氏といった具合に分業して構築しています。

「全員が当事者なので、“三人寄れば文殊の知恵”ではないですが、工程の相談もできますし新しいアイディアも湧いてきます。何よりみんなと一緒にモノをつくれるのが楽しいです」と宮下氏。この言葉から、ローコード開発ツールの活用により、アプリやシステムの構築には専門的な知識や技術が必要という固定概念が覆され、プログラミングスキルの多寡、ツール使用経験の有無を問わず、誰もが開発に携われる時代が訪れていることが伺えます。

DX に臨むにあたって大切なのは技術や知識より「“自分の業務をもっと簡単にしたい”というモチベーションかもしれませんね」と宮下氏。「ゆくゆくは、各部局から有志を集めてサークルをつくりたいです。気軽にそれぞれの業務を効率化するアイディアを出し合える場所をつくって、“一緒にやってみたい”という仲間が増えてくれたらとても嬉しいです」。(宮下氏)

田中氏も、「簡単にデザインできるキャンバスアプリは広まってきたので、次はモデル駆動型アプリで日々の業務プロセスの効率化にもチャレンジしたいです」とやる気満々。一方意外にも、経験豊富な間藤氏はローコード開発に戸惑いを覚えています。「もしかしたら、あまりコード開発の経験のない人の方が、柔軟に対応できるかもしれませんね。私の場合、プログラミング言語での開発に慣れ過ぎているので、グラフィカルなデザインに機能を付加していく Power Apps のようなツールを使った開発は逆にやりにくさを感じてしまいます。頭の切り替えをしていかないと」と、新たな技術の習得に意欲を見せます。

学びやすい環境のために、デジタルの力をフル活用

冨田氏は同学の今後の展望についてこう語ります。「今はまだ学生や教職員向けサービスのデジタル化に留まっていて、一般の事務職員が利便性を感じられるところまで至っていない段階です。情報社会基盤研究センター周りでもまだ十分にはデジタル化が進んでいない部分もありますので、少しずつ DX を進めて、やがて横展開していきたいと思っています」。

小坂氏も「コロナ禍を経て、特に学生はこれまでのような大学生活が送れなくなってしまいました。もともと複雑だったシステムが、学外からの利用が増えたことでさらにわかりにくくなっている現状をなるべく早く解消して、本業である学業や研究に専念できる環境づくりを支援していきたいです」と今後の展開を見据えます。

その名の通り、先端技術を積極的に取り入れ、かつ技術の有効な使い道を現場起点で実現していく北陸先端科学技術大学院大学。まだその道のりは始まったばかりですが、デジタルの力が存分に反映された学びの空間に、我が国を支える人材が集い、研鑽を積み、大いに活躍する様子が目に浮かぶようです。

“限られたリソースで DX に取り組まなければいけない現状を鑑みると、使い慣れた Microsoft Excel や Microsoft PowerPoint に近い操作感でアプリの構築やシステムの自動化ができる日本マイクロソフトのローコード開発サービスツールが最適解でした”

小坂 秀一 氏, 情報環境・DX統括本部 情報社会基盤研究センター 担当 技術専門員, 北陸先端科学技術大学院大学

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