改革には飛躍が必要です。職員の働き方改革と自治体 DX に向け、鹿児島市は先進自治体への視察を重ね、クラウド業務基盤として Microsoft 365 E3 の利用を決断しました。さらに、個人用の業務デバイスとして Surface Pro 9 の展開も始めています。その効果は、2023 年に開催される「かごしま国体」の準備において早くも現れていました。
自治体 DX の推進には、職員の業務効率化が必須
南九州の主要都市であり、眼前に桜島を臨む鹿児島市。古くから薩摩藩 77 万 8 千石の城下町として栄え、西郷隆盛や大久保利通といった近代日本を築いた人物を多数輩出してきました。薩摩藩は西洋の科学技術を早期に取り入れたことでも知られており、大陸や南洋諸島に近いという立地条件から、必然的に琉球を中継地として早くから貿易も活発に行われ、また、大陸文化やヨーロッパ文化の門戸となりました。
そのような歴史を持つ鹿児島市は、2022 年に「鹿児島市デジタル・トランスフォーメーション (DX) 推進計画」を策定しました。ICT で住みよいまちづくりを進めるために、以下の 4 つの基本方針が打ち立てられています。
基本方針 1. もっと便利な市民サービスの提供
基本方針 2. 地域におけるデジタル化の推進
基本方針 3. ICT リテラシー向上の推進
基本方針 4. デジタル化による職員の働き方改革
これらの基本方針に基づき、自治体情報システムの標準化といった大がかりなインフラ整備から、市民サービス向上を目的とした “書かない窓口” や観光施設窓口へのキャッシュレス決済対応といった市民や観光客向けのサービスまで、さまざまな施策が進められています。今後これらの DX を加速させるには、職員によるさらなる業務改革が必須だと、鹿児島市 総務局 DX 推進部 情報システム課 課長 鎮守健一氏は言います。
「本市は人口が緩やかな減少傾向に転じており、新たな業務に『職員のマンパワーで対処する』という方法論は限界を迎えています。そこで大事になってくるのが業務改革です。職員の働き方を抜本的に見直すことによって、ICT によるまちづくりをより推進していくことが可能になると考えています」(鎮守氏)
DX を強力に推進していくために、鹿児島市は大きな選択をしました。約 4,000 人の全職員に対して、クラウド型のグループウェアと携帯性の高い業務デバイスの導入を新たに決断したのです。そして最終的に選ばれたのは、マイクロソフトの提供する Microsoft 365 E3 と、Surface Pro 9 でした。
組織横断型のコミュニケーションを強化するために、Microsoft 365 E3 と Surface Pro 9 を選択
Microsoft 365 E3 は、Microsoft Word や Microsoft Excel といった従来の Microsoft Office アプリに加えて、Microsoft Teams などの情報共有ツールやセキュリティ サービスなど、多数の機能が包括されたサブスクリプション サービスです。そして、ノート PC にもタブレットにもなる マイクロソフト の 2 in 1 PC が、Surface Pro 9 です。
現在、鹿児島市においては、パッケージ版の Office ソフトを利用していると、鹿児島市 総務局 DX 推進部 情報システム課 主査 濱田龍氏は説明します。
「数千台の PC を管理するにあたり、細かいアップデート対応にとても苦労しています。また、自治体はインターネットとは分離した環境でインフラが構築されているため、例えばデバイスが故障して再インストールする際にはネット認証ができず、さらに手間がかかってしまうといった事態が発生しています。また、オンプレミスの運用では、業務におけるコミュニケーションがどうしても非効率になってしまいます。パッケージ版はサポートにも期限がありますから、新たにクラウドサービスの利用を検討していきました」(濱田氏)
日本の自治体はこれまで、業務で使用するネットワークが三つのセグメント(マイナンバー利用事務系、LGWAN 接続系、インターネット接続系)に分離・分割がなされた「三層分離」の環境下で運用されてきました。しかし、総務省の「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」が改訂されたことによって三層の対策が見直され、業務システムの一部でクラウド サービスなどの外部サービスの利用が可能になっています。それでも、クラウド利用の安全性については綿密に検証を重ねたと、鹿児島市 総務局 DX 推進部 情報システム課 主事 小段康平氏は振り返ります。
「これまで外部と完全に分離された環境で業務をしていましたから、やはり懸念はありました。ISMAP による政府情報システムのセキュリティ評価を確認したり、特定のクラウド サービスだけを専用線等で直接接続する "ローカルブレイクアウト" 等の技術を学んだり、実際にクラウド活用を進めている自治体の視察をしたりと、多角的な検討をした上で最終的な導入を判断しています」(小段氏)
新たなクラウド サービスを導入するポイントは「情報共有」にあったと、鹿児島市 総務局 DX 推進部 情報システム課 主任 川縁孝博氏は続けます。
「組織としての業務効率化には、情報共有が欠かせません。誰にも知らせなければ、一人で働いているのと一緒です。特に今は、組織横断型のワーキング グループによる仕事が増えています。『テレワーク』『電子契約』などのテーマごとに、さまざまな課から人が集まり、議論を交わしながら進めているのです。所属部署はもちろん、組織をまたいだコミュニケーションを効率化できるかどうかも、クラウド サービスを検討する上での重要なポイントでした」(川縁氏)
また、鹿児島市では、業務デバイスも同時に検討が進められました。
「必要なのは、職員の働き方改革にマッチした端末でした。何よりも重視したのは『携帯性』と『安全性』です。役所にはさまざまな仕事がありますから、出先でタブレットとして使える、タッチペン操作ができるなど、多くの利用シーンに合わせて使うことのできるデバイスを探していきました」(濱田氏)
こうした検討を進め、事業計画を立案した後、鹿児島市は「コミュニケーションツール環境構築業務委託」に関するプロポーザルを公告しました。そして、企画提案された中で選択されたのが、Microsoft 365 E3 と、Surface Pro 9 でした。
「総合的に見て、これが『職員の働き方改革に最適な組み合わせ』だと考えました」(小段氏)
さらに鎮守氏は、財政課を説得し、議会の承認を得るための課程をこう振り返ります。
「公金を使って事業を進めていくのですから、当然、説明責任を果たさねばなりません。これまでも限られた環境で業務効率化はできている認識でしたが、Microsoft 365 や Surface を活用することで、より業務効率化できる余地があることに気づきました。すべての費用対効果を数字で示すことは難しいですが、たとえば会議のペーパーレス化による費用の削減や、ビデオ会議による移動時間、チャットによる電話取り次ぎ時間の効率化などを挙げていきました。また、渋谷区や港区、市原市や熊本市など、すでに Microsoft 365 サービスの導入を進めていた先進自治体に視察に伺い、導入にあたっての課題や実際に得られた効果を直接現場で調査しました。「業務が効率化された」という事例も確認しています。予算承認の過程で『組織横断的な情報共有の必要性』と『時間の大切さ』を下鶴市長が説いてくださったこともあり、導入を具体的に進めていけることになりました」(鎮守氏)
共同編集が可能になったことで、決裁プロセスが圧倒的に短縮された
Microsoft 365 E3 と Surface Pro 9 による鹿児島市の働き方改革は、2022 年 11 月から試験的に始まりました。2023 年 10 月に開催される「かごしま国体」に向けて、準備を担う国体推進部のメンバーが新たなクラウドサービスと端末を利用しているのです。国体推進部における導入効果について、川縁氏、小段氏、濱田氏は意気揚々と語ります。
「とても手応えを感じています。競技会場に出かけて会場のレイアウトを確認したり、競技団体と打ち合わせしたりと、外出する業務が多いのですが、クラウド上の Excel 等のファイルならば最新情報をいつでも確認、編集できます。Surface も持ち運びやすく、今まで以上にコミュニケーションが効率化しています。従来から利用しているノート PC は重かったり、バッテリーがすぐに切れてしまったりということもあり、『自分も Surface を早く使いたい』という要望が来ているほどです」(川縁氏)
「先日、Microsoft Forms を使って国体推進部を対象に Microsoft 365 や Surface の利用に関するアンケートを取ったのですが、『共同編集』がもっとも好評でした。これまでは書類を作成する際、いったん印刷して係長に見せて修正を受けて、また印刷して今度は課長に見せて……というプロセスが必要だったのですが、Microsoft Teams のチーム上に書類データをアップして作業すれば、任意のタイミングで上司に確認してもらうことができます。決裁に要する時間が大幅に短縮されているようです」(小段氏)
「加えて庁舎内の『会議室不足』も問題だったのですが、Teams のおかげで自席からオンライン会議に参加できるようになりました。2022 年に国体が開催された栃木県での会合も、現地参加者を一人に絞って、あとは Teams で中継することにより、移動時間や費用の節約ができています」(濱田氏)
新たなツールを組織内に導入しても、それが使われなければ効果を発揮させることはできません。鹿児島市の国体推進部では早くもさまざまな業務効率化が達成されていますが、どのような導入の工夫があったのでしょうか? この質問に、鹿児島市 総務局 DX 推進部 情報システム課 DX 推進サポーターの長瀨史明氏は「実業務への活用にフォーカスした研修の実施、ナレッジ集約・共有の仕組み作りを行った」と答えます。
「Microsoft 365 には Teams や Outlook、Forms、OneNote とさまざまなアプリが用意されていますが、単に機能を説明するだけでなく、たとえば照会業務を挙げて何が変わるか、どのように活用すればよいかなど、従来からの変更点と具体的な利用シーンを示すように努めました。Windows 端末や Office 製品に慣れていることもあるのでしょうが、想定以上にスムーズに使ってもらっているという印象です。また、Teams 上で問い合わせサポートを行うチャネルを設置しました。複数の職員が同じ疑問を持っていることも多いため、1 人の質問とそれに対する回答を全体に共有する仕組みは有効でした。我々も同じ質問を受けることなく、必要最小限の工数でサポートができました。さらに、現在は電話での問い合わせが主ですが、Teamsを活用することで問い合わせのログを残すことができるので、今後の FAQ 作成にも活かせると思います」(長瀨氏)
鹿児島市の情報の流れを改革していく
今後は「さらに業務課題を解消していきたい」と小段氏は意気込みます。
「Microsoft 365 と Surface Pro 9 を職員に浸透させていくことは前提として、今後は Power Platform を使った庁内業務の効率化、データの可視化や分析、Microsoft 365 E3 のセキュリティ機能による BYOD でのスマホ活用など、さらなる業務課題の解消に取り組んでいきたいと思っています」(小段氏)
また、Microsoft 365 E3 と Surface Pro 9 によって「鹿児島市の全庁的な働き方を変えていく」ことが必要だと、鎮守氏は言います。
「展開していく上で大事なことは、課長や係長といった管理者側の仕事のやり方を、紙前提からクラウド前提に変えてもらうことだと思います。たとえば、職員と管理職がお互いの時間を割いて進捗確認をするのではなく、それぞれが空いた時間に質問、確認するようなやり方に変える必要があります。こうしたデジタル化が上手くいって始めて、部長、局長、副市長、市長へと連なる情報連携が達成され、全庁的な働き方を改革できると考えています。さらに将来は、関連自治体とも Teams で連携し、情報共有をしていければと期待しています」(鎮守氏)
ICT で住みよいまちづくりを進めるために、鹿児島市は、オンプレミス環境から、Microsoft 365 E3 に業務基盤を移し、さらに Surface Pro 9 を全面採用するという革新的な変革を果たしました。コロナ禍を経て、ビジネスチャットやオンライン会議といった選択肢は社会的に当たり前のものとなりつつあります。鹿児島市の選択は、働き方改革に悩む多くの地方自治体にとって、大いに参考となることでしょう。
“所属部署はもちろん、組織をまたいだコミュニケーションを効率化できるかどうかも、クラウド サービスを検討する上での重要なポイントでした”
川縁 孝博 氏, 総務局 DX推進部 情報システム課 主任, 鹿児島市
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