1873 年の創業以来、数多くの建設プロジェクトを手掛け、魅力ある街作りや社会資本の整備に貢献し続けている大成建設株式会社。2023 年には創業 150 年を迎え、2030 年に向け DX にも積極的に取り組んでいます。その一環として進められているのが、統合データ プラットフォーム「Taisei-DaaS (Taisei-Data as a Service)」の構築です。2023 年までに社内プロセスをつなぐ、2026 年までに建設業界をつなぐ、そして 2030 年までに社会をつなぐことを目標に、建設ライフサイクル全体でデータを利活用できる環境を実現しつつあるのです。その基盤として採用されているのが Microsoft Azure。Microsoft Azure Data Factory や Microsoft Azure Synapse Analytics といった PaaS で Data-HUB を構築すると共に、Microsoft Purview でデータ カタログも作成。セキュリティや安定性を確保しながら、多岐にわたるテクノロジーを高い親和性の下で活用できる環境を実現しています。
3 つのメガ クラウドを比較した結果、統合データ プラットフォーム基盤に Azure を選定
1873 年に大倉喜八郎が大倉組商会として設立し、2023 年に創業 150 周年を迎えた大成建設株式会社 (以下、大成建設)。これを目前に控えた 2021 年には、通常の 3 か年中期経営計画に加え、中長期的に目指す姿として「TAISEI VISION 2030」も発表しています。その大きな柱は、「IX (Industry Transformation)」、「SX (Sustainability Transformation)」、「DX (Digital Transformation)」という、「3 つの X」によって大きな変革を成し遂げていくこと。このうち「DX」の一環として進められているのが、統合データ プラットフォーム「Taisei-DaaS」の構築かつ運用です。
「これまでも数多くのシステムを構築し運用してきましたが、手作りによるシステムが多かったこともあり、データのサイロ化が進んでいました」と語るのは、大成建設 社長室 情報企画部 デジタル推進室で次長を務める林 秀明 氏。このようなサイロ化を解消するために着手したのが、Taisei-DaaS プロジェクトなのだと説明します。「大成建設における DX への取り組みは、2023 年までに社内プロセスをつなぐ、2026 年までに建設業界をつなぐ、そして 2030 年までに社会をつなぐことを目標にしています。そのためにはまず、既存のプラットフォームからデータを集約して見える化を図り、建設ライフサイクル全体でデータを利活用できる “統合データ プラットフォーム” を確立することが不可欠だと判断しました」。
プロジェクトがキックオフされたのは 2021 年 4 月。「この時点で大成建設には、部門ごとに縦割りになったシステムが 150 近く存在していました」と言うのは、大成建設 社長室 情報企画部 デジタル推進室で課長代理を務める関口 拓希 氏です。これらは業務最適化のために構築されたものですが、各部門が同じようなデータ分析や利活用を行っているというムダがあったうえ、建設ライフサイクル全体を視野に入れたデータ活用が難しいという問題もあったと指摘します。「これらのデータを統合しつないでいくことで、同じものが複数存在するというムダを解消すると共に、変革につながる新たなアイデアが生まれやすい環境の実現を目指しました」。
ここでまず行われたのが、基盤となるパブリック クラウドの選定でした。その経緯について、大成建設グループの情報システム会社である株式会社大成情報システム (以下、大成情報システム) で、デザイン&ソリューション部長を務める松村 将信 氏は、次のように語ります。
「クラウド業界を代表する 3 つのメガクラウドを、主に非機能要件と費用面で比較し、利用クラウドの選定を進めていきました。その中には、可用性、データ保護、データ バックアップ、ディザスタ リカバリ、性能や拡張性、保守性、日本円で支払いが可能なのかなど、幅広い項目が含まれています」。
その結果選ばれたのが Azure でした。採用は総合的な判断に基づいて行われましたが、特に決定的だった理由について、大成情報システム デザイン&ソリューション部 チームリーダーの辻 征 氏は次のように説明します。
「既に大成建設では Microsoft 365 を導入しており、社内システムも Azure ExpressRoute で閉域接続していました。そのため Azure であれば、ネットワーク構築などの初期費用を抑えることが可能です。また Azure には PaaS として使える ETL ツールや DWH、データマートなどの機能が揃っており、高い保守性とメンテナンス性を実現できます。さらに、Microsoft 365 で使用していた Microsoft Entra ID (旧、Azure Active Directory) をそのまま使えるため、適切な人に適切なデータを提供する、といったセキュリティ機能の実装も容易だと評価。これらを実際に PoC で確かめたうえで、採用を決定しました」。
まず「Data-HUB」を構築したうえで、利活用を促進するための「データ カタログ」を作成
この Taisei-DaaS プロジェクトには、検討段階から富士通株式会社 (以下、富士通) が参画。2022 年 4 月にはデータ統合のための「Data-HUB」が完成していますが、そこに至るまでの PoC や設計、構築も富士通と共に進められていきました。Data-HUB のシステム構成とデータの流れについて、富士通 クロスインダストリーソリューション事業本部 DS) BI Solution事業部の星野 良介 氏は、次のように解説します。
「各データソースから集められたデータは、まず Azure Data Factory で前処理を行って Azure Data Lake Storage Gen2 に蓄積、さらに Azure Synapse Analytics で汎用変換処理や名寄せ処理を行い SQL プールで DWH 化、そこから複数のデータマートを SQL プールに切り出しています。前処理部分で Azure Data Factory を採用したのは、処理内容を GUI で組めるうえ、実績も高かったからです。また DWH とデータマートに Azure Synapse Analyticsを採用した最大の理由は、大規模なデータ統合をサーバーレスで実現できることです。今は 8 つの業務領域からデータを取り込み、80 テーブル以上を Taisei-DaaS に連携しています」。
Data-HUB の提供開始と同時に、Microsoft SharePoint Online を活用した「Data ポータル」もスタート。データの利用方法の説明やデータ利用申請の受付などを、このポータルで行っています。しかし多くのビジネス ユーザーにとって、自分に必要なデータがどこにあるのかわかりにくいこともあり、データ活用はすぐには広がっていきませんでした。
林 氏のチームはこのような状況になることを当初から想定しており、計画どおり次のステップへと歩を進めていきます。それがデータ カタログの構築です。その実現に向けて複数ベンダーが参加するコンペを実施。Microsoft Purview による構築を提案した株式会社ジール (以下、ジール) の案を採用します。
Purview を提案した理由について「低コストでデータカタログを実現でき、Microsoft Entra ID がそのまま使えるため、Taisei-DaaS に最適だと判断しました」と説明するのは、ジール ビジネスアナリティクスプラットフォーム ユニットでマネージャーを務める増田 圭亮 氏です。また API が豊富に用意されているため、幅広いユーザー層に合わせたフロント画面 (ユーザー インターフェイス) を作り込みやすいことも、理由の 1 つだと指摘します。「実際に私が最初に Purview を触った時には、この API の豊富さに感動しました」。
一方、Purview によるデータ カタログの設計について「Azure Well-Architected Framework をベースに、セキュリティや信頼性に配慮した内容にしています」と説明するのは、ジール ビジネスアナリティクスプラットフォーム ユニットで上席チーフスペシャリストを務める永田 亮磨 氏です。このフレームワークを活用することで、ビジネス価値を長期的に最大化していくことも容易になると言います。
このような提案に対し「ジール様は Purview やデータ カタログだけではなく、建設業界の知見があるスタッフもいるため、安心して任せられると感じました」と言うのは関口 氏。また Purview には複数のデータソースを 1 つのまとまりとして管理する「コレクション」という機能によってデータの管理が行いやすいことや、そのしくみをフロント画面と連携させるための設計支援が提案に盛り込まれていたこと、低コストでスモール スタートしやすいことなども、高く評価したと語ります。
全国で開催した説明会には約 2,000 名が参加、データ活用への期待の大きさを改めて確認
2023 年 12 月にはデータ カタログ構築プロジェクトがスタート。Purview 環境の整備とデータ カタログの構築はジールが行い、フロント画面の作成は Data-HUB の構築から参画していた富士通が担当しています。
「実際に自社内でも検証した結果、大成建設様が必要とする画面を作り込むうえで、十分な機能があることが確認できました」と言うのは、富士通 クロスインダストリーソリューション事業本部 DS) BI Solution事業部でマネージャーを務める中村 圭太 氏。その中でも特に利便性が高いと感じたのが、コレクションに含まれるファセットを使用した検索機能だと指摘します。「1 つのリクエストを行うだけですべての結果が返ってくるのはもちろんのこと、その中にハイライト情報も盛り込まれているため、少ない手順で画面表示を行なえます」。
また実際のフロント画面作成について「大成建設様の利用シーンをできるだけ具体的に想定し、利用者目線を重視したフロント画面にするよう心掛けました」と語るのは、Taisei-DaaS 検討段階から参画している、富士通 クロスインダストリーソリューション事業本部 データ戦略コンサルティング部でシニアマネージャーを務める鈴宮 功之 氏。データ ガバナンスも徹底して配慮したと言います。
データ カタログとそのフロント画面の構築と並行して、2023 年 7 月からはデモ画面を使用した説明会も開催。全国の 12 支社と営業所でこれを実施した結果、自ら手を上げて参加した社員が合計約 2,000 名に上りました。「データ利用環境の整備状況や Microsoft Power BI などについて約 120 分説明したうえで、活用アイデアに関するアンケートも行ったのですが、ここで 600 以上のアイデアが出てきました。データ活用への期待の大きさが改めて確認できました」 (関口 氏)。
2023 年 10 月には、データ カタログとそのフロント画面の提供がスタート。経理系、人事系、建設系といった業務カテゴリーごとに 10 のコレクションが作成され、その分析と利活用には Power BI が利用されています。また前述の「Data ポータル」では教育コンテンツを大幅に拡充。Microsoft PowerPoint を活用したコンテンツは富士通、動画コンテンツはジールが参画して制作されています。
「最初から Azure を採用していたおかげで、マイクロソフトが提供する多岐にわたるテクノロジーを、高い親和性の下で活用できるようになりました」と関口 氏。PaaS を活用しているため安定性も高く、アクセスが集中してもリソースが不足してスローダウンすることはないと言います。
しかし Taisei-DaaS への取り組みは、これで完了したわけではありません。次のステップが既に始まりつつあります。
「今後は Taisei-DaaS に載せる情報を、非構造化データも含めさらに拡充していきます」と林 氏。また Taisei-DaaS とは別に機械学習や生成 AI の活用プロジェクトも動いており、これらとの連携も視野に入っていると語ります。「最終的に目指すのは、建設ライフサイクルのすべてを満たすことができるデータ基盤の確立です。幅広い社員がデータを活用できるようにすることで、データ ドリブンな意思決定を社内全体に定着させたいと考えています」。
“最終的に目指すのは、建設ライフサイクルのすべてを満たすことができるデータ基盤の確立です。幅広い社員がデータを活用できるようにすることで、データ ドリブンな意思決定を社内全体に定着させたいと考えています”
林 秀明 氏, 社長室 情報企画部 デジタル推進室 次長, 大成建設株式会社
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