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2024/03/19

クボタ環境エンジニアリングがよきパートナーと二人三脚で進めた、HoloLens 2 によるインフラ施設の点検合理化技術開発プロジェクト

クボタグループは 1890 年の創業以来、水道用鉄管による近代水道の整備、農業機械による食料増産と省力化、環境施設による人類と環境の調和などに取り組み、さまざまな製品・ソリューションを提供してきました。同グループは「命を支えるプラットフォーマー」を目指す姿として掲げており、食料・水・環境という人類の生存に欠かせない分野で社会課題を解決し、持続可能な社会を実現するための取り組みを進めています。

Kubota Environmental Engineering Corporation

インフラ設備の保守・運転・運用の課題を解決するためのデジタル活用 

クボタグループのなかで、浄水場、下水処理場、排水機場、汚泥再生処理施設、ごみ処理施設といった、我が国の水と廃棄物にまつわる重要なインフラの保守・運転・運用を担っているのが、クボタ環境エンジニアリング株式会社です。地球環境を守りながら人々の豊かな暮らしを支えるために、国内のみならずグローバルも視野に入れた事業を展開しています。

同社では、マイクロソフトの頭部装着型 MR デバイス「HoloLens 2」を活用した点検合理化技術「See Through Walls System」(シー スルー ウォールズ システム、以下「STWS」)を開発。2024 年 4 月 1 日から、国土交通省が発注する排水機場の点検業務で導入される予定です。この STWS には、インフラの保守・運転・運用における課題を解決し、台風や集中豪雨から私たちの暮らしを守る排水機場の予防保全に貢献することが期待されています。

我が国の排水機場の多くは、高度経済成長期に整備されたために老朽化が著しく、更新目安とされる設置後 40 年を経過したポンプ設備は、2030 年には約 5 割*1に達するとされています。労働人口の減少や高齢化が進む中でこれらの設備を安定的に稼働させるためには、ストック マネジメントの高度化を進めると同時に、デジタル技術の導入・活用が重要なポイントとなります。

クボタグループでは、「中期経営計画 2025」において DX の推進をメイン テーマのひとつに掲げ、2024 年を「AI 元年」と位置づけ、データを活用したさらなる変革を推進しています。クボタ環境エンジニアリング株式会社 代表取締役社長の中河 浩一 氏は、同社におけるデジタル技術の重要性について、3 つの視点からその理由を語ります。

「まず、私たちが長年培ってきた事業のノウハウや、従業員一人ひとりの知見や経験を次世代に伝承するために、デジタルは重要なツールだと考えています。次に、プラント施設の保守・運転・運用における最適解を導くプロセスでは蓄積されたデータの解析が必要とされますが、そのデータ量はすでに人間が処理できる範囲を超えており、デジタルの力は欠かせません。そして 3 つめに、会社の経営においても、データに基づく意思決定は競争力に繋がる大切な要素だと考えています」(中河氏)。

HoloLens 2 を活用したインフラ維持管理ソリューション開発プロジェクト

ことの始まりは 2022 年。社会インフラの維持管理分野における DX 推進の一環として 2021 年から点検合理化技術の試行を進めている国土交通省の関東地方整備局から、機械設備における点検業務の効率化と点検結果のデータベース登録の効率化を目指す取り組みに対して、同社に技術照会があったことから、STWS 開発プロジェクトは動き始めました。

株式会社クボタでは、HoloLens 2 のリリース当初から自社のサービスに活用できる可能性が認識されており、クボタ環境エンジニアリングを含むグループ各社にも共有されていました。株式会社クボタ グローバル ICT 本部 DX 推進部 DX 企画第二課の谷本 俊介 氏はこのように語ります。
「私たちはマイクロソフトさんと DX の推進に向けた戦略的提携を結んでおり、すべてのデータを Microsoft Azure に集めるプロジェクトも進めています。グループ内でなにか新たなデバイスを使う必要が生じた場合には、Azure との親和性やデータの安全性を確保できる HoloLens 2 を使うことが最も効果的でした。操作性に慣れる必要はありますが、それはどのデバイスも同じです。それより Azure とのデータ連携が簡単な点が、HoloLens 2 の大きなメリットだと感じています」(谷本氏)と太鼓判を押します。

 国土交通省からクボタ環境エンジニアリングに技術照会があったときには、すでに株式会社クボタにおけるいくつかの社内プロジェクトで利用されており、MR デバイスとしての評価は揺るぎなかったと言います。

クボタ環境エンジニアリング株式会社 ポンプ事業推進部長の橋詰 和哉 氏は、HoloLens 2 の現場での活用方法を検討する立場にいました。「打診があったときにはすでに、HoloLens 2 の標準機能である Microsoft Dynamics 365 Guides や Microsoft Dynamics 365 Remote Assist を使った点検業務支援を試行していました。ですから、点検業務においては、現実空間にデジタル情報を投影できる HoloLens 2 の MR 技術が有効だと考えられること、かつハンズ フリーなので入力作業がスムーズに行えること、さらに PC と同等の機能も使えることなどがわかっていたので、国土交通省からの期待に応えられると確信していました」(橋詰氏)。

こうして、クボタグループにおいて初めての、社外向けのシステムにHoloLens 2 を活用したプロジェクトが始動することになりました。

「HoloLens 2 が使えないかもしれない」開発に立ち塞がった壁

本プロジェクトは、難易度のレベルによってレベルを 3 段階に分け、並行して進められることになりました。レベル 1 では、現状の点検フローをそのまま使いつつ、デバイスを HoloLens 2 に置き換える簡易的なシステムの構築。レベル 2 は点検結果を登録する自社システムの開発。そしてレベル 3 は、HoloLens 2 から直接システムへアクセスし、データ登録まで終えられる、インダストリアルメタバースの具現化ともいえるシステムの開発を目指しました。

開発はスムーズに進み、ステップ 1 と 2 については概ね予定通り実用化の目処がつきました。ところがステップ 3 については、肝心の HoloLens 2 を活用した点検業務効率化システムの開発段階で、大きな壁が立ち塞がったのです。橋詰氏は、「HoloLens 2 の活用を中止しなければいけないかもしれないところまで追い詰められました」と当時の逼迫した状況について語ります。

STWS は、HoloLens 2 越しに施設の実物と 3D データモデルを重ね合わせて、点検する箇所が吹き出しで表示され、表示に従って点検、入力作業を進める仕組みがベースとなります。ところが、3D データモデルを描画するための点群と呼ばれるデータが膨大すぎて、HoloLens 2 のスペックではうまく動作させられないことがわかったのです。
「HoloLens 2 の運用についてはマイクロソフト、クボタ DX 推進部とディスカッションしながら進めていましたが、点群データ処理の問題には頭を抱えるしかありませんでした」(橋詰氏)。

停滞するプロジェクトに現れた救世主と、二人三脚で開発を進める

停滞するプロジェクトでしたが、そこに救世主が現れました。それは、日本マイクロソフトの認定パートナーで、HoloLens 2 を活用した施設管理系システムの提供実績が豊富なソフトハウス、株式会社マイスターでした。橋詰氏は、「あれは、運命の出会いでした」と、光明を見出した瞬間を振り返ります。

マイスターは函館に本社を置くソフトウェアの開発・販売を行う企業です。マイクロソフトの図面作成ソフト「Microsoft Visio」のカスタマイズを中心とした施設管理システムの構築や、HoloLens 2 を活用した 2D、3D のグラフィクスを業務システムに組み込んだソリューション開発を得意としています。

 2022 年春、日本マイクロソフトが国土交通省に HoloLens 2 の機能を説明するミーティングに、先進的な取り組みを行っているクボタ環境エンジニアリングとマイスターの両社を招きました。そこでマイスターからは、3D の都市モデルデータを HoloLens 2 で簡単に見られるアプリのデモンストレーションが行われました。

「インダストリアル メタバースでは対象を描画する精度が要求されるため、どうしても点群データのサイズが肥大化してしまいます。ほとんどの場合それは、HoloLens 2 はもちろん、通常のスペックの PC でも、ファイルを開くことすらできない大きさです」と語るのは、株式会社マイスター 常務取締役の野澤 宇一郎 氏。

そこで同社が開発したのが、業務用メタバース プラットフォーム “ViXAM”(ヴィグザム)です。ViXAM を使えば、Microsoft の Azure Remote Renderingを活用して、処理能力を超えたデータサイズでも HoloLens 2 にグラフィックを映し出せるのです。

そのデモンストレーションを見て「これしかない」と感じたという橋詰氏。すぐにマイスターに協力を打診し、両社の二人三脚での開発が始まりました。

実際に触れることの大切さを実感したアジャイル開発による実証

「クボタ環境エンジニアリングさんの要望は、点検ツールとしての活用でした。製品版の ViXAM には点検に類する機能はありませんから、まずは製品版を使っていただき、どんな機能が必要か、どんな UI が使いやすいかといった、一つひとつのディテールについてヒアリングしながら開発を進めました」(野澤氏)。

 野澤氏は、特に IT のエキスパートではない現場の点検作業員が扱う点に気を配ったと言います。「操作性が現場作業員の方々の求めるものと乖離してしまうと後からの調整が難しいので、実際に操作できる状態の試作をお持ちして都度調整するアジャイル開発を行いました」と野澤氏が語る通り、ときには 1 週間に 1 度の頻度でプロトタイプを制作し、試行錯誤を繰り返しました。

 「マイスターさんの開発スピードは本当に早かったですね。成果物として見せていただき、都度コミュニケーションを図ってくれました。こちらの要望を聞いたら、即座にカタチにしてくれることには本当に驚きました」と橋詰氏。確かなバックグランドに裏付けされた知識やノウハウだけでなく、その人間性や社風が今回のプロジェクトにマッチしたと笑顔で語ります。

 「クボタ環境エンジニアリングの担当窓口の皆様は、現場の作業にも精通されており、ビジネス課題についても明確な改善イメージをお持ちでした。的確で迅速なフィードバックをいただけたことが成功の秘訣だったと感じています」と野澤氏。HoloLens 2 に点検用の UI を実装する経験は初めてだったという同社では、日本マイクロソフトに都度助言をもらって新たな知見を得られたと、本プロジェクトでの収穫を語ります。

こうして最大の障害をクリアした STWS 開発プロジェクトは、当初の予定よりもスムーズに進行し、2024 年 4 月のリリースに向けて現場では実証実験が繰り返されました。その結果としては、これまで報告書の取りまとめにかかっていた時間を約 25% 短縮することができたそうです。また、ハンズ フリーで両手が自由に動かせるので、測定機器を使った作業やハシゴの上り下りなどにも支障がなく、安全性の確保も実現できています。

現場で点検作業員の皆さんの反応を見ている橋詰氏によると、「確かに最初のうちは操作に慣れずに時間がかかっていたのですが、2 回、3 回と繰り返すうちに劇的に作業スピードが上がる瞬間がありました」とのこと。PC のキーボード操作やスマートフォンのフリック入力を覚えるのと同じように、いつしか自然にエア タップできるようになり、迷うことなく点検が進んでいく変化には目を見張るものがあると言います。

データドリブンな社会づくりに向けて、さらにデジタル技術を活用していく

STWS は、2024 年 4 月 1 日から国土交通省が発注する排水機場の点検業務で導入されます。バージョンアップは適宜行われる予定で、現在は ChatGPT を活用した作業者支援システムを検証中です。搭載されれば、作業中の点検手順の確認やトラブルシューティングなどの場面でさらに利便性が増すことになります。

今回のプロジェクトについて谷本氏は、「HoloLens 2 が面白い技術であることは、おそらく万人が感じていることだと思います。そこから、本当に現場で使えるところまで持ってこられたのが一番の収穫」と評価し、「クボタグループでは農業機械の修理作業のトレーニングツールとして活用している事例がありますが、社内で使う場合とお客さまの現場で使う場合とでは意味合いが違います。そこに大きな意味があると思います」と、HoloLens 2 の可能性が広がったことを喜びます。

中河氏は、「今回のプロジェクトとは別に、当社では2023 年 上下水道施設における運転維持管理を効率化するための総合プラットフォームを発表しています。そちらのプロジェクトでは、Azure に蓄積した運転データを AI で分析して、エネルギー消費量の推移や処理状態の変化を分析して運転支援や故障予測などに活かしていく予定です。STWS で開発した HoloLens 2 のソリューションとの統合により、更なる効率化や省人化が期待できます」と構想を語り、浄水場やごみ焼却場などへの横展開も考えていることを明かします。

また橋詰氏は、「これまで私たちは、先人の知見に頼って社会をつくってきました。これからはそこだけではなく、データに基づいて判断し、持続可能な社会環境を構築していく。私たちはそんな時期に来ているのだと思います」と、これから求められるデータドリブンな社会づくりの大切さを語ります。

未来の社会インフラを共に支えるパートナーとして 

インタビューの最後に、「台風や大雨といった災害が増える中で、人が関与できない部分にデジタル技術が寄与することで、減災に繋がることが私たちに共通する思いです。日本マイクロソフトさんには、ぜひその思いに寄り添っていただき、さらに進化させていきたい」と日本マイクロソフトへの期待を語る橋詰氏。
日本マイクロソフトと協働で今回のプロジェクトへの道を拓いた谷本氏も、「これからポイントとなるのは、データだと思います。データと AI という観点でも日本マイクロソフトさんには全幅の信頼を置いていますので、社内全体の効率化とお客さまに届けるソリューション開発に、一緒に取り組んでいただきたい」と、さらなる協働を呼びかけます。

 私たち日本マイクロソフトとしても、クボタ環境エンジニアリング様、そしてクボタグループの皆様とともに社会インフラの維持向上に寄与し、持続可能な社会づくりに貢献していけることに喜びを感じ、皆様の改革をデジタルの視点から支えていく思いを、改めて強くいたしました。

 *1: 出典:「答申 河川機械設備のあり方について」(国土交通省 社会資本整備審議会)https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001493319.pdf

“私たちが長年培ってきた事業のノウハウや、従業員一人ひとりの知見や経験を次世代に伝承するために、デジタルは重要なツールだと考えています”

中河 浩一 氏, 代表取締役社長, クボタ環境エンジニアリング株式会社

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