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2024/03/29

Azure Synapse Analytics と Power BI でデータ活用基盤を確立、データソースの追加から提供まで 1 日で完了する体制を目指す

数多くのシステムをグローバルに活用しながら、合成繊維や化学製品のフロンティアを切り拓き続けている株式会社クラレ。同社ではこれらのシステムのデータを集約し提供するため、Azure Synapse Analytics を中核としたデータ活用基盤が構築されています。その採用理由として挙げられているのは、データ モデルの開発リードタイムを短縮できることや、きめ細かいアクセス コントロールが可能なこと、多様なデータソースに対応できること、データ カタログの追加も可能なことなど。また API でデータ モデルにアクセスできることや、マイクロソフト社の対応力、将来性の高さなども採用を後押しする結果となりました。現在、既に SAP ERP から抽出したデータを基にした 4 種類のデータ モデルを提供しており、約 700 名のユーザーがこれらを活用。今後もデータソースを拡大してユーザーを増やすと共に、その使い方も高度化していく計画です。

Kuraray Co Ltd

多様なシステムのデータを集約・提供するためデータ活用基盤の構築へ

当時の先端技術であった化学繊維レーヨンの事業化を目的として、1926 年に設立された株式会社クラレ (以下、クラレ)。「世のため人のため、他人 (ひと) のやれないことをやる」という使命の下、合成繊維や化学製品のフロンティアを切り拓いてきました。現在は樹脂/フィルムやケミカル/エラストマー/ゴム製品、繊維や人工皮革、環境関連製品など、数多くの製品を提供。これまで培ってきた技術を応用した新規事業も、積極的に展開しています。

もちろんこれらのビジネスは、数多くの IT システムによって支えられています。同社は 2000 年にホスト コンピューターから SAP ERP への全面切り替えを行い、当時の日本では数少ない成功事例として注目されましたが、この他にも CRM や品質管理システム、資材管理システムなどをグローバルで運用。また各部門が利用しているローカル システムも多岐にわたります。そこで大きな課題となったのが、数多くのシステムに分散しているデータを、どのようにして集中管理するかということでした。

「活用すべきデータを一か所にまとめて集中的に管理することは、企業にとって非常に重要です」と語るのは、クラレ DX-IT本部 IT統括部で部長を務める薮田寿夫 氏。その理由は、社員がデータを活用しやすくなるだけではなく、適切なアクセス権限を設定することで、セキュリティも担保しやすくなるからだと言います。

しかし「以前のデータ活用は、SAP ERP をはじめとする複数のシステムからデータを抽出し、スプレッド シートなどを使って手作業で加工を行う必要がありました」と言うのは、クラレ DX-IT本部 IT統括部 デジタルプラットフォームグループ リーダーの横山 豊 氏。SAP ERP の中にあるデータだけを活用する場合でも、多様な粒度のデータが存在するため、粒度を統合してほしいという要望も上がっていたと振り返ります。

このような問題を解決するため、2020 年 1 月にデータ活用基盤 (統合DBシステム) 構築に向けた検討を開始。「まず中核となる製品やサービスを 4 種類選定し、それらを他の製品と組み合わせた約 20 パターンの候補を列挙したうえで、検討を進めていきました」と、クラレ DX-IT本部 IT統括部 デジタルプラットフォームグループ兼企画開発グループ 主管の三家本 一穂 氏は語ります。「基本的にはクラウドをベースにすることが前提となりましたが、データ活用基盤を構築するには、データベースや ETL、分析ツールなど、複数の製品を組み合わせなければなりません。そのため比較検討の対象が、これだけ増えてしまったのです」。

その後、これらから 3 パターンへと絞り込み、さらに検討を進めていった結果、最有力候補となったのが Azure Synapse Analytics を中核としたシステム構成だったのです。

PoC で 4 つの評価項目を検証、マイクロソフト社の対応や将来性も採用を後押し

2020 年 7 月には Azure Synapse Analytics の PoC に着手。大きく 4 つの評価項目に関する検証が行われました。

第 1 は開発のリードタイム。データソースを選定してからユーザーに提供するまでのデータ モデル開発時間を、最終的に 1 日まで短縮することが目指されました。

 第 2 はアクセス コントロール。これをいかに簡単かつ確実に実現できるかが評価されました。

第 3 は多様なデータソースに対応でき、簡単にデータ抽出できること。データの取得方法はデータソースとなるシステムごとに異なっていますが、それらの方法を使って問題なくデータ抽出できることが、実際のシステムで確認されました。

そして第 4 が、データを集約できるだけではなく、データ カタログも追加できることです。

「これらの要件をクリアできることを PoC で確認したうえで、2021 年 4 月に Azure Synapse Analytics の採用を決めました。また、データ モデルの提供を BI ツールにだけではなく、API で他のシステムにも行えることや、問い合わせに対するマイクロソフト社の対応が迅速で的確なこと、今後の拡張性や将来性が高いと感じられたことも、採用を後押ししました。PoC では、さまざまな点をゼロから考えていきましたが、結果、極めて王道の組み合わせとなりました」 (三家本 氏)。

これと並行して、既に導入されていた Microsoft 365 の活用プロジェクト チームが、データ分析ツールとして Microsoft Power BI を利用することを決定。最終的に、Azure Synapse Analytics と Power BI を組み合わせたデータ活用および分析基盤が確立され、2020 年から段階的な社内リリースが始まりました。まずは日本国内へのリリースを行い、その後は欧州、米国、アジアへと順次展開。2021 年 7 月にはグローバル展開を完了しています。

このころは社外のパートナーと共にデータ モデルを作成していましたが、そのノウハウを社内に蓄積していき、2023 年 1 月にはデータ モデル作成の内製化も実現。クラレでは前述のように、データソースの追加からデータ モデルの提供まで「1 日で終える」ことを目指していますが、そのためには内製化が不可欠だと考えられたからです。

「ここで当初考えていた以上に重要なポイントとなったのが、必要な情報をタイムリーに入手できることです」と三家本 氏。マイクロソフトはマニュアルやノウハウ提供を多言語で行っていますが、日本語への翻訳は最先端の AI を活用した自動翻訳で即日実施されており、その文面も理解しやすいと指摘します。

データ活用基盤のシステム構成は図に示すとおり。データソースとなるシステムから、Azure Data Factory 経由で Azure Data Lake Storage (ADLS) Gen2 にデータを集約、Azure Data Factory でデータ項目の名寄せ (関連付け) などを行ったうえで、Azure Synapse Analytics 上のデータ モデルにまとめ上げられています。ユーザーは Power BI でこのデータ モデルにアクセス。ユーザー認証は Microsoft Entra ID (旧称 Azure Active Directory)、アクセス コントロールは Azure Synapse Analytics の権限テーブルで行われており、権限申請や認可ワークフローとも連携しています。

データ抽出と加工の負担を大幅に軽減、さらなる進化で今後も活用領域を拡大

現在は SAP ERP から抽出したデータを基に、「セールス (詳細な販売データ)」「インベントリ (製品、原材料などの在庫データ)」「パーチェス (購買に関するデータ)」「マンスリー セールス (販売データを月次で集約した予実管理データ)」という、4 種類のデータ モデルが提供されています。SAP ERP からどのようなデータ モデルを作るべきかに関しては、経営企画部門が各事業部からのニーズを取りまとめて決定。これをIT統括部 企画開発グループが、わずか 3 名のデータ エンジニアで開発および実装しています。

「データ モデルの開発方法は半日のトレーニングを 2 回受けた後、Azure Synapse Analytics に実際に触りながら覚えていきました」と言うのは、クラレ DX-IT本部 IT統括部 企画開発グループでデータモデル作成を担当する多々良 真弓美 氏。SQL の知識はある程度必要ではあるものの、開発作業のほとんどは GUI で進められるため、直感的な開発が可能だと語ります。「データ モデルそのものを 1 日で開発できる状況にはまだ至っていませんが、既に作成したデータ モデルの拡張であれば、最短 1 日で完了できるようになっています」。

これらのデータ モデルのユーザーは、各事業部門で業績管理や事業運営の意思決定を行っている、約 700 名の管理職や担当者。Power BI のダッシュボードは、IT統括部で作成したものもありますが、ほとんどはユーザー自身が作成していると言います。

このようなしくみを実現した結果、データ準備に関する負担は大幅に削減されました。「以前は毎日数十分程度の時間をデータ抽出および加工に費やしており、扱うのが機密性の高い業務データなので、注意力も必要でした。いまではその作業が不要になり、心理的なプレッシャーからも解放され、本来行うべき業務に集中できるようになったと聞いています」 (三家本 氏)。

今後はデータ抽出元を SAP ERP から他のシステムにも拡大し、ユーザーも増やしていく予定。またデータ カタログを組み込むために、Microsoft Purview の評価も進められています。

「Purview の機能で特に注目しているのが『Lineage (リネージュ)』です」と三家本 氏。これは、データセットのある項目がどのデータソース・項目から取得し、どう編集されたのかという「データの系図」を作る機能であり、これによってデータ パイプラインの可視化や、データの意味を機械的に説明することが容易になるからだと説明します。「データ活用のためにはデータの正しい理解が必要です。それで初めて、データを分析でき、データ活用側からデータ ソース側 (アプリ側) へのフィードバックが回り、改善のループが成り立ちます。しかし、膨大なデータを提供していくに際し、人力作成のドキュメントに頼ってデータの正しい理解をグローバルに提供することは非常に手間がかかります。機械的に意味を正確に説明できる機能として、とても期待しています」。

さらに、データ モデルを Power BI だけではなく、他のシステムに配信し、データのユースケースを広げていくことも考えられています。データ出力を REST API で行えるという Azure Synapse Analytics の特長は、ここで重要な役割を果たすことになると期待されています。

「このようなデータ活用基盤がさらに進化すれば、データ準備の作業時間短縮やセキュリティの確保だけではなく、データのリアルタイム監視や予防および予知への応用なども可能になるはずです」と薮田 氏。また将来は、AI を活用した高度なデータ活用を行うことも、視野に入っていると語ります。

「これからも必要に応じてグローバル アプリケーションが導入されることになると思いますが、これをデータ活用基盤とセットで提供することで、データを活用した改善ループが回しやすくなるはずです。今後もデータ提供の体制を強化しながら、データ活用領域を拡大していきたいと考えています」。

“活用すべきデータを一か所にまとめて集中的に管理することは、企業にとって非常に重要です。社員がデータを活用しやすくなるだけではなく、適切なアクセス権限を設定することで、セキュリティも担保しやすくなるからです”

薮田 寿夫 氏, DX-IT本部 IT統括部 部長, 株式会社クラレ

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