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2024/06/27

Azure OpenAI Service を採用し、自社独自の生成 AI システムをアジャイル開発。来るべき AI フレンドリーな世界を見越して社内文化を醸成する第一三共の DX 戦略

第一三共株式会社は、三共株式会社と第一製薬株式会社の経営統合により 2005 年に設立された、日本を拠点とするグローバル製薬企業です。同社では「世界中の人々の健康で豊かな生活に貢献する」というパーパス (存在意義) の実現のために「2030 年ビジョン」として「サステナブルな社会の発展に貢献する先進的グローバルヘルスケアカンパニー」をあるべき姿に定め、従来の創薬型企業からグローバルヘルスケアカンパニーへの変革を実現するための「第 5 期中期経営計画」を進めています。

「第 5 期中期経営計画においては、4 つの戦略の柱を定め、これらを成長ドライバーとして目標を達成すべく、全社一丸となってその取り組みを進めています」と語るのは、第一三共株式会社 DX 企画部 全社変革推進グループ 主査の朝生 祐介 氏。同社では、この 4 本の柱を支える重要基盤のひとつとして「DX 推進によるデータ駆動型経営の実現と先進デジタル技術による全社の変革」を掲げており、朝生氏がリードする先進デジタル技術チームは全社変革推進の視点から先進デジタル技術の探索・導入を推進しています。

Daiichi Sankyo

「ABCDX」による DX 推進を変革の軸とする第一三共

「当社が目指す DX は“ABCDX”で表され、この言葉には 4 つの変革 (X) が含まれます。AX は日常の業務活動の変革 (アクティビティ トランスフォーメーション)、BX は業務の進め方の変革 (ビジネス プロセス トランスフォーメーション)、CX は会社の文化の変革 (カルチャー トランスフォーメーション) を表します。これらを三位一体で推進することにより、第一三共の変革 (第一三共トランスフォーメーション、DX) を実現します。当社にとっての DX は、デジタル トランスフォーメーションであり、第一三共トランスフォーメーションでもあるのです。」(朝生氏)

先進デジタル技術チームでは、これまでも、全社レベルで画像 AI 技術や、翻訳 AI 技術をセキュアに活用出来る環境を整備し、また、ブロック チェーンや、量子コンピューティング技術の早期活用に向けた取り組みなどをリードしてきました。これらの先進的かつ積極的な施策を含む、同社の DX 推進に向けた一連の取り組みが高く評価され、2023 年には「DX 銘柄」を獲得。デジタル利活用においても業界をリードする存在になったと言えるでしょう。

自社独自の生成 AI システム「DS-GAI」開発プロジェクト発足

朝生氏らが AI に注目し始めたのは 2015 年頃のこと。ディープ ラーニング技術のビジネス活用への注目が高まった時期であり、特定の領域において人間の精度を超える AI 技術が登場してきたことに大きな可能性を感じていました。その頃から AI の動向を追いかけてきた朝生氏にとって、生成 AI のインパクトは甚大なものだったといいます。

「従来の AI は目的特化型であり、限られた領域の高度化には有用である一方、活用のハードルはとても高いものでした。それに対して、ChatGPT をはじめとする生成 AI は、膨大なデータや専門知識がなくても、誰でも AI を使える世界を実現してくれる。この先、企業が競争力を維持獲得するうえで欠かせない存在になると直感しました」(朝生氏)

第一三共社内においても生成 AI のビジネス活用に向けた機運が一気に高まり、活用に向けた検討が開始されました。しかし、AI の誤った出力によるミス リードや情報漏洩、第三者の著作権侵害、生成 AI に対する誤解や過信といった、解決しなければならない課題も同時に抱えていたといいます。

そこで同社ではまず、ChatGPT を含むオンライン サービスの利用指針を策定して全社に周知。そのうえで、生成 AI にまつわる種々の課題を抜本的に解決するためには、自社独自の生成 AI プラットフォームが不可欠であるという判断から、Microsoft の Azure OpenAI Service を活用した社内向け生成 AI システム「DS-GAI (ディーエス・ガイ/Daiichi Sankyo - Generative AI)」の開発に着手しました。

セキュリティの不安を払拭する、Azure OpenAI Service の信頼性

機微な情報を取り扱う機会が多い製薬会社として、同社には情報管理を徹底する文化が根付いていました。このため、DS-GAI の開発において解決すべき課題の中でも、セキュリティは特に重要度が高いものでした。「たとえ高度なセキュリティを技術的に実現できたとしても、ユーザー自身が“このシステムなら安心して使える”と確信出来なければ、社内では受け入れてもらえないだろうと考えました」(朝生氏)

せっかくの先進技術も、使われなければ意味がありません。そこで候補に上がったのは、開発プラットフォーム Azure OpenAI Service でした。世界有数のクラウド プラットフォーム管理実績を持つ Microsoft の製品であり、クラウド テナント内の閉域網にシステムを構築可能な Azure OpenAI Service であれば、ユーザーも安心して受け入れてくれるだろうと考えたそうです。

「Azure OpenAI Service にはコンテンツ フィルタリング システムや、セキュアに API 認証を行うことが出来る仕組みが標準実装されているので、安心して社内に展開できます。また Azure AI Search をはじめとするリソースやコンポーネント、その他あらゆるパーツが Azure 上には用意されているので、将来的な機能拡張に柔軟かつ迅速に対応できる点にも大きな魅力を感じました」(朝生氏)

システム構築を支援するパートナーとしてアバナードを選定

第一三共では Azure を IaaS として活用した経験が乏しかったため、社内には Azure インフラ構築に関わる十分なナレッジがありませんでした。そこでシステム構築パートナーとして選定したのが、Microsoftとアクセンチュアの合弁会社であるアバナードの日本法人で、Azure 上でのシステム構築経験を豊富に持つアバナード株式会社でした。

「蓄積された実績、Microsoft との関係性の強さ、そして弊社には無いナレッジを持っていること。すべての条件を満たすのはアバナードさん以外ありませんでした。また、“全社員約 9,300 人が使える社内生成 AI システムを、1 カ月でリリースしたい”というこちらの要望に対して、前向きな回答をいただけた点も、選定理由のひとつです」(朝生氏)

独自生成 AI システム開発の取引先選定に向けたロング リストを作成したのは 2023 年 5 月。その頃にはすでに ChatGPT は世界的に爆発的な普及を始めていました。競争優位を得るためにも、遅れは許されないと、迅速に実装を進めることが経営陣を含めたコンセンサスになっていたと朝生氏は話します。そして 2023 年 6 月上旬に、第一三共からアバナードへ開発パートナーの打診がなされ、その時に伝えられたリリース希望日は 9 月 1 日でした。
本プロジェクトにおいて開発のリードを務めたアバナード株式会社 ディレクターの御幡 辰馬 氏は、システム開発当時を振り返ります。「正直、PoC (検証) の期間も設けずに、プロジェクト開始からわずか 1 カ月で、独自生成 AI システムを 1 万人規模の従業員を対象に全社リリースするというプロジェクトは、前代未聞でした」(御幡氏)

その時期といえば、さまざまな企業で生成 AI ブームが起きていた頃であり、アバナード株式会社 営業本部 マネジャーの松野 克彦 氏は、第一三共からの依頼を引き受けた背景を以下のように語ります。「第一三共さまのプロジェクトは、非常に高いスキルとデリバリー力を求められるものでしたが、当社のグローバルも含めたナレッジや技術力を決することで、これを達成できれば、私どもとしても大きな自信を得られるだろう、と感じました。そして、ぜひやらせていただきたいとお話させていただきました」(松野氏)

「リスクは大きかったですが、勝算はありました。第一三共さまからご相談があった時点で、当社は既にこれまでの経験を基にした共通の AI プラットフォームの開発を進めていました。また、Azure活用時の検討事項が網羅されたフレームワークを Microsoft の CAF (Cloud Adoption Framework) も基にして独自開発しており、これらのアセットを活用し、必要最低限の開発に抑えることができれば納期に間に合うと判断し、その手法を提案させていただきました」(御幡氏)

迅速な開発により、1ヶ月で全社員に向けた本番リリースを実現

こうして始まった DS–GAI 開発プロジェクトは、フェーズを分けて進められました。2023年 8 月 1 日にキックオフしたフェーズ 1 では、まず 9 月 1 日の全社員を対象とした本番リリースを目指しました。続くフェーズ 2 は、ユーザーからのフィードバックをもとにした改善や、より高度な機能の実装を目的とした4 ヶ月間のプロジェクトでした。

フェーズ 1 についてアバナードの御幡氏は、「当社が持っていた AI プラットフォームのアセットは、基本的には PoC 用だったため、本番環境に近づけようとするといくつかの課題が生じた」と振り返ります。

「ひとつめは Azure のインフラストラクチャー内での負荷分散。Azure OpenAI Service のある時間内におけるトークンの処理数といった制約に対して、いかに負荷を分散させて使えるようにするか。ふたつめは、管理機能の改善。みっつめは、すでにある第一三共さまの認証プラットフォームのポリシーに、どのように DS–GAI を適用させるか。これらの課題を実質 1 カ月弱で解決する必要がありました」(御幡氏)

開発チームは、Microsoft のアーキテクチャ担当者やアバナード社内の有識者にも相談しながら、ひとつひとつ課題をクリアして、プロジェクト キックオフ 1 カ月後の 9 月 1 日に国内全社員向けリリースを達成しました。

アジャイル開発により高次機能を次々と実装。周知活動も同時に進める

フェーズ 2 は、アジャイル開発で進められました。「生成 AI の世界では、時時刻刻とアップデートが行われています。従来のウォーターフォール型の開発手法では、その進化についていけないと考えました」(朝生氏)

「出来たものからどんどん出していく」開発体制を整え、毎月のようにアップデートが行われていきました。リリース当初は AI との対話を行うためのシンプルなインターフェースだったものを、ユーザーの声をもとにして、1 カ月後の 10 月には “第一三共仕様”にリニューアル。さらに 11 月には、リリースされたばかりの GPT–4 を実装し、一気に精度を高めました。そして 12 月には社内ドキュメントをアップロードして解析できる機能を実装。2024 年 1 月には画像生成機能を追加してマルチモーダル対応を実現し、2 月には社内データセット解析機能と Code Interpreter 機能の実装を完了。第一三共固有の事象であっても正しく回答できるようにし、Python コードの内部実行を可能とすることで、同社の強みであるサイエンス & テクノロジー分野でも利用できるようバージョンアップしました。

「当社がリクエストしたとはいえ、毎月、どんどん機能が追加されていくスピード感には驚きました」と語るのは、第一三共株式会社 DX 企画部 全社変革推進グループ 主査の金田 順花 氏です。

金田氏は、DS-GAI プロジェクトにおける機能の周知や活用サポートのリードを務めています。DS-GAI のリリースにあたり、まず金田氏は、講演会で有識者に生成 AI の意義を語ってもらい、社員の関心を引き付けました。リリース後には、DS-GAI の使い方講習や活用アイデア創出ワークショップを開催。さらに、より業務に即した使い方に落とし込むために、社内向けポータルサイト「DS-GAI Hub」を整備、先進的な取り組み事例を閲覧できるようにしました。

「先駆的な活用事例が増えてきた段階で社内セミナーを開催し、DS-GAI を使いこなしている社員に登壇してもらい、ノウハウを共有しました。すると、“うちの部門ではどのように使えるだろうか”といった問い合わせも増え、今は部門ごとの講習活動も活発化しています」(金田氏)

こうした周知・普及活動の結果、グループ全体の半数以上の社員が一度は DS-GAI に触れた経験を持ち、600 人程度が毎日コンスタントに利活用する状況をつくり出せています。主な活用方法としては、アイデアの壁打ちや、文章の作成、校正、英文の自動生成など。全社アンケートの結果、回答者の 8 割以上が DS-GAI によって業務の生産性と精度が向上したと回答しているそうです。

「嬉しいのは、“新たなスキルを身につけられた”という社員が出てきたことです。プログラミングを知らない社員がアプリケーションのカスタマイズをしたり、絵心があるわけではない社員がイラストを生成したり。こうした事例に表れているように、DS-GAI の導入は少なからず、当社の ABCDX 施策に貢献できていると思っています」(金田氏)

一方で、DS-GAI の多様な機能を使いこなせていない従業員もいる状況は改善の余地があると金田氏。アジャイル開発で矢継ぎ早にバージョンアップを行った結果、社員のなかにはそれを十分にキャッチアップ出来ていない層が生まれており、そこへのアプローチがこれからの課題だと考えているそうです。

「今後は、部門ごとにしっかりとヒアリングを行い、部門に適した使い方を提案したいと思っています。今後実装する新たな機能やモデルも、実際の業務という視点から使い方を分析し、啓蒙していく必要があると考えています」(金田氏)

さらに大きな期待がかかる DS-GAI。Copilot サービスの PoC も進む

今、第一三共は DS-GAI プロジェクトのフェーズ 3 を控えている状況です。今後も継続的に独自性の高い機能の実装を進め、全社的な生成 AI 活用の高度化を図る計画があり、まだまだやるべきことがあると朝生氏は語ります。

「Azure AI Studio を活用して様々な LLM (Large Language Models) を、目的に合わせて利用出来るよう基盤を拡充したいですし、社内データセット解析機能についても更に使いやすく改善する余地があります。各専門領域での積極的な生成 AI 活用を促し、全社的な DX 加速化を実現するためにも、社外データベースへの接続や、社内業務システムとの連携についても検討を進めたい」(朝生氏)

さらに、今後の DS-GAI の展開にかける大きな期待についても以下のように述べています。
「リリースして終わりではなく、改善を繰り返しながら全社的な DX 推進の原動力にしていきたい」(朝生氏)

DS-GAI に加えて、第一三共では、Copilot for Microsoft 365 の導入に向けた PoC にも取り組んでいます。

「統合されたインターフェースのなかでシームレスに生成 AI が活用できるメリットは非常に大きいと考えています。なかでも Copilot チャットは、Microsoft365 のテナント内の広範な情報に基づき新たな知見を瞬時に生成できるので、全社的な生産性向上に大きく寄与するものと期待しています」(朝生氏)

「生成 AI は今後、どんな場面でも私たちの業務や生活に関わってくるものになると考えています。Copilot を使えるようになるというよりも、生成 AI を自然に使いこなせるスキルやマインドの醸成に重点を置いて、このトライアルを評価していきたいと考えています」(金田氏)

将来を見据えて、AI - Ready な状況をつくるための布石を打つ

「数年後には、生成 AI を使うのが当たり前の世界がやってくると思っています。だからこそ、どんな状況にも対応できるよう多角的な取り組みを進め、生成 AI - Ready な状況をつくっておく必要があります。」(朝生氏)

金田氏もその言葉にうなずきながら、生成 AI への期待を口にしました。「生成 AI は、アプリケーションだけではなく、インフラやミドルウェアといったさまざまな部分に活用されるようになると思います。Microsoft さんには、ぜひそういったソリューションを拡充していただきたいです」(金田氏)

続けて、朝生氏も Microsoft 製品の一層の進化への期待として次のように述べています。「Microsoft さんには、期待以上のものを提供頂いていると感じています。エンタープライズ レベルの厳しい要求に応えられる世界トップレベルのクラウド AI デベロッパーとして、今後も継続的に機能を拡充し、ご支援いただきたいと思います」(朝生氏)

アバナード御幡氏は「他のパブリック クラウドに負けないでほしいですね。Azure をご選択いただいたお客さまのプロジェクトは、私たちが責任をもってお手伝いします」と、頼もしい言葉を繋ぎました。

企業としての成長基盤に DX 推進を位置付け、常に時代の先を見ながら、自社に最適なソリューションを追求し続ける第一三共の皆さま。日本マイクロソフトはこれからも、世界のヘルスケア産業を支える皆さまに最適なご支援を、パートナーと協働で提供してまいります。

“Azure OpenAI Service にはコンテンツフィルタリングシステムや、セキュアに API 認証を行うことが出来る仕組みが標準実装されているので、安心して社内に展開できます。また Azure AI Search をはじめとするリソースやコンポーネント、その他あらゆるパーツが Azure 上には用意されているので、将来的な機能拡張に柔軟かつ迅速に対応できる点にも大きな魅力を感じました”

朝生 祐介 氏, DX 企画部 全社変革推進グループ 主査, 第一三共株式会社

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