
Microsoft AI Tour オープニング&エンディング基調講演レポート 〜さあ、変革をはじめよう。ビジョンをインパクトに変える、AI 新時代の幕開け〜
2025 年 3 月 27 日、昨年に続き、Microsoft AI Tour が東京ビッグサイトで開催されました。この 1 年を振り返っても AI 技術の進化はめざましく、本イベントでも多くの先進事例が紹介されました。まさに「ビジョンをインパクトに変える。」というテーマどおり、AI によるイノベーションがあらゆる業界で成果をあげていることが実感できるイベントとなりました。
基調講演にはマイクロソフト コーポレーション会長 兼 CEO のサティア・ナデラと日本マイクロソフト株式会社 代表取締役社長の津坂 美樹が登壇。マイクロソフトが見据える AI 時代の変革について発表を行いました。
また会場には数多くのパートナー企業のブースやマイクロソフトの産業別、ソリューション別ブース(Connection Hub)が設置され、2 ヶ 所の Theater セッションでは切れ目なく多様なセッションが展開。マイクロソフトの生誕 50 周年を記念したフォトパネルが設置されスタンプラリーも開催されるなど、終始熱気に包まれていました。



本稿では、AI Tour のオープニングを飾った基調講演と、最後を締めくくったクロージング基調講演での発表内容のポイントをまとめてご紹介いたします。
オープニング基調講演
「AI 変革の時代をリードする」

AI 技術を進化させる 3 つのブレイクスルー
基調講演では、マイクロソフト コーポレーション会長 兼 CEO のサティア・ナデラと、日本マイクロソフト株式会社 代表取締役社長の津坂 美樹が登壇。創立 50 周年を迎えたマイクロソフトが AI 時代に掲げるビジョンと、具体的な施策について語りました。
最初に登壇したサティアは、AI の進化スピードは「これまでのテクノロジーとは比較にならないほど速い」と語り、さらにコスト面での改善も急速に進んでいることを示し、AI 市場が持つ可能性の大きさを改めて強調。今後爆発的に需要が増えるであろう AI をさらに進化させる「3 つのブレイクスルー」について説明しました。
- Universal Interface: マルチモーダルモデルにより自然に AI と会話を実現。
- Reasoning & Planning: AI による高度な推論と予測能力。
- Memory & Context: AI による長期的な記憶とコンテキスト理解。
サティアは、これらの機能が組み合わさることで「agentic world」の実現につながると説明。「私たちは、個人、組織、ビジネスプロセス、組織を跨いだ活動、あらゆる場面に対応する AI エージェントを構築しています」と、AI エージェント時代の幕開けを示唆しました。

10 年間の DX の成果はすべて AI によって変革される
続いて、サティアはAIエージェントによって DX の成果が変革される見通しを示し、マイクロソフトが注力する3つのプラットフォームを紹介しました。
- Copilot: Teams や Word などに搭載されている AI の UI。
- Copilot & AI stack: Azure ハイパフォーマンスコンピューティング( HPC )を導入し、日本企業が次世代の AI 活用に必要なリソースを享受できるようにする。
- Copilot Devices: エッジでの AI 処理能力の向上によるデバイス側での可能性の広がり。
また、AIの普及に伴う安全性についても触れ、「Secure Future Initiative」「Privacy Principles」「Responsible AI Principles」の3つの原則を製品に組み込むことの重要性を強調しました
最後に、カリー・オーガストが新機能のデモンストレーションを行い、Researcher agent と Analyst agent の活用方法を説明しました。

信頼の構築と AI の未来に向けた取り組み
ここで、AI の普及に伴う重要な課題として、安全性についての話題が展開されました。
サティアは「 Secure Future Initiative 」「 Privacy Principles 」「 Responsible AI Principles 」の 3 つの原則を製品に組み込むことの重要性を強調。マイクロソフトではコンフィデンシャル コンピューティングの構築や、ハルシネーションのチェック機能などの開発を進めていることを紹介しました。
そして「Security Copilot Agent」により、フィッシングのトリアージや脅威のアラートを立てられるようになり、セキュリティ ポリシーのチェックもできるようになることを説明。パートナー企業との連携アプローチを取れる点も強調されました。
講演の最後にサティアは、「AI を超える次の革新」として量子コンピューティングの進展について語り、「私たちのミッションはシンプルです。地球上のあらゆる個人とあらゆる組織がより多くのことを達成することです。50 年前からこれに取り組んできました」と改めてマイクロソフトのミッションを強調。日本市場への期待と感謝のメッセージで締めくくりました。
日本の AI トップランナーによるトーク セッション

続いて、日本マイクロソフト株式会社 代表取締役社長の津坂美樹が登壇し、先進的な生成 AI 活用を進めている企業・自治体のパネリストとディスカッションを行いました。
冒頭では、今後グローバル企業にとってのゲーム チェンジャーとなり得る Teams 通訳エージェントや日本マイクロソフトにおける Copilot Studio を活用した業務自動化の事例をデモ動画により紹介、AI の可能性を端的に示し、「 AI を業務で使われている皆さまに生の声」をお届けすべく、次のパネリストを招き入れました。

- 第一生命株式会社 代表取締役社長 隅野 俊亮氏
同社では過去 3 年間で約 150 件の AI 開発案件に取り組み、そのうち生成 AI に関するものは 50 件に及ぶ。具体例として「デジタルバディ」と呼ばれる AI アバターを紹介。顧客からの質問への対応、対話の記録・要約、感情分析など、営業職員の業務をサポートするシステムであり、来年 4 月に全国展開する予定。「AI がさまざまな分野で活躍することで際立たせられる、人にしか提供できない価値を大事にしたい」と話した。

- ソフトバンク株式会社 代表取締役執行役員 兼 CEO 宮川 潤一氏(ビデオ登壇)・専務執行役員 藤長 国浩氏
現在同社では Microsoft 365 Copilot が約 2 万人、GitHub Copilot が約 8000 人に利用されていると説明。顧客ごとに異なる仕様書を理解する AI エージェントの開発や、難解な提案依頼書の要約による業務効率化などの実践例を紹介。

- 東京都 副知事 宮坂 学氏
AI を活用した都民の声の大規模収集・分析事例を紹介。「 2 万件以上集まった意見を AI で分類し、業務を効率化。プロンプトを公開することで透明性を確保している」と公共機関ならではの活用方法を紹介。

津坂は最後に、日本のデータセンターへの 4400 億円の投資やリスキリング支援、A I 研究拠点「 Microsoft Research Asia-Tokyo 」の設立、さらに AI とセキュリティ人材教育のための「 Cyber Smart AI プログラム」の提供開始といった取り組みを紹介。「皆さまの Copilot として、皆さまの成長をサポートし、日本の成長に貢献し続けたい」と語って、基調講演を締めくくりました。

基調講演や当日の発表内容詳細については、以下の関連ブログで詳細をご紹介、オンデマンド動画にてご視聴いただけます。
Microsoft AI Tour Tokyoに関する紹介記事
オープニング基調講演のオンデマンド視聴はこちら
クロージング基調講演
「 GitHub Copilot の新時代:エージェントによる変革」

AI Tour を締めくくるクロージング基調講演には、GitHub の CEO、トーマス・ドムゲが登壇。GitHub Copilot の進化とソフトウェア開発の未来について熱く語りました。
ドムゲは冒頭で、我々は「 AI の登場」という転換点を迎えており、それは PC やインターネット、クラウドの登場と同じく歴史的なものであり、「ソフトウェア開発者にとって、過去 100 年より大きな変化が起きることになるでしょう」と語りました。
続けて、ChatGPT 3.0 の登場はプログラミングに大きな変革をもたらし、2020 年に誕生した GitHub Copilot は、さまざまなプログラミング言語で適切なコードを書く能力を飛躍的に向上させ、開発者たちに満足感を与えたとドムゲ。
その後、GitHub には Copilot Chat が追加され、自然言語によるコードの説明や質問への回答、多言語対応などの機能が拡張されました。そして現在、GitHub Copilot はソフトウェア開発のすべての領域をカバーし、複数の大規模言語モデルに対応しています。
ドムゲいわく、日本では 60 % の開発者がすでに AI を業務に採用しており、これは他の分野よりも 15 % 多いとのこと。すでに多くの日本企業で 355 万人もの技術者が GitHub Copilot を使って生産性を向上させているとし、開発者たちが AI によって大きな力を得ていることを強調しました。
まもなく始まる AI エージェントの時代

「 2025 年はソフトウェア・エンジニアリング・エージェント( SWE Agent )の年になる」ドムゲは予測します。そして「 Copilot は単なる “ペア” プログラマーから進化し、“ピア” プログラマーとしてチームの一員になる」と語り、GitHub Copilot の Agent Mode について 2 本のデモ動画を披露しました。
最初のデモ動画では、SWE Agent に日本語で作業を依頼する様子が紹介されました。Agent Mode では、Copilot がワーク スペース全体からコンテキストを収集し、変更を提案、ユーザーの承認を得るための検証を行います。それにより迅速かつ正確なコード変更が可能となります。また、問題が発生した場合には修正のために反復的な処理を行います。
次のデモ動画では、GitHub Copilot によるコード レビュー機能が紹介されました。Agent Mode を使うことで、開発者が基本的なレビューを Agent に任せることができ、小さなエラーの発見に時間をかけることなく、同僚によるレビューを待つ間に改善に着手できるようになります。
続いてドムゲは、GitHub Copilot に搭載された脆弱性検出と修復機能を紹介しました。これにより、開発者がセキュリティ脆弱性を修正するまでの時間が 3 倍短縮されています。
さらに次のステップとして、完全な自律型 SWE Agent「 Project Padawan 」が紹介。割り当てられたイシューに関する作業を自律的にバック グラウンドで進行、その間に開発者は他の作業に取り掛かれる様子を、「スター・ウォーズで活躍するジェダイの弟子」という例えを交えながら語りました。
また、 Project Padawan は進捗状況を追跡可能にし、テストの作成と実行も行うことができるため、人間からのフィードバックに対応し、満足するまで作業を継続する機能を備えていることも述べました。
「ソフトウェア開発者の夢は、常にアイデアを持ち、そのアイデアを実装するために実行に要する時間を短縮すること。そして、そのアプリをスマートで魅力的にすること」とドムゲ。Project Padawan を使えば、自然言語で記述するだけで迅速かつスマートに自分のアイデアを実装することができるのです。
未来を変えるのは、いつだって自分。さあ、変革を始めよう

SWE Agent を機能させるには、高い計算能力とそれを実行できるクラウド環境が不可欠です。ドムゲは、「 No Cloud=No Agent 」と述べ、クラウドへの移行の重要性を強調しました。
そして、AI の採用に及び腰な企業に対して、「AI を導入している企業は、すでに未来に向かって全力で走り出しており、高い生産性を実現している」と指摘。AI 時代に乗り遅れることは、大きな差につながることを示唆します。
最後に、日本の企業が 2025 年までに「デジタルの崖の危機」に直面する可能性を示唆しつつも、「日本人は自分たちの技術に誇りを持っています。開発者の皆さんは高い壁を乗り越えられるはず」とエールを送ったドムゲ。
「私たちはまだ AI 時代の始まりに立っているにすぎません。AI がすべての個人、すべての組織、すべての企業にこの時代への参加の機会を提供しています。さあ、変革を始めましょう」と語りかけ、アニメ「 ONE PIECE 」の「未来を変えるのは、いつだって自分だ」という言葉を引用して、クロージング セッションを締めくくりました。