高校教育の一歩先を。 IT の導入と実践・運用の最適解を探る
導入事例
兵庫県教育委員会
高校生の「学びをとめない」ために
兵庫県教育委員会が Surface Go 2 を大規模導入
2020 年 6 月、兵庫県教育委員会が、県立高校向けにマイクロソフトの Surface Go 2 を 16,000 台導入すると同時に、全生徒分の Office 365 などの ライセンスを展開することを発表した。GIGA スクール構想の枠にはまらない「高校」における大規模な ICT 教育環境整備に踏み切った理由、また臨時休業の事態が起こる以前から入念に進めてきた導入の経緯について、同県教育委員会に話を聞いた。
未来を切り拓く高校生のために
行政が主導して ICT 環境を整備
兵庫県教育委員会事務局
教育企画課長
髙橋伸之 氏
兵庫県が掲げる教育施策に関する基本的な計画「ひょうご教育創造プラン」は、2019 年度から 5 年間を対象に進められ、現在、第 3 期期間中。基本理念に「兵庫が育む こころ豊かで自立する人づくり」が掲げられている。
「プランでは、“未来への道を切り拓く力の育成”をテーマに掲げています。Society5.0 時代ともいわれる、ICT 技術が発達しグローバル化が進む世の中では、ICT を駆使し情報を取捨選択し、自ら課題を立てて様々な人と協動して解決を図る力が求められています。こうした力の育成のために、ICT 環境は必須と考えています」と、兵庫県教育委員会で県立学校の ICT 化を推進している髙橋伸之氏は語る。
同プランは小中学校、高校、大学、社会教育などを対象にしているが、今回 Surface Go 2 の導入を決めたのは県立高校。高校への導入を決めた背景には特別な事情があった。
「現在、義務教育段階の学校では文科省の GIGA スクール構想による ICT 化が進められており、一方で、大学は PC の必携化が進んでいます。しかし高校は、国庫補助があまりない段階なので、県が率先して取り組みを進めなければならない状況でした」
そこで兵庫県では、県立学校の ICT 化を目的とした予算を組み、計画的に整備を行うことを決めた。
学びを止めない必然性の高まりと
タブレット端末の貸与、学習支援アプリの導入
兵庫県教育委員会事務局
教育企画課
主任指導主事兼教育情報班長
波部新 氏
新型コロナウイルス感染症の感染拡大による臨時休業は、そうした最中に発生した。「今回の臨時休業が決まった際、兵庫県では、早くから対応に動きました。教育現場における雰囲気として、学習を止めるわけにはいかない、しかし ICT を活用するのであれば生徒全員が使えなければ踏み出しにくい、という思いがあるように感じました」と髙橋氏。
兵庫県に緊急事態宣言が出された日の翌日には、家庭にインターネット環境のない生徒数を調査し、連休前の 4 月 20 日には LTE 通信機能付きのタブレット端末の貸与を開始。スタディサプリや Classi といった学習支援アプリも 4 月中には導入した。その利用率は、県立高校で 9 割以上に達するという。
現場の動きも俊敏だった。突然、遠隔授業を行わざるを得なくなった教員に対しても、動画の作成方法や注意点を研修で伝えるなど、先回りした対策を取った。
「遠隔で行った研修にはすべての県立学校が参加してくれて、しかも、画面上の様子を見ると、代表者 1 人ではなく複数人が参加する学校が多く、現場の機運の高まりを強く感じました。その勢いを止めないように 4 月にも補正予算を組んで、環境整備に努めてきました」と、髙橋氏と共に対応に当たった波部新氏は言う。
Surface Go 2 + Office365
教育現場ならではの親和性の高さ
兵庫県教育委員会では計画していたプラン通り 9 月の本格稼働に向けて、16,000 台の Surface Go 2 を高校に導入中だ。16,000 台とは、兵庫県の全県立高校の 1 学年 1 学級分に相当する。
「どこかの学級で必ず 1 コマは ICT を活用した授業ができるようにという計算です」と髙橋氏。兵庫県教育委員会が重要だと考えるいくつかの点で合致していたことが Surface Go 2 導入の決め手となった。
「まず、単なるタブレットではなく学習のための機材なので、2 in 1 であることを重視しました。一方で、生徒が、大学や社会に出たときのことを考えると、キーボード付きの PC に慣れておくことは必要ですが、生徒が配られた端末に抵抗感を持つようなことがあっては本末転倒です。そのため、生徒が普段使い慣れている操作感に近く、持ち運びやすい軽さのデバイスであることは必須条件でした。そして、現場の先生や生徒が慣れ親しんでいて、かつアプリケーションの多様性に対応できる OS を搭載していることも重要でした。何より大切なことは、急速に環境の整備を進める上で、生徒も先生もアレルギー反応を起こさないこと。入札の結果、Surface Go 2 を導入することになったわけですが、ICT を活用した教育活動がスムーズに現場へ浸透していくことを期待しています。」
兵庫県教育委員会が導入した端末
た、ハードウエアの導入に合わせ、全生徒に Office 365 や他の教育クラウドサービスのアカウントを配布する。
「クラウドサービスを活用すれば、双方向でのやりとりが容易で、生徒同士の共同作業がしやすくなりますし、学校側も学習状況を把握しやすいというメリットがあります。Office 365 といった教育クラウドサービスは、休校せざるを得ない状況でも学校と家庭をつなぎ、生徒たちが常に学びの環境へアクセスできるツール。学習指導要領にある“主体的・対話的で深い学び”の実現にも効果的だと考えています。また、高校生のうちに Word や Excel 、PowerPoint に慣れておくことは、大学や社会に出たときのことを考えても大切であると考えました。」
「活用」こそ、ICT 定着の課題
人員確保と研修の継続へ努力
兵庫県教育委員会は本年度を「県立学校の ICT 化を大きく前進させる年になる」と見ている。その前進を止めないため、今後も環境の拡充を図る。
「『県立学校学びのイノベーション推進事業』として、端末整備だけでなく、学校内に高速大容量の無線通信環境を整え、大型提示装置も設置し、9 月からの利用開始を目指しています。さらに、学校と家庭をつなぐ取り組みとしては、今後多くの生徒がネットワークを使用しても、快適につながるための回線増設、操作性の高い Web 会議アプリ、ヘッドセットや Web カメラの導入を進め、第 2 波などの事態にも備えたいと考えています」
兵庫県が目指す ICT 教育環境整備・活用のモデル
また、ICT 技術者等を配置するほか、人材育成にも力を入れる。
「各校の ICT 活用を牽引する中心的存在となってくれる教員を『HYOGO スクールエバンジェリスト』と銘打ち、まずは県立学校で 30 人程度、養成したいと考えています」
髙橋氏は「学校でも家庭でも、教育現場で ICT を使わないという選択肢はない」と強調する。
それが、兵庫の子どもたちが“未来への道を切り拓く力”を備えるために必須の条件だからだ。県、教育委員会、学校が一体となった兵庫県の取り組みは、これからも続いていく。
2 in 1 の実用性と直感的操作
「新しい文房具」として活躍する Surface Go 2
Surface Go 2 は、タッチの精度、ペンの描き心地、筐体サイズやキーボードの打鍵感に至るまで、子どもたちが自分たちの溢れる想像力を直感的に障害なく表現できる「新しい文房具」になるよう趣向を凝らして開発された。
本体はペットボトル 1 本分とほぼ変わらない約 544 g という軽さで、荷物の多い高校生が持ち帰り学習で活用する際にも負担が少ない。また、別売のタイプカバー(キーボード)を装着することで、2 in 1 のモバイル PC として利用でき、ディスプレイ上部には高性能な 2 つのマイクとインカメラが搭載されており、オンライン学習においても互いの声と映像をクリアに届けることができる。カメラは背面にも搭載されており、スマホ感覚で撮影ができるため、校外学習や部活動などにおける記録といった用途にも適している。今後広がる活用を見越して、プロセッサーに「Intel Pentium Gold」や「Intel Core-m3」を搭載するなど、基本性能も十分だ。
子どもたちのあふれる想像力を直感的に表現できるよう、様々なユーザーへのヒアリングやテストを繰り返し、妥協することなく限界までこだわり抜いた結果創られた理想のデバイスが、Surface Go 2 である。
※この記事は教育と ICT Online Special に掲載したものを転載したものです