パナソニック ソリューションテクノロジー株式会社は、多くの現場を持つパナソニックグループで培った現場知見と、創業以来培って来た IT/OT のデジタルの力で、人をカイホウ※1 することをパーパスに事業を展開しています。同社では自らの DX を実現するため、基幹システムの刷新が進められています。そこで目指されているのは、複数アプリケーションへの多重入力の解消と、業務データのリアルタイムな提供による、企業風土の変革と企業体質の強化。そのために採用されたのが、Microsoft Dynamics 365 と Microsoft Power Platform です。まず複数のアプリケーションで構成されていた商談管理と販売管理を、Dynamics 365 によって統合。Microsoft Power Automate による一部処理の自動化や、Microsoft Power BI による経営ダッシュボードの提供も実現しています。これによって、以前の基幹システムが抱えていた問題を根本から解消すると共に、全社員が同じ目線で経営を議論できる企業風土を醸成。今後はこの経験を生かし、Dynamics 365 関連ビジネスを事業の新たな柱にしていく計画です。
※1 カイホウ:人を作業から「解放」し、人の可能性を「解き放つ」ことの二重の意味をもたせた言葉。
DX の本質は見える化で会社の風土を変えること、しかし既存システムでは実現が困難
業務現場にいる人々の力をカイホウし、新たな競争力につなげていく。このような想いから、デジタルソリューションを提供し続けているのが、パナソニック ソリューションテクノロジー株式会社 (以下、パナソニック ソリューションテクノロジー) です。同社は 1988 年に創業し、まだ ICT という言葉もなかったころから、IT インフラの構築やソフトウェアの自社開発を事業として展開。近年ではクラウドやセキュリティ、AI ソリューションへも事業領域を拡大し、顧客の多方面にわたる問題解決に貢献しています。
そのパナソニック ソリューションテクノロジーが自らの DX のために進めつつあるのが、自社基幹システムの刷新です。
「DX 推進の本質は、会社の風土をいかにして変えていくかにあります」と語るのは、同社 AI&ICTソリューション事業部門で執行役員を務める赤江 章 氏。業務の無駄をなくしていくことはもちろんのこと、見える化も実現し、現場で発生しているさまざまな問題に対して、会社全体としてフォローしていく風土を確立することが重要なのだと言います。
しかし、以前の業務システムではそれが難しかったと振り返るのは、同社 DX推進部で部長を務める諸岡 信之 氏。必要に応じてシステムを追加していくといったことを長年にわたって実施してきた結果、ユーザーによるデータ入力が二重、三重に発生するようになり、それらの整合性を維持し続けることも困難になっていたのです。そのシステムの全体像について、次のように説明します。
「まず売上予測を行うため、2010 年に商談管理システムを導入し、2014 年には全社業務の中核となる販売管理として、他社の統合型国産 ERP パッケージを導入しました。その後、SI 案件などのプロジェクト管理を行うためのシステムを 2016 年に導入。案件ごとにリスク管理を行うシステムや、案件を統合管理する『件名統合システム』、経営数値管理を行うシステムなども導入し、これら複数のアプリケーションで構成されたものが基幹システム=全社基盤となっていたのです」。
その外側でも、保守業務を管理するためのシステムや、顧客データを管理するための外部マスター、BI ツールによる経営情報の可視化などを運用。実際に経営分析する際には複数のシステムからデータをかき集め、数日かけて資料を作成する必要があったと言います。
「データレコードのキー項目はシステムごとに存在し、これらの紐付けは手動で行われていました」と言うのは、同社 DX推進部 DX推進運用課で課長を務める阿久津 義明 氏。前述の「件名統合システム」はこの問題を解決するために自社で開発したものでしたが、運用ルールが厳格に守られないといった理由から、十分な効果を発揮できなかったと振り返ります。
4 つの目標を掲げて複数製品を検討し、Dynamics 365 の採用を決定
これらの問題を根本から解決するため、2020 年 6 月に始まったのが、次世代基幹システムの構築に向けた検討です。その内容について「以下の 4 つの目標を掲げ、製品検討を進めることになりました」と語るのは、同社 DX推進部 DX推進企画課で課長を務める井門 美江子 氏です。
(1) 全社最適化を目指し、業務の標準化を見据えた業務改革を推進できること
(2) 新しい働き方を前提としたプロセス改革を推進できること
(3) 複数システムに分散していたデータを統合し、よりリアルタイムに近いデータ活用によって、経営体質強化に貢献できること
(4) 自社導入と経験活用を通じ、新たなビジネス展開/拡大を実現できること
検討の俎上に載せられた製品は合計 6 種類。その結果、これらすべての目標をクリアできるものとして選ばれたのが、Dynamics 365 でした。
「既に導入されていた各システムの機能をどのように実現できるか、といった機能面での検討はもちろんですが、それ以上に重視したのが多重入力をなくせるかどうかでした。Dynamics 365 には、商談管理の機能を担う Sales のほか、債権および債務を管理する Finance、受発注/入出荷/売上を管理する Supply Chain Management (SCM)、プロジェクト管理を行う Project Operations (PO) など、多岐にわたるモジュールがそろっています。さらに Sales と SCM/Finance との間で、リアルタイムにデータを同期できる Dual-write (二重書き込み) の機能もあり、これなら多重入力を解消できると確信しました」。
これに加え「他のマイクロソフト製品との親和性が高いことも評価しました」と言うのは、阿久津 氏。日常業務で利用している Microsoft Office との親和性はもちろんのこと、Power BI や Power Automate といった Power Platform との親和性も重視したと語ります。「これらと連携することで、リアルタイム性の高い経営ダッシュボードの実現や、業務処理の自動化なども可能になります。人手を要する部分をなるべく減らすことで、新しい働き方や経営体質強化の実現につながると考えました」。
2021 年 1 月には Dynamics 365 の採用を正式に決定し、システム構築に着手。2022 年 4 月に、第一次本番稼働がスタートします。そのシステム構成は図 1 に示すとおりです。
まず、以前は他社の ERP パッケージが担っていた販売管理と、商談管理システム機能を、Dynamics 365 の Sales、SCM、Finance の組み合わせで実現。案件管理の一部の処理プロセスは、Power Automate での効率化を取り組み中です。またプロジェクト管理用に PO の導入も進められており、これは 2023 年 2 月にリリースされる予定。経営データの可視化には Power BI が活用されています。
企業風土の変革に大きく貢献、社内の「ファインプレー賞」も 2 か月連続受賞
ここで注目したいのが、Dynamics 365 の導入およびシステム構築の段階から、自部門の業務を熟知した現場のキーパーソンが参加していることです。
「現場のキーパーソンが総合テストやユーザー受け入れテストを実施し、運用課題の早期発見や運用ルール確立に貢献してくれました」と井門 氏。2022 年 4 月の本番稼働でも、各部門におけるフォローアップをしてくれたと語ります。「システムへの理解が深いキーパーソンが各現場で活躍したことで、早い段階で Dynamics 365 活用の効果を最大化できました。なおこの取り組みは、2022 年7 月に構築から運用の実践および定着が評価され、“ファインプレー賞 (社内で月に 1 回行われる表彰)” を受賞しています」。
ユーザー教育も、このような現場のキーパーソンが中心になって推進。各現場で必要な業務フローやマニュアルを作成し、他の社員へのレクチャーを実施したと言います。
「基幹システムの中核に Dynamics 365 を据えたことで、案件の発生から売上に至るまで、一元管理できるようになりました」と諸岡 氏。これによって二重入力が解消されたのはもちろんのこと、現場の状況がリアルタイムに把握できるようになり、管理者が管理しやすくなるだけではなく、現場担当者が自らの活動の精度を高めるうえで、大きな貢献を果たしていると言います。
その一方で、「Power BI のダッシュボードによって、経営分析データも入力時に即座に反映されるようになりました」と言うのは、同社 AI&ICTソリューション事業部門 ソリューション技術二部 クラウドソリューション二課で課長を務める小原 輝行 氏です。「Power BI は全社員が参照できるダッシュボードを低コストで実現できます。これを社内で共有することで、全社員が同じ目線で経営状態を見ることが可能になり、より本質的な議論ができるようになりました」。
この Power BI による経営可視化の強化は、2022 年 8 月のファインプレー賞を受賞。Dynamics 365 導入プロジェクトが 2 か月連続で受賞したことになります。なおプロジェクトが立ち上がった 2021 年には、「次世代基幹システム」の導入完遂が評価され、社内における「年間アワード」も受賞しています。
さらに「基幹システムへの入力は Web ブラウザーで行うことができ、Power BI のダッシュボードも日常的に利用している Microsoft Teams から見ることができます」と付け加えるのは、同社 AI&ICTソリューション事業部門 ソリューション技術総括の村田 裕雄 氏です。そのため在宅勤務でも問題なく利用でき、働き方改革にも貢献していると指摘します。「実際に現在も出社率は 2 割程度に抑えられていますが、問題ありません」。
今後は前述の目標 (4) に掲げられているように、Dynamicsの導入、構築、運用の経験を生かし、Dynamics 365 の外販や、その上で動くアドオンソフトの開発と提供も行う予定です。
「これまでは自社開発のパッケージ販売がビジネスの大きな柱でしたが、今後は Dynamics 365 関連ビジネスが新たな柱になっていくでしょう」と赤江 氏。これによって、自分たちが Dynamics 365 で実現した DX を顧客にも広げていきたいと語ります。「このような取り組みは、日本の社会課題である労働力減少への対応にも役立つはずです。DX で新たな価値を生み出すことで、現場力の中心である『人』のカイホウをさらに推し進めたいと考えています」。
“自分たちが Dynamics 365 で実現した DX を、今後はお客様にも広げていきます。これによって新たな価値を生み出すことで、現場力の中心である『人 (お客様)』を無駄な業務からカイホウ (解放) し、さらに『人 (お客様) の能力・可能性』のカイホウ (開放) をさらに推し進めたいと考えています”
赤江 章 氏, AI&ICTソリューション事業部門 執行役員, パナソニック ソリューションテクノロジー株式会社
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