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2023/03/09

子どもたち一人ひとりへの細やかな指導を支援する「教育ダッシュボード」を、Power BI で構築

GIGA スクール構想の理念である「誰一人取り残すことのない公正に個別最適化され、創造性を育む学びの実現」。この理念を達成するには、先端 ICT や教育データの活用が欠かせません。

15 歳未満の「子ども人口」が増加し続けているつくば市は、子どもたち一人ひとりが幸せな人生を送ることを最上位の教育目標としています。子どもたちへの細やかな指導を実現するため、そして、子どもたち自身が自己に気づき、将来のキャリア形成に活かすために、これまで点在していた教育データを「教育ダッシュボード」で集約し可視化をする試験運用を始めました。

Tsukuba City Board of Education

子どもたち一人ひとりの「考え方」を理解するために

JAXA(宇宙航空研究開発機構)や筑波大学など、多くの研究・学術機関が集まる茨城県つくば市。同市における ICT 教育の歴史は古く、45 年も前からコンピュータを使った教材が小学校で活用されてきました。そのため、ICT 教育に関する知見も豊富です。

ICT 教育の最初期の実践者である、つくば市 教育委員会 教育長 森田充氏は、「教育データを活用するためには、まず子どもたちの考えを理解しなければなりません」と言います。

「たとえば小学 1 年生には、『7+4=9』という誤答がよく見られます。これは、指で数えるときに折り返しを忘れているのです。その原因に気づかせてあげなければ、また同じつまずきをしてしまうでしょう。教育データを活用していくためには、データから傾向を見て取った上で、『なぜこんなことが起こるのだろう?』と考えていく必要があるわけです」(森田氏)

つくば市はまた、15 歳未満の「子ども人口」が年々増加している自治体でもあります。児童生徒数の増加により、約 23,000 人にもおよぶ児童生徒の情報入力や管理面での業務負担だけでなく、児童生徒の個人情報も管理することから、セキュリティの強化やクラスを超えた情報の共有なども課題となっていました。教員不足が社会問題化する中で、大勢の子どもたち一人ひとりに目を行き届かせていくためには、テクノロジーの力が不可欠です。同市では、一人一台端末の展開当初から教育データの可視化が構想されていました。

また、2021 年には同市の義務教育学校が、文部科学省が提供する CBT システム(MEXCBT:メクビット)の実証校として選ばれました。つくば市総合教育研究所 兼 教育指導課 情報担当指導主事 中村めぐみ氏は、MEXCBTの運用を通じて、教育データ可視化の重要性を改めて感じたと言います。

「MEXCBT は、PC やタブレットで試験を実施して、採点まで自動的におこなってくれます。試験を実施したすぐ後に、子どもたちにフィードバックできる効果は大きく、記憶が新鮮なうちに、間違えた理由に気づかせてあげることができます。データをすぐに確認できる意義を、改めて感じました」(中村氏)

こうした背景のもと、つくば市教育委員会は、クラスや子どもたちの状態をすぐに知ることができる「教育ダッシュボード」の構築に着手しました。

さまざまなシステムのデータを連携し、一覧可能にする

試験の結果、アンケート結果、デジタル教材や学習支援ツールの利用履歴など、一人一台端末から取得できるデータは数多くあります。教育ダッシュボードを効果的なものにするためには、取得可能なデータをただ並べるだけでなく、見やすく整理して、簡単に使えるようにしなければなりません。

「データを見るのは先生だけとは想定していません。つくば市の教育は、子どもたち一人ひとりが幸せな人生をおくるために、『自立的な学習者』になることを目指しています。先生が導く必要はあっても、自分自身が気づかなければ、本当に身につきはしないものです。学習者にとっては得意や苦手を知るために。先生にとっては個別の細やかな支援をするために。目的を明確にした上で、データの連携と可視化を進めていきました」と森田氏はダッシュボード導入時を振り返ります。

GIGA スクール構想で Microsoft 365 Education を導入した同市。コミュニケーションツールである Microsoft Teams for Education を中心に、オンライン期間中やその後の子どもたちの協働的な学びにおいてとても効果的に活用しているといいます。

「学校で Microsoft 365 Education 活用の段階が進むにつれ、より一層高度に活用できるアプリケーションがたくさんあることも Microsoft 365 Education の特徴ととらえています。その一つが Power BI であり、目的に応じて先生や子どもたちが自分でプログラムを作ることができる機能をもっていることは、これからの活用における拡張性も感じるところです」(森田氏)

続けて森田氏はつくば市の目指す教育との親和性についてこう語ります。

「これまでの Microsoft 365 Education の活用における親和性とともに、アプリケーションの拡張性は、つくば市が目指すダッシュボード構築のプロセスにある、既存の仕組みとの連携やスモールステップによるデータ分析、今後の拡張性のあるデータ分析を考えると基盤として最適と考えました」(森田氏)

教育ダッシュボードの具体的なシステム構成について、設計構築を担当している株式会社内田洋行 システムズエンジニアリング事業部 テクニカルサービス&クラウドセンター 次長 武田考正氏は、次のように説明します。

「つくば市教育委員会のダッシュボードは、MEXCBT、interactive Study(インタラクティブスタディ)、Microsoft 365 Education などに蓄積された学習履歴を、学習 e ポータルである "L-Gate" に登録された名簿情報(氏名・クラス情報など)をもとに、Microsoft Azure へと集約・加工し、 Microsoft Power BI でわかりやすく表示するような仕組みとなっています」(武田氏)

教育ダッシュボードの開発に際しては、さまざまなシステムからデータを連携する必要がありました。中村氏および、シャープマーケティングジャパン株式会社 公共事業システム営業部 AS販売・企画推進担当 部長 榎本松喜氏は、データ連携について、こう振り返ります。

「これまで Microsoft 365 Education や Azure Active Directory を基盤として学習インフラを構築してきましたので、教育ダッシュボードについても、どうすれば Power BI で実現できるのか、マイクロソフトに相談しながら進めていきました。データ連携については、他社製品の基盤にデータを提供するというハードルがあったと思いますが、つくば市の子どもたちのためにと、快く協力いただけました」(中村氏)

「つくば市では協働学習支援システムの "STUDYNOTE (スタディノート)" と、個別最適化学習支援システム "インタラクティブスタディ" を採用いただいています。教育ダッシュボードの構築に当たっては、スタディノートのアンケート機能から学校生活の状況を、インタラクティブスタディからは学習ログを連携させることにより、児童生徒の状況をさまざまな角度から分析できるようにしました」(榎本氏)

また、教育データの活用に当たっては、保護者の理解を得ることも重要だったと中村氏は付け加えます。

「『データの取得』ということに対して、不安をもたれる保護者もいましたので、慎重に説明するとともに、同意書を取りながら進めています。教育ダッシュボード自体は、新しいデータを取得するわけではなく、これまで三者面談などで保護者に伝えていた情報を一元化して、デジタルになったものという考え方を伝えています」(中村氏)

スモールスタートと現場からのフィードバックで、より効果的な教育ダッシュボードへ

2022 年 11 月現在、つくば市の教育ダッシュボードは 5 つの学校でテスト運用されています。全国の自治体の中でも早期に教育ダッシュボードを構築できた要因について、中村氏は「小さく始める」ことの重要性を説きます。

「先生方の負荷を増やさないように、今は既存データの利用にとどめています。ゆくゆくは校務系データとの連携も必要だと考えていますが、機微情報が多く含まれるため、まずは『小さく始めよう』と、学習系のデータだけで取り組みました。難しく考えすぎず、最初から完璧を追い求めすぎずに、子どもたち、先生たちにとって必要な情報を整理していけば、それぞれの地域にふさわしい教育ダッシュボードが作り出せると思います」(中村氏)

つくば市の教育ダッシュボードは、データ収集においては、できるだけ学校教育活動で活動しながら無意識的にログがとれ、それらが自動的に集約されていく仕組みを目指しているといいます。また、可視化においては教員がひと目でクラスの状況を把握できるように、その日の気分や体調、授業満足度などを総合して、注意すべき事態のときはアラートが表示される仕組みとなっています。

「先生が実際に目の当たりにしているクラスの様子と併せて判断することは当然としても、教育ダッシュボード上でどんな指標を基準とするのか、実際に先生方に使用してもらいながら試行錯誤しています」(中村氏)

Power BI による教育データの可視化について、森田氏は「メッセージ性が高い」と評価しています。

「Power BI は単なる数字の羅列ではなく、何を伝えたいのか、どうつかんで欲しいのか、ダッシュボードを設計するわれわれの意図を反映してくれるツールだと感じます。そして紙のレポートと違い、Power BI ならば、気になる児童生徒を発見したら、さらに深掘りしていくことができます。たとえば困っている児童生徒がいたとして、授業満足度の結果と児童生徒の意欲や学級集団の状態等を把握するデータの結果を見れば、学力上の悩みなのか、それとも友達関係の悩みなのか、予測する判断材料を見つけることができるのです」(森田氏)

教育ダッシュボードを試験運用している反響は大きく、現場の先生からは多くのフィードバックが上がってきています。

「先生方からの要望・意見は想像以上でした。データを活用して、子どもたち一人ひとりを丁寧に見ていきたいという思いが、もとから強かったのだと感じます。これからも、先生方の意見を参考に改善を重ねてより使いやすい教育ダッシュボードを目指していきます」(中村氏)

子どもたち自身のためのダッシュボードも構築していく

これからの教育ダッシュボード改善のポイントは、見やすさ・わかりやすさにあると、武田氏・中村氏の両名は言います。

「データを見ることにあまり慣れていない先生もいますから、画面の情報が多すぎることなく、時間をかけた解釈が必要とならないよう、わかりやすく可視化できるように取り組んでいます。今後も引き続き、先生方の意見を踏まえながら、改善を図っていきます」(武田氏)

「担任の先生にとってはクラス運営に、管理職にとっては学校経営に、それぞれ役立てる教育ダッシュボードにしていきたいと思っています。教育委員会にとっても、学校ごとの状況がわかりやすくなれば、より具体的な支援ができるようになるでしょう」(中村氏)

最後に森田氏は、つくば市の教育ダッシュボードについて、将来的な展望を次のように語りました。

「まずは先生向けのダッシュボードから始めましたが、今後は、子どもたち向けのダッシュボードも構築していきます。たとえば『自分は算数の理解が高くて、Microsoft Excel をよく使っている』と自己分析できるようなダッシュボードがあれば、将来のキャリアデザインの足がかりとなるでしょう。また、教育データの活用は、教育委員会にとどまるものではありません。福祉部やこども部などと庁内連携することによって、つくば市全体で、子どもたちが幸せな人生を歩めるようにしていければと思います」(森田氏)

これまでも集団においても個別最適な学びが実現できることを目指してきたつくば市。これまでの取り組みや、新型コロナウイルス感染症禍によって進んだよりよい仕組みを一元化し、さらに効果的に活用するのがこのダッシュボードの構築だといいます。先生が細やかな指導をするために、そして子どもたちが自分自身に気づいていくために、教育ダッシュボードの活用がつくば市でスタートしました。各校・各地域がノウハウを共有していくことによって、データ活用の良さと効果を十分に体感しながら、真に実践的な教育データ活用が成されていくことでしょう。

“Power BI は単なる数字の羅列ではなく、何を伝えたいのか、どうつかんで欲しいのか、ダッシュボードを設計するわれわれの意図を反映してくれるツールだと感じます。そして紙のレポートと違い、Power BI ならば、気になる児童生徒を発見したら、さらに深掘りしていくことができます。”

森田 充 氏, 教育委員会 教育長, つくば市

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