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2023/07/03

人口増加率 No.1 の流山市が目指す、文科省推奨のセキュリティ基盤上でのデータを活用した新たな教育

※本事例内に登場する取材対象者のお役職は 2022 年 3 月取材時点のもののため「元」の表記をしております。

GIGAスクール構想が進みつつある中、扱うデータの量が増える一方、校務系・学習系のネットワーク分断による学校現場での弊害が取り沙汰されています。いったいどうすれば、データ連係によって学びの価値を向上させることができるのでしょうか。

流山市教育委員会は、Microsoft 365 Education A5 と、デスクトップ仮想化技術である、Azure Virtual Desktop(AVD:仮想デスクトップ)の導入による教育 ICT セキュリティ基盤を築きました。最新のセキュリティによって、校務系・学習系ネットワーク統合による業務効率化だけではなく、子どもたち一人一人に細やかに寄り添うデータ活用型教育が実現しつつあります。

Nagareyama City

データの活用がきめ細やかな指導への鍵

千葉県北西部に位置する流山市。都心から約 25 kmほど離れたこの街は、子育て世代への手厚い支援によって、人口増加率 1 位*(全国 792 市中)を 5 年連続で達成しています。次代を担う子どもたちが増えていることは、新たな小中学校が続々と建てられていることからもうかがえます。
*令和 2 年国勢調査より

しかし一方で、子どもたちへの ICT 教育については遅れがあったと、元流山市教育委員会 指導課 指導主事 松田 健太郎氏は言います。

「数年前の流山市は、PC を使うどころかプロジェクターも無いような教室が数多くあり、県内の他市と比べても ICT 教育には遅れがありました。GIGA スクール構想に伴ってハード面では他市の水準に近づけますが、タブレットを導入しておしまいではなく、この機会に流山市の教育を見直していこうという動きが始まったのです」(松田氏)

見直しの中で「データ活用」こそが新たな教育への鍵になると、元流山市教育委員会 指導課 課長 松山 秀行氏は気づきを振り返ります。

「1 人 1 台端末の導入によって、子どもたちのさまざまな活動がデータ化されていきます。他の自治体の先進事例を調べていく中で、学校ごとに設置されたサーバーや、校務系・学習系ネットワークなど、点在する情報をつなぎ合わせ、見える化することにより、勉強だけでなく心の動きにもより添った、きめ細やかな指導ができると気付いたのです」(松山氏)

しかし、検討当時の文部科学省のガイドラインでは、学校現場において学籍情報や出席書類、健康診断書などを扱う校務系ネットワークと、ワークシートやドリル、アンケートなどを扱う学習系ネットワークは分離するよう定められていました。子どもたちの機微情報を守るための措置でしたが、従来の物理的な分離には負担も大きかったと、元流山市教育委員会 指導課 指導主事 多田 曉生氏は苦笑します。

「従来の環境では、せっかく蓄積されていく子どもたちの学習データを見るときに不便さがあったので、文部科学省のセキュリティガイドラインを準拠しながらも、先生の負担を増やさずに、PC 1 台で校務系や学習系ネットワーク、そしてインターネットにアクセスできるような環境を構築していけないかと検討していました」(多田氏)

流山市教育委員会とともに検討を進めた富士電機ITソリューション株式会社が、最終的に提案したのは、Microsoft 365 Education A5 と、デスクトップ仮想化技術である Azure Virtual Desktop(AVD)による教育基盤の構築でした。

文科省ガイドラインに沿い、この先さまざまなチャレンジが可能なICT教育基盤を構築

文部科学省は 2022 年 3 月に『教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン』を改訂しました。その中には校務系ネットワークの保護手法として、クラウドの高度なセキュリティ機能を使ったリスク対応が明記されています。流山市の教育 ICT インフラは、文部科学省が定める次世代のセキュリティを前提に構想したと、富士電機ITソリューション株式会社 元マーケティング本部 教育ICT推進室 担当課長 長谷川徹氏は語ります。

「『1 台の PC で校務系・学習系・インターネットに接続できる』環境を実現し、さらに『データ活用』によって未来の教育を実現していくためには、最新のセキュリティである "ゼロトラスト" が欠かせないと考えました。そして、パソコンやタブレットといった種類の異なる端末や、複数の教育用クラウドサービスのすべてを、最新技術で保護できるソリューションがマイクロソフト製品だったのです。マイクロソフトの製品でまとめる事で、さまざまな他社製品を組み合わせるよりもシンプルな構成になり、コストも抑える事が可能でした。」(長谷川氏)

Microsoft 365 Education は、Microsoft Word や Microsoft Excel などの Office アプリケーションや、コミュニケーションツールである Microsoft Teams for Education など、たくさんのアプリが利用できる教育機関向けのクラウドサービスです。その中でも Microsoft 365 Education A5 ライセンスは、地球規模でのサイバー攻撃の動向を元に PC を監視し、何かあった時には自動対処をする Microsoft Defender for Endpoint や、ファイルのアクセス制限や暗号化ができる Azure Information Protection といった豊富なセキュリティ機能を有しています。

また、デスクトップ仮想化技術である Azure Virtual Desktop (AVD) とは、クラウド上にもう一つの「デスクトップ環境」を作り出せるサービスです。通常、PC の中には Windows や各種アプリ、そしてたくさんのファイルが格納されていますが、それらをまるごとクラウド上に再現して、ネットワーク経由で操作できるのが AVD です。また、AVD 環境に必要なユーザープロファイル領域に Azure NetApp Files を採用することでサインインストーム対策として I/O 性能パフォーマンスとコストの最適化を図れました。これらのサービスを使えば、先生方は PC を 2 台用意せずとも「専用回線につながっている校務用のデスクトップ」と、「インターネットにつないでいる授業用のデスクトップ」を、1 台の PC で安全に同時利用することが可能となります。手元の PC からそこへアクセスすることによって、安全に隔離された状況でデータを扱うことが可能になります。

富士電機ITソリューションの提案を受けた流山市教育委員会は、次のような検討の結果、マイクロソフト製品の採用を決定します。

「教育用のクラウドサービスは目まぐるしく進化しています。手作業で分析が必要なものでは忙しい先生方の活用も進まないでしょう。先生が一目で簡単に児童生徒の状況を確認できるサービスを使うべきですし、今後さらに新たなものを導入する可能性もあります。セキュリティポリシーにのっとりながらも、この先、さまざまなチャレンジが可能な基盤として、マイクロソフト製品を使ったソリューションは流山市の考えにふさわしいと感じました」(松山氏)

「学校教育の“先” である実社会を考えた場合、業務でもっとも使われているのがマイクロソフトの製品です。それを基盤にすることは理にかなっていると感じました。流山市では、東京理科大学 創域理工学部 滝本 宗宏教授を ICT 教育推進顧問として招へいするとともに、教育委員会内部に ICT 教育推進協議会を設置し「流山市GIGAスクール構想」をとりまとめています。今回の教育基盤刷新にあたっても ICT 教育推進顧問である滝本教授にもアドバイスいただき、向こう 5 年を視野に入れた基盤づくりとして Microsoft 365 Education A5 とAVD の導入をスタートしました」(松田氏)

「子どもたちに寄り添う時間を増やす」仕組みが実現

流山市の新たな教育基盤は、2021 年秋に 4 つのモデル校から運用が開始されました。学校ごとにオンプレミスで管理していたサーバー機器はすべて Microsoft Azure へ移行し、重要書類は Microsoft 365 Education A5 のアクセス制限によってしっかりと保護されています。さらに、校務系の機微情報は AVD によって、安全に隔離された状態で扱えるようになりました。

強固なセキュリティ基盤のもと、校務系の仕事をすることも、学習系のデータを見る時も、インターネットの情報を調べる時も、先生方の PC 1 台ですべてが完結するようになったのです。AVD による仮想環境で安全にアクセスできるため、先生方が出張先などから校務系のデータにアクセスすることも可能になったといいます。

「校務系の情報を AVD という仮想環境で扱うことに関して、当初は操作に戸惑う先生もいましたが、これがより安全な方法だということにはすぐ理解を示してくれました。子どもたちが使うタブレットのデータをすぐ取り込めるようになりましたから、いったん慣れさえすれば、効率的な仕事が実現できています。さらに、データをクラウドに移したことによって、サーバー機器の管理からも解放され、夏場の温度対策を心配せずとも済むようになりました」(多田氏)

こうした業務効率化や時間の創出のみならず、「データの連係と見える化」による教育効果もあらわれ始めていると、松田氏と元流山市教育委員会 指導課 指導主事 前場 拓志氏は言います。

「USBメモリを使わずともクラウドでデータを管理できるようになったことは、紛失リスクが無くなったというセキュリティ面で大きな意味を持ちますが、効果はそれだけにとどまりません。とにかく先生方が子どもたちに寄り添い、なるべく多く会話をする時間を創り出すシステムを作りたいと願っていました。いまでは、職員室だけでなく教室でも校庭でもPCで業務できるようになったことで、子どもたちに近づき、寄り添うことが可能となったのです」(前場氏)

「子どもたちにはタブレットで日々の記録を付けてもらっているのですが、その中には『心のようす』も含まれています。その日の気持ちを、晴れ・曇り・雨といった天気であらわしてもらっているのです。データは蓄積され、他のシステムと連携し、一つの画面で心や学習のカルテが見られるようになっています。先生がこのデータをすぐに見ることができるようになったおかげで、『子どもたちに声をかけやすくなった』『子どもたちとの会話が増えた』という現場からの手応えを聞いています。また、今後は子どもたちもデータによる自分自身の振り返や、保護者との面談などにも活用していきたいと考えています」(松田氏)

すべては子どもたちのために。流山市で、自立する子どもを育んでいく

2022年4月から、流山市の全域、17の小学校と10の中学校で、Microsoft 365 Education A5 とAVDの運用が始まります。今後はさらに研修を開催し、教職員の ICT リテラシー向上に努めていかなければならないと、元流山市教育委員会 指導課 副主査 宮島 芳行氏は言います。

「高度なセキュリティを有したデータ連係基盤は構築できましたが、人がきちんと運用していかなければその意味も薄れてしまいます。流山市では『教育情報セキュリティポリシー』を定めています。これを順守しながら、より効果的にデータ活用できる環境を提供していくことが、教育委員会に与えられた責務だと思っております」(宮島氏)

そして流山市教育委員会では、データ活用型教育による未来が次のように展望されています。

「データ活用には多くの可能性を感じています。これまでは先生方が時間をかけて資料を作り、それから子どもたちに接していましたが、これからは日々のデータがそのまま資料になってくれます。『一生懸命勉強しているけども成績が上がらない子』や『宿題に取り組む時間帯が遅すぎる子』などに対して学習に取り組んだ時間や、長さ、そして心のようすなどのデータを総合して連携することで、児童生徒の理解を深め相談支援ができるようになるのです。蓄積したデータを、どのように教育に還元していくかが今後の鍵となると考えています。データがあれば、担任以外の先生や保護者にも、子どもたち一人一人の正確な情報を伝えていくことができるでしょう。今後は、さらに学校で情報をうまく扱えるように取り組んでいきます」(松田氏)

「あまり大きな声では言えませんが、私が学校現場にいた頃は『個人情報を持ち出すな』と言われ、仕事をする場所が職員室に限定されることで非常に多くの制約を受けていました。じゃあいったいどこで仕事をすればいいんだ、もっと好きに仕事させてくれ、と思っていたものです。あのとき夢だった環境がこうして実現でき、そのプロジェクトに携われたことをうれしく思っています。余裕を持って、楽しく生き生きと仕事をしている先生を見て、『自分も先生になりたい』と思う子どもたちが増える。次は、そんな未来を夢見ています」(多田氏)

「流山市では『学びに向かう力と自立する子どもを育む』ことを目標に掲げています。すべては子どもたちのためにあります。データ活用によって、自分の学びはどんな状況にあるのか、子どもたちが自ら気づき、先生達は適切なアドバイスができる。そうした教育によって、子どもたちの自立につなげていきたいと思います」(松山氏)

Microsoft 365 Education A5 とAzure Virtual Desktopの導入によって、データ活用のための教育基盤を構築した流山市。最新のセキュリティ技術によって、子どもに集中する時間をさらに確保することが可能となりました。多くの子どもたちが生まれ育つこの場所で、一人一人に寄り添った教育が実現していくことでしょう。

“セキュリティポリシーにのっとりながらも、この先、さまざまなチャレンジが可能な基盤として、マイクロソフト製品を使ったソリューションは流山市の考えにふさわしいと感じました”

松山 秀行氏, 指導課 課長, 元流山市教育委員会

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