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2024/05/17

環境機器の IoT データ プラットフォーム「miyoru」、Azure ML による予測モデルの実装で新たなフェーズへ

IoT で収集したデータの可視化や分析をサービスとして提供する「ISHIGAKI Cyber Platform “miyoru”」を Microsoft Azure 上で実現し、2022 年 8 月にリリースした株式会社 石垣。現在はこの miyoru に AI 機能を搭載する取り組みが進められています。その AI エンジンとして採用されているのが、Microsoft Azure Machine Learning です。既に Azure 上で構築されていた IoT 基盤と、AI エンジンをダイレクトに連携させることで、学習のためのデータ パイプラインを完全に自動化。これによってスピーディかつ人手に頼らない学習を可能にしたのです。2023 年 8 月には、AI を搭載した miyoru のコンセプト展示も実施。今後は Microsoft Azure OpenAI Service とも連携させ、プラットフォームとしての強みをさらに強化していく計画です。

Ishigaki

下水道機器の監視、予測、制御をクラウドとスマホで行える「miyoru」

「ものづくり」の会社から、IoT をベースにした水環境を支えるプラットフォームを提供する「プラットフォーマー」へ。このような変革を目指す製造企業は、決して少なくないはずです。これを短期間のうちに成し遂げ、大きな注目を集めているのが株式会社 石垣 (以下、石垣) です。同社は 1958 年に創業し、香川県に拠点を置くプラントエンジニアリングメーカー。上下水道インフラ関連の「水環境分野 環境機械」、流体技術を集成した「水環境分野 ポンプ」、あらゆる分野の固液分離に対応する「産業分野 産業機械」という 3 つの分野で、優れた製品を提供し続けています。

「IoT への取り組みは 2015 年から着手していました」と語るのは、石垣 企画推進部 情報システム課で課長を務める中村 晋 氏。しかし当時は社内での関心が低く、「IoT の冬眠時代」だったと振り返ります。その状況が大きく変化したのは 2019 年。ポンプ事業部がポンプの稼働監視を行うため、IoT を活用したいという要望を出したことがきっかけとなったと言います。

「ここで危惧したのが、単一の機器に特化したクラウド サービスを作ってしまうと、他の機器で使えないものになる可能性があるということでした。また事業部ごとに取り組みを進めてしまうと、IoT システムが乱立してしまい、データ連携が行えず、機器とアフターサービスを一体化させたサービス展開ができなくなる危険性もありました」。

そこで中村 氏が検討を始めたのが、全社統合の IoT 基盤をどのようにして確立するかでした。これを動かすためのインフラとして複数のクラウド サービスを比較検討した結果、最終的に Azure の採用を決定。その理由について次のように語ります。

「まず Azure には同業他社の事例が多く、製造業における高い実績がありました。マイクロソフトやパートナーが開催するセミナーも、製造業のユーザー企業向けのものが多く、説明が丁寧で分かりやすいという印象でした。また実際に Azure に触ってみると、思っていたよりも簡単に操作でき、ポータルですぐに仮想マシンなどのリソースを調達できることも評価しました」。

その後、クラウド サービスを Azure 上で構築し、ポンプ事業部と環境機械事業部がその利用を開始。2020 年には IoT 活用を含む、DX 推進の全社プロジェクトがスタートします。そして 2021 年 7 月に、IoT で収集したデータの可視化および分析をサービスとして提供する「ISHIGAKI Cyber Platform “miyoru” (以下、miyoru)」の企画が生まれるのです。

「miyoru は、水インフラの設備・機器の監視、予測、制御をクラウドとスマホの組み合わせで実現した水環境の未来を見通すプラットフォームです。360°カメラによる現場の遠隔監視、画像から水位・流向計測、天候、地図などの外部データを取り込む API など、水環境を最適化するための機能を提供します」 (中村 氏)。

2022 年には業界向けの展示会で miyoru のコンセプト展示を行い、同年 8 月に正式リリースへ。ここで注目したいのは、このような IoT プラットフォームの開発および実装と並行して、AI 活用への取り組みも着々と進められてきたのです。

AI 活用も早い段階で検討、課題は学習データの準備に手間と時間がかかること

「実は 2020 年 10 月には、IoT データを学習し分析するための手段として、AI の活用を社内で提案していました」と中村 氏。その翌月には予算がない中、無償公開された AI ライブラリを利用し、AI 活用に向けた取り組みに着手していたと言います。

「最初に利用を開始したのは、手元の PC にインストールし、ディープ ラーニングをローカル環境で行うというものでした。その後、これと同じ機能をクラウドで提供するサービスへと移行しています」。

このような仕組みで 2 年以上にわたって AI 活用を進めてきましたが、大きな壁に直面することになります。それは、学習データを AI エンジンに渡す際に手作業が発生し、その作業負担が大きいことでした。

「このころには既に、IoT データを Azure の IoT Hub や Synapse Analytics で自動収集、蓄積する仕組みが確立されていましたが、AI エンジンは異なるクラウド上にあるため、これとの直接的な連携が困難でした。そのため学習を行うたびに、Azure からデータを CSV 形式で抽出し、AI エンジンに渡す必要があったのです。学習の頻度は月に 1 回程度でしたが、より精度の高いモデルを生み出せるデータの組み合わせを見つけ出すため、毎回 10 ~ 20 パターンのデータセットを作成し、AI サービスにアップロードしていました。このような作業を毎回行っているようでは、スピーディな学習サイクルを作り出すことは難しいと感じていました」 (中村 氏)。

この悩みを根本から解決するには、いったいどうすればいいのか。自問自答を続けた結果、中村 氏は 2023 年 4 月、株式会社ナレッジコミュニケーション (以下、ナレッジコミュニケーション) に相談を持ちかけることにします。同社はマイクロソフトのパートナーであると共に、クラウド AI を用いた DX 推進で高い実績を持っていたからです。

「現状のアーキテクチャと問題点を伺った結果、AI エンジンを Azure Machine Learning (Azure ML) へと移行すべきだと判断しました」と言うのは、ナレッジコミュニケーション ビジネス・デベロップメント部でシニアソリューションアーキテクトを務め、石垣からの相談に対応した牧村 健 氏。相談内容で最も重要なポイントは、AI エンジンに学習させるデータの整形と引き渡しをいかに効率化するかであり、AI エンジンを Azure に載せることで解決可能だと説明します。「Azure ML であれば Synapse Analytics との親和性が高く、コンソールでの設定で簡単に接続できます。また Azure ML には Auto ML 機能もあり、学習モデルをより高速に作成することも容易になります」。

さらに、牧村 氏と共に対応したナレッジコミュニケーション ビジネス・デベロップメント部 マネージャーの中西 貴哉 氏は、次のように付け加えます。

「製造業では AI 活用に悩んでいるお客様が少なくありませんが、その多くは “データをどう流すか” で苦慮されています。学習データの収集、整形、AI エンジンへの引き渡しの部分は、事前に適切な設計を行っていないとサイロ化しやすいのです。幸いなことに石垣 様は、既に社内外の各種データや IoT データなど、Azure を中心にデータを蓄積、きれいなデータ プラットフォームとして構築していました。そのため短いリードタイムでご要望に対応できました」。

AI エンジンを Azure ML へと移行、完全自動化された学習で改善サイクルを高速化

既存の AI エンジンから Azure ML への移行に向け、2023 年 6 月に PoC を開始。その翌月には miyoru の開発環境に Azure ML を実装しています。

「このようなシステム構成によって完全自動化を実現したことで、手作業は不要になりました」と中村 氏。新たなデータ カラムの追加などにも、Synapse Analytics のパイプラインの設定変更と、Azure ML のパラメーター変更で、簡単に対応できると語ります。「これによって学習サイクルを高速化することが可能になりました」。

2023 年 8 月には、国内最大の下水道の展示会「下水道展 '23 札幌」で、AI を実装した miyoru のコンセプト展示も実施。AI 活用が現実的になったことで、miyoru は新たなフェーズに入ったと中村 氏は語ります。

今後は、今回構築したデータ パイプラインを積極的に活用することで、人手をかけずに「自分自身で賢くなる」AI を実現していきたいと中村 氏。そしてこのような AI が生成する予測モデルを、自社の全製品に展開していきたいと語ります。

その一方で、生成 AI への取り組みも進められています。Azure OpenAI Service の GPT-4 の利用が始まっており、業務適用への第一歩として、管理部門の書類を学習させることが検討されているのです。

「その他にも、設計書や要件定義書の作成を支援できないかという話が出ていますが、それ以上に大きなテーマになると考えているのが、miyoru に搭載した Azure ML との連携です。また先日の Microsoft Ignite 2023 で発表された『GPT-4 Turbo with Vision』で画像認識を行うことも検討しています。さらに、これらの AI モデルで作り出されたデータをオープン データとして提供し、水インフラの課題解決に役立てていただくことも視野に入っています」。

2021 年に企画されてから、わずか 2 年で急速に進化してきた miyoru。これに AI が搭載されることで、プラットフォームとしての強みはさらに大きくなったと言えるでしょう。これがどのように成長していくのか、これからも目が離せません。

“AI エンジンを Azure ML へと移行し完全自動化を実現したことで、学習の際の手作業は不要になり、学習サイクルの高速化が可能になりました。AI 活用が現実的になったことで、miyoru は新たなフェーズに入ったのです”

中村 晋 氏, 企画推進部 情報システム課 課長, 株式会社 石垣

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