「東芝再興計画」実現に向け、経営インフラ改革とともに“稼ぐ力”を強化し、人、事業、技術開発への十分なリソース投下が必要だった。従業員 1 人ひとりの生産性、創造性を高めるために、あらゆる場面での業務改革が急務となっていた。
従業員 1 万人に Microsoft 365 Copilot (以下、Copilot) を導入。従業員 1 人ひとりの利用と効果の拡大に向け、マイクロソフトの支援のもと改革に着手。まずは一人一人の業務改革から始め、続いて組織としての業務改革へと拡張。 さらに、利活用を促進するために、Microsoft 365 利用ログと Microsoft Viva Insights を組み合わせて分析。個人の働き方に合わせて Copilot の使い方を自動レコメンドする仕組みづくりを進めている。
先行導入で従業員 1 人当たり 5.6 時間/月の時間削減効果を確認。従業員調査に寄せられた7 万件のコメントを分析する業務において、従来 3 カ月を要していた作業を Copilot により 1 日で完了。また広報、調達業務や関連文書検索など、業務プロセスの中で Copilot が寄与する作業を特定し、プロセス全体の効率化を図った。
“稼ぐ力”を高めるために従業員 1 万人に Copilot を導入
2024 年 5 月、東芝は新中期経営計画「東芝再興計画」(2024 年度~2026 年度)を発表。本来あるべき姿に立ち戻るために構造改革に取り組んでいます。「しかし、単純に過去を振り返るのではありません」と東芝 取締役 副社長執行役員 池谷光司氏は強調し、こう続けます。「新しい時代に求められる東芝を目指すべく、変革を進めていきます」
東芝グループの経営理念「人と、地球の、明日のために。」は1990年作成。環境問題などが深刻化する中、その意義と重要性は一層高まっています。東芝グループは、多くの企業が直面する社会課題に対して、GX(Green Transformation)やDXで社会に貢献していく会社を目指しています。
東芝再興計画を実現するうえでの課題について池谷氏は言及します。「2027 年 3 月期に売上高 3 兆 7500 億円、営業利益率 (ROS) 10% の達成が目標です。これを実現するためには、経営インフラの整備、筋肉質化によって損益分岐点を引き下げ、 “稼ぐ力”を強化し、そこから生み出されるリソースを、人、事業、技術開発に十分に投下していくことが重要となります」
“稼ぐ力”を高めるためには、業務プロセス改革が重要なポイントとなります。池谷氏は、タウンホールミーティングと称して、主要拠点や工場に出向き、延べ 1 万人の従業員に再興計画にかける“思い”を伝えるとともに、業務の効率化の課題について話をしました。「中堅・若手社員からは、オンライン会議や会議のための資料作成に時間をとられているなどの意見が多くありました。しかし効率化は目的ではありません。大事なのは、効率化を通じて意思決定の迅速化、各階層での議論活性化を図り、生産性・創造性の向上を実現することです」(池谷氏)
経営層も含め、従業員 1 人ひとりの生産性や創造性をいかに高めていくか。情報システム部門から日常業務をサポートする AI アシスタント Copilot の提案があったと池谷氏は振り返り、こう続けます。「当初は、5,000 人の導入を目指すというものでしたが、導入目標を 1 万人に変更しました。Copilot 導入は東芝が変わるという姿勢を示す意味合いも含むことから、規模のインパクトも必要です。東芝再興に向けて従業員 1 人ひとりの意識を改革し、“稼ぐ力”を最大化する狙いがありました」
"当初は、5,000 人の導入を目指すというものでしたが、導入目標を 1 万人に変更しました。Copilot 導入は東芝が変わるという姿勢を示す意味合いも含むことから、規模のインパクトも必要です。東芝再興に向けて従業員 1 人ひとりの意識を改革し、“稼ぐ力”を最大化する狙いがありました"
池谷 光司 氏, 取締役 副社長執行役員, 株式会社東芝
トライアルで 95% が実務で利用、定性的・定量的効果を確認
東芝において、Copilot の導入は生成 AI 活用を視野に入れた試金石となりました。東芝の生成 AI ビジョンについて、東芝 上席常務執行役員 最高デジタル責任者 岡田俊輔氏は話します。「東芝グループの経営理念に基づき、『生成 AI による多様なデータ・知識連携で、安全・安心で持続可能な社会インフラを支える』と定めました。人、システム、IoT が生成 AI でつながり、自然言語によるコミュニケーションにより新たな価値を創出し、社会課題を解決していきます」
東芝は、生成 AI ビジョンの実現に向けて、生成 AI 活用推進プロジェクトを発足。コンサルティング/伴走、周知/啓蒙、利用ガイドライン、利用環境、運用の 5 つの機能による総合的支援とともに、事業部門に対して生成 AI を推進するハブの役割も担います。
生成 AI 活用推進プロジェトでは、Copilot が電卓や PC のようにみんなが日常的に使いこなすツールになるだろうという共通認識を持っていました。「しかし初めてのツールなので、使い方もわかりません」と岡田氏は話し、こう続けます。「使うことを目的とせず、どう生かすかについて議論したうえで、マイクロソフトの支援のもと従業員 400 人でトライアルを実施しました。検証のポイントは 2 つ。1 つ目は定量的効果。経営への貢献度を数字で判断するためです。2 つ目は定性的効果。自分自身で効果を実感できないと継続利用につながりません」
トライアルの結果、95% が実務で利用し、Teams 会議の議事録や Microsoft PowerPoint 資料の作成、会議やメールなど情報のキャッチアップに活用されていました。その結果、定量的効果として、1 人当たり平均 5.6 時間の業務時間削減を確認。また定性的効果では、創造性 (アイデア出しで壁打ち)、品質 (文書やメール作成時の構成、アドバイス) などで役に立ったとのユーザー評価が得られました。検証結果に加え、参加ユーザーの 70% 以上が Copilot の継続利用を求めたことも、従業員 1 万人への導入決断を後押ししました。
「使わせる」のではなく「使いたい」と思わせる「ユースケース カタログ」
1 万人の従業員 1 人ひとりの働き方をいかに変えていくか。部署や従業員個々によって Copilot の効果を実感するニーズは異なります。従業員に対し「使わせる」のではなく、「使いたい」と思わせる仕組みが「ユースケース カタログ」です。特徴について東芝 DX・デザイン&コミュニケーション部 シニアフェロー 殿塚芳和氏は説明します。
「Copilot を利用するためのリファレンスをまとめて整理し、“業務でこう使うと、こういう回答が返ってくる”というメニューを提示しています。メニューから自分が使ってみたい用途を選択しトライしてみるという導線を作りました。まさに、デジタルカタログです」
ユースケース カタログは、従業員や部門が求めているものをすべてカバーしているわけではありません。生成 AI 活用推進プロジェクトでは、部門ごとにワークショップを開催。ポイントは、各部門の“困りごと”を聞くというスタンスを貫いたことです。「マイクロソフトの支援を受け、各部門と膝を突き合わせて“困りごと”に対して Copilot、Microsoft Power BI、Microsoft Excel、RAG (検索拡張生成)など、業務で使えるツールの仕分けを行いました」(殿塚氏)
Copilot の導入では個人の効果だけでなく、業務プロセス改革の観点が重要です。「Copilot を使ったオンライン会議への代理出席や議事録作成・要約、翻訳などは、確実に時間短縮が図れるのですが、スポット的な利用にとどまります。『便利になった気がする』のその先へ、部門全体の生産性向上にいかにたどりつくか。大事なのは、業務プロセスの流れを意識し、関わるすべての人が効率化を享受できるということ。一部分だけ効率化しても、前処理でそのツールを使うために準備する必要が生じると、業務プロセス全体の効率が上がらないケースも出てきます」(殿塚氏)
生成 AI 活用推進プロジェクトは事業部門と連携し、Copilot で大きな効果を期待できる業務プロセスを特定し展開する取り組みを行っています。Copilot による業務プロセス改革の成功モデルについて岡田氏は言及します。
「従業員調査に寄せられた7 万件のコメントの分析において、従来総務部門は対応に 3 カ月を要していました。Copilot なら 1日で済みます。またストレージプロダクト事業部門は、設計業務プロセスで Copilot 活用シーンを複数組み合わせてプロセス全体で効果を高めています。その結果、Copilot の利用が格段に進みました。また、同事業部門はファイルサーバー以外の場所に散在していたデータを、ファイル共有ツール Microsoft SharePoint に上げることで、Copilot を使った問い合わせ対応のスピード向上も図っています。重要なポイントは、自分たちで工夫している点です。さらに広報、調達部門も同様に、Copilot による業務プロセス改革に取り組んでいます」
"従業員調査に寄せられた7 万件のコメントの分析において、従来総務部門は対応に 3 カ月を要していました。Copilot なら 1日で済みます。また、業務プロセスで Copilot 活用シーンを複数組み合わせてプロセス全体で効果を高める取り組みを進めています。Copilot の使い方を自分たちで工夫している事業部門も出てきました"
岡田 俊輔 氏, 上席常務執行役員 最高デジタル責任者, 株式会社東芝
個人の働き方に合わせて Copilot の使い方を自動レコメンド
生成 AI 活用推進プロジェクトはユースケースカタログ、ワークショップ、業務プロセス全体の効率化と、点から線、面へ段階的にアプローチを広げました。次の一手について殿塚氏は話します。
「従業員は Microsoft 365 を使っています。マイクロソフトの技術支援のもと、Microsoft 365 の利用ログと、働き方を分析・可視化する Microsoft Viva Insights を組み合わせ、個人の働き方に合わせて Copilot の使い方を自動的にレコメンドする仕組みづくりを進めています。ユースケースカタログを見るのも面倒というユーザーの背中を押すことで、利用に関するラストワンマイルを埋めていきます。また、自動レコメンドの仕組みを業務アプリに展開することも検討中です」さらに活用の仕組みづくりについて続けて語ります。「Copilot を『使わせる』のではなく、『使いたい』と思わせる仕組みが「ユースケース カタログ」です。メニューから自分が使ってみたい用途を選択しトライしてみるという導線を作りました。また、個人の働き方に合わせて Copilot の使い方を自動的にレコメンドする仕組みづくりも進めています」
現在、Copilot の導入はほぼ10,000ユ―ザーに達しました。利用拡大のポイントの 1 つとして岡田氏は「Copilotライセンスを、全社予算ではなく受益者負担としたことです」と話し、真意を明かす。「効果を上げるために導入するという目的意識を明確化するためです。事業部門が不要と考えれば導入は進みません。1 万人導入を達成するためには、実感を伴う施策を打つ必要がありました。他部門の評判を聞いて、自分の課でも導入してみようという気運が広がり、利用者が加速度的に増えていきました」
「ツールありき」ではなく、「従業員や事業部門の課題を解決する」ことが重要です。殿塚氏はマイクロソフトのサポートを評価します。「マイクロソフトは、ワークショップで抽出した“困りごと”に対し、タイムリーに解決策を提案してくれました。また、Copilot によりツールの使い方の提案が高度化しました。今後も伴走型で支援してくれることを期待しています」(殿塚氏)
東芝再興計画の実現では、従業員 1 人ひとりの生産性、創造性の向上が欠かせません。タイム マネジメントがポイントになると池谷氏は指摘します。「本業以外の作業にかけている時間をいかに削減するか。そして、本業の実効性をいかに高めていくか。担当者、課長、部長、役員それぞれで Copilot の使い方は違ってきます。例えば、コーチングと Copilot を組み合わせることで、さらに効果が高まると思います。1 万人の生産性向上、最終的には全従業員が Copilot を利用することで“稼ぐ力”を最大化していきたいと思います」
トップダウンとボトムアップの複合的アプローチで Copilot による業務改革を、スピード感をもって着実に遂行。「東芝再興計画」の原動力となる、従業員 1 人ひとりを Copilot が寄り添いアシストしていきます。
"Copilot を『使わせる』のではなく、『使いたい』と思わせる仕組みが「ユースケース カタログ」です。メニューから自分が使ってみたい用途を選択しトライしてみるという導線を作りました。また、個人の働き方に合わせて Copilot の使い方を自動的にレコメンドする仕組みづくりも進めています"
殿塚 芳和 氏, DX・デザイン&コミュニケーション部 シニアフェロー, 株式会社東芝
Microsoft をフォロー