This is the Trace Id: 59fa580db7ba9006f357502946ff005f
2025/05/27

Microsoft Azure 上に構築された独自の PHR 活用システムで医療情報の有効活用を進める湘南鎌倉総合病院

DX が進むことで医療機関が持つ電子健康記録 (EHR) の活用は進みつつあるものの、日常における個人健康記録 (PHR) が得られていないことに課題を感じていた。PHR を活用できれば、より包括的な医療体制が整えられ、患者さまに利便性のある医療サービスを提供できると考えた。

Microsoft Azure 上に構築された PHR プラットフォームをベースとした PHR 活用アプリ「HOSPA」を開発。院内の各部門が協力して機能や使用法をブラッシュアップし、健康手帳、受診履歴、来院予約の確認、各種呼び出し機能などを提供できるようになった。

高齢者や子ども世代を含む約 4100 名 (2025 年 2 月現在) のユーザーを獲得。呼び出し機能の活用による待ち時間の有効利用や、次回予約の確認を実現。ユーザーの反応もよく、院内業務の効率化にもつながると期待されている。今後は健康情報の取得・活用を進めていく。

Medical Corporation Tokushukai Shonan Kamakura General Hospital

独自の PHR システムを導入し、より良質な医療の提供を目指す湘南鎌倉総合病院

近年、個人が体重や血圧、食生活といった自らの健康情報を管理し、日頃からの疾病予防やセルフケアに役立てる PHR (Personal Health Record/個人健康記録)が注目されています。母子手帳アプリや学校検診アプリなどを自治体が提供したり、医療機関が主導して PHR 活用システムを開発したりする動きが活発になっています。

医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院は、1988 年に設立された、神奈川県鎌倉市にある総合病院です。当時、総合病院が存在しなかった湘南・鎌倉地域に住む人たちの署名活動から設立が決まった背景を持ち、地域の医療・介護機関と連携した包括的な医療を住民に提供し続けています。

同院の特徴として挙げられるのが“断らない医療”と“切れ目のない医療”だと、医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院 事務部長の芦原教之氏は語ります。

「“断らない医療”は徳洲会の重要なコンセプトのひとつです。当院では 2023 年度に約 2 万 2300 台の救急車要請を受け入れました。また、周産期医療から救急医療、予防医療、さらには研究開発まで、患者さまの生涯におけるすべての時間軸に対応できる医療施策をひとつの建屋で提供しているのも、大きな特徴です」(芦原氏)

芦原氏は、同院において PHR 活用の機運が高まった背景について次のように語ります。

「医療は病院で完結するものではなく、患者さまの日常の生活全体に影響を与え、また日常からも影響を受けるものです。これまでは電子カルテの中にしか患者さまのデータは存在しませんでした。たとえば手術は、手術そのものの成否ではなく患者さまが手術前と同じ生活に戻れたかどうかで判断すべきですが、そこまでの情報を追いかけられていないことに課題を感じていました」(芦原氏)

同院ではすでに医療機関が保有する健康情報、いわゆる EHR (Electronic Health Record/電子健康記録) を活用するシステムとして、地域医療介護連携ネットワーク「さくらネット」を導入していました。これにより地域の医療機関同士での情報連携は実現できていたものの、患者本人が活用できる仕組みが十分ではないと感じていたといいます。

「電子カルテの情報は基本的には医療従事者だけが見るものです。患者さまがご自身の医療情報を直接管理できる PHR と EHR とを紐づけることで、より医療情報の価値を高められると思っていました」(芦原氏)

そこで同院では、芦原氏を含む病院幹部指示のもと、外来部門担当の副院長を責任者にPHR 活用システム導入プロジェクトが始動。通院支援・PHR アプリである「HOSPA (ホスパ)」の導入が進められることになりました。このアプリは、エムジーファクトリー株式会社が開発した PHR プラットフォーム「QOLMS (コルムス)」をベースとしており、徳洲会グループ向けにカスタマイズされています。

芦原 教之氏, 事務部長, 医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院

“電子カルテの情報は基本的には医療従事者だけが見るものです。患者さまがご自身の医療情報を直接管理できる PHR と EHR とを紐づけることで、より医療情報の価値を高められると思っていました”

芦原 教之氏, 事務部長, 医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院

部門横断でプロジェクト チームを結成。課題を共有しながら企画を推進

HOSPA は、マイクロソフトのクラウド サービスである Microsoft Azure 上に構築されており、基本的な機能として、日常の健康情報を記録・参照できる健康手帳のほか、受診履歴や来院予約の確認、各種呼び出し機能、電子診察券、家族ユーザーの登録・切り替えなどが付帯されています。すでに他の医療機関での稼働実績があったため、それを同院向けにカスタマイズして導入することになりました。

HOSPA の導入にあたり同院では、部門横断のプロジェクト チームを結成。そのまとめ役となったのが、医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院 情報システム室 室長の和田悠久氏です。

「HOSPA は患者さまだけでなく職員全員が関わるものですから、それぞれの部門の知識やノウハウをしっかりと取り入れることが重要だと考えていました」(和田氏)

同院ではもともと部門の枠組みを超えてものごとに対処する風土があったこともあり、積極的な協力が得られたと和田氏は振り返ります。

プロジェクト メンバーのひとりである医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院 病院デザイン室副主任の本多和花氏は、HOSPA の導入計画を聞いたときにこう感じたといいます。

「患者さまからのご意見で一番多いのが、スタッフの応対に関するものです。たとえば、問い合わせ電話に出られない、電話対応に時間を取られて来院患者さまへの応対が不十分になるなどです」と、同院の実情を語り、こう続けます。「HOSPA を導入することで、予約確認などの電話応対が減り、スタッフの業務負担を減らせるのではないかという期待を感じました」(本多氏)

「私たちの部門が持つノウハウを生かして、HOSPA のプロモーションビデオ制作などの後方支援をしたいと思いました」と語るのは、デジタルツールを使った患者とのコミュニケーションや職員間のデジタル ツール活用支援などを担当する、医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院 デジタル コミュニケーション室 室長の具伊和之氏。各部門が団結してこのプロジェクトを推進してきたことがよくわかります。

本多 和花氏, 病院デザイン室 副主任, 医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院

“HOSPA を導入することで、予約確認などの電話確認が減り、スタッフの業務負担も減らせるのではないかという期待を感じました”

本多 和花氏, 病院デザイン室 副主任, 医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院

通院支援機能とPHR(個人の健康に関する記録)データの管理機能を有するスマートフォンアプリ。患者さまはスマートフォンにアプリをダウンロードし、病院から発行されたQRで個人を結びつけてることで、受診にまつわる様々なことがスマートフォンで管理できるようになる。

独自の運用に合わせたカスタマイズに苦慮しながらも、よりよい機能を追求

同院の HOSPA の導入は 2024 年 4 月から始まり、同年 9 月にリリースを迎えました。他の医療機関ですでに稼働しているアプリをベースとして導入するため、当初は 3 ヶ月ほどでリリースする予定でした。しかし、先行稼働している他の医療機関と同院とでは、規模や運営体制の点が異なるため、カスタマイズに想定外の工数が必要となったといいます。なかでも「呼び出し機能」については大幅な改修が必要でした。それは同院の呼び出し順を決める要素が複雑なためで、導入を担当したエムジーファクトリー株式会社 経営企画部 執行役 エグゼクティブプロデューサー 坂田和海氏はアルゴリズムの構築に苦慮した点を振り返ります。

「非常勤も合わせると 500 名以上の医師がいます。所属する診療科ごと、医師ごとに順番を決めるルールが異なり、診察内容や検査の要不要などによっても順番が変わってきます。結局、HOSPA の機能だけでそこに対応するのは難しかったため、院内の掲示板に番号が表示されたタイミングで HOSPA に通知が届く仕様に改修しました」(坂田氏)

リリース前の 1 ヶ月間には、全職員による検証がおこなわれました。各部門の職員からのヒアリングを担当した医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院 デジタル コミュニケーション室 副主任の天川麻美子氏によると、予想以上にさまざまな感想が得られ、職員の関心の高さを感じたそうです。

「特に、予約が確認できる機能が高評価でした。私自身も、電子カルテと連携できる点に可能性を感じました。他にも、お子さんや家族の情報を登録したいなど、ユーザー目線での意見が得られ、カスタマイズ機能として改善の要望が出せた点がよかったですね」(天川氏)

病院ごとの運用の違いやカスタマイズの必要性、ユーザーのフィードバック、システムの柔軟性に関するラーニングがたまったことで、「今後は具体的な改善点を、スムーズに設計に反映させることができるようになるのではないか」と坂田氏は語ります。

坂田 和海氏, 経営企画部 執行役 エグゼクティブプロデューサー, エムジーファクトリー株式会社

“非常勤も合わせると 500 名以上の医師がいます。所属する診療科ごと、医師ごとに順番を決めるルールが異なり、診察内容や検査の要不要などによっても順番が変わってきます。結局、HOSPA の機能だけでそこに対応するのは難しかったため、院内の掲示板に番号が表示されたタイミングで HOSPA に通知が届く仕様に改修しました”

坂田 和海氏, 経営企画部 執行役 エグゼクティブプロデューサー, エムジーファクトリー株式会社

家族登録の利便性がユーザー増加を促進、院内滞在時間短縮などの成果も

2025 年 2 月の段階で HOSPA のユーザー数は約 4100 名。高齢の患者や子どもの患者などの利用も多いといいます。これは、家族ユーザーの登録を可能にしたため、高齢者であれば家族が、子どもであれば親が対応でき、家族ユーザーの登録や切り替えもできる点がユーザーの獲得につながっているのではないか、と和田氏は分析します。

さらにホームページでの告知やパンフレットの制作、具体的な使い方をサポートするブースを院内に設けて問い合わせ対応するなど、患者さまが安心して使えるような配慮も継続的におこなっています。

「サポート ブースには専用の職員を置くのではなく、各部門から職員を派遣してもらっています。職員全員が HOSPA を理解し、患者さまに安心して使っていただくための体制をつくることが重要だと考えています」と本多氏。患者さまからは予約確認機能を評価する声が多いそうです。

「これまで次回の予約は紙でお渡しするだけだったので、紙をなくしたり日付を忘れてしまったりする患者さんも多いです。ですから、HOSPA でいつでも確認できることをお伝えすると、とても反応がいいですね」(本多氏)

また、患者さまの待ち時間の過ごし方を改善する点で、大きな効果を得られたと天川氏。

「小児科では呼び出し機能をうまく活用して、感染症が流行しているときなどには院外などでお待ちいただく運用をおこなっています。院内感染を防ぐ効果がありますし、医師や看護師が機能をよく理解して活用してくれていることも嬉しいですね」(天川氏)

天川 麻美子氏, デジタル コミュニケーション室 副主任, 医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院

“小児科では呼び出し機能をうまく活用して、感染症が流行しているときなどには院外などでお待ちいただく運用をおこなっています。院内感染を防ぐ効果がありますし、医師や看護師が機能をよく理解して活用してくれていることも嬉しいですね”

天川 麻美子氏, デジタル コミュニケーション室 副主任, 医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院

PHR のさらなる活用と、将来を見据えた DX 計画を推進

HOSPA は、リリース後にも継続的な改善がくわえられています。たとえば当初は登録する際にメール アドレスが必須でしたが、電話番号でも登録できるように改修がおこなわれました。和田氏は、今後はサブ アプリと連動させることで PHR の本念でもある健康情報の記録・活用という部分を強化していきたいと展望を語ります。

「まずは患者さまが家に帰ったあとの健康情報を記録していただくこと。ゆくゆくは日常的な血圧などのバイタル データを電子カルテと連動できるようにしていきたいですね。さらに EHR と連動して地域の医療機関全体で患者さんの健康情報を共有できるようになれば、より包括的な医療を提供できるようになると考えています」(和田氏)

そのためにはデータの安全性にも気を配る必要がありますが、HOSPA は Azure 上に構築されているシステムであることから、安心感を抱いているといいます。

「これまで電子カルテのデータは閉域網でしか見られないのが普通でした。HOSPA のプロジェクトが立ち上がった当初はセキュリティの不安がありましたが、Azure は国内でデータ管理でき、セキュリティ対策もしっかり取られていますから、私たちが独自で対策する以上の安全性が確保されるはずです」(和田氏)

また、Azure 上でのデータ管理により他のツールとの連携も期待でき、システムの柔軟性や拡張性も向上するため、電子カルテのサマリーや紹介状の作成など、AI を用いた働き方改革にも取り組んでいきたいと意欲を示します。

「医師の業務の 6 割 〜 7 割がデスクワークだと言われています。他院でも AI 活用を積極的に進めていると聞いていますので、たとえば、電子カルテのサマリー作成や紹介状の作成支援など、日本マイクロソフトさんにはこれからも情報や技術提供などを期待したいです」(具伊氏)

具伊 和之氏, デジタル コミュニケーション室 室長, 医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院

“医師の業務の 6 割 〜 7 割がデスクワークだと言われています。他院でも AI 活用を積極的に進めていると聞いていますので、たとえば、電子カルテのサマリー作成や紹介状の作成支援など、日本マイクロソフトさんにはこれからも情報や技術提供などを期待したいです”

具伊 和之氏, デジタル コミュニケーション室 室長, 医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院

最後に芦原氏から、HOSPA に限らず、新しいテクノロジーの導入においては「将来を見据えた投資が重要」との言葉が寄せられました。

「コスト意識を持つことは大切ですが、将来的な複利を生み出す要素に対して投資していかないと、DX を進めることは難しいと思っています。“いくらコストが下がるか”ではなく、“将来どれだけ大勢の患者さまの役に立つか”、という視点で DX を進めていきたいです」(芦原氏)

地域の患者に寄り添い、常によりよい医療を追求する医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院。地域と医療の未来を見据えるその視点は、設立以来一貫して変わることがありません。職員の皆さんがそのポリシーを共有し、一致団結して積極的に PHR システムの導入・普及に挑戦する姿勢は、大いに感銘を受けるものでした。私たち日本マイクロソフトもその姿勢を見習い、これからもデジタル ツールやソリューションを通してご支援を提供していきたいと思います。

和田 悠久氏, 情報システム室 室長, 医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院

“これまで電子カルテのデータは閉域網でしか見られないのが普通でした。HOSPA のプロジェクトが立ち上がった当初はセキュリティの不安がありましたが、Azure は国内でデータ管理でき、セキュリティ対策もしっかり取られていますから、私たちが独自で対策する以上の安全性が確保されるはずです”

和田 悠久氏, 情報システム室 室長, 医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院

さらに詳しい情報を見る

次のステップに進みましょう

Microsoft でイノベーションを促進

カスタム ソリューションについて専門家にご相談ください

ソリューションのカスタマイズをお手伝いし、お客様独自のビジネス目標を達成するためのお役に立ちます。

実績あるソリューションで成果を追求

目標達成に貢献してきた実績豊かな製品とソリューションを、貴社の業績をいっそう追求するためにご活用ください。

Microsoft をフォロー